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入門用双眼鏡の実力を探る・その2
大型高倍率双眼鏡・鳥見で実戦比較編


 前編ではニコン18X70IF・WP・WFと ペンタックス20X60PCFVの2台を室内でチェックしてきました。

 値段はニコンが約10万円、ペンタックスは約4万円と 2倍を超える開きがあります。
 価格差だけでなく 設計の主眼が全く異なるのも分かってきました。

 今回は この2台を実戦の場に連れ出して どれだけ実用に差があるのか確かめて見ましょう。

この記事は「入門用双眼鏡の実力を探る・その2 前編」の続きです。
まずは其方から 目を通していただくと、内容がわかりやすいと思います。

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    フィールドチェック・撮影編

 編を書き終えてからというもの、しばらく天気のすぐれない日が続いてしまいました。
 仕事の忙しさと相まって 夜空のチェックが進みませんから、とりあえず写真撮りをして 2台の概略を比べてみましょう。

 設計からして別なところを目指している両機ですが、視野にはどんな差があるのでしょう。

ここで掲載した写真は どれも双眼鏡を三脚に固定して、目視でピントを調整。
生データは640X480ピクセル、JPEG高画質モードで撮影された物です。
掲載した写真は明るさを同一条件に調整し、380X285ピクセルに縮小しています。
縮小前の写真はこちら
ちょっと重いです。(56Kモデムで2分程度)

 まずは ニコン 18X70IF・WP・WF

 72度もある見かけ視野の威力が如何なく発揮されています。

 これだけ広い視野でありながら、歪みがほとんど見て取れないのも見事というほかありません。
 高倍率でありながら導入が実に容易なのは、この広視野のおかげです。

 視野はニコン的な味付けで、冷色系のすっきりとした視野です。
 コントラストも高く すばらし性能が発揮されています。

次に ペンタックス 20X80 PCFV

 44度という見かけ視野の狭さが印象を損ねています。
 肉眼でも狭さを感じるのですが、写真にしてしまうと 差が際立ってしまいます。

 デジカメ側の絞り条件が異なるので 単純な比較は出来ないのですが、肉眼でもニコンのほうがコントラストが出ているようです。
 視野もペンタックスらしいウェットな印象です。(標識や看板の色に注目)
 が、解像度に問題が無いのは看板の文字を見ていただけると分かるでしょう。

 視野は狭い分だけ ほぼフラットで、非球面の癖はよく分かりません。

 

 参考のために別の日に撮影したツァイス7X42ClassiCの写真も掲載しておきます。
 高倍率の威力が分かっていただけるでしょうか。

 上の2台と異なり 曇りの日に撮影されています。
 この倍率でも 肉眼では信号機のしたの文字は判読が可能ですが、その先の自転車置き場は自転車の有無がわかる程度です。 

いつもこのHPでは双眼鏡を通してデジカメ撮影を行なってサンプルを得ているんですが、完全に眼視の状態を再現しているわけではありません。
いつもは 一台の双眼鏡で20枚程度を撮影して似た条件の物を掲載しているのですが、完全に同一ではない点を御留意ください。

 繰り返しになりますが、写真にすると 実際の印象以上に視野の狭さが気になります。
 実際に使っているときは ここまでは圧迫感はありません。

 ま、視野の狭さが この双眼鏡の最大の欠点であることは疑う余地がありませんし、けっこう 不便を感じているのも確かなのですが。


    フィールドチェック・公園編

 このクラスの双眼鏡というと 前に述べた通り天体観望用に使われることがほとんどです。

 が、今回取り上げるような口径・倍率は一般的なスポッテリングスコープの諸元に近いものでしょう。
 大型化の進む地上用望遠鏡は 本体だけで1.5Kgなんて製品も珍しくありません。
 2Kgを超す18X70IFは厳しいでしょうが、1.2KgのペンタックスPCFVは十分に有望です。
 この手の双眼鏡が鳥見に使えないか 実際に試してみることにしましょう。

 手持ち双眼鏡の領域を越えて 高倍率が欲しくなるのは 干潟や湖沼なのでしょうが、近くに観察スポットがありません。
 やむなく 鴨が姿を消した近所の公園に出かけてみました。


 まずはペンタックス20X60PCFV

 本体が軽いため 安物の三脚でも十分に安定しています。
 肩にこんな道具を担いでいると 中身はともかく 本格派バーダーに見えてしまいそうです。

 公園の入り口は家族連ればかりで 鴨が姿を消した今となっては野良ニワトリがうるさいばかり。
 公園奥の里山まで足を伸ばしてみましょう。
 片道約1.5kmの道のりです。

 はあ、荷物の軽量化には気を使ったのですが、三脚の重さが肩に堪えます。
 首の双眼鏡はタンクローにして 撮影用のデジカメも置いてきたのですが・・・
 日ごろの運動不足が こんなところで露見してしまうとは。
 潮来周辺の利根川河川敷で 82mmプロミナーと中型ニコン双眼鏡を持った熟年バーダーを見かけたのですが、私には真似が出来そうにありません。

 道も半ばまで来たところで 畑の中に動く物がいます。
 タンクローで見るとヒバリのようです。
 早速、20倍で覗いてみましょう。

 視野は確かに狭いのですが タンクローからの持ち替えだと あまり気になりません。
 が、広視界の双眼鏡から持ち変えると 違和感が強いでしょう。

 導入自体は 付近の目印に沿ってけば あまり苦労しません。
 まあスコープの世界から言えば20倍は まだまだ序の口なのでしょう。
 単眼鏡と違って、普段の感覚のまま 目標を探して 視野中央に入れることができるようです。
 この辺りは 双眼鏡が生理的な視野に近い存在である利点でしょうか。

 目標を導入してみると 撮影しながらチェックしたときと同様で、視野はタンクロー辺りと共通の味付けです。
 ニコンのようなカラリ感はありませんが、辺縁までコントラストは問題ありません。
 視野が狭い影響で 視野はほぼフラットです。
 非球面の癖は このシチュエーションでは注意深く覗いても気が付きません。

 20mmもあるアイレリーフの御利益で、眼鏡を掛けていても全視野を覗くことが出来ます。
 そういった意味では快適なのですが、アイポイントはかなり厳密です。
 横方向も接眼鏡からの距離も 美味しいところから少しずれただけで 巨大な単眼鏡になってしまいます。
 アイポイントが厳密なのは 最近のハイアイ接眼鏡に共通なのですが、見かけ視野が狭く 瞳径が小さい分 簡単に全視野がブラックアウトしてしまうようです。

 裸眼で覗いているとあまり気にならないのですが、眼鏡を掛けたまま覗くときは要注意です。
 私の場合はスライド見口を縮めていると 接眼鏡から少し離れて覗くのが良い位置でした。

 使ってみると 確かに20倍の高倍率は 普通の双眼鏡とは別な世界の道具です。
 遠く離れた対象に近寄らないで済むのは どんな場面でも便利です。
 泥の中で餌をついばむアオサギをリアルに実感できるのは この倍率があってこそ。

 フィールド・スコープと違って両眼視できるのも非常に便利です。
 この倍率が必要な距離になると 立体感は強くないのですが、長く覗いていても 疲れにくいのは助かります。
 天体用の双眼望遠鏡で言われることなのですが、望遠鏡ではなく あえて双眼鏡を使う行為は ある意味 非常に贅沢な選択なのです。

 ただ、自分で使ってみて今更ながら再認識したのですが、高倍率の望遠鏡は 手持ち機材を補う存在だということです。
 どんなに優れた望遠鏡でも 低倍率の双眼鏡を手放すことは出来ませんし、使える舞台は限られています。

 このような道具を必要とするのは 見掛け倒しではなく 真に経験を積んだ本格派の方でしょう。
 この手の双眼鏡に憧れたら、知識を磨くのは勿論 鈍らな体も叩き直さねばなりますまい。

 私は・・・・・


 次に ニコン18X70IF・WP・WF

 ペンタックスを担いで1時間以上歩き回っていたので、もうヘロヘロです。

 「贅沢な道具」という意味では ペンタックス以上なのですが、陸に上がった鯨のように場所に馴染んでいません。
 2kgの巨体は安物三脚では落ち着かない上に、担いでみてのバランスも極端に頭でっかちです。
 大型三脚も持ってきたのですが、さらに倍近い荷物を背負う気には なれません。

 とりあえず公園の中だけでも歩き回って見ましょう。
 お昼近くなって気温も上昇、もはや鳥を見に着たとはとても思えません。
 軟弱にも 気分は荷揚げのシェルパの心境です。

 とりあえず 約1.5km、お池を一周して駐車場まで戻ってきました。
 視野を云々する前に 鳥を探す気になれなかったのは ご想像のとおりです。


 結論

 一般的に、この口径・この倍率はフィールド・スコープの領域です。

 その領域に ペンタックス20X60は 双眼鏡の威力を持ち込んだのです。
 細かいことを置いても その点は高く評価しなければならないでしょう。
 フィールドスコープ並みの重さ・手ごろな価格、真にライバルとなる製品はまだ存在しません。
 高倍率の双眼鏡を気軽に使いたいと考えるのであれば、文句無しに ペンタックス20X60を手にするべきです。
 フローライトレンズの大口径スコープに 広視界アイピースをつけたとしても、双眼鏡の世界は味わえないのですから。

 が、この製品には フィールドスコープを駆逐できるほどの威力がないのも また事実です。
 広角アイピースをラインアップするフィールドスコープと見比べてしまうと、見掛視界の狭さが気になりだしてしまいます。
 ある程度の双眼鏡と併用することを考えると、視野の狭い双眼鏡より 視野の広い単眼鏡の方が気持ちよく感じられるかもしれません。
 その意味で、ペンタックス20X60は 双眼鏡を使うという贅沢に浸らせてくれる境地には達していないのです。

 本来であれば、「味わい」を このクラスの双眼鏡に求めるのは酷ですし ツァイスやスワロフスキーの15X60がカバーすべき領域なのでしょうが、国産に競合する商品がなく 素性が良いだけに 多くを求めてしまうのです。

 ニコン18X70IF・WP・WFは こういう目的には 全く適合していません。
 どんなに光学性能が良くても、用途にあった製品でなければ 使いようがない見本のようです。
 シュワルツェネッガーのような人でなければ この双眼鏡を担いで散策するのは 難しいでしょう。
 車を降りてすぐの展望台で使うのなら別ですが・・・

 いずれにしても、この手の道具を使おうとするのであれば、知識と経験を積むのは勿論 強靭な肉体を養っておく必要がありそうです。
 高性能の道具を使うために 観察地のギリギリまで車を乗り付けるのは あまり格好が良いとは思えないので。

 


といって、また次回に続く。

雨天続きで天体観望がノビノビになってしまいました。
次回は 空気が綺麗なところで 星見にチャレンジします。

2台の双眼鏡は星々をどのように映し出すのでしょうか。
注目の火星、金星、そして夏の球状星団。
20倍の真価は発揮されるのでしょうか。

請う ご期待!


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