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入門用双眼鏡の実力を探る・その1
その侮りがたい実力を見る
後編


 前編ではミノルタ・ビクセン・ツァイスと3台の40mmクラス双眼鏡を室内でチェックしてきました。

 値段はミノルタは約2万円、ビクセン・アルティマは約3万円、ツァイスが約12万円。
 価格差が非常に大きいだけに作りは違うのですが、メーカーごとに重視している部分が異なるのも分かってきました。

 今回は この3台を実戦の場に連れ出して どれだけ視野に違いが出るのかチェックしてみましょう。

この記事は「入門用双眼鏡の実力を探る・その1 前編」の続きです。
まずは其方から 目を通していただくと、内容がわかりやすいと思います。

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    フィールドチェック・公園編

 このクラスの双眼鏡の用途で真っ先に思いつくのは 野外観察でしょうか。
 連休前の晴天を利用して 鳥を眺めに出かけてみましょう。


 まずは基準となるツァイス

 一目覗いただけで コントラストの高さが伺えます。
 ヒヨドリの薄汚れた胸元がリアルに見えてきます。
 逆光の中でも カワセミの色合いが味わえるのも高級双眼鏡らしいところでしょうか。
 薄暗い木立に隠れた鳥も苦手にしません。
私はスズメとムクドリくらいしか見つけられませんが・・・
 この辺りは作り込みが生きているのでしょう。

 見かけ視野60度で辺縁視野に癖があるのは以前述べたとおりなのですが、普通に使っている分にはほとんど気にならないでしょう。
 厳しい目で見れば 湾曲は結構残っていますしコマも出ている様子なのですが、違和感がないのです。

 10万円を軽く超える双眼鏡のことです。
 普通の双眼鏡といっしょでは これだけロングセラーを続けられないでしょう。
 私にこの性能が必要なのかは極めて疑問なのですが、逆を言えば世界最高級の品がこの値段で手に入るのは双眼鏡くらいでしょう。
 お好きな方なら後悔しないでしょうが、ここまでくると実用の域を外れて 完全に「趣味の品」の領分です。


 次にミノルタ

 スペックからして あまり期待していませんでした。
 安価で広角を売りにしている辺りが 初めて手にしたオリンパス8X40DSPを思い起こさせるのです。
 が、覗いてみると そんなに悪くない様子。

 パッと見た目のコントラストは高くないのですが、視野中心の解像力は十分に出ています。
 やはり、全体的にウエットな色調で視野が重いのは透過率の問題から止むを得ないところでしょう。
 この程度の差は このシチュエーションは実用的に全く問題ありません。

 カモの模様も良く分かり、極端な逆光でなければ茂みの木の葉に隠れたウグイスもしっかりと観察できます。
 逆光が水面に照り返すような場面は フレアが出てカモもかすんでしまいます。
 色合いはペンタックス的な暖色系で 同じカワセミでもツァイスに比べてふんわりと見えます。
 この辺りは好みの問題でしょう。

 使い勝手は見た目どおりの内容です。
 可動部分は 腰のあるちょっと重めの設定です。
 視度調整はクリック式でしっかりしており、ピントリングは大型ですが指の掛かりも問題ありません。
 プリズムハウスが大きめな分 手が小さい人には持ちにくいと感じるかもしれませんが、視野の広さを考えれば譲れないところでしょう。

 この条件下では良く出来ていると思うのですが 売り物の「広視界」だけは厳しいと言わねばなりません。
 視野の半分ほどから像がゆっくりとボケ始め 外側1/3程度から急速に崩れてしまいます。
 晴天下でも最外周部は全く実用性がありません。
 このサイトでは繰り返し主張しているのですが、視野はあるだけ良いのではなく 無い方がマシな広視界も存在するのです。
 この見かけ視野65度は ミノルタの設計者の真意をたずねてみたくなります。

 双眼鏡の辺縁視野の好みは様々ですから、この視野でも広々とした感覚が味わえるので好む人がいるのも事実ですし、視野中央が高性能であれば辺縁の重要度は少ないのも確かです。
 私は「辺縁潔癖症」ではないのですが、崩れが余りに目が付くようだと「見かけ50度」のほうが良いと思ってしまいます。

 広視界を目指しながら 
 接眼レンズにコストが掛けられない影響なのでしょう。
 正式な発表がないので勝手な想像をするしかないのですが、対物側に凹レンズを加えた3群構成といったところでしょうか。
 この視野なら「広角」という表示にこだわらずに、見かけ60度にしておいた方が良かったのでは。
 少なくとも 最外周の数度は無くても良いと感じてしまうのです。

 まとめると 昼間の条件では非常にコストパフォーマンスのよい双眼鏡かと思われます。
 簡単ですが防滴性能もあり、作りも頑丈そうです。
 初めて使う双眼鏡であれば 十分にその性能を実感できるでしょうし、同等の価格の小型双眼鏡と比べても性能差は歴然としています。
 この大きさが許容できれば
(大きさと双眼鏡の使用頻度が反比例することも考えに入れて)、本当の入門機になりうる存在でしょう。(少なくとも昼間は)


 一応、オマケでビクセン・アルティマも使って見ましょう。

 こちらはミノルタよりはカラッとしていて冷色系の味付け。
 ヌケはそれほど良くないのですが、コントラストの見せ方は上手です。
 何も知らずに比べても、ミノルタより見え味は良く感じるはずです。
 価格差を考えると、好みの差の範疇といえないことも無いレベルなんですけど。
 見かけ視野57度と 中型の10倍双眼鏡としては控えめなだけあって、崩れは目に付かず この中では最もフラットな視野になっています。

 ツァイスとの差は大きいのですが、晴天の昼間ではミノルタとアルティマの差はそれほど大きくありません。
 逆光条件など 負荷がかかる条件では もちろんそれなりの差があるのですが、それだけでアルティマを選ぶことにはならない程度かと思われます。
 防水・価格・ブランド力に魅力を感じるのであれば、ミノルタを選ぶ価値はあるハズです。
 ただ、広角の部分だけはいただけませんが。


    フィールドチェック・写真編

 昼間に使ってみた印象は 上で述べた通りなのですが、ちょっと皆様にもその一部を体感していただきましょう。

ここで掲載した写真は どれも双眼鏡を三脚に固定して、目視でピントを調整。
生データは640X480ピクセル、JPEG標準圧縮モードで撮影された物です。
掲載した写真は明るさを同一条件に調整し、380X285ピクセルに縮小しています。

縮小前の写真はこちら
ちょっと重いです。(56Kモデムで2分程度)

まずはツァイス

 ツァイスは倍率は低いのですが、道の奥の木立まではっきりとコントラストが出ています。

 写真でも信号機の下の文字が良く映っていて、遠くの駐輪場までくっきりしているのが分かるでしょう。
 ピンとの深度も深く、使っていると数字以上の倍率を感じる双眼鏡です。

 辺縁部は写真でも像の崩れが分かると思いますが、それほど気にならなく感じられると思います。
 眼視では写真より目に付くのですが、それでも全く不快ではありません。 

 

次に ビクセン・アルティマ

 ツァイスほどのコントラストはありませんが、高い解像度を持っていることが分かります。
 高い倍率もあって、信号やその奥の看板の文字も楽勝で映っています。
 遠くの木々の描写も十分に高性能といっても良いでしょう。

 視野は概ねフラットです。
 軽度の糸巻状湾曲が残っていますが、実用上は最辺縁まで良好に保たれています。
 見かけ視野が控えめなことも 良いほうに働いているようです。

 

最後にミノルタ

 広視界で実に広々とした視野になっています。
 縮小後の写真で見ると ビクセンに比べて 大きく劣るように見えるかもしれませんが、圧縮前の写真で比べていただけるとその差は大きくありません。
 この大きさの双眼鏡では倍率と解像度は比例するので、一概に比較が出来ません。

 パッと見ては広い視野も 辺縁では崩れが目立っていることに注意してください。
 軽度の湾曲・歪曲に加えて コマも出ているようです。
 眼視でも実用域は 見かけ視野55〜60度程度かと思われます。

いつもこのHPでは双眼鏡を通してデジカメ撮影を行なってサンプルを得ているんですが、完全に眼視の状態を再現しているわけではありません。
特に辺縁部はデジカメの画角の問題がありますし、 ピント・手ブレは双眼鏡に三脚を使っていても避けることが出来ません。
いつもは 一台の双眼鏡で20枚程度を撮影して似た条件の物を掲載しているのですが、完全に同一ではない点を御留意ください。
要するに あくまでも
疑似体験でだということです。

 まあ、あくまでも写真は写真であって 目の代用をするものではないのですが、全体的な傾向は分かっていただけたでしょうか。


    フィールドチェック・夜空編

 昼間は健闘が目立ったミノルタ 8X40W・アクティバスタンダードですが、夜の世界ではどうでしょうか。
 昼間は結構使えても夜になるとからっきしな製品が多いのも また悲しい現実です。
 明るいところだけでなく、光学機器には最も厳しい星空観察に連れ出してみましょう。

 このところ晴天が少ないので、夕方の早い時間、雲の切れ間を狙ってみました。
 西の空だけ 星が顔を見せています。
 林に隠れそうなところには木星が 条件は良くないのですがオリオン座周辺も見ることが出来ます。
 シリウスも輝いていますし、とりあえずのチェックは出来そうです。


 まずはツァイス7X42BGA
 昼間はあんまり気にならないんですが、周辺の崩れに目が行ってしまいます。
 しかし、それ以外は星雲探しでも惑星や月のお相手でも 無難にこなします。
 フレア・ゴーストは分からない程度で、中央部の収束はさすが。
 野外観察用の双眼鏡ですが、この分野でも使いやすい道具のようです。
(除外:辺縁潔癖症の方)


 で、メインディッシュのミノルタ 8X40W・アクティバスタンダード
 星を見てみると・・・、あれ ちょっと冴えないなあ。
 M42を見ている分には粗は目立たないのですが、明るい恒星とは相性が悪いようです。
 視野中央でも小さなフレアで星が膨らんでしまいます。
 月になると色も出ませんし、落ち着くんですが。
 昼間でも厳しい周辺部は・・・
 視野の中央から星は肥満度を増し、さらに周辺部に行くにしたがって三日月状に長くなって 最周辺では内方にコマも出てきます。
 崩れ方でいえば 星像がツァイスの倍以上の面積になっているでしょう。

 辺縁は致し方ないにしても、中央部がちょっと甘いのは気になります。
 コーティングの相性と迷光処理が原因のように思いますがどうでしょう。
 ま、この辺りにうるさい人なら このクラスより次に述べるアルティマなど上級機のほうが良さそうです。

 もちろん、うるさいことを言わなければ 気軽に星空を楽しむお相手には全く問題ありません。


 ミノルタがツァイスにどれだけ劣っていても、価格が10倍も違う以上は比べるだけ無意味です。
 が、ビクセン・アルティマとは 1万円の差に過ぎません。
 こちらは上級機と考えられていますが、どれだけの差があるのでしょうか。

 まず、ミノルタが苦手にする恒星。
 縁はしっかりと落ち着き、遥かに高級な見え味です。
 シリウスもしっかり点像に収束し、中央部2/3は十分にフラット。
 入門機に比べ 遥かに星空らしく性能の高さが実感できます。


 アウトドアユースで昼間が中心なら、頑丈で操作系の良いミノルタが優位。
 夜の使用が中心であれば 間違いなくアルティマを選ぶでしょう。


    まとめ:入門用双眼鏡を考える

 「双眼鏡に幾ら払えるか」を考えると、3万円近い額は負担感が大きく感じられます。
 廉価機より標準機が、標準機より高級機が、さらには超高級機や電子制御機が優秀なのはここまで見てきたとおり明らかなのですが、問題は使用者がどの程度の性能を必要とするかにかかっています。
 使用頻度も問題になるでしょうし、性能対価格のコストパフォーマンスも重要でしょう。

 ここで取り上げたミノルタが安いところだと2万円を切る価格で売られている製品です。
 無理なく買える価格で手に入る実用的な双眼鏡でしょう。
 カタログスペックに色気を出さなければ もっと良くなったと思われるのですが、現状でもコストパフォーマンスは文句なし。
 防水性能への配慮があるのも魅力的です。
 キャンプ用や野外観察用に中型双眼鏡を購入されるのであれば、良い選択です。
 小型双眼鏡より遥かに性能が高く、双眼鏡の楽しさが良く分かるはずです。
 この値段であれば 気軽に買っても後悔(ダメージ)は少なくて済むでしょう。

 が、星空を観察するのであれば、ちょっと話は別です。
 ミノルタでも気軽に星空を楽しむには十分なのですが、他の望遠鏡を覗いた経験がある方であれば不満が出るかもしれません。
 防水でなければ 20000円程度でももっと星空適正の高い双眼鏡が売られています。
 アルティマもそうですし、カートン・アドラブリック7X42やミザール・BA8X40あたりが有力候補でしょう。
 こいつ等は防水でもありませんし、使い勝手ではミノルタに大きく水あけられています。
 ブランドバリューに関しては足元にも及びません。
 が、星空を見る目的なら 私はこちらを選ぶでしょう。
 やっぱり星空相手は双眼鏡には厳しい条件なのです。

要するに、このクラスは 全ての要素で高い得点を目指すのは難しいのです。

 ミノルタは野外活動での使いやすさを追求し、手軽な価格でこれから双眼鏡を使う層を捕まえる作戦でしょうし、(実売価格次第ですが)その目論見は利用者にとっても魅力的に映ります。
 一方で、星空が中心になる方でしたら、使い勝手は二の次。
 光学性能を重視した製品の方が良いはずです。

 一つ一つの双眼鏡を見てみると 得手不得手がはっきりしています。
 最後は 好みと使い道を考えて 何を選ぶかにかかっているのではないでしょうか。

 この手の双眼鏡が対象としているユーザーが 其処に気が付くのは困難でしょうが、その意味でも2万円を大きく切っているはミノルタ 8X40W・アクティバスタンダードは入門用の教材として悪くないと思うのです。

 全てにわたって高い性能を求めれば、ニコン・ライカ・ツァイス・スワロフスキーのどこかに大枚のお布施をするしかないのですし、そんな超高額双眼鏡でも 好みが分かれるのです。


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