『岡崎家<第8話・大晦日編>』
渚の誕生日&クリスマスの日以降、俺たちの距離はさらに縮まったように思った。
寝るときは、布団2つ分くらいのスペースに4人で寝るようになった。
俺と杏が両端で、間に風子と汐がいる、という感じだ。
夜中にふと目が覚めたりすると、3人の寝顔が間近にあって驚くこともあった。
(汐の寝顔が近くにあって驚く者はいない)
何か満足そうな表情で、汐を抱きしめたり俺の胸にしがみついたりしている風子。
時折難しい表情になったり、逆ににやけてみたりして怪しい杏。
幸せいっぱいの表情をしている汐。
…俺はどんな表情で寝ているのか、少し恐ろしくも感じるが。
大掃除。
と言っても、狭い家でもあったし、俺と汐ではそれほど散らかさないし、造作も無かった。
「なによ〜っ。やりがいが無いわねえ」
そう残念そうな声をあげたのは杏だ。
そんな期待されても困るのだが…。
「ヒマですので、風子とトランプでもしましょう」
「うん」
娘ども2人は勝手に遊び始めるし…。
「…またかった」
「また負けてしまいました…」
年齢差を考えると、ありえない光景がそこにはあった。
パパ抜き・七並べにおいて、汐は風子をほぼパーフェクトに抑えて勝っていた!
「もう一度挑戦ですっ」
「…ちょうせんっ」
「はいっ」
まあ、風子の勝負弱さは何となくわかったが、汐の勝負強さはよくわからなかった。
なんたって、渚の娘だ。
渚がこんなに連戦連勝を続けるような人間だと、俺と一緒になるなんてことも無かったはずだ。
ただ、同時に俺や、オッサンの血も引いているのだ。
やはり、渚よりも俺に似ているのかもしれないな。
そんなことを考えながら、2人の真剣勝負を眺めていた。
----------------------------
大晦日を迎えた。
血気盛んな(?)俺と杏たっての希望で、テレビ番組は「男祭り」。
「いっけーっ!! 瀧本〜〜〜っ! そのまま締めてしまっちゃって〜〜〜ぇっ!!」
「ぐわぁぁ〜〜っ!!」
杏が試合を見てエキサイトするものだから、近くで見ていた俺が、ネックロックやスリーパーの犠牲になっていた。
風子は…、
「あの人血が出てますっ!大変ですっっ!!怖いですっ!!」
とか言いつつ、汐を抱きしめている。
汐は、
「がんばれっ、がんばれっ」
…と、なぜか俺の方を向いて応援してくれていた。
「…ノゲイラもヒョードルも、どっちが強いかなんて決められないわよね…」
「…ああ、そうだな……」
俺と杏が、今日見た試合の感想を話していたら、傍らでは、2つの寝息が聞こえてきた。
最終的には、風子と汐はお互いの手を握り合って、寄り添うように眠っていたのだった。
その光景は、どう見ても"姉妹"にしか見えなかった。
「寝ちゃったのね」
「ああ…」
「…悪いことしちゃったかな?」
「どうして?」
杏が、バツの悪そうな表情をして言うものだから、俺は思わず聞き返してしまった。
「…だって、今日は汐ちゃんがパパと過ごす、初めての大晦日だったわけでしょ?」
「……」
杏の言葉を聞いて、俺は沈黙してしまった。
あの日以降、汐と俺は同じ時を過ごしていたが、
杏や風子がウチに来て以降は、常に汐の側にいたわけでは無かった。
しかし…。
「くーっ。くーっ」
可愛らしい寝息を立てる汐は、風子と抱き合いながら、実に和やかな表情をして眠っていた。
「…関係ないのかな?」
「…そうだな……」
本当のところはよくわからなかったが、汐は俺と2人だったときも、そして今も、
寂しそうな表情をすることは無かった。
早苗さんから聞いていた以前の汐からすると、十分明るさを取り戻しているようだった。
「…ようやく寝静まってくれたわね……」
杏の目がキラーン、と光った!
そして、自分の真後ろにあった包みを取り出した!
「じゃーん!!」
手に取ったのは、一升瓶だった!
「酒か?!」
「そうよっ。今日くらい飲み明かさないとねっ」
どうやら杏は、日本酒を買ってきたらしかった。
「じゃあ、ビールも出すか?」
滅多に飲むことの無いビールを、冷蔵庫から2本取り出してきた。
「飲もっか? 朋也」
「やるかっ」
「かんぱーいっ」
こうして、2人の年越し酒盛りが始まった。
「あっはっは〜。朋也ったら、もう顔真っ赤ぁ〜〜」
「杏だって目がイってるだろ?」
お互い大して酒に強くないせいか、30分もすれば酔いがかなり回ってきていた。
とは言え、俺は顔の赤さほど酔ってはいなかったが、杏はヤバイくらいに酔っている。
「なぁ〜にぃ〜意地はってんのよぉ〜〜」
初めて杏とは酒を飲んだのだが、どうやらカラミ酒らしい。
「ほぉ〜らぁ〜〜。朋也ももっと飲んでよぉ〜」
ろれつが回ってないせいもあるかもしれなかったのだが、口調が甘ったるい感じになっている。
そうこうしているうちに、杏が俺に擦り寄ってきた。
自分の頬を、俺の肩のあたりですりすりしている。
そうしているのかと思うと、自分のコップに入っていた酒を一気に飲み干していた。
「ぷはぁ〜っ。やっぱりぃ、朋也とやると何でも楽しいわねぇ〜」
「俺も楽しいぞ」
単なる普通の酔っぱらいのカラミ方ではあったが、それを杏がやってるというのは新鮮に映った。
学生時代も、コイツといるときは色々と楽しかったっけ。
色々とケンカもしたけど、それも一種俺たちにはコミュニケーションみたいなものだった。
「ね、朋也ぁ」
今まではもたれ掛かっているだけだったのだが、そのうち杏が俺の腕に抱くようにしていた。
「ん? どーした? 杏」
俺も随分と酒が入っていたから、腕に感じる杏の温もりや柔らかさを心地よく感じるだけだった。
「…あのねぇ。あたし、いますっごく幸せ」
「そうなのか?」
「うんっ」
少し意外だった。
だって、ウチに来るようになって杏は、いつも風子に振り回されているだけに感じていたからだ。
そんな状態が「幸せ」だと言うことが意外だった。
杏の言葉の意味を考えていると、さらに杏は続けて話した。
「だってぇ〜、こんなに朋也の近くにいれるんだもん」
「そっかぁ〜。…ってどういう意味だ?!」
「ドサクサにまぎれて抱きついちゃったぁ〜」
俺の問いは、聞いちゃいねえ〜っ、な状態だった。
しかし、俺の近くにいれるのが何で幸せなのが、さっぱりわからなかった。
「えっへっへ〜。朋也とひとつ屋根のしたぁ〜」
そうした杏の行動は、少しも嫌ではなかった。
むしろ、何かいいな、と思った。
そう思った自分の心の内はよくわからなかったが…。
「ともやぁ〜。ともやぁ〜」
杏は、俺の名前を連呼しながら眠りに落ちていった。
俺もいつしか限界を迎えていた。
俺の腕を抱く力が弱まって、杏は俺のヒザの上に落ち、そこで眠りについた。
俺も、そんな杏に覆い被さるようにして眠っていた。
とっくに時計は、12時の針を通過していた。
実感の無いまま、「岡崎家」は1年目を終え2年目に突入していた。
<第8話終わり→第9話に続く>
-----------------------------
岡崎家の、大晦日の風景について書いてみました。
本当は、元旦くらいの風景と両方を1話に書く予定だったんですが、ボリュームが大きくなってしまったので、大晦日編だけで掲載します。
まあ内容は、杏が酒で乱れて…って感じですね(そこだけかいっ!!)。
杏って、結構内に秘めるタイプだと思うんで、酒でぶっちゃけるんじゃないかなあと思うわけです。これでもまだ、自制しているとは思うんですけどねw
杏「誰が自制してるですって?」
りきお「…後書きに登場されるんですか?」
杏「あんまり勝手なこと書かれるとねえ…」
りきお「ひぃっっっ!!!???」
杏「アンタなんか、陽平と同格で良いわよねぇ〜〜〜」
りきお「ぎゃぁ〜〜〜〜〜〜っっ!!!」
-------------------------
そんなわけで(?)、2005年初のSSでした!
2005年も当サイトをよろしくお願いします!!
感想などは「掲示板」とか「SS投票ページ」にお寄せください!!
では次回は「元旦編ほか」をお届けします!
|