作:◆xSp2cIn2/A
ヒュッ!…ズドォォォォォン!
地面が抉られ穴が開く。
「なんで当たらないのよ! 」
「空間の情報結合に干渉。歪曲場を構成」
ヒュッ!…バゴォン!
巨木が弾かれ二つに割れる。
「あんた!」
一瞬のにらみ合いの後、二人は戦闘を止めて向き合った。
「やるじゃぁないの。あんたの名前は?」
一陣の風が二人の間を通り抜ける。彼女が答えた。
「………長門有紀」
「どーするべきかねぇ……」
デイパックを背負った小柄な少年が、以上に長い手を組んで思考していた。
「やっぱ長門を追うべきか?いや…あいつは只者じゃぁなさそうだった。
じゃぁ坂井?でもあいつだってなかなか場馴れてたしなぁ」
人食いの殺戮者は深く深く思考する。
「ふぅん…長門有紀ねぇ……私は『弔詞の読み手』マージョリー・ドー。
そしてこいつが『蹂躙の爪牙』マルコシアス」
「ヒャーッハッハ!よろしくなぁ、おねーちゃん」
群青色をした寸胴の獣が陽気言った。対して長門有紀と名乗った少女は無表情だ。
「…あんた、戦う気はあるの?」
獣が問う。
「ない。現在、情報統合思念体にアクセスして脱出の方法を探っている。しかし今は僅かにしか
アクセスできない。場を歪めるしか空間に干渉できない」
長門が答えた。
「あ?何言ってるのかわかんないけど、でもあいつらを倒そうってのなら無駄よ。ここじゃぁ力が制限されてて
封絶さえ張れやしない」
「しってる。情報統合思念体とのアクセス率も通常の0.00003パーセント」
そういう長門は、苦虫を噛んだような顔をしている……ミリ単位で、だが。
「あーもう!そういうごちゃごちゃしたのは苦手なのよ!」
「ヒヒヒ!じゃぁ行くか?我が麗しき乱暴者、マージョリー・ドー」
獣は ザッ!と地面を踏みこむ
「長門有紀!あんたに戦う気は無いかもしれないけれどこっちにはあるの。本気でかかってきなさい!」
獣が半ば叫ぶように言う。長門は、まるで一人漫才をしているようだった獣をみても、
こくりとうなずいて
「了解した」
と短く言っただけだった。
ドゴォォォォォォン!
「あ?なんだこの音……長門が向かった方から聞こえてくるが………」
深く思考していた少年は、突然の轟音に顔を上げる。
ふぉーっふぉっふぉっふぉっふぉ!!
「うぉっ!なんだ今のは!……坂井が向かった方から聞こえてきたが………」
再び思考をはじめた少年は、突然の奇声に顔を上げる。
ズドォォォォォン!
「ッッ!くそっ!」
二度目の轟音に、少年―――匂宮出夢は走り出した。
「戦闘形態をターミネートモードに移行。歪曲場の構成情報を攻性情報戦闘用に書き換える」
「おどるオドル。マリーは踊る!踊りすぎて目が回る!」
長門の周辺の地面ねじれ矢になると、獣に向けて弾け跳ぶ。
獣は火球を出現させると、矢にぶつけて爆散させる。
しかし長門は矢を出現させると同時にもう一つ手をうっていた。それは矢が爆散すると同時に発動する。
なんと地面が大きく歪み、巨大な槍となって獣を襲ったのだ。
常人なら絶対によけられない速度で迫るそれを、獣は紙一重でかわし長門に肉薄する。
迎撃しようとする長門。しかし長門はもう、今の攻撃で力を使い果たしていた。
「喰らいなさい!」
「ヒャッハァ!終わりだ!」
獣が大きく腕を振りかぶり、長門へととどめの一撃を繰り出す。そのとき
ヒュッ!
何かが凄まじい速度で獣の下を潜り抜けたかと思うと、長門は宙を舞っていた。お姫様抱っこで抱きかかえられて。
獣の一撃が虚しく地面に突き刺さる。長門を抱きかかえた何者かは、言わずもがな、匂宮出夢だった。
「さぁて、そこの未確認生物。僕と殺りあうには少し人数が足りないんじゃないか?
僕かぁ殺戮は一日一時間って決めてんだ。僕としても獣一匹に貴重な時間を浪費したくなんか無いんだ」
そこまでいうと出夢はいったん言葉を区切り、ギロリと獣を睨み付ける。
「どうしても僕と殺るってんなら、今度は群れで来いよ」
出夢の人も殺せそうな視線を浴びて、それでも獣は平然と立っている。
すると唐突に獣の身体がはじけ飛ぶ。出夢は身構えたが、そこに獣が居なくなっただけだ。
獣が居なくなった。その代わりに現れたのは、果てしなくナイスバディな、小脇に巨大な本を抱えた女性だった。
「あ?女?」
呆然とする出夢に向けて、美貌の女性は口を開く。
「随分と言ってくれるじゃないのよ。あんた何者?まさかフレイムへイズじゃぁないでしょうねぇ」
「は?フレイムへイズ?残念ながら僕はそんなかっちょわるい通り名じゃぁねぇよ。匂宮雑技団最高の失敗作。
殺戮奇術の匂宮兄妹その兄。『人食い』の出夢だ」
出夢は片手で長門を抱えたまま、チッチと指を振って、舞台役者のように言った。
「ふぅん……まぁいいわ。ところであんた、戦う気はあるの?」
マージョリーといった女は心底どうでもいいと言うように言う。
「だからぁ、僕と殺りあうなら群れで来るか、戦車でも持ってくるか、あるいは死色でも連れて来いっての」
「このあたしに向かって、たいそうな口を利くじゃないのよ。あんた強いの?」
マージョリーの言葉に、出夢は少しむっとして言う。
「あ?あんたこそ誰に言ってんだよ。残念ながら僕は最強の次に強いんだ。死なないうちに帰りな」
出夢にさらに何かを言おうとしたマージョリーだったが、長門が先に口を開く。
「降ろして」
このとき出夢ははじめて、自分が、長門を抱っこしたままだと気付いた。
【残り88人】
【E-4/草原/1日目・07:30】
【匂宮出夢】
[状態]:平常
[装備]:シームレスパイアスはドクロちゃんへ。
[道具]:デイバック一式。
[思考]:生き残る。あんまり殺したくは無い。
【長門有希】
[状態]:疲労が限界/僅かに感情らしきモノが芽生える
[装備]:ライター
[道具]:デイバック一式
[思考]:現状の把握/情報収集/古泉と接触して情報交換/ハルヒ・キョン・みくるを殺した者への復讐?
【マージョリー・ドー(096)】
[状態]:肋骨を一、二本骨折 (ほとんど治りかけ)
[装備]:神器『グリモア』
[道具]:デイバッグ(支給品入り)
[思考]:シャナ探索。こいつをどうしようか?
※マージョリーによる轟音はE-4全体と周囲のエリアの一部にも響いています。
2005/04/22 修正スレ49
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