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第046話:死人と犬と

作:◆1UKGMaw/Nc

 気がついたら下は水だった。
「あれ?」
 ――ドボーン!
 ――ダバーン!
 ――バシャーン!
 なんか水音が三つも聞こえた気がする。
 三つ目が俺で、残りの二つは何だ?
 とにかく水面に出よう。
 息ができないくらいで死にはしないが、苦しいのは変わりない。
「ぷぅ……この展開なに?」
 なんとか俺は水面に出た。
 と思ったら意外と近くから盛大な水音が聞こえる。
「ぷ……! わ、何…み、水!? うそっ……足つって、ぷぁ…!」
 溺れている女がいた。
 バシャバシャと水を蹴立てて、なにやら楽しそうにも見える。
 邪魔しないほうがいいのかと思ってしばらく見ていたら、やがてトプンと音を立てて沈んだ。
 マジか。
「おいおいおい」
 勘弁してくれと思いつつ潜る。
 暗くて視界は悪いが、女が溺れていた位置なら分かっている。
 沈んでいく女を見つけ、その身体を抱えようとしたところで……同時にその女を抱えようとしている男と目が合った。
「!!」
 至近距離に来るまで全く気づかなかった。
 突然のことに、がぼっと音を立てて口から空気が漏れ出る。
 向こうも同様だったようで、途端に必死の形相になる。
 男がその形相のまま必死に水面を指差した。
 俺も同じ形相のままコクコク頷く。

「ぶはぁ!!」
「岸! 岸どっちだ!」
 自己紹介なんてやってる場合じゃない。
 水面に浮上するや否や、必死こいて岸を探し泳ぎ始めた。


 それが二時間くらい前の話だったと思う。
 今、俺――ハーヴェイ――と、目の前の男――ダウゲ・ベルガー――は、焚き火を囲んで向かい合っている。
 あれから一時間もしないうちに岸には着いたんだが。
 焚き火を起こす場所探したり、実際に火起こしたりで時間食った上に、
 せっかく起こした焚き火を目を覚ました女に占領され、そんなわけでこの焚き火は二つ目だ。
 もう一つの焚き火は、ベルガーの背後の岩陰にあり、こちらからは見えない。
 どちらも場所を良く考えて作ったから、近くに来ない限り、対岸からしか見えないだろう。
「……ようやく温くなってきた。世界で二番目に不幸だぜ、今日の俺は」
「……じゃ、俺一番に立候補していいか」
 服は焚き火で乾かしているから二人ともほとんど裸だ。
 あの女――テレサ・テスタロッサと名乗った――も同様の状態のはずだ。
 早く温まりたい一心で「一緒の焚き火でいいじゃん」と言ったら大層恥ずかしがったから、俺たちはこう言ったんだ。
「大丈夫、子供に興味ないから」
「右に同じ」
 結果、二人とも平手打ちを食らった挙句、「あぁぁ、すいません!」と謝られてしまった。
 怒れないじゃん。

 ベルガーが、干してあった参加者名簿を手に取った。
「あんたも見といたほうがいいんじゃないのか? 知り合いが参加してるかも知れないぞ」
 俺がその挙動を目で追ってるのに気がついて、ひらひらと名簿を振ってみせる。
 知り合い……絶対参加して欲しくない奴と、できれば参加して欲しくない奴と、どうでもいいのが思い浮かぶ。
 のろのろと俺の参加者名簿を手に取り、中を確認する。
 えーと…………………………最悪だ。

 ほとんど濡れたままの服を引っ掴み立ち上がる。
「おい」
「悪い。探してやんなきゃいけない奴がいた」
 自分の支給品――笑えないことに炭化銃だ――を携えて言う。
「悪いけど、テレサによろしく言っといて」
「おい、本当に行くのかよ。そんな状態でしっかり身体動くのか?」
 もう答えずに歩き出す。
 背後でベルガーが嘆息したのが分かった。

 そんなときだ――テレサの悲鳴が聞こえたのは。


【残り105名】


【死人と犬と大佐殿】
【C-7/湖のほとり/1日目・02:10】

【ハーヴェイ】
[状態]:健康/体温低下
[装備]:炭化銃
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:キーリを探す

【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:健康/体温低下
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:とりあえずここで温まる

【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:健康/体温低下
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:とりあえずここで温まる

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