remove
powerd by nog twitter

第095話:小休止

作:◆a6GSuxAXWA

深夜。
「地図で言うと、C−3。商店街、か――?」
 とりあえず逃げ込んだ雑貨屋らしきその店の奥で、大まかに暗記した地図の内容を思い出しつつ、景が呟く。
 風見は空のマガジンを落とし、最後の予備マガジンと入れ替え。
 弾が手に入ったときの事を考え、空のマガジンはデイパックへ入れようとして――
「……これは、あの女の子のもの?」
 咄嗟に掴んできたそれは、泥と多少の血に汚れた未開封のもの。
 取り出した懐中電灯で照らすと、中身は支給品一式の他に大量の弾丸が梱包された箱があった。
「弾薬セット、ってわけね」
「――その銃、弾は詰め直しておいた方がいいだろうね」
 その声に応じて、風見は弾を調べる。
「あった」
 9mmパラベラム。
 予備マガジンに詰めて、残りの弾を包み直す。
「あとは折角店に入ったんだ、食料や何やらも確保するべきだろうね」
 景が痛みのためか僅かに顔をしかめながら、静かに棚を漁り始め、風見もそれに続いた。

 結局、見つかったうちで持ち歩けそうなものは缶詰三個、それに頑丈そうな腕時計が二つに救急箱。
 あとは懐中電灯とリュックサック、それに作業用の折り畳みナイフとロープ程度だ。
 デイパックにペットボトルを一本、食料の半分と缶詰三個、筆記具と懐中電灯、ロープと予備の弾丸を。
 リュックサックにペットボトルを一本、食料の半分と缶詰一個、地図と方位磁石、懐中電灯と救急箱を。
 腕時計の時刻を支給品の時計に合わせ、二人が腕に。
 そして風見が銃とデイパック、景がナイフとリュックサックを持って分配が終了した。
 ついでに風見は救急箱から湿布を取り出し、景の背中に貼り付ける。
「物部、アンタなまっちろ過ぎるわよ……どんな生活してたの?」
「放っといてくれ……いや、説明しておくべきか」
 ふと、ぽつりと呟いた景の後半の台詞。
 その言葉に、風見の表情も真剣なものへ。
「……そうね。あの甲斐とかいう男の言っていた、麻薬云々。説明してもらいましょうか」
「ああ。同盟を組んでいる以上、こうなってしまっては説明をしないことには信頼に関わる」
 ついでに、頭のイカれたジャンキーだと思われるのは本意ではないんでね、と景は皮肉げに笑った。
 その言葉を耳にしつつ、背中に湿布を貼り付け終えると、風見は立ちあがる。
「とにかく、台所でも探して何か口に入れながらにしましょ。流石に疲れたし、休憩入れないと……」
「ああ、交代で番をして仮眠も取っておいた方が良いな。さっき毛布も見つけたし、ここは比較的安全そうだ」

 そして数十分後のこと。
 幾つかの出入り口のある暗い部屋。
 台所から見つけ出したソーセージやパンを齧りながら会話を交わす、二人の姿があった。
「つまり、アンタは自分のしでかした失敗の責任取るために、その麻薬もどきに手を出した、と」
 景の話は非常識なものだったが、風見は特に驚く事も無かった。非常識には慣れている。
「ああ、結果は今言った通り。そしてカプセルも消えた筈だが……この場にならば、あってもおかしくない」
 薄々気付いてはいた――会場で見た蒼いロボットや、中世じみた服装をした人々。
 確認してみれば風見と景も、年齢は同じでも生まれた年代は微妙に違う。
 やはりここには……
「異なる世界、時代から人々が集められているんだ。そんな事ができる主催者が居れば、当たりとして得意武器くらいは用意してある可能性は十分にある」
「私のG−SpやX−Wiもあると楽なんだけど……」
 ……しかし、そんなことが可能な主催者に対して、抗う術はあるのだろうか。
 景はふと、そんな事を考える。
「まあ、気楽にいきましょ。未来人や他の世界の人間なら、何か手だてを持っているかもしれないし……」
 その考えを読んだかのような風見の励ましに、景は苦笑。
 ……やはり、自分の幼馴染に似ている。
「それじゃあ、適当に椅子でも積んで侵入者に気付けるようにしておかないといけないな」
 動こうとした景を、風見が止める。
「私がやる。寝るのはアンタが先よ。……怪我人なんだからじっとしておきなさい」
 押し留められ、景の苦笑が更に濃くなる。
「……はいはい、分かりましたよ」
 先程店を漁った際に見つけ出した毛布にくるまり、景は身を横たえた。


 玄関と裏口のドアの近くに不安定に椅子を積み、施錠を確かめた風見が戻ると、景は静かな寝息をたてていた。
「実はアンタの事、少し疑ってたの。……ゴメンね」
 小さく小さく、風見は呟く。
「日が昇ったら、また頑張りましょ……」
 夜空に浮かぶ月は、徐々にその位置を変えてゆく。
 静かに、時は過ぎて――


【C−3/無人の商店街/03:50】

【物部景(001)】
[状態]: 睡眠中。背中に打撲傷。(致命傷ではない。処置済み)
[装備]: 折り畳みナイフ、頑丈な腕時計
[道具]:リュックサック(水入りペットボトル一本、支給食料(半分)、缶詰一個、地図、方位磁石、懐中電灯、救急箱)
[思考]: 1.交代で仮眠をして疲労を取る。 2.知人とカプセルの捜索

【風見千里(074)】
[状態]:不寝番。 心身ともに健康。
[装備]: グロック19、及びその予備マガジン一本、頑丈な腕時計
[道具]: デイパック(水入りペットボトル一本、支給食料(半分)、缶詰三個、筆記具、懐中電灯、ロープ、弾薬セット)
[思考]: 1.交代で仮眠をして疲労を取る。 2.知人の捜索

←BACK 目次へ (詳細版) NEXT→
第094話 第095話 第096話
第065話 物部景 第161話
第065話 風見千里 第161話