「エリオルからの贈り物<さくら編>2」
「…これ…」
「なぁんや、小僧やないか。しかも小学生の」
「うん。…小狼くん…可愛い。」
映し出された映像は小狼のもの。友枝小の夏服を着ている。当時はきりっとした眉や強い意志を感じさせる大きな瞳に知世や自分とは違う「男の子」というものを感じたのだが、
中学生のさくらから見るとただひたすらに可愛らしいという形容がピッタリなのに驚いてしまう。
「そうかぁ?わいのほうがよっぽど可愛らしゅうて、しかもええ男やで。…で、でも、ま、子供らしい可愛さはあるな。ははっ…はは」
ケロはさくらににらまれて、慌てて言い足した。
「でも、どうして…。これ、エリオル君が転校してくる前のだよ」
「なんでそんなんが判るんや?4年生も5年生もそんなに変わんやろ」
「だってこれは…ああっ!」
「なんやねんな、もう!落ち着いて見れんのか!」
突然のさくらの大声にケロが向き直って抗議した。
「ケロちゃん、見て!」
さくらの口調に気圧されて、文句の続きを言うのも忘れ、ケロは再び目を画面に向けた。
「こりゃ…なんか記憶にあるな」
「…うん」
二人はしばらく画面に見入った。
まだ幼さを残す小狼が必死になって走って行く。視線の先にはさくらにケロ、知世がいた。
他にもまだ………
さくらたちの側まで来ておきながら、小狼はそのまま樹上に姿を消した。
そして
「タイム!」
小狼がタイミングを見計らってタイムのカードを発動させた。
「…!…」
「なんや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
さくらは両の手を祈るかのようにしっかり組み合わせ、声にならない声で叫んだ。
ケロは思いっきり大声で。
小狼の足下にはさくらとゾウがいて、可愛い女の子と綱引きをしている。
「パワーや。そうか、動物園やな!」
「…うん…4年生の時だよ。一緒に行ったよね」
画面の中では全てのものが動きを止めていた。そう、小狼以外は。
その小狼はやおら木から飛び降りると、パワーの小さい手から綱をもぎ取り、素早く樹上に戻った。
その刹那、呪縛がとけ、負けたことに呆気にとられているパワーと無邪気に喜んでいるさくらたちの姿が映し出された。
「せやったんか…何か変やとは思とったんやけどなぁ。小僧の仕業やったんか」
「小狼くん、まだ日本にきてすぐだったのに…。わたしたち、カードを取り合ってたのに…」
画面を見つめる二人の目に、次々と新しい場面が映し出された。
タイムを使って消耗したのらしく、肩で息をつく小狼。
さくらたちの喜ぶ姿を見て穏やかに微笑む小狼。
そのまま樹上から立ち去る小狼。
「…小狼くん」
すでに涙ぐんでしまったさくらがぽつりとつぶやいた。