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CLANNAD小説(SS)の部屋
CLANNADの小説を掲載していきます。

62    『風の居場所(後編)』(CLANNAD 風子プロローグ)
2004.09.05 Sun. 
 『風の居場所(後編)』
 
 
 その日は、この時期には珍しい、抜けるような青空だった。
 
 
 担任するクラスを持たなかった私は、職員室にいた。
 始業式の場以外では、生徒たちの前に顔を出す機会も無く、
 ただ、時が過ぎるを待っていた。
 「伊吹先生、どうしましたかな」
 「あ、幸村先生」
 私の恩師、幸村先生だった。
 「私の、妹が今日入学するんです」
 職場にプライベートなことを持ち込むことはどうかと思ったけど、
 「ほほう…。そうでしたな」
 幸村先生は知っていた。
 それもそのはず、妹のこの学校への入学の時に、協力してもらっていたから。
 「名前は…何と言ったかな」
 「風子です」
 「…ふむ」
 それだけ言うと、先生は職員室を出て行った。
 おそらくは、生徒指導室に戻るのだろう。
 この学校の生徒にはおおよそ不要と思われる部屋へ。
 
 ――おねぇちゃんに約束をしました。
 ――たくさんお友達を作る、と。
 ――今日からやらないと、ウソをつくことになります。
 ――見ていてください。
 ――たくさん、たくさんお友達を作って、おねぇちゃんを喜ばせます。
 
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 入学式が終わって、教室に入りました。
 入学式は、退屈なだけでした。
 あの中ではお友達は作れません。
 だから、教室に戻ってからが頑張りどころです。
 中に入ると、知らない人ばかりでした。
 みんな、同じような顔をしていました。
 自分の名前が貼ってある机を捜して、席につきました。
 先生が来るまで、何か話している人もいました。
 もうお友達になったんでしょうか。
 信じられません。ショックですっ。
 
 先生の話が終わって、今日は帰って良い事になりました。
 でも風子は、まだ誰にも声すらかけていません。
 このままでは、おねぇちゃんにウソをついてしまうことになります。
 でも、いったい誰にどう声をかけたらいいんでしょうか。
 風子にはよくわかりません。
 
 迷っている間に、教室からはどんどん人がいなくなってきました。
 残るは…マジメそうな女の人がひとりだけでした。
 その人ももうカバンを持って、帰るところでした。
 おねぇちゃん。
 風子に勇気をくださいっ。
 
 「…あの」
 「えっ? 私に何か用ですか?」
 「私は伊吹風子と言います」
 「はい」
 「風子と、お友達になってくださいっ」
 おねぇちゃん。風子は頑張りましたっ。
 「…あの」
 風子は目をつむっていましたので、その人の顔がよくわかりませんでした。
 で、目を開けてみると、その人はぽかんとしていました。
 けど、ようやく話してくれました。
 「…伊吹、風子さんと言いましたか」
 「はい」
 「私の名前は知ってます?」
 「わかりません」
 そう答えると、その人は呆れたような顔をしていました。
 「三井って言います」
 「三井さん、ですか」
 「そう」
 「三井さん、風子とお友達になってくださいっ」
 もう一度言い直しました。
 でも、その人…三井さんはやっぱり呆れた顔のままでした。
 「あの…良いですか」
 「はい」
 何か三井さんは風子に言いたいことがあるようでした。
 「あの…伊吹さん」
 「はい」
 「私は、残念ながら友達にはなれません」
 
 …風子には、三井さんが何を言ったのかがよくわかりませんでした。
 「…その、どういうことでしょうか?」
 「お友達にはなれない、と言ったんです」
 …ショックでした。
 風子は、生まれてから一番の勇気を出して、お友達になって欲しいと言ったんです。
 なのに…拒否されてしまいました。
 おねぇちゃん。
 やっぱり風子には、お友達を作るなんてことはムリでした。
 風子は、取り返しのつかないようなウソをついてしまいました。
 おねぇちゃんに会わす顔がありません。
 
 「…伊吹さん? 伊吹さん?」
 はっ、と気づくと、風子の顔をのぞき込むようにしていた、三井さんと目が合いました。
 「すみません。言い方が悪かったです」
 少し、すまなさそうな顔をしてそう言っていました。
 「友達になれないと言ったのは、今すぐには、と言うことです」
 「どういうことでしょうか?」
 三井さんは、風子とお友達にはなれない、と言いました。
 でも、今すぐには、とは、どういうことでしょうか。
 「私たちは、幼馴染でも何でもありませんよね?」
 「はい」
 風子には、幼なじみの人はいません。
 いるのはおねぇちゃんだけです。
 「私たちは、今日はじめて逢ったはずです」
 「はい」
 風子は、三井さんと言う人が記憶の中にはいません。
 「だから、いきなり友達にはなれません」
 「…どうしてでしょうか?」
 何でいきなり友達にはなれないのでしょうか。
 「伊吹さんは、私のことをどのくらい知ってますか?」
 「全くわかりません」
 「でしょう? 私も、伊吹さんのことは全くわかりません」
 何もわからなければ、何でお友達にはなれないのでしょうか。
 「もしかしたら、私は伊吹さんのことをいじめるような人かもしれませんよ」
 「…最悪です」
 …三井さん、風子をいじめるんでしょうか。
 「もしかしたら、伊吹さんも私の知らないような、嫌な人かもしれません」
 「それも最悪です」
 「でも、お互い良いところもあるでしょう」
 「はい」
 「ですから、今日から少しずつ、お互いのことを知っていけば良いと思うんです」
 「…いきなりお友達はムリでも、少しずつお友達になっていく、ということですか」
 ようやく、三井さんの言いたいことがわかってきました。
 「そういうことです」
 三井さんは良い人でした。
 「今日はこのくらいにして、また明日から色々お話しましょうか」
 「はいっ」
 
 風子は、三井さんと一緒に話しながら校門まで来ました。
 「伊吹さん、友達を作りたいんですか」
 「はいっ」
 「なら、明日から頑張って下さい」
 「…断られないでしょうか」
 「私より、すんなり友達になってくれる人もいるかもしれませんよ」
 「はいっ。頑張ってみます」
 
 「伊吹さんは左ですか?」
 「はい」
 「私は右に行くので、ここでお別れですね」
 「はい」
 三井さんと、お話できるのかここまででした。
 「三井さん。また明日です」
 「また明日、学校で会いましょうね」
 「さようならです」
 「はい、さようなら」
 そう言って、お別れしました。
 
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 私は、帰路についていた。
 その足取りは、何時になく軽かったことだろう。
 帰りにはスーパーに寄って、夕飯の材料を買ってこよう。
 妹が好きなものの中でも、何が良いだろう?
 
 あれだけ、ハッキリと決意してくれたから…。
 例え何も良い報告がなくても、笑顔で迎えてあげよう。
 夕飯を楽しく食べよう。
 たまには、一緒にお風呂にでも入ろう。
 
 そんな、あの日以前は当たり前のように考えていたことが、
 今はしてあげたくてしようが無かった。
 
 ――おねぇちゃん。
 ――風子はやりましたっ。
 ――たくさんはムリでしたが、人に声をかけましたっ。
 ――今日はムリでしたが、もうすぐ友達になってくれる人も見つけましたっ。
 ――おねぇちゃんの言う事、風子は守れそうです。
 ――ウソつかずにすんだことが、一番うれしいです。
 ――早くおねぇちゃんに伝えたいですっ。
 ――風子が頑張ったことを。
 
 スーパーで買い物をして帰ってきた私は、玄関にあるはずの靴が無いことに気づいた。
 …まだ帰っていない?
 入学式とはいえ、生徒たちは教師よりもずいぶんと早く下校しているはずだった。
 …寄り道している?
 それも、今までの妹から考えるとあり得ないことだった。
 …友達と話している?
 それも、残念ながら考えにくいことだった。
 
 そう言えば、帰りに聞いたような気がした。
 けたたましく鳴る音。
 嫌な音。
 最悪な想像をした自分が嫌だった。
 でも…それは…、
 
 ―トゥルルルル…
 
 想像では終わらなかったのだった…。
 
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 ――気が付くと、風子はベッドに寝かされていました。
 ――状況がよくわかりません。
 ――天井は、どこの天井かわからない、白い天井でした。
 ――からだが動きませんでした。
 「…ふぅちゃん」
 ――おねぇちゃんの声が聞こえます。
 ――おねぇちゃん。
 ――風子はここにいます。
 ――風子の声、聞こえますか。
 「ふぅちゃんっ、ふぅちゃんっ!!」
 ――見ると、おねぇちゃんの顔は、今までで見た事のないものでした。
 ――すごく、悲しそうな顔をしていました。
 ――ただ、どんなに頑張っても、風子の声はおねぇちゃんには届きませんでした。
 「…ふぅちゃん……」
 
 事故だなんて信じられなかった。
 だって、妹はそこで眠っているようにしか見えなかったから。
 外傷は無かった。
 だから、妹は病院のベッドで眠るように横たわっていた。
 ただ…どんなに名前を呼んでみても、目覚めることは無かった。
 私は、ベッドの脇に崩れ落ちるようにして座り込んでしまった。
 もう、家に用意してきたご馳走のことなんか忘れてしまっていた…。
 
 医師の説明によると、妹は、
 頭を強く打っていること、
 意識が戻るかどうかはわからないこと、
 すぐにでも容態が急変するようなことはないこと、
 と言うことだった。
 それだけ聴くと、私は家へと戻ることにした。
 誰も待つ人がいない家へと。
 あの子を、笑顔で迎えてあげるはずだった玄関を通って。
 
 
 数日が経った。
 学校には「看病のため休む」とだけ電話して休んでいた。
 無断欠勤に近い。
 そうやって、家と病院とを往復する日々が始まっていた。
 妹の容態は安定してきていた。
 と言っても、意識が戻る見込みが出てきたわけではなく、
 急変する可能性が低くなったに過ぎないのだけど。
 
 
 また数日が経った。
 私は、学校を辞めることにした。
 妹の看病に専念したかったから、学校を離れる決意をした。
 できるだけ、妹といられる時間を作りたかった。
 面会時間だけは一緒にいてあげたかったから。
 そうしないと、あの子は寂しい気持ちのままだと思ったから。
 
 「お世話になりました」
 「ありがとうございました」
 良くして貰った先生方にあいさつをして回った。
 皆、妹の事情を知っているためか無理に引き留めることはなかった。
 一通りあいさつをし終わり、最後に生徒指導室へと向かった。
 「失礼します」
 そこには…私の恩師、幸村先生がいた。
 「…伊吹先生かの」
 「はい」
 言葉には表わせないくらいによくしてもらった先生。
 そんな先生に対して、学校を辞めるという報告をするのは少し辛かった。
 「…辞めてしまうのはちと惜しいがの」
 「すみません…」
 申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 私だけでなく、妹のことまで気にかけてもらったのに…。
 でも先生は、これだけ言って送り出してくれた。
 「…ふむ。まあ妹さんが良くなったら、いつでも戻ってきたらいい」
 と。
 この人は、私の恩師でありつづけるのだと思った。
 「ありがとうございました」
 そう言って私は、様々な想いを残した学校を後にした。
 
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 春はいつしか装いを替え、夏を迎えていた。
 そう。
 あの日からちょうど1年が経った。
 妹の、自分が知らない一面を知ったあの日から…。
 
 教師を辞めて収入は無くなっていた。
 自分自身の生活費はともかく、妹の入院費は「どうにかなる」という額ではなかった。
 ただ、通学途上での事故だったこともあって、保険金や学校側からの見舞金などがあったから、
 何とかやりくりは出来ていた。
 親戚のおばさんたちも協力してくれた。
 
 ただ相変わらずなのは、妹の容態だった。
 
 あの日が近づくにつれ思うことがあった。
 あの日、妹を海に連れてこなければ、こんなことにはならなかったのではないか?
 平穏な日常が送れていたのではないだろうか?
 そんなことを、妹の寝顔を見るたびに思った。
 
 「いらっしゃいませ〜」
 ほぼ毎週訪れるパン屋。あの子が好きだった古河パンだ。
 「公子さんですかっ」
 「はいっ」
 そこの若奥さん、早苗さんが笑顔で迎えてくれる。
 「あ、伊吹先生。いらっしゃいです」
 「渚ちゃん、おはようございますっ」
 かつての教え子、古河渚ちゃんも迎えてくれる。
 どちらも、凄く良い人だった。
 そんな良い人が焼いたパンだったから、妹も好きなのかもしれなかった。
 
 私は休みの日になると、ここでパンを買っていた。
 妹との昼食の定番だったから。
 そんな在りし日の日常を続けていたかったから。
 妹が目覚めるまではずっと。
 変わらなかった日常を続けていたかった。
 
 「…妹さん、変わらないですか」
 渚ちゃんが控え目にそう尋ねて来てくれた。
 「ええ…」
 良くもならなければ、悪くもならない。
 そんな妹の容態に関しては、もう生返事でしか答えられなくなっていた。
 「…そうですか……」
 その度に、かつての教え子は自分のことのように考えてしまっていた。
 「妹さん、名前を何とおっしゃいましたか?」
 僅かに気まずい空気を察してか、早苗さんがそう尋ねてきていた。
 「…風子です」
 「風子ちゃんですか。珍しい名前ですねっ」
 明るい表情でそう言ってくれていた。
 「そうですねっ」
 私も釣られて、明るく返答していた。
 「きっと…きっとよくなりますっ」
 渚ちゃんも、力強くそう言ってくれた。
 「はいっ」
 「わたし、風子ちゃんと学校で勉強できる日を待ってますからっ」
 「よろしくお願いしますっ」
 学校で、教師と生徒の関係だった頃によくやっていた、
 両手でグーをして頑張るポーズを作って、そう言い合った。
 
 ここの母娘を自分たちの問題に巻き込んだようで悪い気はしたけど、
 今は少しだけ力を分けてもらうことにした。
 
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 妹が事故に遭ってから、1年以上が経過した。
 いつものように、古河パンにパンを買いに行った。
 「いらっしゃいませっ。あ、公子さんですねっ」
 「はいっ」
 いつもながら、太陽のような笑顔で迎えてくれる早苗さん。
 でも、その側にいる私の教え子は、しばらく顔を見せてはいなかった。
 「渚ちゃんは…最近どうしたんでしょうか?」
 そんな質問に対して早苗さんは、
 「ちょっと、体調を崩してて…」
 と、言葉を濁すように言った。
 「学校はお休みしているんですか?」
 「実は…そうなんです」
 それから、早苗さんに渚ちゃんの詳しい体調を聞いた。
 体調を崩すことは、前からよくあったことだった。
 ただ、微熱が続く状態になると、長いときは数ヶ月は回復までにかかるとのことだった。
 「…卒業、できると良いんですけどね」
 「…ええ」
 彼女もまた妹と同じように、辛い道のりを歩いているのだと感じた。
 私たちは、これからどうなるのだろう?
 自分たちの姿を投影しながら。
 
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 妹が事故に遭ってから、2度目の春が来た。
 その容態は…大きく変化することは無かった。
 毎日のように、隣町で眠っている妹を見舞い、
 名目だけの休日になると、妹が大好きだったパンを買いに行く。
 そんな変わらない日常。
 ただ1つ言えるのは『幸せではなかった』こと。
 妹がいない日常が、幸せなはずが無かった。
 いつ目覚めるという保証もないままに待ちつづけること。
 私は、疲れてきていた。
 
 古河パンを訪れた。
 「いらっしゃいませ、公子さん」
 いつものように、笑顔で早苗さんが迎えてくれた。
 「…渚ちゃん、もう1年ですね」
 「はい。そうなってしまいました」
 渚ちゃんは、結局出席日数が足りず、卒業できないことになってしまっていた。
 無理も無かった。
 3年に上がってからは、大半を休んでいたからだった。
 「新学期からは登校できるんですか?」
 「ええ。大丈夫です」
 春になり、ようやく体調が戻ってきた渚ちゃんだったが、学校には行けるみたいだった。
 卒業できなくなったことがわかったとき、渚ちゃんはショックを受けていたみたいだったけど、
 体調が上向いてきたと同時に、少しずつ元気を取り戻していたみたいだった。
 「渚ちゃんによろしく伝えておいてください」
 「はいっ」
 そう言って、私は古河パンを後にした。
 
 妹は、4月を迎えてもスタートラインにすら立つことはできない。
 止まったままの歯車は、再び動き出すことはあるのだろうか?
 そんな、してはいけない思いすら、今は打ち消すことができなかった。
 
 妹を見舞った後、私は久しぶりに彼の家に行くことにした。
 …妹の事故以降、私は彼と会うことが少なくなっていた。
 私だけが、寂しい想いを紛らわすことなんて出来なかったから。
 妹だけを、ひとりにはできなかったから。
 だから、外で食事くらいはしても、彼の家に行くことまではしていなかった。
 でもこの日は、自然に脚が、私を彼の家の方向に向かわせていた。
 
 連絡も無しに行ったから、彼は少し驚いた様子だったけど、深く事情も聞かずに家に入れてくれた。
 私は、ベッドの脇に座り込むと、彼に言っても仕方ないようなことを、話し始めていた。
 「いつまで…こんな生活が続くんだろ…」
 思えば、妹が事故に遭ってから、誰にも自分の弱いところを見せてはいなかった。
 「ずっと…。ずっと私も、妹も同じ場所から進めずにいて…」
 自分が不安に感じつづけていることを。
 「変わらないのが、こんなに辛いなんて…」
 だから、言ってしまった。
 「このまま、ずっと変わらなかったら…私…」
 すると、ずっと黙って聴いていてくれたはずの彼が、大きな声を出して言った。
 「そんなこと…考えたらダメだっ!」
 「えっ?」
 突然のことだったから驚いたけど、彼は真剣な眼差しでこっちを見ていた。
 「妹さんは頑張っているんじゃないのか?」
 「あっ…」
 その言葉に、私は絶句した。
 本当に辛いのは、怪我をして眠っている妹のほうなんだ。
 小さな身体で、必死に怪我と戦っている妹のほうなんだ、と。
 そう気付かされた。
 
 しばらくして、彼はこちらに歩み寄ってきた。
 「俺は…ふたりの苦しみのことは全部わからないかもしれない。
 けれど…ずっと公子の側にいて、一緒に歩いていくことならできる」
 そして、私の両肩に自分の手を置いて言った。
 「結婚しよう」
 
 翌日、私は彼と一緒に妹を見舞った。
 彼は、病室のドアの辺りで、私が妹に話し掛けるのを穏やかな笑顔で見守っていた。
 病室を出ると、私は昨日の返事をすることにした。
 結婚についての。
 「私も、祐くんと結婚…したいと思ってる」
 「ありがとう」
 「うん。…でも、ふぅちゃんをひとりには出来ないから…。
 あの子が目覚めるまで待って欲しいの」
 「…わかった」
 これが、現時点での私の答えだった。
 あの子を置いて、私だけが幸せになることは出来なかった。
 あの子だって頑張っているんだから。
 
 
 その後、私は病室で、妹と2人きりになっていた。
 「ふぅちゃん。ふぅちゃん、聞こえる?」
 意識もない妹に聞こえるはずも無かったけど、私は語りかけていた。
 ――はい。何でしょう? おねぇちゃん。
 「昨日、お姉ちゃんと一緒に来た男の人がいたでしょ?」
 ――はい。かなり格好良かったです。
 「あの人、お姉ちゃんの彼氏なの」
 ――そうでしたか。お似合いです。
 「祐介さんって言うの」
 ――ユウスケさんって言うんですか。憶えておきます。
 「でね。お姉ちゃん、その人に『結婚しよう』って言われちゃったの」
 ――そうですか。それはおめでたいです。おめでとうございます。
 「でも、お姉ちゃんが結婚したら、お姉ちゃんだけ幸せになっちゃうよね」
 ――おねぇちゃんが幸せになるんなら、風子は構いません。
 「だから…ふぅちゃんが起きてくれるまで、待ってもらうことにしたの」
 ――…。
 「おねぇちゃんも頑張るから、ふぅちゃんも頑張ろうね」
 そう自分に言い聞かせるように言った。
 
 
 ――おねぇちゃん、結婚おめでとうございます。
 ――相手の人、格好よくてイイ人そうなので良かったです。
 ――風子のことは構わず、幸せになってください。
 ――おめでとう、って伝えたいです。
 ――でも、風子の声はおねぇちゃんには届いていないようです。
 ――どうしたら、風子の声はおねぇちゃんに届くのでしょうか。
 
------------------------------------------------------
 
 ――ある日、何かが起こりました。
 ――知らない人と知らない人の話し声が聞こえた気がしました。
 「見つければいいだけだろ」
 「えっ…?」
 「ほら、いこうぜ」
 
 
 気が付くと、風子は学校にいました。
 よくわかりませんが、チャンスだと思いました。
 おねぇちゃんに、風子が頑張って約束を守ろうとしていることを知らせるために。
 そして、おねぇちゃんに『おめでとう』の気持ちを伝えるために。
 それには、おねぇちゃんがユウスケさんと結婚するときに、風子のたくさんのお友達で祝ってあげることが一番だと思います。
 教室には、ナイフと木の固まりみたいなものがあります。
 これで、風子の大好きなアレを作ります。
 たくさん作って、たくさん風子のお友達の証に手渡します。
 おねぇちゃん、聞こえますか?
 風子は頑張ります。
 だから、おねぇちゃんは幸せになってください――。
 
 <終わり>
 
------------------------------
 
 いかがでしたか?
 2ヶ月遅れで、ようやく風子プロローグ(?)を完成することができました。
 何が書きたかったのかと言うと、風子と三井のやり取りだったりします(^-^; それを書いているときだけは楽しかったです。
 何とか、「電撃G'sマガジン」のオフィシャルなアナザーストーリーよりは先に完成できてホッとしていますが、後半部分は苦しかったです。
 また何か感想などがありましたら、掲示板やメールなどでお寄せください。力になりますので。
 
 次回は、風子後日談(アフターと言うよりはエピローグ)か汐編アナザーストーリーになるかと思いますが、風子後日談は、10月17日の「キャラコミ2」合わせの本になるかもしれません。
 では、次回作でお会いしましょう!

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