作:◆7Xmruv2jXQ
『では、諸君の健闘に期待する。精々頑張りたまえ』
最後にそう締めくくって放送が終わった。
ウルペンはつまらなそうに地図を一瞥すると、四つ折りにしてバックへと放り込む。
読み上げられた名前に興味はない。
彼の知った名前は二つしかなく、その両方がこの世の絶対者だ。
自分ごときが心を配る必要はない。
鬱蒼とした森の中、ウルペンは思考する。
残念ながらミズー・ビアンカとの戦いは持ち越しとなってしまった。
彼女と戦うためには、まずは先ほどの少女が持っていた奇妙な剣、あれを突破する必要があるだろう。
もっとも、あの剣にどれだけの防御能力があるかはわからない。
……ナイフの投擲を弾いた。
……念糸を防いで見せた。
持ち主の少女は反応したようには見えなかった。
ということは、剣そのものが自動的に防御しているということだろう。
不意打ちさえも通じない可能性が高い。
どう対応するべきか。
「正面から打ち破ればいい」
ウルペンは簡単に結論した。
そのための道具はすでに用意されている。
ベスポルドの娘、フリウ・ハリスコーの左眼。
水晶眼に囚われた破壊精霊。
理解できないもの、未知なるものでありながら、精霊はいつも人の側に存在する。
安易な力として。
あるいは全てを奪う災厄として。
自分が帝都を、完全な世界を滅ぼした力を欲するというのは出来すぎた皮肉ではあった。
しかしその皮肉すら、今は心地いい。
「……あらゆる偶然が契約者を守る。
面倒なことだ。
契約者同士が殺し合うには、まず舞台を整える必要がある」
アマワはこの殺し合いを覗いているだろうか?
ウルペンには判断がつかなかった。
ともすれば契約自体が無効になっている可能性もあるだろう。
自分が敗れた後何が起こったか、それを知る術はないのだから。
勝利したミズー・ビアンカが精霊アマワを破壊した。
そんな理想でさえ、現実になる余地はある。
「それでも俺の心は変わらないさ。
あらゆる偶然が契約者を守る。
俺もミズー・ビアンカも、死ぬことは許されていない。
俺たちは、約束したのだから」
全身の血がざわめいている。
あの瞬間。
愛した者のために自分の死力を尽くすあの瞬間。
愛した者のために互いの命を握りあうあの瞬間。
一度終わったはずのそれが、もうすぐ始まるのだ。
「俺は泣かずに逝けたが……はたしてお前はどうだろうな、我が義妹」
群青色の空に囁いて、ウルペンは歩き始めた。
――――まずは、フリウ・ハリスコーを見つけなくては。
【C-6/森/一日目6:05】
【ウルペン】
[状態]:健康
[装備]:無手
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]: 蟲の紋章の剣を破るためにフリウを探す。
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