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「FIRST JEALOUSY」



はじめは、自分の耳を疑った。
クロウカードが全部集まったと小狼からの電話で知ったとき、 小狼が主になれなかったのは大いに不満だったけれど、これで香港に帰ってきてくれると 喜んだのに。それもつかの間、すぐに小狼は言ったのだ。
「まだ、こっちにいる」と。
小狼から帰国の言質を取れなかった苺鈴は、最低最悪の気分で夏休みを過ごしたのだ。

それから何日もたち、夏休みが終わろうというのにまだ帰ってこない小狼に、しびれを切らして電話をかけた。 毎日のように。それでも、要領を得なかった。
「なんでぇー!なんで帰ってこないのよ、小狼!!」
責めても、哀願しても、答えは同じ。その内に帰るからー。
「その内って?」
「その内はその内だ」
「もう!はっきり言ってよ!いつ、明日?あさって?」
「それは…無理だ」
「だって夏休みでしょ?今帰れば丁度いいじゃない!」
「ああ…」
そんな会話を何度繰り返しただろう。結局、小狼は「いつ」とは言ってくれない。
業を煮やして偉を責めても、
「その内お帰りになりますよ」と聞きたい答えは言ってくれない。
もう、新しい学年度が始まる。
まだ、帰らない。

カードは集まったのに。
もう、日本にいる必要なんかないのに、小狼のバカ!
新しいクラス、新しい学年。
でも、つまらない。小狼がいないから。

久しぶりに小狼からかけてきてくれた電話。素直に嬉しい。
弾むような声で電話に出たのにー
「え…?」
苺鈴は自分の声が凍り付いたのに気づいた。
「帰れない、しばらく」
小狼はそう言った。
「どうして…?」
沈む心、沈む声を奮い立たせて苺鈴は聞いた。
「また、妙なことが起こっている」と小狼は言った。
とても変なことが起こっている、と。封印の鍵も、杖も、カードも変わった、だから小狼は帰れない。
なぜ?なぜなぜなぜ?
その変なことは小狼とは関係ないわ!
主である木之本さんが何とかすべきじゃない!
あの口の悪いぬいぐるみだっているでしょう?
それに今はユエだって…。

それでも残るの?
そう…。
…なぜ?
なんだかイヤな感じ。
魔力なんかなくても解るの。小狼のことだもの。小狼、自分でも気づいてないだろうけど、わたしには解る。
わたしも、日本にいたかったのに。



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