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第020話:月夜の砂漠で君と出会う

作:◆RGuYUjSvZQ

「ふう・・・」
真夜中の砂漠の真ん中で慶滋保胤はため息をついた。
ため息の一つもつきたくなる。
突然わけのわからない異世界につれてこられ、殺し合いしろというのだ。
何でこんなことになってしまったのだろうか。

その日、保胤は文章生として勤めている大学寮を出て安倍晴明宅へ向かう途中だった。
一人暮らしの保胤はたまに晴明宅で夕げ(夕食のこと)をご馳走になることがある。
もっとも、現在は狭い保胤の庵に他に2名ほどが仮住まいをしているため、
ここ最近は用があるとき以外は晴明宅を訪れていない。
その日は晴明から良い酒が手に入ったと誘われたこともあり、
久しぶりに「用事のない」訪問をする予定であった。
あの時、保胤はたしかに晴明宅へと向かういつもの道をごく普通に歩いていた。
何者かに襲われた気配もなかったし、何の予兆も全く感じられなかった。
ところが、ふと気づくと保胤はいつの間にか大勢の人が集まっている巨大な建物の中にいた。
最初は術をかけられて幻覚でも見せられているのだろうかと考えたが、
意識もはっきりとしていたし術による幻覚特有の違和感もない。
あれこれと混乱しているうちに、この「壮大な遊び」の説明がいつの間にか終わっていた。
促されるままにゲートをくぐると砂だらけのこの場所にただ一人で立っていたのだ。

保胤は砂浜ならともかく、このような広大な砂地は見たことがなかった。
因幡の国にはこのような場所があると聞いたことはあるが、保胤自身は行ったことはない。
砂以外の物は何もなく聞こえるのは風の音だけだ。
深夜だが幸い月が出ているため視界は開けている。
保胤はその場に座ると支給された荷物を調べ始めた。
一通り説明を受けたものの他に液体の入った瓶を見つけた。
どうやらこれが自分に割り当てられた物らしい。
瓶を良く見るとそこには「不死の酒(未完成)」と書いてある。
匂いをかいで中身を確認してみると、たしかに中身は酒のようだ。
保胤は下戸ではないし酒が嫌いなわけでもないのだが
この状況ではとても酒盛りをする気にはなれなかった。
「不死の酒」という文字が少し気になったものの
結局保胤は酒には口をつけないまま瓶をしまうと、今度は紙と鉛筆を取り出した。
持っていたはずの符が全てなくなっていたため、即席でこしらえることにしたのだ。
符は陰陽道の道士にとっての武器である。
符がなくても使える術もあるにはあるのだが、いざ戦いになった時に手ぶらでは心もとない。
使い慣れない鉛筆という道具と、物を書くのに適してるとはいえない
月夜の風の強い砂地での符作りに悪戦苦闘しながらも
保胤は30分くらいかけてなんとか10枚を完成させた。
急ごしらえのため、普段使用している符とは格段に威力は落ちているだろうが、
手ぶらでいるよりはましである。

ひと段落ついたところで、保胤は立ち上がると背後に声をかけた。
「わたしはあなたと敵対する気はありません。もしよろしければお話でもしませんか?」
先ほどから、背後の小さい砂丘の上からこちらの様子をうかがっている人物がいた。
その気配に気づいていながら、しばらく様子見をしていた保胤であったが、
相手から鬼気がほとんど感じられないことから、こちらを攻撃する意図はないと判断して声をかけたのだ。
隠れていた人物はしばらく動かなかったが、やがてゆっくりと保胤の元へ歩き出した。
保胤は敵対する意思がないことをしめそうと軽く両手を上げ、その人物を待った。
月の光が逆光となり、どんな人物なのかこの位置からでは良くわからない。
しかし、逆光の中、影のように見えるその人物は明らかに何かがおかしい。
そう、その人物には「首がなかった」のだ。
その人物の名はセルティ。首を失ったデュラハンである。

【残り115名】

【B−2/砂漠の中/一日目・00:40】  

 【慶滋保胤(070)】
 [状態]:正常
 [装備]:着物、急ごしらえの符(10枚)
 [道具]:デイパック(支給品入り) 「不死の酒(未完成)」と書いてある酒瓶
 [思考]:セルティと話をする

 【セルティ(036)】
 [状態]:正常
 [装備]:不明
 [道具]:不明
 [思考]:保胤に近づく

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