remove
powerd by nog twitter

第010話:オニと言われた女

参ったな…と、心底オーフェンは思った。
こんな殺し合いの場に急に放り出されても、と呆れてしまう。

それと同時に、怒りも沸くのだが。

「まぁしかし…袋の中身とかも見ないとな」

彼はそう呟くと、袋をごそごそとまさぐる。
出てきたものは………。

「ダイヤの指輪………無理、俺もう無理」

ダイヤの指輪なんざ武器としての転用は不可能である。
それにこの状況で買い物が出来るわけではない。宝の持ち腐れだ。
そこまで考えると、オーフェンは一気に自信をなくして項垂れた。
どこまで続くのか分からない石段の一段目に、デイバッグを置いて。



そして一方……。
かつてある若い男に、そしてあの旅をする少女に自分を「師匠」と呼ばせた女性。
その彼女が静かに歩いていた。
彼女に配られたアイテムはパチンコ。残念だが弾は無かった。
「弾は小石でも良いでしょう……ですが、些か不安ですね」

落ち着いた物腰、
だがまっすぐに光る瞳。
そんな整った印象を持つ彼女は、何をするとも無く歩いていた。
そして長く続く石段を見つけた。
目に付いたのも何かの縁……それに、人の気配も感じる。
まずはそこに行くかと、歩みを速めた。


「……こんばんは」
「……ん?」

それから、数分にも満たない頃だった。
オーフェンと女性は、出会った。

「何者ですか、答えなさい」
「まずはアンタの名前が聞きたい」
「私のことはどうでも良いです。答えなさい、名前を」
「………オーフェン。で、アンタは」
「どうでも良いのです、聞こえないのですか?…オーフェン」

オーフェンは心底不愉快になった。
異常なほど押しの強い女性と、現状では使えないアイテム降臨の2連コンボ。

最悪だった。

だが打ちひしがれている場合ではない、これはオーフェンにとってはチャンスなのだ。
早速オーフェンは彼女に話を持ちかけた。

「おい、アンタ…俺と一緒に行動する気はないか?」

しばらく女性は黙っていた。
黙って、見透かすような瞳でこちらを見ている。
そして女性は、口を開いた。

「あなたがこのゲームからの脱出を考えているのであれば、仲間にしてあげても良いです」

オーフェンはご機嫌になった。
天にも昇る心地だった。
それを女性は、静かに見ている。


しかし、些か気になるフレーズがあった。
訂正しようとオーフェンはまた話しかける。

「いや、だからアンタが俺の仲間に…」
「あなたが私の仲間になるのではないのですか?」
「俺がなるんじゃない、アンタが」
「私の仲間になって脱出を考えるのでは?」
「…………あのな…だから俺がしたい事の為にアンタが」
「あなたが仲間ではないのですか?」

主導権争いを少々続けた所で、オーフェンは折れた。

「分かったよ、じゃあ俺がアンタの仲間になる」
「わかりました」

そしてオーフェンが指輪を片付けようとしたとき、
女性の目は、光った。

「待ちなさい」
「……今度は何だ?」
「その指輪、私が預かります」
「………はぁ?」
「私が預かると言っているのです」

硬直するオーフェン。
確かに現状では役に立たないが、出会い頭の取引道具などにも使えそうだ。
それに金額にすればかなりのものだ、そうそう手放したくは無い。


「これは俺に配られたんだ、俺が持つ権利がある」
「預かります、渡しなさい」
「いや、だからこれは俺に」
「渡しなさい」
「なぁ、アンタ……"オニ"だって言われた事あるだろ」
「渡しなさい」

オーフェンはまた折れた。
未練を引きずりながら女性に指輪を渡す。
女性がそれを受け取り、袋に入れるとある方角を指差した。

「まずはこの石段を登りましょう」
「なんでだ?」
「勘です」
「嫌だといったら?」
「そんな答えに興味はありません、登りましょう」
「………わかったわかった!!」

このゲーム、人災もアリかよ……と、オーフェンはため息をついた。
確かに災いだ、彼にとっては。

そして2人は、石段を登りだした。



【C-5/長い石段/1日目・0:23】
『逆関白(キノの師匠 (若いころver)/オーフェン』

 【キノの師匠 (若いころver)(020)】
 [状態]:正常
 [装備]:パチンコ
 [道具]:デイバッグ(至急品入り) ダイヤの指輪
 [思考]:長い石段を登る

 【オーフェン(111)】
 [状態]:正常
 [装備]:なし
 [道具]:デイバッグ(至急品入り)
 [思考]:女性(キノの師匠)についていく

【残り117人】

2005/05/23 挿し絵追加

←BACK 目次へ (詳細版) NEXT→
第009話 第010話 第011話
- キノの師匠 第103話
- オーフェン 第103話