remove
powerd by nog twitter

第209話:侵食〜Lose Control〜

竜堂終は走っていた、何もわからない何ももうわからない…
壊さなきゃ壊さなきゃこの間違っているもの全て、そんな彼の目に1人の人物の姿が映った。
「とりあえず誰もいねーみたいだな」
周辺の見回りを終えて一息つく潤、人影こそいくつか見かけたがみな倉庫からは離れていったようだ。
これでしばらくは休める、そう思った矢先…潤の耳に風の震えのような音が聞こえる。
「なんだあ?」
振り向くとそこには、まるで恐竜の出来損ないのような不恰好な生き物がいた。
そいつは不機嫌なうなり声をあげて潤をにらんでいる…やる気のようだ。
「早速かい?でも相手が人間じゃねーのが幸いだな」
「これで遠慮しなくてすむ!!」
終が吼えると同時に衝撃波、それをひらりと恐るべき跳躍力で避ける潤!
「甘いっ!」
しかし…、
「うぷ」
鈍い音が聞こえたと同時に潤は地面に墜落してしまった。
終の放った衝撃波は林の大木を切り裂いていた、そいて折れた幹が、
ちょうど跳躍した潤の後頭部にジャストミートしたのだ。
とっさに体をひねって下敷きだけは避けたのだが、脳震盪は免れずううーんと、
一声うなると潤は気絶してしまっていた。
ちなみに通常なら頭蓋骨が陥没してもおかしくないほどの衝撃を受けてである。

そして潤を退けた終の目に倉庫が映った、窓の中に影、
終は吼えた。


祐巳は夢を見ていた。
暗い暗い土の中、そこには自分と同じく生き埋め同然の姿の多くの人々…、
30人くらいはいるだろうか?
タスケテクレ、ナンデコンナメニアウンダ
人々は口々に嘆きの言葉を吐く。
そこに1人の少女がやってくる、手に刃物をもって、少女は1人ずつ人々の体を断ち切ると
その血を器に集め飲み干していく…
悲鳴はだんだん少なくなっていく、少女が刃を振るうたびに…そして。

「!!」
すぐ近くで不気味なうなり声が聞こえた。
顔を見合わせるアイザックとミリア、と倉庫のガラスがいっせいに割れる。
「ひいいいいいっ!」
頭を抱え逃げ出すアイザックとミリア…それから要も遅れて飛び出す。
可哀想にも祐巳はほったらかしだ。
シロが祐美のコートのすそをくわえて引っ張ろうとするのだが、重くて持ち上がらない。
どうしよう、どうすればいいデシか?

割れたがガラスがじゃらじゃらと音を立てる。
それを見てあることを思い出すシロ、シロは割れたガラス片で自分の手を切ると、
そこから滲む血を祐巳の口元に持っていく
「ちょっとでいいから飲むデシ、これですぐ元気になれるデシ」
鉄の匂いが祐巳の鼻腔を刺激し、喉が動く…ごくりごくり…。


おりしも倉庫の扉がぶち割られ、禍々しいシルエットの魔物が姿を現す。
その時だった。
祐巳の目がカッ!と開いたのは…。
「やった!効いたデシ、さぁ逃げ…」
シロはそれ以上言葉を続けることは出来なかった…なぜならば。

「な…なによあの子…なんなの」
物陰から様子をうかがっていたミリアが呟く。
ゆらりと立ち上がった祐巳の姿、瞳は赤く輝き、髪はまるで静電気を受けたように逆立ち、
顔は謝肉祭のマスケラのように固まった笑顔を浮かべている。
「らあああっ」
終に向かい咆哮する祐巳
吸血鬼の血を受け入れたとはいえ、それが体になじむまでには時間がかかる。
いわば彼女は蛹の状態だった、しかしそこに竜というさらなる異種族の血液が混ざることによって、
彼女はひどく不完全な形で人間とも食鬼人とも違う第三の存在として覚醒してしまったのだった。

祐巳の咆哮に呼応するように終もまた吼え叫び、戦いが始まった。
「ぐるるるる…らあああああっ!」
まずは祐巳が動く番だった、叫びと同時に跳躍、その鋭い動きに終ですらついていけない。
渾身のかかと落としが終の肩に叩き込まれるが硬い皮膚に阻まれ。逆に祐巳の肉体が
機動力についていけず悲鳴を上げる。
それでも祐巳は構うことなく終の体に今度はパンチの乱打を浴びせ続ける。
手の皮膚が破れ、血が拳を染めるが構うことなく、
煩げに尻尾を一閃され、払いのけられるがそれでもゆらりと立ち上がる祐巳、
その姿は終以上にまさに人間離れしていた。

終の、いや生物としての本能が危険信号を送る。
こいつは危険だ、引けと。
理性が少ない生物ほど危険には敏感だ、こうして終は最後のオマケとばかりにもう一声吼えると
そのまま南西の方角へと走り去っていったのだった。

「…?」
それから数分後、祐巳は不思議そうに周囲を見渡す。
私はいったいどうしてしまったのだろう?歩いていて気分が悪くなって…
「あの…ここはどこでしょうか?」
荒れ果てた倉庫内、自分を見つめる幾人かの視線。
掌にぬるりとした感触…血にまみれた己の両手を目の当たりにして悲鳴をあげる祐巳。

「これ私がやったんですか!?、何があったんですか!?」
そしてさらなるアイザックたちの視線が自分に突き刺さる。
お前何者だなんてことしやがる怖いこわいコワイ化け物ばけものバケモノ…
「ちが…ちが…うう」
祐巳の脳裏が赤くスパークして意識が消えた。

「ちっくしょう」
ふらふらと起き上がった潤、おぼつかない足取りで倉庫へと向かう。
そこで彼女が目にした物は、北東に向かい恐るべき速度で走り出す何者かの姿…
「祐巳っ!」
倉庫へ走る潤、そこには何が何だがといった表情で顔を見合わせている3人と1匹がいた。
「おい祐巳、祐巳はどこにいる、おいっ!まさかあのさっきの変な奴にっ」
「あれが…そうだよ、あれが祐巳さんだよ…」
誰かが絞り出すような声で呟いた。

気がつくとそこは海だった。
「わからない、わからないよ…」
海の波に向かって救いを請うように叫ぶ祐巳。
記憶がまるでない、あの目を見たとき…嫌だなと思ってそしたら…
「私どうなっちゃったの?これからどうすればいいの?…助けて…」

【アイザック】
[状態]:超健康(眠くてハイ?)
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:なんだったんだ、今の

【ミリア】
[状態]:超健康(眠くてハイ?)
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:なんだったの、今の

【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)】
[状態]:健康
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:なんだったんデシか?

【高里要】
[状態]:やや平常
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:何だったんだろうか?
[備考]:上着を一枚脱いでいる。

【哀川潤】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:怪しい奴がいたらひっ捕らえる。殺人者がいたらぶっ殺す。
小笠原祥子の捜索 祐巳の捜索

【E‐4/工場倉庫/一日目8:45】
【A‐4/海/一日目9:15】
【福沢祐巳】
[状態]:看護婦 魔人化 記憶混濁
[装備]:保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服 ヴォッドのレザーコート
[道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り)
[思考]:お姉さまに逢いたい。潤さんかっこいいなあ みんなを守ってみせる 聖様を救う 食鬼人のことは秘密
私どうなってしまったんですか?    

※祐巳の状態について
自分に対する敵意、悪意を明確に認識した場合、自動的に覚醒・無差別攻撃を開始
覚醒中の記憶は一切保持できません、姿が変わるのは覚醒中のみです。
力(怪力・瞬発力など)は覚醒中のみ使用可

←BACK 目次へ (詳細版) NEXT→
第208話 第209話 第210話
第181話 アイザック 第215話
第181話 ミリア 第215話
第202話 シロちゃん 第215話
第181話 福沢祐巳 第221話
第181話 哀川潤 第215話
第181話 高里要 第215話
第211話 竜堂終 第273話