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第009話:戯言遣いとモトラドとメイドさんと

作:◆xSp2cIn2/A


生き残りたいなら殺せ
殺したいなら生き残れ
ルールは無用
自分がルールだ


 禿頭の男から無言で渡された荷物を持って、ゲートをくぐると……
そこは雪国でも不思議な町でもなく、鬱蒼と茂る森林の中だった。
「それにしても殺し合いねぇ……そういうのは出夢くんや零崎の領分だよなぁ。ったく、なんて戯言だよ」
 誰ともなしに『ぼく』こと『いーちゃん』はつぶやくと、とりあえず支給されたアイテムを調べるべくバッグの中に手を突っ込んで
一番最初に手に触れた物をつかんだ。
 あれ?なんかこれどこかで触ったことがあるような……
「あぁ、そうか」
 これは二輪車のハンドルだ、どこかで触ったことがあると思ったのは、このハンドルが巫女子ちゃんに貰った
ベスパのハンドルと感触が似ているからだ。
「って、いや待て落ち着けぼく。こんなデイパックにベスパが入るわけ―――」
「ねぇ、誰だか知らないけれどさぁ。そろそろここから出してほしいんだけど」
 どこからか聞こえた声 ――男の子のような妙に高い声だ――に、ぼくの背筋に戦慄が走る。
 やばい、誰か居る、見つかったか?だとしたら早くここを離れなければ!やばい、殺され――
「うわっ!ちょっと手が汗でべとべとだよ!も〜汚いなぁ」
 また声、しかし今度はその間の抜けた声がどこから聞こえてきたのかすぐに分かりホッとする。
いや、本当にそうならホッとするどころではない。なぜなら声が聞こえてきたのは――
「おーい、聞いてる?いつまでぼくのハンドルを握ってるわけ?」
 ――デイパックの中からだったからだ。
 また、声が聞こえた。ぼくは何かの罠ではないかと疑ったが、何時までもこうしている訳にもいかない。
それに、万が一このゲームに乗った奴がこの謎の声を聞きつけたらたまったものではない。
(もしかしたらそういうハズレアイテムかもしれない)
ぼくは強くハンドルを握りなおすと、満を辞して、握ったハンドルを、引き抜いた。
 ずるり
と、ありえないほどに大口を開けたデイパックから飛び出してきたものは、近くの地面の上にガシャンと着地した。
 それは、しっかりとセンタースタンドで地面に立つ、少し古ぼけた二輪車だった。
「ふぅ、やっと出られた。はじめまして、ぼくはモトラドのエルメス。お兄さんは?」


 ぼくの思考能力はしばらくの間フリーズした。


 再起動。


「あぁ、僕の名前?それは秘密と言う奴だよ、エルメス君。
 ぼくは今まで他人に本名を教えたことが一度しかないのを誇りに思っているからね」
 よし、一度再起動したおかげで冷静になれた。
やはり戯言使いであるところのぼくとしては、いつでも余裕を持っていたいのだ。
「ふぅん、まぁいいや。ところでお兄さんいつまでここに居るつもり?誰か来て殺されても知らないよ」
あまり興味がなさそうに言うエルメス君。どうやら細かい事は気にしない主義のようだ。
「それもそうだね、こんなところでグズグズしているわけにもいかないし。とりあえずここから離れておこうか」
 ぼくは二輪車がしゃべるという異常事態は置いといて、デイパックの中からコンパスと地図を取り出すとそれぞれを眺める。
「とりあえず南にいこう。南の浜に出て西回りに歩いていけばとりあえず町にいける」
そこで適当に寝床でも探すことにしよう。そう決めて、うい。というエルメス君の返事を聞くと
ぼくはエルメス君を押して南方向に歩を進める。が、
ぐにゃ
「うっ……」
 何かを踏んでぼくは慌ててそこから足をどける。
その何かを見て、ぼくは驚愕に目を見開いた。え?、何でぼくはこれ――いや、彼女に気づかなかったのだろう。
その彼女は、
「いたたたた……あれ…ここは…………ッ!」
ぼくを見て、ぼくと同じように目を見開く。
 ぼくはつぶやく。
 彼女は――
「メイドさん?」


【残り117人】

【F-5/森の中/一日目・00:10】

【いーちゃん】
 [状態]:健康/メイドさんに動揺中
 [装備]:エルメス/コンパス
 [道具]:初期配布アイテム一式
 [思考]:町に行く/???(メイドさん)に遭遇

【???(メイドさん)】
 不明

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