双眼鏡を固定する
より安定した視野のために
双眼鏡の最大の利点は「気軽に手持で自由自在に使えること」に尽きることは、繰り返し書いてきました。
10倍以下の中型双眼鏡までなら両脇を締めてしっかり保持すれば実用上は十分ですし、肘を柵や車のボンネットに置くことでもだいぶ楽になります。
それでも、双眼鏡を固定したくなることも少なくありません。
十数倍の高倍率双眼鏡や1kgを超える大型双眼鏡を使うときはもちろん、長い時間の観察や大人数で双眼鏡を共用するなら三脚が欲しくなってしまいます。
いざそこで、双眼鏡を三脚に止めようと思うとなかなか一筋縄ではいきません。
双眼鏡を三脚につけるためのアダプターが幾つもあり、一長一短があります。
三脚のほうもカメラ店に行けば安価な品から高級機まで数多くの製品が並べられていますが、写真撮影に適した物はあっても、双眼鏡に適した製品はほとんどありません。
一口に「固定」といっても、双眼鏡の倍率や重さはもちろん見る対象によっても考え方は大きく変わります。
ここでは、一般的な使われ方でないだけに、日ごろ見落とされがちな双眼鏡の固定について考えてみましょう。
双眼鏡フォルダーを考える
多くの中型双眼鏡では何らかの方法で三脚に据え付ける方法が用意されています。
試しにメーカーのカタログを見てみてください。
カタログの隅のほうに「三脚アダプター」なる物が載せられていると思います。
アダプターの形や値段はメーカーごとに異なりますが、大まかには4つのタイプに分類できます。
中型の双眼鏡で最も多い取り付け方式が、中心軸前端に開けられた1/4Wネジを使う方法です。
このような三脚ホルダーを介して三脚に固定します。
ホルダーの形状は各社とも様々ですが、ネジ径は同一ですからどのメーカーの双眼鏡にも流用できます。
この方式は簡便でニコン以外の各社が採用しており、ホルダーを一つ持っておくと便利です。
天体観察用の様々なアクセサリーもこの方式を中心に発売されています。
欠点は中心軸に前からねじ込みで接合するだけですから、強固な固定が得られにくく、安定性は若干劣ります。
特に、固定した後に眼幅調整を行うとネジが緩んでしまうのが気になるところです。
対してニコンのポロ双眼鏡や80mmクラスの大型双眼鏡では、中心軸を上下から挟み込む三脚ホルダーが採用されています。
このように動かない部分で三脚に固定されますから、簡単には緩まず安定した固定が可能です。
ニコン以外の製品でも中心軸が出ている双眼鏡であればこの方式での固定が可能です。
フジノンの大型双眼鏡やビクセンの製品の一部はこの方式が使えます。
この方式の三脚ホルダーも、ニコン以外にミザールなどから発売されており、天文用品店などで入手可能です。
欠点は、使える双眼鏡が限られる点と使えないアクセサリーが出てくることが挙げられます。
今の双眼鏡は、手持での使いやすさを追求した結果、中心軸に大型のピントリングが配されていますから、使える双眼鏡はごく一部です。
また、双眼鏡用のバランスマウントやフォーク架台ではこの方式の双眼鏡が付けられないことがあります。
他には、カメラのように 直接 双眼鏡本体下部に三脚用のネジ穴をあけている製品も見受けられます。
現行の中型双眼鏡では見かけなくなってしまいましたが、小型双眼鏡ではペンタックス「タンクロー」やビクセンのコンパクトポロ双眼鏡に採用されています。
三脚への固定は上の写真のように簡易で安定していますが、「タンクロー」ではネジ穴が奥まっているために専用のアダプターが必要です。
この方法は簡単に安定した固定が得られる反面、中型双眼鏡では鏡筒に強度が求められ本体が重くなってしまいます。
残念ながら、双眼鏡を三脚固定しようなんて人間は少数派ですから、大多数の利用者にコスト負担を求めなければならないこの方式は廃れてきたのでしょう。
小型双眼鏡では、簡単に安定したネジ穴が作れるため、高倍率をラインナップする製品で利用されています。
ここまでの方法では本体のどこかにネジ穴を設けなければなりません。
ダハ型双眼鏡や小型の製品ではこれらの方法で固定できない製品もあります。
メーカーによっては大きな洗濯バサミみたいな道具やマジックテープで双眼鏡本体を挟んで固定するホルダーを発売しています。
これらの方法でどれだけ強固な固定が得られるのか分かりませんが、本体が軽ければ効果があるのでしょう。
三脚を使ってみる
写真店はもちろんホームセンターでも数多くの三脚が並んでいるのを見かけたことがあるでしょう。
安い物なら数千円から入手が可能ですが、セルフタイマー専用のような背の低い三脚は役に立ちません。
逆に、マクロ撮影用に自由なポジションが取れる機種もありますが、双眼鏡には無用の長物です。
双眼鏡で使うことを考えると、もっとも大切なのは三脚の最大高です。
水平方向を見るにしても、楽な姿勢のためには自分の身長程度の高さが必要です。
モデルは身長170cm、三脚は6980円の安物で、エレベーターを目いっぱい伸ばして160cmといったところでしょうか。
中型までの双眼鏡で鳥や風景を覗くなら十分実用に耐えられますし、雲台もこだわる必要はありません。
手持ちに比べて快適な観望を楽しむことができるでしょう。
家族で出かける機会が多い方でしたら、小型三脚を試してみてはいかがですか。
この程度の三脚なら大きさはともかく重さの負担は少なくて済みますし、眺めを共有できるのは楽しいものです。
が、このクラスの三脚では、大型双眼鏡には役不足。
三脚が重さに負けて、揺れが止りません。
また、三脚の伸長が足りないため天頂付近を見上げるのも一苦労です。
もし、50mmを超える双眼鏡や高倍率の双眼鏡の固定が目的であれば、やはり相応の三脚が求められます。
望遠レンズ装着一眼レフや中判カメラに準じた製品が必要でしょう。
持ち運びは大変でも、ある程度重さがあってがっちりとした作りの三脚が良いでしょう。
三脚の最大高も、高ければ高いほど使いやすい物です。目安は自分の身長+20cm程度でしょうか。
上の写真は中型カメラ用の三脚でエレベーターを伸ばさなくても水平方向の観察が可能です。
最大伸長は190cmで、高い高度の観察も楽になります。
私は付属の3ウェイ雲台をそのまま使っていますが、雲台も重さに負けない強度が必要です。
高倍率の双眼鏡を使うのであれば微動雲台が良いでしょうし、気軽に見回すためには自由雲台が好まれます。
予算があればフォークマウントや天体望遠鏡用の経緯台が理想なのですが、双眼鏡の気楽さが損なわれるのが痛いところです。
一脚を使ってみる
三脚の固定方法をいろいろ見てきましたが、楽な観察が可能になる反面、お手軽さが損なわれてしまうのは否定できません。
大型双眼鏡や高倍率双眼鏡を使う目的なら、三脚ではなく、写真用の一脚を使うのも良い方法です。
我が家では18X70で気軽に星空を長めるときは、長めの一脚を使っています。
重い双眼鏡を長時間使えますし、視野の自由度も三脚とは段違い。
セッティングに時間がかからないのも魅力的です。
長さが十分な一脚であれば、三脚でも大変だった天頂付近の観望も快適になります。
夜空を見上げる目的であれば一脚は長ければ長いほど使いやすいのですが、写真用の一脚は身長―10cmでも間に合うため長さのある製品は極少数です。(写真はスリック「プロポッド」180cm+自由雲台)
昼間に使うだけなら、通常の写真用一脚で足りるでしょう。
まとめ
三脚や一脚は観察の幅を広げてくれる道具なのです。
双眼鏡に適した商品は限られていますが、最初は身長程度の安売り三脚でもその便利さが伝わってくるでしょう。
家族皆で出かける機会に、双眼鏡と三脚を持っていってはいかがですか。
旅先で見る星空は、都会と違った色の見えますよ。
お一人で出かけられるなら、小型の一脚と双眼鏡ホルダーだけで十分です。
揺れない視野、疲れにくい姿勢、もっと多くの何かが見えてくるかもしれませんね。