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第213話:食鬼人の憂鬱

 コートが波に濡れるのも構わず、祐巳は泣きじゃくっていた。
 気がついたら血だらけだったなんて普通じゃない。なにかおかしな力が働いたに違いない。
 自分は化け物になってしまったのだ。倉庫の中の彼らの視線がそう言っていた。
 じっくり見たわけではないけれどそうに決まっている。
 少なくとも好意的じゃなかったのだから、絶対そうだ。化け物に見せる目つきは恐れと軽蔑しかありえない。
 祐巳が食鬼人になったことを知っているはずの潤だって、きっとそう思ったに決まっている。

 ――祐巳っ!

 あの駆けだした自分へかけた声のなんと鋭かったことか!
「……どうして?」
 涙で枯れた喉は、しゃがれた声しか許してくれなかった。
(私は力が欲しかっただけなのに)
 みんなを守る力を、殺すためでも傷つけるためでもない、正しい力を望んだのに。
 ――何かがおかしい。
 あの子爵にだまされたのだろうか、と思い祐巳は慌てて首を振った。
(そんなはずないわ、子爵はいい人だったもの)
 ――でも、それならどうして?
 未だにあふれる涙を拭いながら、祐巳は考える。
 しかし、考えても考えてもわからない。


 自分は食鬼人については子爵から聞いた話しか知らないのだから当然なのかもしれないが、彼の話と自分の状態とは酷く食い違うのが気になる。
(かつてヴォッドさんの血を飲んだ方は、こんなことにはなっていなかったようだけど……)
 祐巳は、はっと思い当たった。
(ひょっとしたら私の身に、子爵も思い当たらない何かが起こったのかもしれないわ)
 子爵に会いに行こう。そしてこのことを相談しよう。
 食鬼人について知っているのは彼しかいないのだから。
 祐巳は涙を拭い地図を確認すると、子爵のいたところを通り過ぎていたことに気付き慌ててかけだした。
 
【A‐4/海/一日目9:30】
【福沢祐巳】
[状態]:看護婦 魔人化 記憶混濁
[装備]:保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服 ヴォッドのレザーコート
[道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り)
[思考]:食鬼人のことは秘密  私どうなってしまったんですか? 子爵に会いにD-4へ行こう 魔人化したことには気付いていない   

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