双眼鏡の性能比較(2)
ポケットタイプ対決!!
激安機の逆襲
性能比較(1)で述べましたように、ケンコーの激安双眼鏡は購入した時からの不良品と判明しました。
きちっと出荷前にチェックしていれば簡単に除外できる品なのに、店頭に並んでいるのは大いに問題です。
双眼鏡の本来の実力を知らない人だと「こんなものだ」と思ってしまう危険性があり、双眼鏡普及の立場から大きなマイナスです。
しかし、双眼鏡も工業製品ですから、一定の割合で生じる不良品をなくすることは不可能です。
今回、店頭で新品への無償交換という適切な処置がとられた以上は、前の比較結果だけでケンコーの双眼鏡を否定するわけにはいきません。
そこで、今回は交換されたケンコーの双眼鏡と、前回同様ニコン「スポーツスターU」とを再び比較してみましょう。
果たして、激安双眼鏡の真の実力はいかに。
選手紹介
比較対象は前回と同じなので、詳細は「双眼鏡の性能比較(1)」を御参照ください。
付属品も前回と同じ。
ケンコーにはレンズキャップが付かずケースも貧弱です。
再び外観チェック
レンズも前回と同じかと思いましたが、間違いがあるといけないので再度チェック。
手始めにニコンから。
対物レンズ・接眼レンズともマルチコートで、やはり反射が少ないです。
次にケンコー。
本当にコーテイングがされているのか、疑いたくなる反射の多さです。
瞳を見ても交換前の品と同様に、周囲が白んで見えて、やはり幻滅です。
交換後の品でもコントラストの高さは期待できそうにありません。
第1ラウンド 団地編
それでも、やはり外見だけで決め付けるわけには行かないので庭から外を覗いてみました。
左がニコンで撮影されたもので、右がケンコーで撮影されたものです。
ケンコーも以前のように全くピントが合わない症状もなく、きちんと撮影できました。
圧縮・縮小された写真だけで見ると、あまり違いがないようにみえますが・・・。
実際、肉眼で見ると壁の汚れの見え方にまだ格段の差が有ります。
また建物の前後にある木々の枝の枝葉の見え方も、ニコンでは葉の一枚一枚まで識別できるのに、ケンコーでは葉が一塊に見えてしまいます。
また、ケンコーでは肉眼で見て、今回もピントの合う範囲の狭さを感じさせられました。
ニコンでは簡単に合焦できるのに対し、ケンコーではつまみの1mmに気を使わなければなりませんでした。
デジタル写真でも壁の細かい模様や、前後の木の葉っぱの見え方に注目してください。
ニコンのほうが明らかに描写力に優れています。
見え味は悪くとも、交換された後のケンコーはどうやら所定の性能を発揮していそうです。
第2ラウンド 市街地編
不良品でないと分かれば、もっと厳しいチェックをしてみましょう。
出先の駐車場から電話局のビルの外壁を撮影しました。
左がニコンで撮影、右はケンコーで撮影しました。
ケンコーの視野の広さが効いているように見えます。
肉眼で見ると、それでもニコンの圧勝。
ケンコーの双眼鏡は長く覗いている気になりません。
壁の模様や窓の縁がニコンのほうが圧倒的にクリアです。
写真でも、原板では窓のふちの見え方に明らかな違いが有ります。
WEBじょうでも注意深く見れば、窓や壁の飾りの縁に注目していただければ違いが分かるでしょう。
どちらも糸巻き状の収差が出ているのが分かるでしょうか。
小型双眼鏡なので多少の収差はやむをえないのですが、ケンコーの収差のほうは強烈で肉眼で見ていても気になるほどです。
また、ケンコーではカタログ上の視野は広いのですが、辺縁での劣化が結構あります。
ピンとのあわせにくさも相変わらずで、かなりの遠景でも非常に使いにくい双眼鏡でした。
対するニコンも収差は見て分かる程度ありますが実用上はあまり気になりません。
むしろ、高倍率なため視野の狭さが使いにくく感じます。
これは普段7X50を使っている影響があるのでしょうが、この手の双眼鏡のベストは8倍ではないかと考えさせられます。
ここまで厳しい目で見ていると、決してこのニコンも完璧な双眼鏡ではないことを感じさせられます。
もっとも、このクラスの双眼鏡ではツァイスでも収差がありますから、大きさと光学性能の妥協点を(予算の面を含めて)何処に求めるのかがメーカーの思想なのでしょう。
第3ラウンド 公園編
収差を分かりやすく写真にするため、レンガ造りに建物を双眼鏡を通して撮影しました。
縮小すると分かりにくいので、フルサイズの写真を別掲しておきます。
画像をクリックしてください(結構重いです)。
両方とも糸巻き状の収差があり、辺縁の視野で像の劣化があります。
両者を比べると、ニコンのほうが格段にそれぞれのレンガが鮮明に見えています。
歪曲収差・像面湾曲ともニコンのほうが優秀です。
肉眼で見ていると、ケンコーの双眼鏡で視野周辺を見ると目が疲れ、写真以上に像面湾曲の存在を意識させられます。
比べると、ニコンの視野の狭さが気になるかもしれませんが、ケンコーの周辺視野は見にくいので、実質的な差は僅かです。
ファイナル ラウンド 星空編
この日は台風一過で夜まで晴天であったため、両者で月の観察と撮影を行いました。
左がニコン、右がケンコーです。
これはもう写真を見ただけで一目瞭然、ニコンが圧倒的にきれいです。
ケンコーの写真ではピントが合っていないのかもしれませんが、色々条件を変えながら20枚以上撮影してきれいに撮れたものがないのは事実です。
対してニコンでは5枚の撮影でデジカメ液晶上でもきれいに見える写真が連発できました。
肉眼で見ても両者の違いは明らか。
ニコンでは中・小型のクレーターまで鮮明に観察できるのに対し、ケンコーではクレーターはおろか月の縁までにじみ、すさまじいまでのフレアで観察に堪えない性能。
ニコンはこの後、天の川観察にも使用したのですが、ケンコーは夜間の使用には全く適していません。
こう書くとニコンが天体観察にも使えるような印象を与えるかもしれませんが、決してそうではありません。
このニコン「スポーツスターU」は月や街灯を見たとき、はっきりと左下にゴーストが出るという天体用には致命的な欠点を有しています。
明るい場所では欠点を感じさせない優れた双眼鏡なのですが、夜間の使用(特に明暗の差が激しい状況下)では非常に使いにくいのです。
天体観測でも、惑星や星座の星星を見て回るだけならゴーストやフレアを自覚することはないのですが、進んで星空を見上げたくなる双眼鏡でないことは確かです。
判定
やはり、「このケンコーの激安双眼鏡は性能的にかなり劣っている」と結論せねばなりません。
はっきり書いてしまえば、「この双眼鏡は全く実用に適さない、製造されたときからのジャンク品(ただし保証書付)」と言い切れそうです。
交換前のようにはっきりした不良品でなくても、差があるとは思えません。
また、ニコンの双眼鏡は強い光に対しゴーストを生じる悪癖がありますが、昼間の使用では悪くない選択と思われます。
というのも、口径20mm程度の双眼鏡は元から天体観察や夜間使用には向いてはおらず、光学性能には多少妥協しても小型軽量を追及していると考えられるからです。
ニコンの双眼鏡は、オリンパス・キャノンの同級品と店外でじっくり比べて選んだ品ですから、昼間の使用においては性能を信頼していましたが、強い光に対しゴーストを生じる悪癖には今回の実験まで気が付きませんでした。
双眼鏡を選ぶ際に、夜間の条件で比較することが出来ないため、このような癖を購入前に知ることが出来ないのは残念です。
他社の製品でも同じような性質がある可能性があり、機会を見てポケットダハ双眼鏡の夜間性能についても調べてみたいと思います。
追記
私のような双眼鏡マニアだけがこのように結論しても、一般の方には役に立たない可能性が否定できません。
双眼鏡に1万円を投入することに抵抗のある方がほとんどだと思われます。
そこで今回、特別に双眼鏡の知識と経験を持たないうちの家内に両方の双眼鏡で月を見てもらいました。
妻の意見:
「安いほうの双眼鏡は見ていて頭が痛くなってきます。月の周りがぼやけてみる気になりません。」
「高いほうの双眼鏡は月はきれいに見えますが、視野に月が二つあるようで見にくいです。」
結論は「3倍の価格差があってもニコンのほうを選ぶ」でした。