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[三段論法]




2004.10.20

日本テレビ『エンタの神様』(以下『エンタ』)が人気ですが、一部のお笑いファンからは不評だそうです。


数年前から、世間では「お笑いブーム」と呼ばれる現象が続いています。
 NHK総合『爆笑オンエアバトル』(現『オンエアバトル』)とフジテレビ『はねるのトびら』辺りが火付け役となり、現在では若手芸人のネタ見せを主軸とした番組が、全国ネットでも数多く放送されています。
 この『エンタ』も、その数多あるネタ見せ番組の一つです。元は小柳ゆきが美空ひばりの歌をカバーしてコラボレーションと言い張るような節操の無いバラエティ番組でしたが、ある時期を境にリニューアル。「松尾幻燈斎」ことMr'マリックのマジックなどを経て、現在のシンプルなネタ見せ形式に落ち着きました。

「芸人が全く着飾る事も無く、ただネタを見せるだけ」という、土曜の午後10時に全国ネットで放送するにしては簡素すぎるのでは、と思えるような内容は、それでも視聴者にウケているらしく、平均視聴率も15%台を取っているそうです。


以下、『エンタ』番組プロデューサー・五味一男氏のインタビュー記事より抜粋。




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(前略)また、「コンビの場合は、メジャーでないと『どこの2人が話してるんだ?』と視聴者も感情移入できないが、“ピン(一人)芸人”はメッセージを送る相手(客)が明確で、見る方も“ツッコミ視線”で見られるから」と、ピン芸人が多いのも特徴で、ブームを後押ししている。(後略)


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『エンタ』では、漫才を放送しません。
 同番組における「漫才」の定義があやふやなんで、実際のところ「絶対に」漫才が放送されないのかは分かりませんが、現時点では一部の例外を除いて漫才を放送していない、と見るのが一般的な見解です(個人的見解からみる例外:Poison Girl Bandのネタ全般・スピードワゴンの十八番ネタ「甘い一言」など)。

本来、漫才ネタをメインとして活動している芸人が、その必殺技を封印された有様たるや凄まじいものがありますが(例:ビッキーズ「住宅情報・バイト情報誌フリップ漫談」)、そういったふうにテレビで面白くないものを放映する責任の以前に、そもそも番組側の芸人に対するスタンスが矛盾していると思います。


”ピン芸人=見る側はツッコミ目線”という偏見もどうかと思いますが、上述した理屈、つまり”芸人内での自己完結がダメで観客側に感情移入の余地を残す必要がある”のであれば、漫才だけでなくメンバー内にツッコミがいるグループを全て締め出すのが道理でしょう。一部の特例を除いて、ツッコミが常識人を演じボケが馬鹿を演じる事で、一つの現実をそこに構成することでネタは進行するのですから。
 しかし、アンタッチャブルカンニングも『エンタ』に出演し続けています。

厳格な定義を怠るぐらいなら最初から漫才をやらせてやればいいのに、と思います。大体、こんな無闇に芸人へ負荷をかける理由が分かりません。

日本テレビ側の芸人自体を蔑ろにする風潮は、『24時間テレビ』の深夜放送部分(若手芸人を大量に集めて、ベテラン芸能人の有り難いお話を拝聴する企画。若手芸人は一部を除いて只の賑やかし扱い)でも感じましたが、番組を良質なものへ昇華するためならともかく、この「漫才芸人締め出し令」は、芸人への負荷が悪い方向へ向かっているようにしか見えません。


昔は、『エンタ』での芸人に対する扱いの悪さは更に顕著でした。
 ネタにやたらとテロップを重ねたり(一般的にネタ中のテロップ、特にボケのセリフにテロップを重ねると、オチやボケるポイントが視聴者側で読めてしまいネタが大味なものになる)、編集がズタズタだったり(パペットマペットの、恐らく全長3分程度だったと思われるネタが1分半でいきなり終わったときは、別の意味で笑い死ぬかと思った)、ゲストは何のために呼ばれているのか分からなかったり(パパイヤ鈴木・はしのえみ・杉浦太陽など、番組開始から一言も喋らなかった出演者は数知れず)と、悪い意味でやりたい放題でした。

過去に某ラジオ情報番組でパーソナリティが言った『芸人を踏みにじる番組』という表現は至言だと思います。


現在、全国ネットで放送されているネタ見せ番組の中で最も芸人の露出バランスがチューニングされている番組は『笑いの金メダル』だと私は思っていますが、この2つを見比べると、ネタ番組での「やっていいこと」と「やっちゃいけないこと」の差がよく見えてきます。

カンニングが『エンタ』のネタ内でよく口にする「この番組プロデューサーの五味一男はダメだ」という発言は、同番組を見て曇った視聴者の心を一掃するクリティカルな言葉です。
 五味一男氏といえば、かつて『マジカル頭脳パワー』をはじめとする数々のヒット番組で「タレント発言時のテロップ」「19時55分スタート」「CM前の映像をもう一度流す」など、現在のバラエティ番組でも多く用いられている「視聴率を上げるための手法」を発明したとされる開拓者。


なんだ、バラエティ番組を駄目にした張本人じゃん。


本番組の数少ないアピールポイントである「ピン芸人の発掘」では一目置く点もある『エンタ』ですが、あまりのあるある芸人の多さに芸人供給過剰の飽和状態を起こしていたり(波田陽区が他のネタ番組に呼ばれない一因)、一部レギュラー出演している芸人がネタ枯渇により自身の能力をオーバーフローしていたり(特に最近の青木さやかのネタは、他のテレビ番組での活躍と比較して凄惨なものに)と、前述した様々な芸人への負荷が既に異常な状態となって表面化し、実害を出しています。

つまり『エンタ』の何が悪いかを一言で説明すると「お笑い番組のタブーばっかりやらかしてるから」です。


私は『新装開店!SHOWbyショーバイ!!』の『売れっ子ヌードモデルは誰だ!?クイズ』を観た頃から、個人的に五味一男という演出家を全く信用していないんですが、それでも冠に「エンターテイメント」と名付けるのなら、視聴率15%台の番組に相応しい美麗な演出を施してもらいたいものです。




----------キリトリセン----------




個性派アクションパズルゲーム『アイギーナの予言』や、ピストルの弾をジャンプキックで蹴り飛ばす『ゴルゴ13 第1章』など、主にカオスな雰囲気で一部ゲーマーに好評を博したゲームメーカー、ビック東海の一作品に『カケフ君のジャンプ天国 −スピード地獄−』というものがあります。

「版権が安かったから」という制作側の実も蓋も無い実情から主人公に選ばれた、カケフ君。
 過去に所ジョージ・間下このみ(参考画像。『リンクの冒険』TV-CFから)らと一緒にフジテレビ『所さんのただものではない!』に出演し、とっくの昔に子役タレント業を辞めた頃にテレビで大学浪人をバラされた彼ですが、そんなカケフ君が本作中では何故か王様を救うために7つの薬草を探す旅に出ます。


内容は『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』風味の高速アクションゲームです。
 ケセランパサランを赤く染めたような謎の生物『ウィッキー』を豪快に投げ飛ばし、遠距離&複数攻撃可能、落ちたら即死の水面上を水切り走行で走破可能、クリア後の1UP獲得ルーレットなど、スピード感溢れる仕様が特徴です。
 ただ、鬱陶しい障害物とやたら多い敵キャラが「ジャンプ」や「スピード」を阻害してしまうのが残念。特にステージ2『風穴山』は、他のゲームと比較して異常な速さを誇るカケフ君のダッシュ最高速度を完全に潰すステージ構成となっています。

主人公に搭載された標準機能がタヌキマリオ+『ジャウスト』の飛行スピードで、かつボス戦の難易度をシビアにしたくらいならば、本作が用意した疾走感を存分に発揮できたのではないかと思いますが、まあカケフ君ですし。


『ソニック』系の豪快なゲームシステムと、『マリオ』風のプレイヤーの攻略意欲を掻き立てる障害物が、互いに権限を侵食しあった結果、難易度は高めとも低めとも言えず、ましてや丁度良いなどとは到底評価できない作品になってしまった本作。

せめて、アクションゲームの不文律さえ守られていれば、もう少し面白い作品になったはずなのですが…。残念です。




----------のりしろ----------




つまり『エンタの神様』と『カケフ君のジャンプ天国 −スピード地獄−』は、ソフトを制作する上でそのジャンル固有のタブーに踏み入ってしまった点で、同類項にあります。




現在『エンタ』が視聴者にウケている理由を一言で説明するならば、その不器用さが見る側の心に引っかかっているだけでしょう。つまり、笑い飯と一緒です。

誤解のないよう補足すると、笑い飯は自分達が下手に見られる事を計算した上で見る側へのアピールとして、その下手さをコントロールしています。
 しかし『エンタ』人気の場合は、制作側の功労によるものではなく、ただの拙さが生み出した偶然です。芸人のパイを完全に食い潰した瞬間、この番組は終了の方向へ向かうでしょう。


『カケフ君のジャンプ天国』のように、スタッフの暴走が愉快なベクトルへ向かってくれれば、それはそれで見る価値のある番組になったかもしれませんが、そもそも芸人を愛していない人たちにそういった努力を求めるのが無理なのでしょう。
 少なくとも、大手ガス会社(東海ガス)から無理やりゲーム業界へ参入してきたビック東海作品の場合は、何も言わずとも、その余りある情熱がゲームの表面から滲み出てましたし。





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