作:◆Wy5jmZAtv6
潮風が頬を撫でる、もう歩き始めてどれくらい経つのだろうか?
鳳月は額の汗をぬぐう。
麗芳を探し続けて探し続けて、もう足は棒のようだ
普段なら光遁の雲を使えば一っ飛びのちっぽけな島であるにも関わらず。
「待ってろ…麗芳」
鳳月には麗芳が何をしているのかが手に取るようにわかる、正義感と義侠心なら誰にも遅れをとらない彼女だ
きっと今頃は誰かを守り戦っているに違いない。
だからこそ心配だ。
早く会いたい、そして会ったら今度こそ伝えよう…今まで言いたくても言えなかった言葉を今度こそ。
そこにぼちゃんと水音、反射的に藪を掻き分けたその先にあったものは
「海っ!」
しかも水面には誰かに叩き落されたのか、流されていく少女の姿があった。
助けなければ…しかし鳳月の体はまるで石になったように動かない。
そうこの鳳月くんは…致命的なまでのカナヅチなのである。
事実、海に囲まれた島にいるというだけで、彼は恐怖におののきまくっていた。
だが…それでも神将としての使命感が彼の背中を押す。
「でもなぁ…」
暗い水面をちらりと見やる鳳月、そこに潮流に流されるままの少女の姿がまた入る。
「怖くない怖くない怖くない」
鳳月は避水呪を唱え目を瞑ってそのまま海へと飛び込んだ。
水中に飛び込んでしばらく、やった息が出来る…これなら、と思った瞬間だった。
「がはあっ」
途端に彼の体は浮力を失い、ぶくぶくと海底に沈んでいく。
呪文の効果は数秒しか保たなかったらしい。
天地が逆になり、自分を保っていられない…それでも鳳月は精一杯手足を動かし
必死で少女を助け…もがくその体が急に楽になる、誰かが自分を海面に引っ張り上げてくれたようだ。
「へ?」
見るとそこには自分が助けようとした少女がいた。
「大丈夫ですか…もうすぐ陸ですから…」
恥ずかしさと申し訳なさで赤面するしかない鳳月だった。
浜辺でぱちぱちと薪が爆ぜる音がする。
ようやく陸に辿りついた2人は濡れた体を乾かそうと焚火を始めていた。
薪は古びたボートを分解して調達、火は鳳月が術を使って起こした。
「あ、向こう向いてるから今の間に服を…」
そう言いかけて、鳳月の目が点になる。
なんと志摩子はいつの間にか上半身裸になっているではないか。
「あ…あああ」
「鳳月さんは脱がないんですか?」
制服を焚き火に当てて乾かしながら平然とこちらを見る志摩子。
その大胆な姿を目を背けつつ、横目でちらりちらりと見やる鳳月、
(星秀がいなくてよかった)
彼の幼馴染で同僚でもある呉星秀は偏執的なまでの女好きで知られる。
こんなシチュエーションが目の前にぶら下がっていれば何をしでかすかわからない。
さらに言うなら麗芳にもし見られでも、いや麗芳ならまだマシだ。
淑芳にだけは絶対に見られてはならない、もし見られでもしようものなら文字通りそれをネタに
死ぬまでいびられまくるに違いない。
「い…いや…あと…あとで…」
なるべく志摩子を見ないように見ないように焚き火から離れる鳳月
「ダメです、風邪引いたら大変ですよ」
恥ずかしがっていると思ったのだろう、志摩子はずいと裸のまま鳳月ににじり寄る。
赤面する鳳月の姿は志摩子から見ても実に可愛いらしかった、自分の学校なら姉たちが放ってはおかないだろう。
鳳月はもうされるがままだ、ただうわ言のようにやめ、やめ…と繰り返すのみだ。
そして志摩子の手がズボンに伸び、それを一気に引きおろす…そしてそこに生えていた物を目の当たりにして
志摩子は数秒間なめる様に…視線を上下する、ここで初めて申し訳ないといった表情を見せてズボンをそっと返し、
そして今の自分の状況を把握し…全力ダッシュで服を抱え岩陰へと隠れ、
鳳月は鳳月で、
「だれもいませんようにだれもいませんように…」
呪文のように唱えながら必死で周囲の様子を伺うのだった。
それから10分後、焚き火をバックに
「まぁ…おあいこということで」
「これから一つよろしくお願いします」
2人は文字通り耳まで真っ赤にしながら、ぺこりと頭を下げた。
「ですけど」
志摩子は、どうやら先ほどのアクシデントは水に流してくれたらしい
「惜しいですね、私の通っている学校ならアイドルになれますのに…」
からかい半分、本気半分で志摩子は笑う。
確かに鳳月は少女と見紛うばかりの美しい顔をしている。
その上背も低く、声も愛らしい。
だかそれは常に男らしくありたいと願う彼にとっては屈辱以外の何者でもないらしい。
「そっ!そんなアイドルうれしくないやい!!」
本気で嫌がってる鳳月を見てまたクスリと笑う志摩子だった。
【袁鳳月】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具];不明
[思考]:仲間を探す(麗芳を最優先)/とりあえず志摩子と相談
【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]:考え中/とりあえず鳳月と相談
現在位置【H−6/海岸/一日目、04:20】【残り98人】
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