『エネルギー欠乏症』
既に限界だった。
家を出てから既に3日。
何もかもが足りなくなっていた。
そう言えば、こんなことは久しぶりだった。
中学2年のとき以来だっただろうか?
中学の修学旅行でも、似たような気持ちになったことがあった。
あの時はここまで感じなかったが、今では置かれている状況が違いすぎた。
初日は大丈夫だった。
意味の無い期待が上回っていたから。
でも、2日目の朝、それは決定的になった。
いつも見ていたあの顔、いつも聞いていたあの声が無かった。
一瞬パニックに陥りそうになった。
そのくらい、日常だったからだとも言えたが、
自分の中でその存在が大きくなりすぎていたのだ。
それからの2日間は、もはや地獄と言っても過言では無かった。
気がつくと、あの姿を求めていた。
けれどその姿は、望んでも現れることは無かった。
雄二や小牧たちが、そんな俺を気にして声を掛けてくれたりしたが、
その状態が改善されることは無く、悪化の一途を辿っていった。
「貴明よぅ。昨日もうなされてたぞ」
「…そ、そうか」
「……このみ。このみぃ〜、ってな」
「………」
出来れば、あまり聞かれなくないうめきだ。
しかし、無意識の自分が発しているのだから、もはや防ぎようが無かった。
俺はそんな雑音を受け流し(耳にも入る状態では無かったかもしれなかったが)、
ようやく生まれた町へと戻ることになった。
校門に停まったバスから、よろよろとおぼつかない足取りで降り立った。
雄二が何か言っていたが、耳に入ることは無かった。
降り立って直ぐに、周囲を見回した。もちろん、見慣れたあの姿を捜して…。
しかし期待に反して、その姿を見つけることは出来なかった。
俺は重い足取りのまま、家路へとついた…。
主のいない家に着いた。
見覚えのあるたたずまい。
そして、毎日のように顔を合わせている扉の鍵を開ける。
しかし…。
その扉は、開いたはずなのに依然、堅く閉ざされたままだった。
そこで、今度はもう一度鍵を閉めてみた。
すると…。
ガチャ。
今度は何の抵抗も無く扉が開いた。
…一瞬緊張した。
だって、この3日間まるまる鍵も閉めずに出かけていたことになるからだ。
大したものは無いとは言え、家の中がむちゃくちゃになっている可能性だってある。
ここを出て行くとき、このみに甘えられて、ギリギリになって慌てて出て行った記憶があるからだ。
盗られてマズイものはそう無かったが、居直り強盗とかってパターンもあると聞くから、
俺はかなり身構えて中へと侵入した。
玄関を見た。
上がったところの廊下を見ても、土足で上がったような、足跡などの形跡は無かった。
しかし、玄関にある靴に、あまり見覚えの無いものがあった。
俺の靴としては、あまりに小さいそれ。
男のそれとしては小さすぎる。
ましてや、不法侵入者なら靴など脱いではいかないだろう。
…となれば、身に覚えのあるのは、1人しか居なかった。
俺は急いで、居間の扉を開いた。
…しかしそこには、ただ澱んだ空気が立ち込めているだけだった。
ここじゃない。
となると、可能性のあるのは1つしか無かった。
階段を上る。
…自分の部屋の前に立った。
扉を開けた。
ぎぃっ、と音を立てた。
殺風景な部屋。
その端に置かれているベッド。
そこに敷かれている布団が、こんもりと盛り上がっていた。
凄く不自然に。
俺は、ベッドに飛び込みたい気持ちを抑え、静かに呼びかけた。
「…このみ?」
俺のベッドの中にいるであろう人物に対して、そう呼んだ。
しかし返事は無かった…。
「このみ、帰ってきたぞ」
湧き上がる衝動を寸前で堪え、俺はもう一度呼びかけた。
すると…、
もぞもぞ。
こんもりと盛り上がっていた布団が動いた。
そして…、
「えへ〜。タカくんの声が聴こえる〜」
愛するヒトの声が聴こえた。
しかし、どこか不自然だ。
「やっぱりここにいたんだ〜」
様子がおかしい。
布団はもぞもぞと動いているだけで、一向に中にいる人が出てくる気配は無かった。
俺はここにいるぞ! と叫びたくなったが、もう少し我慢して様子を探ることにした。
「えへ〜。やっとタカくんのところまで来れたよ〜」
来れた?
戻ってきたのはこっちだ。
やはり様子がおかしかった。
俺は、次の言葉を待った。すると…、
「やっと、タカくんと同じ、あの世に来れたよ〜」
…。
「待て、このみ」
「タカく〜ん。やっと追いついたぁ」
「こ・の・みっ」
いつまでもおかしい彼女に耐えかね、俺は布団を引っ剥がして抱きしめた。
「あっ…。えっ?! タカくん?」
抱きしめられるなんて思ってなかったのか、彼女は驚いた表情で固まっていた。
「あの世なんかじゃないって。現実だよ、現実。な、このみ」
「あ…。タカくん。生きてたんだ…」
「当たり前だ。修学旅行で死んでたまるかって」
「う…うん」
じわっ。
そう言うと、堪えていたものが溢れ出したようだった。
「うわ〜んっ。タカくん、帰ってこないから死んじゃったって思って…」
「馬鹿っ。予定通りに帰ってきただろ?」
「う…うん。でも、1日いっしょにいなかったら、もう会えないのかって思って。
ずっとここで待ってたの」
「…ゴメンな」
俺が頭を撫でてやると、涙目を拭いて嬉しそうにはにかんでいた。
彼女も、俺がいない日常に耐え切れなかったのかもしれなかった。
俺自身も、こうやって抱きしめて初めて、落ち着けるものがあった。
その存在を「暖かい」という感覚で認識することができたんだ。
「もう大丈夫だ。どこにも行かないからな」
「あ…うんっ」
ちゅっ。
「えへへ…」
抱きしめたまま、柔らかな頬にキスしてやると、彼女は嬉しそうに顔を押し付けた。
「タカくん。これからはずっと一緒だよ?」
「ああ。約束するなっ」
「うんっ。…えへ〜」
こうやって、抱きしめてキスしてやって、改めて思った。
可愛いって。
ずっと一緒にいたいって。
俺は、より強く彼女を抱きしめた。
「タカくん…」
そして、唇により深いキスをした。
そして、一緒に寝た。
今までみたいな単なる添い寝ではなくて、男女が一緒に寝るように。
自身のの粘膜で互いの粘膜を感じた。
「おっ。おはよう、雄二」
「おはよ〜、ユウくん」
「おはよ…って、お前ら朝からこれか?」
呆れ声で訊く親友だったが、何でそんな風に訊くのかがわからなかった。
「えっ? 普通じゃないかな? ね、タカくん」」
「普通…だと思うぞ」
「そ…そっか…。お前らにとっちゃ、それは普通ってわけね…」
「「?」」
思わず、顔を見合わせる俺と彼女。
多少その距離は近かったが、別に自然なことだったから不思議には思わなかった。
「まあ、前からぴったり密着してた気はするけどな」
そこまで言われて、初めて俺は彼女の態勢を見た。
俺の腰のあたりに両腕で抱きついたままだった。
そして俺も、そんな彼女の肩を抱くようにしていた。
よくもまあ、こんな態勢で歩いていたものだ、と変な感心をしてしまった。
「えっと…。朝からじゃないよね? 昨日からずっとだよね〜」
「ああ…。そう言えばそうだったな」
「…あのねえ」
雄二には呆れられてしまったが、当の俺たちは幸せ一杯だった。
「えへー。タカくんっ。タカくんエネルギー満タンであります」
「俺も、このみエネルギーが満タンになったよ」
「はいはい。…学校、遅れるぞ」
そう言って抱きつく、彼女の感触をいとおしく思いながら、学校を目指した。
…もちろん、歩きにくいこともあって、大幅に遅刻してしまったが。
「俺…巻き添え?」
あ、雄二、ごめん。
<終わり>
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いかがでしたでしょうか?
正直「内容無さ過ぎ!!」ですよね(汗) でも、クリア後のこいつ等なんて、こんな感じでアホアホカップルとしていちゃついていることしか想像できないんですがw
このみシナリオは、シナリオの質や流れ自体は良くないものの、萌えるツボをしっかり押さえていたのが良かったですw このみが可愛すぎで…。
今度出る後日談のやつも楽しみです…が、こんな感じの話にしかならないんじゃないでしょうかw
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郁乃SSも頑張って描いていますので、お待ちください。
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