remove
powerd by nog twitter



「FIRST JEALOUSY」2



一人で下校するのにやっと慣れた頃、街のあちこちで甘栗の香ばしいにおいが漂い始めてきた。
今日はお月見だからわざわざハーゲンダッツまで行って月餅アイス買ってきちゃった。小狼の分もちゃんとあるの…わたし…バカ…。
ねぇ、小狼、すっかり秋よ。
見たくない?香港の秋。
…まだ、帰らない…。

「小狼様はいらっしゃいません。先ほどまでお部屋にいらしたんですが…。式服はちゃんとございますのに…」
困ったように偉が言う。
偉も知らない内に出かけちゃったの?
今夜もまた、変なことが起こってるって訳ね。でも、着替える時間もないほど急いでたの?
大変なのは解ってるの。でも、納得できないわ。あなたになんの関係があるの。
いつまでそっちにいれば気が済むの?
もう、秋も終わるのに。

「話したいことがあるんだ」
「なあに、小狼?」
小狼からの電話。わたしはとっても機嫌がいい。なんでも言って。あなたの口から出た言葉ならなんでも聞くわ。さぁ。
「その…冬休みに帰ってから…言う」
「香港に帰ってくるのね!」
クリスマスにはまた遊園地へ行こう!わたしの心は弾んだ。…まぁ、お姉さま方も一緒だろうけど。
「ああ、少しは戻れると思う」
なにそれ。本当に帰ってくるんわけじゃないのね。喜んで損しちゃった。小狼のバカ。まぎらわしい言い方しないでよ。
わたしは急に不機嫌になる。
話ってなに?今言えばいいじゃない!なにもったいつけてるのよ。
でも、嬉しい。声が聞けた。元気そうだ。よかった。
でも、嬉しくない。今できない話ってなに?気に入らない。
だめだめだめだめ、待てないわ!
もちろん、声には出さないけれど、わたしは叫びっぱなし。
「どうした、苺鈴?」
黙りこくるわたしに戸惑ったような小狼の声が聞こえてきた。
相変わらずの不器用さ。
「ううん、なんでもないの。わかったわ。じゃ」
なんでもないわけないけれど、そう言ってこっちから電話を切った。
どうせいい話じゃないんでしょう?
でも、心配しながら待つのはイヤ。ハッキリさせて欲しい。冬休みまでなんて待てない。
もう疲れちゃった。
わたし、今すぐそっちへ行くわ。会って話をしましょうよ。
なにも知らない振りして笑ってあげる。
それに、それに…わたしの思い違いということだってあるかもしれない。ほんの少しでも望みがあるなら、それに賭けたい。

さぁ、やっと小狼に会えるわ!行こう、日本へ!



indexに戻ります novelページの目次に戻ります 前のページに戻ります 次のページに進みます