remove
powerd by nog twitter

貴方の隣のブラックホール
マンション投資編

誰にとっての「美味しい話」?

 夏休み明けのある日、山と積まれた書類の整理に励んでおりますと 机の上の電話が鳴りました。

 仕事絡みの電話も多いので 嫌々 受話器を取ったのですが、電話の相手は知らない男。
 しかも いきなり「絶対に儲かる話があるんです」と 甲高い声で がなりたてるではありませんか。 

 この某セールス氏、どうやら「投資用ワンルームマンション」を売りたい様子。
 氏 曰く、「ローンを組んでマンションを買うと、家賃収入が上がって 節税対策にもなる」とのこと。

 今時 引っかかる奴がいるのかと思うくらいに稚拙な悪●商法でございます。

それ程 美味い話なら 自分でローンを組んで やってみりゃー良いじゃないか。

 仕事を邪魔された腹いせに、セールス氏に御提供いただいた資料で 昨今の非道な商売について考えてみましょう。

ホームへ戻る
雑記帳入り口へ


    まずは お手並み拝見

 まずは 彼のパンフレットを見てみましょう。


業者広告より

 はい。
 もう、これを見ただけで 私はもう 全身の力が抜けてしまいました。

 怪しいオーラが全開でしょ。

 何処からネタにすればいいのか迷うのですが、頑張って 難易度の低いところからいってみましょう。

 まず、第一の落とし穴は 「好利回り・高収益」を謳う家賃収入。


業者広告より抜粋

 1820万円のワンルームマンションを 月々87600円で賃貸するシステムです。
 1年の家賃収入は 「87600円X12ヶ月=1051200円」で、確かに「購入価格1820万円」の「5.77%」に当たります。

 が、細かい文字まで読んでみてくださいね。

 毎月の家賃87600円には 管理費8000円修繕積立金1600円が含まれているのが分かります。

 更に、下のほうには 毎月の賃貸代行手数料として「月額賃料の5%」が天引きされると 書いてあります。


ともに業者広告より抜粋

 このマンションのオーナーの懐に入る実際の金額は、

「家賃87600円」−「代行手数料4095円」−「管理費8000円」−「修繕費1600円」

 で、結局 毎月73905円、年にしますと886860円に過ぎません。

 業者の言う「利回り」は4.87%にまで低下します。


 え?
 「4.87%」でも立派な数字じゃないか、って?

 甘い、甘い。
 この広告には何も書かれていませんが 不動産を持ってると 毎年税金がかかるのを忘れていてはいけません。

 まずは 年に1度の固定資産税
 建物の評価額が分からないので正確な数字は出ませんが、少し甘めに計算しても 年140000円を下回ることはないでしょう。

 そして 同じく毎年掛かる都市計画税
 こちらも正確な数字はわかりませんが、安く見積もっても年30000円は必要です。

 結局、全ての費用を差し引いた後の純利益は 毎年700000円前後になるでしょう。


 更に 忘れていけないのは マンション購入時の税金と手数料。
 マンションを買う瞬間に不動産取得税、登記の時には 登録免許税印紙税
 司法書士手数料や 業者の販売手数料もお忘れなく。

 こいつも正確な数字は出ませんが、概ね80万〜100万の費用負担が発生するものと思われます。
 勿論、コレにはローンのための諸費用は含まれておりません。

 要するに、

マンションの購入は諸費用込みで1900万円程度

年間の収益は70万円前後

 となるはずです。

 業者が多用する「年間家賃収入÷物件価格」の利回りも、実際のところ どんなに良くても「年3.68%」
 広告が謳う5%はおろか、4%をも下回るものと推察します。 家賃収入に対する所得税・地方住民税は含まれていません。


    ところで リスクは どうなるの?

 この低金利のご時世だと 「3.68%」でも 良い利回りに見えるかもしれません。
 何せ 大口定期の利率でさえも「0.02%」の国ですからね。

 でも、次の落とし穴が コレ。


ともに業者広告より抜粋

 実は マンション投資の最大のリスクが、この空室率の問題です。
 マンションの賃貸収入は 貸借人がいてはじめて入ってくるお金。
 空室のままでは 一銭の実入りにもなりません。

 で、この業者の別の資料には こんなことが書いてあります。


業者資料より

 97%!!!

 真偽はともかく かなり驚異的な数字であります。

 ちょっと考えてみてください。


業者資料より
下線は筆者による

 業者の資料によると 入居者の平均回転率は 30ヶ月に1回です。

 個別の部屋で 空室率97%を維持するためには、入居者が退去した後 1ヶ月以内に次の入居者を見つけなければいけません。
 下宿していた経験がある方なら コレが如何に厳しい条件か分かっていただけると思います。

 ワンルームマンションの人気は新築物件に偏っていますから、新築時は 不可能な数字ではないでしょう。
 しかし、5年後 10年後はどうなることやら。

 ま、具体的な数字がないのですから、まずは業者の数字を信じることにしましょうか。

 空室の時に代行手数料や管理費がどうなるか記述がないので分かりませんが、管理費・修繕費は貸借人の負担と記載されていますから 賃貸代行手数料のみが発生すると計算すると・・・

(「家賃87600円」−「管理費8000円」−「修繕費1600円」)X0.97−「代行手数料4095円」

 毎年の期待家賃収入は「年688000円」程度と見積もられます。

 この時点で 表面利回りは「年率3.62%」となりました。


 この「空室リスク」って 非常に厄介なのに、個別物件の具体的な稼働率が表に出ることはありませんでした。
 業界内々の「暗黙のルール」て ヤツでしょう。

 調べてみると この会社 平成元年から投資用ワンルームマンションを手がけており、これまで16棟の投資用マンションを販売・管理しています。
 ところが、個別物件の稼働率は「公表できない」との お答え。

 どうして、広告の「稼働率97%」を 信じることが出来ましょう。

これでは 目隠しポーカーと 何のかわりもありません。

 最近 話題の上場不動産投信は過去5年間の稼働率の開示が義務付けられておりますし(参考文献)、非上場の信託でも稼働率と収益率を開示している会社が出ています(参考資料)

 不動産投資信託よりもリスクが高い個別物件、それも とりわけ危険なワンルームマンションで、十分な情報を開示せず しかも 実質利回りも低いんでは どうにも救いがありません。


    そもそも 利益って?

 投資用不動産の関連サイトを見ていると 「実質利回り」という言葉が多用されているんですが(参考資料)、本当に この「実質利回り」って 「実質」なんでしょうか?

 ちょっと銀行預金の例を考えてみましょう。
 計算しやすいように、年利は1%で 100万円を銀行に預けたとしましょう。
 当然ですが 貴方の手元には 毎年 1万円ずつ利息が入ってくるはずですね。(実際には2割が税金で天引きされますが・・・)
 勿論、解約すれば この100万円は無傷で帰ってくるはずです。

 そう。
 「収入÷投資元本=利回り」の図式が成り立つのは、元本が無傷で回収できる場合だけ。

 試しに このマンションに投資した場合の収入を考えてみましょう。

実質収入は 家賃から管理費・積立修繕費・手数料・土地諸税を引いて計算します。
家賃収入に課税される 所得税・地方住民税は考慮しません。
物件の稼働率は97%を維持できるものとします。
賃借人は30ヶ月で入れ替わり その都度 礼金が一ヶ月分支払われるものとします。

  家賃収入の累計 実収益

実投資利回り
(年換算)

10年目 7192000円 △11808000円
20年目 14384000円 △4616000円
26年目 18699200円 △300800円
27年目 19418400円 418400円 0.082%

 長年 97%の稼働率を維持するという SF的な条件でも、投資元本を回収できるのは 27年後
 家賃収入に対する所得税を考慮すると もっと遅くなるはずです。

 大体、27年でモトが取れても ぜんぜん嬉しくないでしょう。

 現在ある築27年の物件を考えてみてください。
 27年前って 昭和50年ですよ。

 ま、都合よく 運んだとして、その後の経過を見てみましょう。

  家賃収入の累計 実収益

実投資利回り
(年換算)

30年目 21576000円 2576000円 0.452%
40年目 28768000円 9768000円 1.285%
50年目 35960000円 16960000円 1.785%

 手元に残った老朽マンションが 目一杯働いてくれたとしても この始末。
 50年経ったところで 国債に毛が生えた程度の収益しか得られません。

 で、後に残されるのは 築50年の古マンション
 これって 今なら 昭和28年建築の物件に相当するんですよお。

 え、「修繕費を積立しているだろう」って?

 確かに そうなんですが、月々1600円の積立では 50年経っても 96万円にしかなりません。
 こんな金額では 50年を前に小さな修繕で消えてしまっているでしょう。

 マンションの建て替えなんて夢のまた夢。
 ま、僅かばかりの土地の分割所有権は残るでしょうが、それがどれだけ救いになるかは 疑問ですがね。
 取り壊しにも 随分 費用が掛るでしょうから。


 あ、言い忘れましたけど、ココまでの試算って マンションを現金で買った場合を想定していますよ。

 現金で買っても収益性が低い物件は 絶対に借金(ローン)で買ってはいけません。
 広告にある 頭金190万円ローン1630万円の条件で試算してみましょう。


業者広告より抜粋

 返済は30年、金利は安めで2.796%となっております。

 実際には 金融機関手数料、団体生命保険料、登録諸費用、不動産取得税で 更に130万は必要になりますがね。

 ま、月々の支払額は 広告にある通り 66940円で 毎月 少しの黒字が出るでしょう。
 ところが最終的な支払い総額は 諸費用込みで2730万円に膨らみます。

 つまり、40年目にならないと 純粋な利益なんて 出やしないんです。

 こんな 結果が明らかな投資に 初心者を誘う業者って・・・(以下略)

 それなのに「悪徳商法マニアックス」にも 「儲かる商法の研究」にも 業者の名前、出てないなあ。


    ブラックホールに吸い取られないために

 そもそも この広告、ワンルームマンション投資で 表面利率が5%って 滅茶苦茶に低すぎます

 ファミリータイプのマンションなら転売しやすく 実需の市場性もありますから、表面利回りの低さは 転売時の価格によってカバーできます。

 ところがワンルームになると 中古物件の需要が ほとんどありません。
 独身者でも 買うとなったら、ワンルームでなく ファミリータイプを買うでしょう。
 このため、中古ワンルームの需要は投資目的に限定されてしまうのです。

 おまけにワンルームの利用者は新築志向が強いときていますから、早く投資元本を回収しなけりゃ勝負になりません。
 つまり 立地の良い優良物件でも 新築時に10%以上の実質利回りがないと 厳しいですし、物件が古く 立地が厳しいものだと 価格がつかないのも頷けるでしょ。

 そもそも、5%程度の目標収益であれば 何も個別不動産に投資しなくたって良いのです。

 上場不動産投資信託でさえ 実質利回りで5%を超える予定のモノが幾つもあります。
 物件が分散できる上に 何時でも売れる流動性がありますから、どれだけ有利か計り知れません。
 こちらは収益率から稼働率まで 大体公表されていますしね。(参考文献)
 それでも こういう意見があるんですよ。(参考文献)

 5%の利回りなら 為替リスクさえ厭わなければ、米国債やフランス国債だって十分に可能です。(参考資料)
 これなら、少額から お手軽にキャピタルフライトだって出来てしまいます。
 25年国債だって 不動産投資に比べりゃあ 短い 短い。

 ま、両方とも それなりに(かなり?)ハイリスクなんですが、ワンルームマンションよりは随分とマシだと思うでしょ?


今回は 如何に極悪非道な広告が まかり通っているか見てきました。
しかし、貴方の隣のブラックホールは これほど分かりやすいものだけではありません。

次回は もっと露骨な手口を誇る 国内最大手の証券会社を覗いてみましょう。

 さすがノルマ証券、やることが えげつないでっせー


第2話
「貴方の隣のブラックホール・デリバティブ国内編」

第3話
「貴方の隣のブラックホール・デリバティブ賭博開帳編」

注意

投資・投機・賭博は大人のための娯楽です。
全て自己責任で楽しみましょう。

 

TOPへ   何でも雑記帳入り口へ   HOMEへ