高級双眼鏡の実力を探る・その2
ニコン18X70IF・WP・WF 対 ペンタックス20X60PCFV
価格差2倍の間にある溝は?
前回は40mmクラスの双眼鏡を比較したのですが、今回は更に大口径の製品について取り上げてみましょう。
口径40mmクラスの双眼鏡は 比較的口径も大きく星空を楽しむにも十分なのですが、更に集光力を求めていくと どんどん大きなレンズが欲しくなってしまいます。
手持ちの双眼鏡を既に持っているとなると、今度は固定して使う双眼鏡でもいいわけです。
そうして登場してくるのが 今回 肴にする口径60mmを超える双眼鏡たちです。
ここでは高級機の代表としてニコン18X70IF・WP・WFを、入門用としてペンタックス20X60PCFVを取り上げてみましょう。
ニコンはもちろん¥6桁の高額商品ですし、ペンタックスも このクラスの双眼鏡としては安いほうですが 実売4万円という製品です。
実際に使ってみて その差を確かめて見ましょう。
大型双眼鏡について
ここで取り上げる60〜70mmの双眼鏡について ちょっと概略を説明しておきましょう。
双眼鏡を使い慣れた方には もう分かりきったことでしょうから 読み飛ばしていただいて結構です。
大型の双眼鏡というと 入り口は50mmを超えたくらいから 末は150mmの双眼望遠鏡までが 含まれてしまいます。
ここで取り上げる対物レンズ口径60〜80mmの双眼鏡は 持ち運びが手軽で
比較的安価なため、多くの愛用者がいらっしゃいます。
とは言え、その巨体ゆえ
天文関連以外には馴染みが薄いでしょう。
ざっと見るとこの分野の双眼鏡をみると
大きく二つに分けられます。
一つはニコンのIFシリーズに代表される完全防水型の双眼鏡と、ペンタックス20X60のような非防水型の製品です。
完全防水型の双眼鏡の多くは
個人用というよりも業務用ユーザーを中心に設計されています。
船舶監視や航空管制にも使われる代物ですから
ヤワな作りではいけません。
実物を持ってみると分かるのですが、がっしりとした作りで「金属の塊」の雰囲気です。
IF方式のフォーカシングや強固な作りは安心感はあるものの
趣味の道具としてはデメリットを抱えています。
個人での用途はほとんど天文用に限られているのも そうした障害が邪魔をしているのでしょう。
一方の非防水型の双眼鏡は 趣味の道具として割り切られています。
過剰な耐久性や防水性能を捨て、使いやすさを高められています。
その多くはほとんどはCF方式で、重さは様々ですが
防水型より軽い傾向があります。
60mm程度の物であれば 1Kg前後ですから、自然観察の分野でも使い道はありそうです。
性能的には 前者に比べて劣るスペックですが 何処まで差があるのかも興味があるところでしょう。
この2台の双眼鏡は 成り立ちから別な物なのですが、興味深い共通点も存在します。
このクラスの双眼鏡でも 倍率と口径を比べてみると さっきとは別な分類が出来てきます。
10X70や11X80に代表される射出瞳径7mmの低倍率双眼鏡と 16X70や20X80といった高い倍率を持つ双眼鏡に分かれてくるでしょう。
今回取り上げる二品は どちらも後者の仲間です。
少し前まで
私自身も「天体用の双眼鏡」と考えると
瞳径の大きさにこだわっていたのですが、必ずしも大口径低倍率が
全ての場面で有効なわけではありません。
低倍率機の利点が生きるのは
淡い星雲や彗星の観察で、惑星や各種星団の観察では倍率が物を言うことが多くなります。
望遠鏡と併用するのであれば、高倍率は其方に任せて
広く明るい視野が欲しいのでしょう。
逆に、双眼鏡だけのお気軽派には
低倍率・広視界は手持ち双眼鏡に任せて、固定する双眼鏡では
より小さな対象を狙いたくなります。
このように手持ちの双眼鏡で星空を楽しまれている方には 興味の尽きない大型双眼鏡。
今回は 実物をじっくりと観察してみましょう。
まずは今回の目玉、ペンタックス20X60PCFV。
ペンタックスの量販中型双眼鏡を担うPCFシリーズの最高倍率双眼鏡で、60mmという大きめのレンズに20倍という組み合わせ。
作りを見ると 典型的なツァイス型の構造で
プリズム筒は他の倍率と共通化されている様子。
対物筒をレンズ径ごとに用意し
倍率をアイピースで設定するのは昔からの手法です。
公表されているスペックは見掛け視野 44度、アイレリーフ
20mm、重さは約1.2Kgとなっています。
重さは防水IF双眼鏡では50mm級程度に匹敵します。
旭光学のセールスマンが「フィールドスコープ代わりに」と薦めるのは、この辺りの自信からでしょう。
同社の新型らしく 指の掛かりやすいピントリングにロック機構をつけたり、スライド式のアイカップにしたりと 使い勝手には よく配慮がされています。
詰めの甘さはありますが、旧態依然のままよりは遥かにマシです。
この価格でスライド式見口を採用したのは大きな前進
しかし
スライドのロックが弱いので裸眼の使用者には不便だろう
これは3代目タンクローから改善されていない大きな欠点
フォーカスロックは天体を覗くときには便利な機構
無くても構わないが、使い慣れるとある方が良くなる
これだけの高倍率でハイアイにするのは大変だったのでしょうか。
接眼レンズは4群5枚と発表されています。
ハイアイポイントを得るのと引き換えでしょうが、見掛視界が44度に制限されているのは
ちょっと気になります。
2.2度という実視界は決して狭くないのですが、出来れば50度あると買うとき自分に言い訳がしやすいのに・・・・
広報資料では「非球面レンズを採用」と記載されています。
反射光を見ると どうやら眼レンズの内面が非球面になっている様子。
光学樹脂で非球面を形成する手法はコンパクトカメラなので もうおなじみでしょう。
同じ会社のタンクローでは
ほとんど非球面を感じないだけに、どのような効果があるのかも楽しみです。
コーティングは「マルチコーティング」と書かれていますが反射は多め。
ニコンと比べると その差はかなりあります。
ペンタックス20X60PCFV(左)と ニコン18X70IF・WP・WF(右)の対物レンズ
明らかに ニコンのほうが数段優秀である
このあたりは標準機と高級機を比べても仕方の無いところでしょうが、プリズム面のコーティングもコントラストへの影響が小さくないだけに もう一段の配慮を望みたいところです。
この辺りは 実戦で どのような違いが出るのでしょう。
20倍にもなる双眼鏡ですから 使用は三脚固定が必須になります。
ビノフォルダーは中心軸前部に1/4Wネジをはめ込む方式が取られています。
プリズム筒を共通化するのですから これ以外の選択肢は考えられない訳ですが、この方式が最善ではないのは別な項で指摘している通りです。
ただ 軽さとCF方式のおかげで 短時間風景を楽しむ程度なら
三脚が無くても柵や壁に寄りかかれば何とかなりそうです。
ニコンIF70mmでは間違っても そんな真似は出来ません。
比較の基準になるのは ニコン18X70IF・WP・WF。
こちらは 前に述べたとおりに「業務用」を前面に押し出した製品です。
生っちょろい「使い勝手」なんていう発想は ハナっから無視されています。
耐久性こそが この手の双眼鏡の命なのです。
見口だって この通り。
別売の丸型見口を買わなければ、眼鏡人間お断りです。
プロの監視員は そりゃあ
眼鏡を掛けてはいなんでしょうけど。
公表スペックは 実視界4度、見掛視界72度、重さは2050gと公表されています。
最大の売りは見掛視界の広さなのですが、隅々までフラットなのは驚くべき事です。
この辺りは さすがニコンが誇る旗艦双眼鏡というべきでしょうか。
残念なことに 接眼レンズ構成は発表されていません。
詳細に観察しても コーティングはプリズム面や接眼レンズ内方まで念が入っています。
ニコン18X70IF・WP・WFの接眼レンズとプリズムのコーティング
ここまで反射が抑えられている双眼鏡は多くない
透過率は全域で90%程度あるのでは
三脚への固定方式も 中心軸を挟み込む形で 実に理想的です。
ニコンの考える理想が良く現れているのですが、個人のホビーユーザーとしては失われている物も少なくないのも現実です。
この重さですから 短時間でも手持ちの使用は不可能ですし、三脚・架台も相応の物が不可欠です。
数千円の安売り品だと まず震えが止まりません。
架台もプラスチック製の安物では
双眼鏡が突然お辞儀をしてしまうでしょう。
この双眼鏡を買う人間は そんなことは覚悟の上でしょうが、この双眼鏡を持って野山を駆け回るのは余り現実的ではなさそうです。
といいつつ最近の大型フィールドスコープは重量2Kgにどんどん近づいています。この手の道具を持って鳥見をするとは体力勝負でしょう。8X56でも負け気味の私は
自分の体力の無さを感じてしまいます。
特定の用途以外は切り捨てた潔さが この双眼鏡の魅力なのでしょうか。
やはり、詳細を見れば見るほど両者の違いは際立ってきます。
本体を見るまでもなく、この2台ではケースからして
これだけ違うんですから。
武骨で機能そのままのハードケースはニコン
デザインされたソフトケースで見栄えは良いペンタックス
ちなみに、右上の小さなソフトケースはキャノン5X17FC用
ううん、実戦では どんな結果になることやら。
といって、次回に続く。
次回は全く性格の異なる この2台を、鳥見(!)と星見に連れ出します。
大型双眼鏡は野外観察用に使えるのでしょうか。
そして、本領である星空ではどれほどの差が現れるのでしょうか。
4倍の価格差と成り立ちの違いは、この2台にどのような違いを生じさせるのでしょう。
請う ご期待!