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「帰郷<小狼編2>」


「気がついた、小狼?」
後部シートにおさまるや否や隣に座った苺鈴が聞いてきた。
「…えっ?」
苺鈴がこういう言い方をするときはとても危険なのだ。
やれ髪型を変えたのに気づかない、新しいバッグなのよ!小狼の鈍感!もう!
ーさんざん罵倒されて、お詫びにデートの約束を何度されられたことか…。
小狼は過去の経験から様々なチェックポイントを思い出し、それら一つ一つを素早く点検した。
髪型は変わってない。
服も見慣れたものだ。カバンも。
靴は?
靴もだ。
他には…
ついに小狼は一つの結論に達し、おそるおそる口に出してみる。
「新しい髪飾りだな」
だが、苺鈴は小狼の答えを聞くなり、目を丸くした。
「なに言ってんの?」
しまった!違ったか。
小狼は自分がどんな失敗を犯したのか、また、それをどんなかたちで詫びさせられるのかを考えると 帰国早々に身の縮む思いだった。けれど、苺鈴は彼の心配を余所に、全く違う話を切りだした。
「…この気よ…」
「ああ」
あいづちをうちながらも、あまりに意外な苺鈴の答えに、小狼は戸惑っていた。
苺鈴の言う「気」が、空港についてすぐに彼や偉が感じ取った異様な気と同じものだという見当はついた。
だが、苺鈴は一族の例外中の例外で、魔力が全くないのだ。 空港にいる大勢の人々のなかでも、この異様さに気づいている者は彼ら二人をのぞいて皆無のはずだった。なのに、なぜ…?

「もちろん、わたしには判らないわよ」
小狼の戸惑いを察知したらしい苺鈴は彼を見て声を出さずに笑った。
「でもね、お姉さま方だって気付いたの」
簡単な説明だったが、苺鈴がなにを伝えたいのか彼は正確に理解した。
4人の姉たちも、弟の小狼同様に魔力を持っている。ただ、各々持てる力の種類は違う。芙蝶は風華を美麗に使いこなし、黄蓮は雷帝を手懐けている。 小狼は水龍で雪花に力負けするし、緋梅の前に彼の火神は屈服する。
4人とも卓越した魔術師と呼ぶにふさわしいだけの力は有しているが、残念ながら使いこなせる魔力は限定されている。
総合的な力で見れば、小狼にははるかに及ばないし、その分、やはり気を読みとる力も弱い。
その姉たちが感じるほどならば、先ほど自分が感じ取り、なお身にまとわりついて離れないこの気の禍々しさはホンモノなのだと小狼は理解した。そして、こんな強烈な気を、なぜあの母が放置しているのかが解らず、困惑した。
「ふふ。でも、髪飾りに気がつくようになったなんて、小狼も変わったわね」
恋をすると人って変わるのねーそっと呟きながら茶目っ気たっぷりに、彼の顔をのぞき込んでくる苺鈴に小狼がたじろいている間にも、車は一路、夜蘭の元へと向かっていた。

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