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CLANNAD小説(SS)の部屋
CLANNADの小説を掲載していきます。

61    『海路』(CLANNAD トゥルーエンド・エピローグ)
2004.09.13 Mon. 
『海路』
 
 「なあ、渚」
 「何ですか、朋也くん」
 俺は、前々から思っていたことを訊いてみた。
 「結局、俺のことは『朋也くん』のまんまだったな」
 「え? どういうことですか」
 「渚が、俺のことを呼ぶときだよ」
 そう。汐が無事に生まれ、3人での生活が始まった後も、渚は俺のことを
 『朋也くん』という学生時代の呼び名から変えることは無かった。
 「朋也くん、って呼ばれたくないですか」
 「…いや、呼ばれたくないわけじゃあないけどな」
 渚が俺のことを『朋也くん』と呼ぶことには、別に異議は無かった。
 ただ、問題は…。
 「パパっ」
 こいつだった!
 「…汐が、俺のことを『朋也くん』って呼んだらどうしようかと思ってな」
 娘に自分の名前を"くん"付けで呼ばれるようになったらどうしようか?
 それだけが気がかりだったからだ。
 「そうですか? しおちゃんにも『朋也くん』って呼ばれたら、嬉しくないですか?」
 「…嬉しくない」
 ただ、わが娘、汐はちゃんと"パパ"と呼んでくれるようになっていた。
 渚のお腹の中にいるときから、俺のことを"パパ"と呼ばせるように言い聞かせていたし、
 胎教が役立ったと言うことかもしれない。
 「じゃあ、朋也くんは朋也くんのこと『パパ』って呼んでもらいたいんですか?」
 「まあ、そう言うことだ」
 本当は、渚にもそう呼んでもらいたかった。
 そうしたら、俺は余計な心配をせずに済んだのに…。
 「…パパっ。お食事の用意ができましたっ」
 何だかムズ痒い…。
 「…パパっ。お弁当のおかずは何がいいですかっ」
 うーん…。
 「…やっぱり、朋也くんのままがいいです」
 「ああ…」
 もう、お互いが慣れすぎていたみたいだった。
 「出逢った頃をいつでも思い出せます」
 だが渚は、どうやら別の理由だったようだ。
 「わたしが朋也くんの彼女になれたときの気持ちを思い出せます」
 「そうだな…」
 俺たちは、あの頃のまんまだった。
 成長していない、という意味じゃない。
 「俺も、渚と付き合い始めた頃のことを思い出すな」
 「はいっ」
 あの頃の気持ち…。
 不器用だったけど、お互いが好きで好きで仕方なかった時の気持ちという事。
 お互いが、支えあってやっと歩いてゆけた時の頃の気持ちという事。
 あの頃とあまり変わらない。
 けれど、少しずつ強くなっていったふたり。
 「ママっ」
 「しおちゃん。ママのひざの上がいいんですか?」
 「うんっ」
 ちょこんっ。
 そんなふたりが授かった命。
 ここまで育んできた命。
 そんな大切な命は、健やかに育っていた。
 
 
 俺たちは海を目指していた。
 初めての、家族3人での遠出だ。
 もう、渚は汐を生んで以来、寝込むようなことは無くなっていた。
 汐も、渚のように寝込んだり、微熱が続くことは無かった。
 
 
 「朋也くん」
 徐々に民家が少なくなっていく風景を、車窓から眺めているときに呼ばれた。
 
 「これって…新婚旅行ですか?」
 
 …。
 新婚旅行?
 そうだ。
 まだ俺たちが籍を入れてから、旅行らしい旅行はしていなかった。
 
 「そうなるかな」
 俺は、思わず恥ずかしくなって、そんな曖昧な答え方をしてしまっていた。
 「素敵です」
 だが、返ってきた言葉は想像していた類のものではなかった。
 「朋也くんと、しおちゃんとわたしの3人での新婚旅行です」
 「ああ」
 「幸せだからできるんです」
 「そうだな」
 つまりは、そういうことだった。
 籍を入れた当初は、ふたりきりで生活することで精一杯だった。
 少しだけ余裕が出来たと思ったら、汐の命が芽吹き始めていた。
 そしてその命が無事に誕生したら、今度は不器用な子育てが始まった。
 …もっとも、不器用だったのは俺だけだったのかもしれないが。
 そして、汐はすくすくと成長していった。
 驚く間も無いほどに、順調に。
 
 そんな汐も5歳。
 よく、ここまで来たものだと思う。
 3人だったから出来たんだ。
 愛しい妻と、娘がいたからこそ。
 「大好きだ。渚、汐」
 電車の中だというのに、思わず口に出してしまっていた!
 「私も大好きです、朋也くん」
 「パパ、だいすき」
 それに答える愛する妻と娘。
 ああ。
 俺たちは家族なんだな、と。
 そう強く認識してしまっていた。
 
 「朋也くん」
 再度そう呼ばれた。
 「どうした? 渚」
 「どこに向かっているんでしょう?」
 「え?!」
 
 伝えていなかったんだろうか?
 言ったような気がしていたんだが…。
 「言わなかったっけ?」
 「はい。聞いてません」
 渚が俺の言ったことをそう容易く忘れることは無い。
 となると…。
 「アイコンタクトで伝えなかったか?」
 「朋也くんの目はいつも見つめてますけど、わかりませんでした」
 さらりと恥ずかしいことを言ってしまうのは、渚のいい所でもあった!
 「ボディランゲージでも伝わんない?」
 「わかりませんでした」
 …どうやら、
 「すまん。言っていなかったみたいだ…」
 と、正直に告白した。
 「はい。それは良いんですが、どこへ行くんですか?」
 そう渚に聞かれた後、ふと汐と視線が合った。
 「海に行くんだよな、汐」
 「うんっ」
 汐は、満面の笑顔でそう答えた。
 「あっ。しおちゃんには伝えていたんですか? ずるいですっ」
 渚はそう言って少し拗ねていた。
 「お花畑に行くんだよな?」
 「…たのしみ」
 見事に会話が成立している俺と汐を見て、渚は涙目になっていた。
 ただ俺は、汐と行き先についての会話をしたことは無かった。
 汐はなぜか、行き先を知っているようだったが。
 「…俺の、始まりの場所だ」
 自分自身にもよくわからなかった、行き先。
 ただ目指す場所は、こうやって俺が歩いてきた始まりの場所だった。
 「始まりの場所ですか」
 「ああ」
 「楽しみですっ」
 そう言った渚の顔からは、涙が流れる様子は既に無かった。
 
 
 もうすぐ到着する。
 俺が歩き始めた場所に。
 そして、俺の手を引いて歩かせてくれた人の待つ場所に。
 
<終わり>
 
------------------------
 
 さて。
 今回は短いSSを書いてみました。
 CLANNADトゥルーエンドのエンディング前半、って感じです。
 何となく、渚の幸せな様を描きたくて書いてしまいました。あまりひねりはないですけどねw
 
 このSSには、一応続きがあります。いつになるかはわかりませんが、いずれ公開したいと思います。
 
 このくらいのペースで、SSが更新できたらいいなあw また感想があれば、掲示板とかにお願いしますm(_ _)m あるとSS執筆に気合が入りますので。

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