作:◆ZlP49.IyQM
理由すらわからない殺し合いが行われている。、
ヒースロゥ・クリストフは怒りのあまり、腹の底から咆吼を上げた。
ヒースロゥは今、一人の男の前に立っている。
ずいぶんと華奢だが、男であるのは確かだ。
首と体が分かれ、その接合部分であったところから夥しい血が流れているが、その男が今まで生きていた、ということにかわりはない。
その男の名前が天色優、あるいはユージンというのだということを、彼は知らない。
知らないからこそ余計に、腹が立った。
この男は苦しんで死んだのだろうか?
怯えて死んだのだろうか?
泣いて死んだのだろうか?
後悔しながら死んだのだろうか?
大切な人を思いながら死んだのだろうか?
それともそんな間すら与えられず死んだのだろうか?
――何故だ。
ヒースロゥは自問する。
何故このような理不尽な企画が許されるのだ。
何故主催者共はこのような企画をでっち上げたのだ。
何故他の参加者たちは、平気で殺すことができたのだ。
最後の疑問が胸に浮かんだとき、ふとヒースロゥは首をかしげた。
(そうだ。何故こんな真似が出来る?
最後の一人にならねば帰れないと言われたからといって、何故こんなゲームが成立する? 帰れない、などあの主催者共が勝手に言ったことじゃないか。
参加者全員でかかればあの連中を締め上げて、帰る方法を聞き出すことくらい可能じゃないか。ならば、何故?)
その“こんな真似が出来る連中”の中にはバーンとガウリイの死に怯え、『殺らねば殺られる』という心理が働いた者がいる、
ということにヒースロゥは思い当たっていなかった。
彼は良くも悪くも“強者”なのだ。
その変わりにヒースロゥはこう考えた。
(この状況を楽しんでいる連中がいる……?)
そう思い当たったとき、ヒースロゥの胸に再び烈火のごとき怒りがわき起こった。
ヒースロゥは得物を持ち直した。
何の変哲もない木刀は、銃や刃物等の支給品に比べて酷く頼りなかったが、彼が持つとどの刀よりも、剣よりも切れ味が鋭く、
どの銃よりも、爆弾よりも危険な代物に見えた。
ヒースロゥ・クリストフ――かつて風の騎士≠ニ呼ばれた男は決意する。
罪があるかどうかすらもわからない人々を狩る連中も、このような状況を作り出した時点で罪人でしかない主催者共も、
まとめて退治してくれようと。
ヒースロゥは暗い海に攫われていくユージンに黙祷を捧げると、歩き出した。
その顔には、ただ怒りのみが刻まれていた。
【E−8/海沿いの道 /1日目・1:33】
【ヒースロゥ・クリストフ(風の騎士)】
[状態]:激昂
[装備]:木刀
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:マーダー狩り
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