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CLANNAD小説(SS)の部屋
CLANNADの小説を掲載していきます。

58    『永遠の誓い』(CLANNAD・幻想世界、ONE・えいえんの世界SS)
2004.10.09 Sat. 
『永遠の誓い』
 
 ―えいえんはあるよ。
 ―ここにあるよ。
 
 終末の世界。何も生まれない世界。もの悲しい世界。
 そんな世界に、少女はひとりいた。
 
 …きみは誰なの?
 
 ひとりでいた少女が、別の気配を感じて問い掛ける。
 気配…と言うのは正しくないのかもしれない。
 感覚があった。
 自分とは違う感覚が。
 
 ―わたし?
 …うん。
 
 問いかけに答える感触。
 違う世界の風の匂いを感じた。
 
 ―えいえん、って信じる?
 …えいえん?
 
 えいえん…永遠。
 それは終わることの無い様。
 ずっと、ずうっと続く。
 
 だけど、わたしにはそんなこと信じられなかった。
 変わらないものは何も無いと。
 ずっと歩きつづけなければならない存在。
 その場に留まり続けなければならない存在。
 その2つの存在は、常に変わりつづけなければならなかったから。
 
 …信じられないよ。
 ―どうして?
 …だって、叶わなかったから...
 ―叶わなかった?
 …うん。
 
 わたしは、ふたりきりの生活がずっと続くことを願った。
 ふたりきりの旅が終わらないことを願った。
 でも、それらは叶わないままで…。
 
 …誰かが辛い思いをするなら、わたしが...
 
 わたしは、あの人の幸せを願って、別々の道を歩くことにした。
 それが、わたしを再びひとりぼっちにしたとしても。
 
 ―そんな思い、捨ててしまえばいいのに…。
 
 わたしと違う声が発した言葉。
 その意味を知り、返す言葉を失った。
 
 どこからともなく吹いてくる風。
 風の生まれる場所から、風の死ぬ場所への旅をしている。
 この風も、終わりのある旅をしていた。
 だからこそ、永遠なんてものは信じられなかった。
 だから、もう一つの声が発した言葉も、信じられなかった。
 
 ―あなたがえいえんを望めば、いつだってこっちに来れるよ。
 …こっちって?
 ―あなたと、あなたが想う人のえいえんの世界に。
 …...
 ―そうすれば、ずっと、ずぅっといっしょにいられるよ。
 ―えいえんに。
 
 その言葉に、ふとひとつの疑問が浮かんだ。
 
 …きみはどうだったの?
 …えいえんを望んで、手に入れられた?
 
 思うより早く、口に出していた。
 口に出したと言うよりは、むしろ想いが伝わったようだった。
 
 ―わたし?
 …うん。
 
 声のトーンが変わる。
 その音色は、悲しみや寂しさの色調も帯びていた。
 
 ―ダメだったの。
 ―わたしじゃ、ダメだったの。
 …きみじゃ、ダメだったの?
 ―うん。
 
 その声には、諦めの色さえ窺えた。
 
 ―わたしは、こっちの世界にしか存在していないから…。
 ―だから、ダメだったの。
 …こっちの世界?
 
 世界はおそらくふたつあった。
 自分がずっとひとりでいた、もの悲しい世界と、
 あの人と出会った世界と。
 
 ―うん。
 ―わたしは、あなたと違うから…。
 
 わたしと違う。
 わたしのように、ふたつの世界に同時に存在していないと言うことだろう。
 
 ―だから、あなたには幸せになってもらいたいの。
 
 木々がざわ、と騒いだ。
 正確には、空気が揺らいだように感じた。
 今いる空間に、木々があるとは限らなかったから。
 わたしと、わたしの周囲の空気を変えてしまうような一言だった。
 
 ―あなたなら、それができると思うから…。
 
 わたしは、その言葉に答えなかった。
 答えられなかった。
 
 取り戻した記憶。
 わたしの存在について。
 人じゃなくなることと引き換えに、手に入れた真実。
 その真実が、少女の言葉に対する返答を難しくしていた。
 
 …わたしは、人じゃないの。
 
 手に入れた真実を、もう一つの気配に語りかける。
 
 …だからあの人を連れて行けば、あの人も人じゃ無くなるの。
 
 本当にそうなのだろうか。
 わたしには確認する術が無かった。
 だけど、自分の世界に連れて行くと言う事は、もう一つの世界との決別を意味した。
 人として生きる世界との。
 
 …あの人には、あの人が生まれた世界で幸せになってもらいたいから…。
 
 元々、あの人とわたしの生まれた世界は異なっていた。
 だけど、わたしたちは出会ってしまったんだ。
 この世界でも、あの世界でも。
 
 ―それを…その人は望んだ?
 
 望んだ?
 何を。
 あの人が、人の世界で生きることを?
 
 ―あなたを捨てて、元の世界で生きることを望んだ?
 
 わたしを…捨てて?
 そんなこと…望んではいなかった。
 この世界でも、あの世界でも。
 むしろ…。
 
 ―それとも、あなたとえいえんを望んだ?
 …うん。
 
 あの人は、ずっと一緒にいたいと言っていた。
 わたしも、ずっとそれに応えたいと思っていた。
 だけど、あの世界ではそれは叶わなくて…。
 この世界でそれを望めば、あの人は元の世界には戻れなくなる。
 だから、わたしは決別を望んだんだ。
 あの人の意志に反して。
 
 ―なら、きっとできるはずだよ。
 ―ふたりだけの、えいえんの世界に行けるはずだよ。
 ―あなたと、その人の望みが一致するのなら。
 ―ほかの、誰にも邪魔されないのなら…。
 
 風が止んだ。
 周りが静寂に包まれた。
 それはまるで、わたし自身の決断を待っているかのように。
 
 …行けるかな、ふたりで。
 
 見えるはずの無かった分かれ道。
 引くことのできなかったはずのカード。
 
 ―あなたにならできるはずだよ。
 
 その言葉に背を押されるようにして、選ぶことの出来ないはずの選択をした。
 
 …うん。
 …ありがとう。
 ―がんばってね。
 
 その言葉を最後に、わたしはその空間での意識を閉じた。
 
 
 
 「…ね」
 「どうしたの?」
 「…わたしの話を聞いて」
 「うん…聞くよ…」
 
 再び意識を開いたとき、わたしは元の世界にいた。
 傍らには、人形の形をしたもうひとつの命があった。
 あの人の、この世界での姿。
 
 「…この世界での、意識を閉じて」
 「どうして?」
 
 えいえんの世界へと旅立つ方法。
 それは、どちらの世界でも意識を閉じることだった。
 
 「…元の世界に戻るの」
 「元の世界?」
 
 元の世界。
 それはあの人が生まれた世界のこと。
 そこへ戻らなければならなかった。
 
 「…うん」
 「君と離れ離れになるの?」
 「…ううん。違うよ」
 「いっしょに行けるの?」
 「…うん。そのために意識を閉じるの」
 「わかった。言う通りにするよ」
 
 思いがひとつになった。
 わたしは瞼を閉じた。
 側にあった気配も同時に消えた。
 
 
 
 「…パパ」
 既に、降り積もる雪で手足の感覚は無かった。
 寒い、と感じることも不思議と無かった。
 ただあったのは、この腕で抱いているものの温もりだけ。
 「…パパ。おきて、パパ」
 耳元のすぐ側から聞こえてくる声。
 現実か夢か、それすらもはっきりとはしなかった。
 「…ん? 気が付いたか、汐」
 それでも、途切れそうな意識は、自分を呼びかける声によって繋ぎとめられた。
 既に、高熱と寒さで意識を失っているはずの娘の声に、何とか応えた。
 「…パパは、汐とずっとふたりでいたい?」
 「ああ、ずっといたいよ」
 何度もくじけそうになりながらも、ここまで懸命に叶えようとしていた夢、希望。
 もう果たせそうも無い、夢、希望。
 ただ、まだ諦めたくは無かった。
 「…汐も、パパとずっとふたりでいたい」
 「うん…」
 確かめあったお互いの夢、希望。
 ふたりで目指した夢、希望。
 だからこそ、果たしたかった。
 続けたかった。
 ふたりの旅を。
 「…パパ」
 暖かな吐息とともに、娘が耳元で呼ぶ。
 「…どうした? 汐」
 それに俺が応じる。
 「…パパは、汐のことすき?」
 娘からの問い。
 そんなこと、考えずともわかりきった答え。
 「大好きだよ、汐」
 「…汐も、パパのことだいすき」
 笑顔で交し合った「大好き」の言葉。
 確かめ合うことで、お互いの絆をより強くした気がした。
 
 「…パパは、えいえんをしんじる?」
 再び、途切れそうになった意識を娘が呼び起こす。
 「…永遠?」
 「…うん」
 記憶の底の、意識からある言葉を思い出した。
 ―変わらないものは何も無くて―
 今は、いつ、誰が言った言葉だったかも思い出せない。
 けれど、ひどく大切だった言葉。
 「…えいえんをしんじたら、パパとずっとふたりでいられる…」
 その言葉は、娘の言葉を聞いて霧散した。
 「…永遠を信じるのか? 俺と、汐との?」
 どうして、娘がその言葉を言ったのかという思考は、既に麻痺していた。
 ただ今すがりたいのは、ずっとふたりでいられる方法だけだった。
 「…うん」
 「そうか…」
 もう、そうするほか無かった。
 お互いの足では歩くことさえも出来なかったから。
 ならば永遠を信じて、永遠の旅をふたりですればいい。
 「わかった」
 
 「パパ。こっちをむいて」
 娘の問いかけに対し、わずかに動く顔を娘に向けた。
 熱のためか、上気した頬が眼に映った。
 目が合った。
 娘のその瞳は、涙をためて潤んでいた。
 ふたりの距離が近づいた。
 もう隙間さえないほどに。
 「…んっ…」
 口唇が合わさった。
 涙が零れた。
 その涙は、頬を伝い合わせられた口唇へと流れた。
 永遠の旅への誓い。
 そんなキスを交わしながら、俺はこの世界での意識を閉じた。
 
 
 <終わり>
 
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 かなり思い切ったことをしてしまいました(汗)
 当初はこんなことになるはずでは無かったのですが、流れ上こうなってしまいました。
 
 一応、僕としては初の「ONE」と「CLANNAD」のクロスオーバー小説となっていますが、ONEをプレイしていない人でも全然オッケーな内容ですね。CLANNADの幻想世界を語る上で、ONEの「えいえんの世界」を利用させてもらった、と言う感じです。
 
 内容についてはここでは語りません。
 知りたいこと、疑問点などがあれば「掲示板」にカキコしてください。御答えします。
 
 また、感想等ありましたら「SS投票ページ」や「掲示板」にカキコしてやってください。次回作を書く上での力になります。
 
 読んでいただき、ありがとうございました!
 

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