作:◆Wy5jmZAtv6
『死にたく…ない』
AM11:05
島中に響き渡った惨劇は、この一言を最後に幕を閉じた。
そしてそれを同じくして浜辺で絶叫する少年が一人…。
「なんでなんでなんだよ!」
兄に続いて従兄弟までもが…己の無力…そして残酷な運命にただ叫び涙する、竜堂終。
「竜になれ!竜になれ!竜になれ!竜になれ!」
頭を掻き毟り、砂浜でのたうち、己の中の超常の力を引き出そうとする終、
だが終の慟哭にも関わらず、一向に身体は竜に変化することはなかった。
すでに先程の変身によって、力を消耗してしまっていたのだ。
「こんな時に竜になれなくっていつ竜になるんだよ…ちくしょう」
「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!」
終は何も出来ない怒りをぶつけるように、波間に向かって叫び…足元の砂めがけ拳を叩きつける。
最初は自分の力なら皆を守れると信じていた、だが結果はどうだ?
誰一人…何一つ守ることが出来なかった…。
「何のために俺はこの力を持って生まれてきたんだ!」
泣いている間にも刻一刻と人が死んでいく…その恐怖に愕然となる終。
だがそれ以上に他の誰かが自分と同じ思いをしているということの方が遥かに嫌なことのように思えた。
「もう…いやだ、誰かが苦しむのを見るのは…」
【その願い叶えてあげましょうか?】
不意に響いた声に終は周囲をきょろきょろと見渡す…と、波打ち際に紫色の飾りが落ちている。
終は導かれるようにその飾りを手に取った。
【逞しき竜の若者よ…貴方は何を望むの?】
「みんなを助けたい…始兄貴や茉理ちゃんが出来なかったことをしたいんだ」
声は続いていく、より鮮明に。
【それは茨の道よ…犠牲なしでは成し得ない道】
「わかってる…だけど挑まなければ道は開かれないだろう?」
声に応じる終、もうその声から怒りは消えていた。
【なら、力を貸してあげるわ…そのかわり】
終は導かれるように宝石に手をやる、何の抵抗もなく…
すでに彼の精神はカーラに導かれるままだった、その意識、思考はそのままに、
幾多の勇者、賢者たちがそうだったように、彼もまたカーラの術中に嵌ってしまったのだ。
【受け入れなさい、私の全てを】
そして終はサークレットを自らの額に装着したのだった。
ようやく身体を手に入れることが出来た、しかも竜族の肉体とは嬉しい予想外だ
竜堂終、いやカーラは満足げに歩く
数百年の時を生きる魔女である彼女は知識の学冠の力を持って、自分たち以外の世界の存在を知り…
それらがお互いに及ぼしあう影響についても知ることが出来た…。
そしてその研究の果て、
アカシックレコード…宇宙開闢以来の全ての存在の全ての事象をその誕生と未来に至るまでも記録した
アーカイブの存在にまで行き着いたのだ。
しかし肝心の干渉そのものについては叶わなかった。
生まれては滅び行く世界の数々、そしてその影響を受けフォーセリアが、そしてロードスもまた
次々と変遷していく…。
世界は決して単独で成り立っているわけではない、自分の住まう世界のみならず…
可能性の分だけ世界が世界の分だけ可能性が存在し、ドミノのように危うげなバランスでギリギリの共存を保っている、
一つの世界が僅かでも道を踏み外せば、その結果は幾千幾万の世界に影響する。
防がねばならない…。
だが、彼女といえども世界の壁を乗り越え、異なる世界へと移行することは叶わなかった。
やり方は何とか編み出すことができた、だが壁を乗り越えるのは単独では力が足りない。
向こう側から呼んでもらわなければならなかったのだ。
ただ日々変わり行く世界を眺めては一喜一憂する空しい日々、
そこにこの一件である…まさに千載一隅だった。
カーラは迷うことなく次元転移の大呪文を実行した、そしてその代償に己の肉体は滅んだものの
幸運にもまたこうして再び肉体を入手することが出来たのだった。
この地に集いし者たちはすべて多かれ少なかれ世界を変革しうる可能性を持った者ら、
だが全てを可能性のままにしておけばいずれは崩壊を招くのみ…
だれかが調停せねばならない、それは自分の役目ではないか。
カーラは悲しげにため息をつく。
「皮肉なものね。皆己の世界を良くしようと戦って結果…他の世界を危機に陥れていることも知らず」
正直知らなければと思うこともある、この事実さえわからなければ、彼女はただロードスの安定だけを
ただ考えればよかったのだから
やはり悲しげに目を伏せるカーラ、彼女の脳裏に浮かぶのはかの繁栄を誇った古代王国の崩壊していく様だ。
あの悲劇をくりかえすわけにはいかない…いつ、いかなる時間、場所であろうとも。
終末の破壊、悲しみを防ぐためならば、いかなる犠牲を払ってでも食い止めなければならない、
その崩壊が引き金となって、いつロードスが、そしてフォーセリアが巻き添えになるか分からないのだ。
この宿主の…まっすぐなまでに純な願いを裏切ることになるのも彼女にとっては辛いことだった。
だが彼ならばきっと理解してくれるはずだ、危機を乗り越えるためには流さねばならぬ血もあるということを。
カーラの足はいつしか商店街へと向いていた。
その目に連れ立って歩く4人組が入る、老人とあとはまだ10代半ばの子供たちという奇妙なパーティだ。
(あれは…)
一度死んだのと次元転移の荒技とで、何を成すべきかという記憶をほとんど失っている彼女だったが、
その一部残った記憶の中にあの老人は存在していた…確か。
カーラはゆっくりと呪文を唱え始めた。
「慎重に、慎重にだ、実際に動いている輩を確認した以上、一箇所に留まるのは危険だ」
あの衝撃の放送は無論、彼らの耳にも届いていた。
こうなってしまえば事態は急変する、慎重にしかし一刻も早く本来の仲間たちと合流しなければならない、
彼らは矛盾した命題を抱えつつも、とにかく商店街を離れようとしていた、その時
「!?」
突如飛来する巨大な火球、いち早く察知したオドーが指の一振りでそれを叩き落す。
炎が弾け飛び、熱気が周囲に立ち込め、陽炎が立つ。
その向こうには少年の姿を借りたカーラが不敵に構えているのだった。
「ここは引き受けます!大佐は早く退いてください」
言葉と同時に発砲、しかし標的はひらりとビルの影へと姿を隠す。
「いや、私が、私が残る…君こそ退きたまえ」
「お言葉ながら私には軍略の才はありません、しかし大佐がおられれば…」
オドーは宗介の言葉を手で制する。
「軍曹、軍曹、冷静になれ、今は君自身が守るべきものを優先したまえ、君が守らなくて誰が彼女を守るのだ」
オドーはかなめを示して宗介を説得する。
「しかし!」
「ならば命令、命令しよう、君はただちにこの場から退き…彼女らを守れ
それに、このような戦いともなれば、君の存在も私にとっては足手まといになりかねんのだよ」
オドーの目が不敵に輝く…老いたりとはいえやはり彼もまた戦士だった。
「了解…大佐、どうかご無事で」
それだけを伝え、宗介はかなめとしずくの手を引き、街を離れるのだった。
そして1人残ったオドー…その口元には笑みが浮かんでいる。
面白い…震えが止まらない…、年を取り今では大佐などと祭り上げられてはいるが、
やはり自分は軍人であり戦士なのだとこうなると再認識してしまう。
もしかすると彼らを先に行かせたのは…今の自分を見られたくなかったからなのかもしれない。
「さあこい、さあこい…少年!」
オドーはまるで初陣の若者のようにカーラに向かい、吼えた。
先制攻撃はオドー、指を打ち鳴らすと同時に上からの圧力がカーラを押しつぶそうとする。
だがカーラも宿主の身体能力を生かして素早くその圧力から逃れ、反撃の火球を次々と撃ちだす。
「甘い、甘い少年!!」
しかしそれらは全てオドーに届く前に見えない圧力に潰され消滅していく。
(……)
カーラはその様子を怪訝な顔で見る。
何故だ?何故そんな回りくどいことを…空間や重力を操れるのならばもっと楽なやり方があるのではないか?
その疑問を確かめるべくカーラは今度は射撃攻撃ではなく、範囲魔法を詠唱する。
と、炎の渦がオドーを取り囲んでいく。
が、それも指の音と同時に次々とかき消されていく。
カーラは舌打ちをするとまた火球を連発する…、少しでも僅かでも相手に反撃のスキを見せてはならない。
だが…それらは全てオドーに届く遥か先で撃墜されていく…。
「少年、少年どうやらそこまでのようだな」
攻撃の合間に己の勝利を確信したか、オドーが余裕の言葉を吐く。
キッとオドーを睨むカーラ、その手にまた炎の煌きが生まれる…だが。
「少年、少年、無駄だ」
横っ飛びと同時に放たれたそれに向かいまた指を鳴らすオドー、しかし…
今度はこれまでまっすぐだった火球が軌道を変えオドーの頭上から落ちるように飛来する。
それを無造作に避け、また指を鳴らそうとした彼だったが…。
「そこまでなのはあなた」
カーラの一言と同時に打ち鳴らそうとした指が突然動かなくなる…足元を見ると、
(図ったか!!)
すでにカーラは見抜いていた、この老人の攻撃の特性とその弱点を明確に
オドーの攻撃は基本的には打撃攻撃、それも上方からのみの打撃に終始している…。
したがって自分の頭上と足元には攻撃できない。
オドーの足元の地面が妖しい輝きを見せている、見る人が見ればそこから
オドーの全身を戒めるロープのような物を見ることができるだろう。
そして先ほどの火球が無防備なオドーの体を焼き尽くさんとまた軌道を変える。
「舐めるな、舐めるな、若造」
叫びと同時にオドーを戒める魔法のロープがぶちぶちと切れていく。
そしてまた指の音…オドーの眼前で消し飛ぶ火球。
だが、掻き消えた炎の背後にオドーが見たもの、それは。
大剣を構え、自らへと突進するカーラの姿。
そして吸血鬼の刃が…宿主である終の命を吸って鮮やかに輝き…オドーの体を貫いていた。
「馬鹿な、馬鹿な…」
「私とは年季が違うわね…坊や」
さんざん若造呼ばわりされた鬱憤をこの場でぶつけるカーラ。
「何故だ、何故私を狙った…」
最後の疑問をぶつけるオドー、彼が宗介たちを先に逃がしたのはわけがあった。
最初の攻撃…あれは明確に自分のみを狙っていたというのを彼は悟っていたのである・
「全竜交渉…こちらの都合で解決するのにあなたは邪魔だったの」
「そんな…りゆう…りゆうで」
カーラは返答と同時にまた刃を深くオドーへと沈める。
オドーはまだ何か言いたげだったが、それから数秒後物言わぬ躯となった。
オドーの死体を無感動に眺めるカーラ。
さて次は誰が標的だ…戦いの最中に思い出した記憶を整理する。
一番の目標であった涼宮ハルヒはすでに死んでいるようだが…ならば
己の魂に宝物を秘めた少年か、それとも3つの目を持つ少女か…
彼女の標的には善悪も強弱も関係はない、彼女がロードスにとってフォーセリアにとって
脅威であると思えばその瞬間から討つべき敵となる…それだけのことに過ぎなかった。
【C-3/商店街/一日目、11:50】
【オドー:死亡】残り87人
【竜堂終(カーラ)】
[状態]:やや消耗
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし/ サークレット
[思考]:フォーセリアに影響を及ぼしそうな参加者に攻撃
(現在の目標、坂井悠二、火乃香)
【相良宗介】
【状態】健康
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ
【道具】荷物一式、弾薬
【思考】大佐と合流しなければ。
【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】早くテッサと合流しなきゃ。
【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式
【思考】BBと早く会いたい。
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