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第4章 救いきれない者


「お前が何でそんなこと言う権利があるんだよ!!」

「二人で同じ部屋に泊まって何やってたんだか!? どうせ、アンドレイを殺したのは君なんだろ。」

 ミデェールの部屋の前で二人が言い争っていた。

 軽く言い流しているのはミデェール。

 そして、大声を上げている相手は小柄な少年・・・。

「だ、誰だ!! こいつは!!」

「誰なのこの子は!?」

 駆けつけた誰もが見たことも無い人物を見て驚きを見せる。

 怒鳴りあっていた二人も駆けつけた六人を見てに気付いて急に静かになった。

 それを見てブリギッドが少年の名前を呼んだ。

「デュー・・・」

「デューって言うのかそのガキは・・・」

 ジャムカがデューに向かって呼びかけた。

「ガキだって!? 失礼だな!! オイラはもう18歳だよ!!」

「この子が『十番目の来訪者』!?」

「何言ってんだよ!! 確かにオイラは十番目にここに来たけど、でも、オイラ何もしてないよ!!」

 デューはさっきの興奮が冷めないのか、さっきと同じ声のトーンになっている。

 シグルドはデューを落ち着かせるとブリギッドからデューのことを説明してもらった。

 ブリギッドは事細かに説明してみせる。

 話が終わる頃にはミデェールの姿はすでに消えていた。

「でも、どうして何も言わなかったんだ!? 一言、言ってくれればよかったのに。」

「すまない、ジャムカ・・・」

「別に責めてるわけじゃないんだ。ただ、何で言ってくれなかったのか聞きたくて。」

「それは・・・」

 お茶を濁そうとするブリギッドに代わってデューが答えた。

「アンドレイって人に知られると、オイラだけでなく、ブリギッドさんまで酷(ひど)いことを言われるからって。」

「でも、それなら、俺とかエーディンにだけでも言ってくれれば・・・」

 ジャムカが何か不満そうに言った。

「今思えば、そう思うよ。反省してる。」

 頭を下げるブリギッド。

 −−−でも、本当にそれだけなのか?

 シグルドだけは納得がいっていないかった。それもそのはず、ジャムカと同じ質問を以前していて、その時はブリギッドが怒鳴り散らすことでうやむやにしていたのだから・・・。

「でも、なんで今まで隠れてて、突然ミデェールと言い争ったりしてたんだ?」

 アレクが思い浮かんだ疑問を口にした。

 ブリギッドは言いづらそうにしていたが、デューがさっきの憤りを取り戻したように早口に状況を述べた。

「ミデェールがたまたまブリギッドさんがオイラのことを隠していること知って、脅迫して来たんだよ!!

 黙ってて欲しかったら自分の恋人になれって言うんだ!!

 それで、おいら、それで頭に来ちゃって、ミデェールの部屋に来たんだ!!

 だって、ブリギッドさんは何も悪くないのに・・・

 あんな顔してていけ好かない奴だよ!!」

「ミデェールが・・・? 信じられないわ・・・」

 ミデェールの隠された一面を知ってエーディンが言葉を失った。

「あいつ・・・。」

 ジャムカの右腕の拳(こぶし)に思わず力が入った。だが、ミデェールの部屋には目もくれず、背を向ける。

「怒りなんていうよりも呆れたよ。」

 それだけ言うと自分の部屋に戻っていった。

「あ、待って、ジャムカ。」

慌ててエーディンが後を追った。



 結局、その後、まともに朝食を摂ったのはアーダンとデューだけだった。

 シグルドはスープだけを朝食にして、再び事件の調査を開始した。

「まだ、何か探すんですか? 事件はもう解決したんじゃ無いんですか?」

 イチイバルのあった三階の広間に向かったシグルドを追って来たノイッシュが尋ねた。

 アレクとアーダンも着いて来ている。

「ああ、結局犯人はまだ見付かっていないだろう? それと、イチイバルも・・・」

「やっぱり、犯人は外部の人間じゃないですか? そう考えるのが普通ですよ。」

「そうかもしれないな、ノイッシュ。デューにしたって、ジャムカが射られた時に、ブリギッドと一緒にいたんだしな。普通に考えれば犯人は外部の人間だ。

 でも、私はどうしても納得がいかない。納得がいくまで、こうして調べてみたいんだ。」

「俺達も手伝いますよ。」

 アレクもシグルドに協力しようとイチイバルがあった部屋の中を調べる。

 しかし、結局何の手がかりも見付からない。

「やっぱり、ジャムカが射られた現場を見てみるか。」

「えっ!? 外は雨ですよ!!」

 アレクの言葉を受け入れることなくシグルドは外へ出ていった。


 雨は相変わらず降り注ぎ、長い一日を予感させた。

 ジャムカの襲われた現場である別荘の裏を見渡しながらシグルドは考えにふける。

 あまりに集中していたので、雨に濡れていることもあまり気にならなかった。

 さすがに後輩三人をこの雨の中に連れ出すのは悪い気がして、三人には別荘に残ってもらって、外に出ているのはシグルド一人である。

「この別荘は出入り口が、玄関しかない。

 それに、建物の設計上、現場を見ることの出来る窓はないから、現場を見るには、直接ここに来て見なくてはいけない。

 そこにアリバイトリックのヒントがあるんだろうか?」

 辺りを見回すうちにふと、シグルドが気付く。

「そう言えば、バーベキューの片づけをする時、エーディンが人影を見たって言ってたのはこの辺りじゃないか・・・?」

 シグルドの頭にその時の様子が思い浮かぶ。

「人影の正体はデューだったけど。何か繋がりがあるのか?」

 結局、考えはまとまらず、冷えきった体を抱きしめながら、別荘の中に戻る。

 その途中にふと、窓の位置に気付く。キッチンについている窓である。

 現場からその窓は見ることが出来ない。

「この窓・・・。もしかして、ここを通って別荘に入れるんじゃあないか?」

 試しに現場から走ってその窓から中に入っていく。

 予想通り、30秒ほどで別荘の中に駆け込むことが出来た。

 1階についている窓全てを考えてみたが、もっとも早く別荘内に駆け込むことの出来る窓は最初に気付いた窓だった。

「ジャムカの悲鳴を聞いて、第一発見者のミデェールが駆けつけるまでに1分。この窓を使えば、誰にも気付かれず別荘に入ることが出来る・・・」

 それを思いついたシグルドがジャムカが襲われた時のアリバイを記入したメモ帳に目を通す。

 だが、確認が終わるとシグルドはため息を吐いた。

「だめだ。ほとんどのメンバーが二階か、階段で他の誰かに確認されている。

 この窓を使ったなら、目撃されるのは一階からだ。一階だけで、目撃されたのはアーダン一人。この方法でアリバイを作り出せたのはアーダンだけか・・・。

 かといって、アーダンが犯人とは考えられないな。」

 そう言って、シグルドは再び自らの考えにふけった。

 


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