「エリオルからの贈り物<さくら編>1」
「ああ、わすれるところだった!ケロちゃん、ちょっと替わって。ビデオを見なきゃ」
もう夜もふけ、眠る頃になってパジャマ姿のさくらが叫んだ。
「なんやさくら今頃になって…。明日にしぃ。わいももう一回だけ挑戦したら寝る
さかいに、な。」
ケロはコントローラーを握りしめたままゲーム画面から目を離さずに言い放った。
「だーめ。急ぐの。お願〜い、ケロちゃん」
「ほんまもう、なにをそんなに急ぐことがあるねんな。今まで
ボーっとしとったくせに。大体、今日一日小僧とデートして疲れてん
ねやろ?『はにゃーん』とかなんとかいうて余韻にでもひたっときんか。」
相変わらずさくらの方を見向きもしない。
「ケロちゃんこそ、今日一日家でゲームばっかりしてたんじゃない。
本当に急ぐの、ね、お願い。」
「ゲームばっかりしてたんやない!ちゃんとケーキかって食てたわ!」
「そんなの自慢になんないよぉ。ね、ねってば、ね。ちょっとだけ」
そこまで言われて、さすがのケロもやっとさくらの方に向き直った。
「なんや、さくら、それビデオテープやないか」
やっとさくらの右手にあるビデオテープに気付いたケロがいぶかしげに問う。
「だから、ビデオを見なきゃ、って言ってるのにぃ。聞いてなかったでしょ、ケロちゃん!」
ケロを軽くにらみながらさくらは続ける。
「今日ね、お誕生日だからプレゼントーって…」
「知世やな!」
「違うの。エリオル君」
「エリオル!?なんや日本に帰っとんかいな。」
「うん。今日会ったの。観月先生のご用でちょっとだけ日本にいるんだって」
「みんな一緒にか?」
「うん。秋月さんやスピネルさんには会えなかったけど、みんな元気だって。で、今度お茶に誘われたんだ。ケロちゃんも、って」
「わいに何の挨拶もせんとってからにーて思うたけど、それやったら許したろ」
「なに、それ」
「でも、あいつが何かくれるやなんて、なんか怪しいなぁ。」
ケロはあごに手を当てて考えるポーズを決めてみる。
「ほえ?でも、変な気配とかしないよ」
「どれ、見してみぃ…」
さくらからビデオテープを受け取って、さんざん調べてみるが、
特におかしいところは見受けられなかった。
「ほんまや。こりゃ、ただのテープやな」
「でしょ?でね。今日、わたしのお誕生日だからプレゼントに、って。」
「そりゃさっき聞いた」
「小狼くんももらったんだよ」
「なんでやねん。小僧かて今日が誕生日か?」
「もう、無茶苦茶言わないでよ」
「とにかく、思い出したんだから、せっかくのプレゼントだし今日中に見なくちゃ」
「どうせ小僧のことでも考えてて今の今まで忘れてしもうとったのやろ。ああ、あほらし。」
「もう、そんな意地悪言わないでよぉ〜」
さくらは頬を思い切り膨らまして抗議した。
「そんな顔しなや、中学生にもなって恥ずかしい。ま、ええわ。わいも興味あるしな、見よか」
ケロはコントローラーのコードを巻き取り始め、そう言った。
「うんっ!」
さくらはすぐに機嫌を直していそいそとテープをセットした。