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CLANNAD小説(SS)の部屋
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57    『風の辿り着く場所(CLANNAD 風子後日談)』
2004.10.17 Sun. 
『風の辿り着く場所』
 作:りきお
 
 もう2年以上も眠りつづけている妹。
 そして、もう目覚めることは無い妹。
 そんな妹に対して私たちは、出来るだけ声を掛けている。
 眠ったままの妹が、少しでも幸せな夢を見られますように。
 私が得た幸せを、少しでも感じられますように。
 
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 唐突にウワサが耳に入った。
 それはひどく懐かしいものだった。
 今も眠りつづけている、少女のウワサ。
 ウワサ話の類に付き合うような性格では無かったが、
 懐かしいそのウワサには、聞き耳を立てずにはいられなかった。
 
 ぼんやりとだが、思い出していた。
  不器用だけど、一生懸命で。
  危なっかしいけど、真っ直ぐで。
  儚いけれど、ひたむきで。
 そんな、少女の姿を。
 
 欠落した部分を繋ぎ合わせるように、断片的に思い出していた。
  一緒にいることしか出来なかった。
  側で見守るだけしか出来なかった。
  寂しそうな表情をすると、そっと抱きしめてやることしか出来なかった。
  存在を忘れそうになると、手を繋ぐことしか出来なかった。
 そんな、自分の姿を。
 
 そして、俺の、そいつに対する想いも。
  最初は、危なっかしいことをされて、放っておけなかった。
  目的に対するひたむきな姿に、心が惹かれていった。
  俺に対して向けた無防備な笑顔に、愛おしさを感じた。
  
  …好きだったんだな、たぶん。
  恋愛感情としての「好き」には、未熟すぎる感情かもしれない。
  友達とも違う、より近しい者としての「好き」という感情。
 俺は確かにそんな感情を持っていた。
 ただ、今は伝えられない状態だから、色々な部分を忘れているだけだ。
 
 そんな不確かだけど確かな記憶は、ウワサ話が膨らめば膨らむほど、鮮明になっていくことは間違い無さそうだった。
 
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 結婚式を済ませてから1ヶ月と少し。
 私は夫とともに、妹の見舞いに来ていた。
 あれからも、隣町に借りたアパートから、毎日妹と面会していた。
 口元には、生命維持装置である人工呼吸器が取り付けられていた。
 小さくて可愛い唇が見られないのは、少し残念でもあった。
 「ふぅちゃん。今日はふぅちゃんの好きなヒトデ型のパンを焼いてもらったよ」
 そう語りかけると、古河パンで特注でお願いした、星…じゃなく、ヒトデ型のパンを枕元に置いた。
 祐くん…夫が、ドアにもたれたまま、微笑みながらその光景を見ていた。
 「祐くんも、何かふぅちゃんに言ってあげてくれない?」
 妹の面会に来たときは、いつも夫は見ているだけだった。
 ただ、妹を拒絶していると言うよりは、私たち姉妹だけの空間を、見守っていてくれているように感じた。
 そうは言っても、もう妹にとって夫は他人ではなくなった。
 立派な家族の一員になったから。
 だからそう頼んでいた。
 「…そうだな……」
 もたれていたドアから、よっ、と身を起こし、ベッドに近寄ってきた。
 そして、視線を布団から、顔の方に移そうとした。
 が、その視線は、布団…妹のおなかの辺りだと思うが…から動かないでいた。
 「どうしたの? 祐くん」
 何か気づいたのだろうか? 私もその視線の辺りを観る。
 「…動いてないか?」
 何が? と思ったけど、妹のおなかの辺りに掛かっていると思われる布団を凝視してみる。
 すると…、
 規則正しく動いていた。
 心臓の鼓動の何分の一かのペースで。
 私たちは目を合わせた。
 瞬間、私は、容態の変化が乏しいがゆえに押すことのほとんど無かったナースコールのボタンを押していた。
 
 後で気づいたのだけど、その日は、妹の18回目の誕生日だった―――
 
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 妹は意識を取り戻した。
 2年と少しぶりに。
 人工呼吸器が取り外され、目を薄っすらと開けた妹の唇が、何かの言葉の形に動いていた。
 ―おはようございます―
 そういう風に。
 
 リハビリは奇跡的なくらい順調に進んでいった。
 問いかけに対する反応はできていたし、言葉はすぐに話せるようになった。
 身体を起こして上半身、そして下半身の運動と、医者も驚くほどの順調さで機能は回復していった。
 ただ、ここから妹がわけのわからないことを言ったり、色々と不思議なことを言ったりするようになるんだけれど…。
 
 「ねぇ、ふぅちゃん。聞いてくれる?」
 私は、ある重要なことを妹に伝えようとした。
 それは…私が結婚したこと。
 妹が眠っていた間に決めたこと。
 隠すことではなかったから、早めに伝えておこうと思った。
 「おねぇちゃん、結婚したの」
 でも、そんな告白に対する妹の返答は、全く予想外のものだった。
 「おめでとうございます」
 「えっ?!」
 思わず私は聞き返していた。
 なぜなら、結婚するとかそう言う話は、妹が事故に遭うまでにはしたことが無かったから。
 さらに…。
 「ユウスケさんが、風子のおにいさんになるわけですね。素敵です」
 「祐介さんって?! 祐くんのことも知ってるの?」
 もうわけがわからなかった。
 
 そんなある日。
 妹から私にあるものを見せられた。
 「ふぅちゃん。それ、どうしたの?」
 それは…いわゆるとんがり帽子。
 パーティーなんかで使いそうな、ちょっと子どもっぽいアクセサリ。
 それを妹は、大事そうに取り出して、被って見せた。
 「これは、風子の大切な人からのプレゼントです」
 「大切な人?」
 「はい」
 「ユウスケさんよりは格好はよくありませんが、いい人です」
 病院の中で、素敵な人と出会ったのだろうか?
 でも妹の性格を考えると、そんなことはあるわけなかった。
 
 
 そして、秋が深まる頃、妹は晴れて退院になった。
 
 「おめでとう、ふぅちゃん」
 「ありがとうございますっ」
 私がそうねぎらいの言葉をかけると、満面の笑顔でそう答えてくれた。
 
 
 明日は2年半ぶりに、妹が登校する日。
 高校に通う、2回目の日。
 晩ご飯を食べているときに、妹に不安があるだろうと思って聞いてみた。
 「ふぅちゃん。明日から学校だけど、心配とか無い?」
 でも、そんな私の不安は妹には関係ないようだった」
 「いえ。むしろ楽しみです」
 「どうして?」
 「待ってくれている人がいます」
 2年も登校していない妹に、どうしてそんなことが言えるのだろう?
 またわけがわからなかった。
 もしかすると、妹が眠っている間に学校に通っていた、って思うことはあったけれど、
 毎日のようにベッドで眠っている妹も見ていたから、そうした思いは自分の中で打ち消していた。
 そして…。
 「明日は、おねぇちゃんに重大発表できると思います」
 「重大発表って?」
 「それは内緒です。明日のお楽しみです」
 妹の胸の中には、木彫りの星型のものが抱かれていた。
 またもやわけがわからなかった。
 
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 眠れる美少女(?)のウワサが囁かれ始めて数ヶ月。
 ウワサは日に日に高まっていっていき、最高潮に達していた。
 そして確信した。
 今日がその日だと。
 朝から気持ちが昂ぶって授業に集中できそうにもなかった。
 元々、授業に集中することは無かったが。
 
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 「行ってきます」
 「気をつけてね。絶対、事故なんか遭ったらダメだよ」
 「はい。わかってます」
 ついに登校日が来た。
 昨日はわけがわからないことを言われたけれど、とにかく今日一日を無事に過ごして、そして家に帰ってきてくれたらいい。
 そんな思いを抱いて妹を送り出した。
 とにかく、不安で不安でしようが無かったけど。
 
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 放課後。
 俺は慣れ親しんだ空き教室を訪れていた。
 机やイスが、雑然と放置されている教室。
 その中に、ひどく懐かしい姿があった。
 
 
 「よろしければ、風子とつきあってくれませんか?」
 目の前の少女は、頬を赤らめてそう告白した。
 俺は、その名前を耳にして、欠けていたパズルのピースが埋まった気がした。
 そしてその言葉に対しての、俺の答えは既に決まっていた。
 それを伝えるために、今日ここへ来たのだから…。
 「ああ。もちろん」
 
 
 それだけ言うと、俺は我慢できずに目の前の小さな存在を抱きしめていた!
 「風子っ!」
 だきっ。
 しかし風子は、そんな俺の行動に驚いたようで…。
 「わぁーっ!!」
 パコーンっ。
 「ぐあっっ」
 思いっきり、持っていたヒトデの彫り物で殴られてしまっていた。
 
 
 「すみませんでした。ビックリしてしまったので」
 そういえば、前にも同じような経験をしていた。
 「いや。俺のほうこそすっかり忘れていたんだ」
 驚くと、手に持っているもので殴ることを。
 「次からは大丈夫です。ので、遠慮なく抱きしめてください」
 「ああ」
 少しだけ時が戻った感じだったが、そんな時間も徐々に埋められていくのだろう。
 「風子」
 「はい。何でしょうか? 岡崎さん」
 こうやって、俺が名前を呼ぶと振り向いてくれる。
 「俺たち、恋人同士になったんだな」
 何となく気恥ずかしいような気持ちもあったが、俺は改めて確認してみた。
 「そうです。両想いですからそうなります」
 風子の言った理由が即恋人、とは思わなかったが、どうやら本当にそういう関係になったらしい。
 「これからよろしくなっ」
 俺は笑顔で風子に言った。
 すると風子も、
 「はいっ。こちらこそ、よろしくお願いしますっ」
 笑顔でお願いされた。
 
 その日の帰り。
 俺は風子に家に来るように言われた。
 「改めておねぇちゃんに紹介したいんです」
 どうやら「付き合うことになりました」と、俺を紹介したいらしかった。
 俺も、公子さんには色々と世話になっているので、風子から紹介してもらおうと思った。
 「わかった。じゃあ一緒に行くな」
 
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 「ただいまです」
 どうやら、無事に妹が帰ってきた。
 「おかえり。ふぅちゃん」
 ごちそうの下ごしらえを中断して、私は妹を出迎えた。
 でも、玄関に立っていたのは妹ひとりだけではなかった。
 「こんにちは、公子さん」
 見知った顔。
 何度か、私の気持ちを繋ぎとめてくれた存在。
 「岡崎さん…」
 私は彼の名前を呼んだ。
 そして、妹の口からされるであろう重大発表を待った。
 「風子は、岡崎さんと付き合うことになりました」
 
 長く、意識の無い状態が続いていた。
 登校したのは、入学式の日のたった1日だけ。
 ようやく2度目の登校をしたその日に、誰かと付き合うことになるなんて、冷静に考えるとおかしなことだった。
 だけど私は、その相手を見て不思議と納得していた。
 
 「ふぅちゃん。格好良い彼氏だねっ」
 だから、こんな言葉が自然と口から出ていた。
 すると、妹も笑顔で、
 「はいっ。ユウスケさんほどではありませんが」
 と、何となく失礼なことを言っていた。
 「まぁな」
 傍らにいた妹の彼氏も、やや照れたような表情で納得していた。
 
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 その日、伊吹家に寄ったあと風子と町を歩いていた。
 「…あの、岡崎さん」
 すると風子が、もじもじした様子で俺の名前を呼んだ。
 「ん、どうした?」
 そう言うと、風子は少し恥ずかしそうに言った。
 「…これからは、岡崎さんのことを、朋也さん、と呼んでもよろしいですか」
 「いいけど…今さらどうして?」
 俺としては、かなり長い期間、風子には「岡崎さん」と呼ばれていたから、違和感無く聞こえていたのだが…。
 「…岡崎さんは、風子のこと、ずっと好きでいてくれますか」
 質問が飛んだ。が、これは風子のいつものペースだ。
 「そうだな…」
 どう答えてやろうか。
 ちょっとだけ、イジワルをしてやることにした。
 「当分の間は、好きだな」
 「当分の間だけ、ですか…」
 少しビックリした後、すぐに寂しそうな表情に変わった。
 …風子には、そんな気持ちになって欲しくなかったから、本当のことを言うことにした。
 「風子が、俺のことを嫌いになるまで、当分の間ってことだ」
 そう笑顔で返してやると、またきょとん、とした表情になった後、今度は笑顔になって、
 「風子も、岡崎さんが風子のことを嫌いになるまで、ずっと好きでいますっ」
 ぎゅっ。
 それだけ言って、俺の腕にしがみついた。
 
 「…さっきの質問です」
 えーと。俺の呼び名を変えるって件だったか。
 「…風子が、岡崎さんのことを『岡崎さん』って呼べなくなる日が来るからです」
 ???
 「…だから、朋也さん、です」
 それって…。
 「ずっと…ずっと好きでいてくださいっ。朋也さんっ」
 ぎゅっ。
 腕にある風子の感触が、より強くなった。
 
 長く、長く続く坂道。
 その坂道を一緒に登る相手を、お互い見つけたみたいだ。
 「ああ。風子も、ずっと好きでいてくれよ?」
 「はいっ」
 
 ちょっと危なっかしいふたりだけど、これからはふたりで何でもやっていける、そんな気がした。
 夕陽が照らす落葉の絨毯を渡る木枯らしは、すぐ近くにせまる冬の匂いを運んできていた。
 
 <終わり>
 
 
 【あとがき】
 いかがでしたか?
 本当は、もっと風子と朋也のラブラブっぷりを描きたかったんですが、風子シナリオの補完的なSSになってしまいましたね…。
 もっと内容を詰め込むはずでしたが、時間切れでこうなってしまいました。
 いずれ別バージョンも書きたいと思います。
 
 ラブラブなSSが読みたい方は、SSリクエストページでリクエストしてください。
 風子好きな作者が、喜んで書くと思うので(笑)

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