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CLANNAD小説(SS)の部屋
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44    『岡崎家<第11話>・CLANNAD春原兄妹編・後編』
2005.01.29 Sat. 
『岡崎家<第11話>』
 
 「ボクの頭のどこがヘンなんだ?!」
 風子に「アタマがヘンな人」呼ばわりされた男が聞き返してきた。
 「何となくあり得ません」
 「何となくっスかぁ〜?!」
 俺も薄々は感じていたが、どうも違和感を覚える頭だった。
 そこで俺は、杏に同意を求めた
 「確かに違和感があるよなあ? 杏」
 そう訊くと、杏も同じように頷いた。
 「そうよね…。違和感が抜けないわねえ、頭から…」
 2人して頭をじっと見つめた。
 その頭には、黒い髪の毛がびっしり生えていた。
 
 黒い髪の毛が…。
 
 黒い髪…。
 
 黒い…。
 
 黒…。
 
 黒?
 
 「確かにヘンよねえ」
 「…ああ」
 目の前の男は今にも泣き出しそうだ。
 俺と同じくらいの歳だと言うのに。
 みっともないこと限りない。
 
 しかし、黒い髪が引っ掛かった。
 
 しばらく悩んでいると、苦笑いを浮かべた芽衣ちゃんが訊いてきた。
 「あの…。まさかお兄ちゃんのこと、忘れたわけじゃあ無いですよね?」
 図星だった!
 芽衣ちゃんが「お兄ちゃん」と呼ぶ野郎のことを、俺はすっかり失念していた!
 「…風子は、あのアタマがヘンな人のこと、知っているんだろう?」
 俺は思わず、あの男を知っている素振りだった風子に問うていた。
 しかし風子は…。
 「いいえ。全然知らない人です」
 あっさり否定していた!
 「僕も…知らないよ」
 …どうやら振り出しに戻ったらしい…。
 
 「岡崎! 杏! 春原だよっ。高校の時のクラスメイトで…」
 ス、ノ、ハ、ラ……?
 俺は思わず、杏と顔を合わせていた。
 そして、同時にぱっ、とその男の顔を見た。
 
 記憶の番人が、ようやく渋々重い腰を上げた。
 
 「春原か…。悪いっ。髪の毛がキンキンじゃなかったからわからなかった!」
 「陽平…。悪いわねっ。消したい過去だったから思い出せなかったわよ」
 「あんたら、相変わらずですねっ…」
 目の前の男…春原陽平は憔悴しきっていた。
 それを苦笑いを浮かべながら、妹の芽衣ちゃんが眺めていた…。
 「ゴメンな、芽衣ちゃん。芽衣ちゃんは何も悪くないからな」
 「そうそう。あたしたちと陽平っていつもこんな感じだったから」
 「は、はぁ」
 春原兄はもう泣いていた。
 妹の前だけは、格好いい兄でいたかったのだろうか…。
 でもこれで、兄の真実の姿を見れたのだ。
 俺は何故かいい気分になった。
 
 「コイツは風子って言って、渚の恩師の妹さんだ」
 「伊吹風子です。よろしくです」
 「…で、俺のヒザの上にいるのが、我が娘だ」
 「おかざきうしおです。はじめまして」
 「向こうの今は違和感のある髪の色をしている野郎が、春原陽平だ」
 「…違和感は余計ですけどねっ」
 「その隣の娘さんが、全く信じられないことに、その妹である芽衣ちゃんだ」
 「全く信じられないってどういうことっスかねえ?!」
 どうも春原といると、こういうノリになってしまう自分を思い出していた。
 
 「杏のことは…知ってるんだったかな?」
 「あ、はい。渚さんの卒業式のときに、少しだけおしゃべりしたことがあります」
 「どこの娘かと思ったわよ」
 「はいっ。こんな綺麗な人が岡崎さんやお兄ちゃんのお友達だったなんて、ちょっと感激したんです」
 「…あははっ。お友達ねえ」
 「だ、騙されるなっ、芽衣! コイツはウチの学校では"鬼杏"として恐れられた女番…」
 「……ありもしないことを捏造しないでくれる??」
 「ひぃっっ!!」
 見ると、杏が座っている後ろは、図鑑や辞書が入っている本棚だった!
 間一髪、部屋が血の海に化すことは回避されたようだ…。
 
 「春原と…って、高校卒業以来だっけ?」
 家のコタツを囲みながら、思い出話に花を咲かせようとした。
 「違うよっ!! 僕も渚ちゃんの卒業式に参加しただろっ?!」
 …が、思いっきり躓いた!
 「ああ、ああそうだった。確かあのときもお前の髪型に、自分で大笑いしてたよなっ」
 「お前だけだよっ、岡崎!」
 こんなアホな会話をしていると、高校時代に一瞬逆戻りした気がした。
 「…で、何の用だ? 春原」
 感傷に浸っていても仕様が無いので、俺は気になっていたことを訊いた。
 「懐かしかったから…じゃあ理由になりませんかねえ?」
 「ならんな」
 「だって、あたしたち別に望んでなかったもん。ね?」
 「だな…」
 「風子も望んでません」
 「要らない人っスか? 僕」
 「今ごろ気付いたのか?」
 「10年近く遅いわよ」
 「くそぅっ。まあいいや。本当の理由は…」
 要らない人でも良いらしかった!
 「…岡崎が頑張っているって聞いて…キタんだけど…」
 
 俺は少し驚いた。
 もしかすると、春原にも俺が荒れていた頃のことが知れ渡っていたのかもしれない。
 高校時代はずっと一緒につるんでいた仲だったから。
 「…でも、その様子を見ていると、ぜんっぜん無駄足みたいだったっスねえ!!」
 どこかが、春原の逆鱗に触れたらしい。
 まあどうでも良い事だった。
 
 
 「本当のところは…、わたしが無理言ってお兄ちゃんに連れてきてもらったんです」
 気まずい?空気を察してか、芽衣ちゃんが真相を明かしてくれた。
 「お世話になった、早苗さんや秋生さんにお礼が言いたくて…。
 それで来たんです」
 「なるほどな。芽衣ちゃんは古河パンに泊まっていたんだもんな」
 「はいっ。そういうことです」
 「へえ〜っ。そうだったの」
 「あの家は住み心地良すぎですっ。風子もハマってしまいますっ」
 「…あっきーもさなえさんもすごくいいひと」
 真相がわかり、それぞれが思い思いの感想(と言っても、あとの2人は古河家の感想だったが)を言った。
 「はい。古河パンの人たちはとても親切にしてくれましたっ」
 芽衣ちゃんにとっても住み心地が良かったらしい。
 まあ俺も杏も、あの家は居心地が良かった。
 いや、良すぎた。
 だから、無意識のうちに古河家を訪れる回数が減っていったのかもしれなかった。
 「それで…。わたし1人ではこの町のことはまだよく知らなかったし、
 不安だったのでお兄ちゃんについてきてもらったんです」
 「…そういうことだよっ」
 「なるほどねぇ…」
 まあ春原が、俺の顔を見るためだけにこの町に戻ってくるわけは無いと思ったが。
 色々とすっきりした。
 
 
 
 「その娘が汐ちゃんかぁ」
 春原が俺のヒザの上に、ちょこん、と乗っている汐の方を見て訊ねた。
 「ああ。俺の愛娘だ。どうだっ。可愛いだろっ」
 親ばか全開だった。
 「汐ちゃんは、パパと僕のどっちが格好良いと思う?」
 春原が、無謀な質問を我が娘にしていた!
 「パパっ」
 即答だった!
 「…汐ちゃん。最初っから『パパ』って決めて言っていない?」
 懇願するように聞いた春原だったが、汐は俺の腕にしがみついて…。
 「パパのほうがかっこいい」
 と、はっきり言っていた!!
 「どうだっ、春原っ! 汐は自分の意志で言っているんだ! 諦めろ」
 「生まれてきて最大の屈辱かも…」
 春原のショックもわからないでは無い。
 だって汐は、風子や秋生と俺の二択だと、俺にとっては永遠とも思えるような間を開けて答えるからだ。
 汐は、春原など眼中に無いということだろう。
 そうでなくては困るのだが…。
 そう思い、俺は胸を撫で下ろしていた。
 「そうですっ。岡崎さんと比較するのは、ヒトデと岡崎さんと比較するくらい無謀ですっ」
 ぐあっ。
 風子にとっては、俺への大変な援護射撃のつもりだろうが、
 言われた本人たちは嬉しくなかったり、意味不明だった!
 その後、風子の比較の意味が、
 『ヒトデ>>>>>俺>>>>>>>>春原』
 と言うことだとわかり、相当に春原はへこんていたが。
 
 
 「と言うわけで、わたしは古河パンへごあいさつに行ってきます」
 芽衣ちゃんは、当初の目的を果たすために立ち上がった。
 その声を聞いて、俺と杏、春原が立ち上がろうとした瞬間、風子がいち早く立ち上がっていた。
 「風子がご案内します」
 「えっ? 良いんですか?」
 芽衣ちゃんならずとも驚いたが、風子は…。
 「さきほど、この町のことはあまりよくわからないと言ってました。だから案内します」
 芽衣ちゃんは俺たちのほうを見たが、俺たちとて、風子が案内することに特に不安も無かったので頷いた。
 「汐ちゃんも一緒に来ましょう」
 「うんっ」
 そう言うと、汐が俺のヒザから下りて風子の差し出した手を握りに行った。
 「誘拐するなよっ」
 一応そう告げる俺。
 しかし風子は…。
 「今汐ちゃんをさらっても、帰ってくるのはこの家です」
 そう笑顔で言った。
 「さあ行きましょうっ。芽衣ちゃん、汐ちゃん」
 「はいっ」
 「うんっ」
 2人を連れて出て行った風子は、妙に大人びて見えた。
 もっとも、身長も含め見た目は、
 芽衣ちゃんのほうが断然年上に見えたし、汐のお姉ちゃんくらいにしか見えなかったが。
 
 
 「ところでさあ」
 春原が静かになったところで訊いてきた。
 「何で岡崎と杏が一緒にいるわけ?」
 「へっ?」
 「えっ?!!!」
 俺はその質問に、若干不意を突かれた形になった。
 杏も驚いた様子だった。
 ただ、春原の疑問は正しいし、ちゃんと説明をしてやらないといけなかった。
 「杏は、汐の幼稚園の先生なんだ」
 「そっか」
 春原はとりあえず納得してくれたようだ。
 しかし…。
 「杏の顔が真っ赤なんだけど…」
 隣にいる杏の顔を覗き込んだ。
 すると…耳まで真っ赤だった!
 「た…たまたまよっ!!」
 鈍感と言われることがある俺でも、はっきりとわかるくらいに動揺していた!
 「じゃあさ」
 まるで、アメフトでインターセプトに成功したかのように攻守が逆転し、春原が攻勢に転じていた。
 「あの鏡台の化粧品って…誰の?」
 「あ…あれは……あ〜〜〜っ!!」
 その鏡台は、杏が自分の化粧用に持ち込んだものだった。
 毎日たいして使わないもので、見事に墓穴を掘っていた。
 「それにさ」
 春原は、ネタを探すかのように辺りを見回した。
 その視線がベランダへと移った。
 「あそこに掛かっている洗濯物って、誰と誰の?」
 明らかに俺のものとわかる男物のものや、汐のものとわかる子どもっぽいもの、
 そして…、女ものだとわかるものが2組くらい干されていた。
 「あーっ?!! 洗濯物干したまんま出かけちゃった〜〜〜っ!!」
 元旦の日の朝に干したものがそのまま吊るされていた。
 女ものというのは、もちろん杏と風子のものだ。
 風子のものは明らかに子どもっぽいものばかりだったので、杏のものは丸わかりだった!
 
 「はぁ、はぁ…」
 杏は披露困憊な様子だった。
 「…で、お前は何が言いたいんだ?」
 ほとんど助け舟を出してやれなかった俺だが、とりあえず春原の真意を聞いておこうと思った。
 「だからさ。何で岡崎と杏が一緒に暮らしているわけ?」
 
 状況証拠は既に揃っていた。
 もうこの家に、杏が暮らしていることは明白だった。
 "娘の幼稚園の先生"というだけでは、全く説明になっていなかった。
 しかし、杏がこの家で暮らしているわけは何だったのだろう?
 もうそれが当たり前に思えて、疑問に感じることも無くなっていた。
 風子の突拍子も無い発言が元だった気はするが、それだけの理由でこんな状況になったとは思えなかった。
 「な、なんでアンタなんかに話さなきゃいけないのよっ!!!」
 まだ動揺を隠し切れない杏。
 ただ俺も、杏の真意を測りかねていたから、補足して言ってやることも出来なかった。
 「ようやくさあ。杏の想いが通じたのかってね…」
 その春原の言葉を聞いた刹那、杏の手から音速のスピードで何かが繰り出された!
 「!!っ 家庭の医学っすかぁ〜〜〜っ?!!!!」
 ドゴゥッッッ!!!!
 見ると、春原の額に『家庭の医学』という分厚い本が突き刺さっていた。
 ガチャッ、ガチャンッッ!!
 そんな春原の惨状を見ていた俺は、杏が部屋を出て行ったことを、音で知らされた。
 
 
 
 「で…さ。お前は何が聞きたいんだ?」
 蘇生した春原に訊いた。
 「俺と杏は、そんな関係ではないぞ」
 俺と杏の関係についてだろうが、春原が思っているだろうと思われるような関係ではもちろん無いからだ。
 「岡崎さあ。まだ気付いてないの?」
 頭を強打したせいでは無いだろうが、春原は若干とぼけたような口調で俺に言ってきた。
 「気付いてないって…どういうことだよっ」
 その口調がムカついたので、俺は若干声を荒げて訊いた。
 すると春原は…。
 「経緯はどうか知らないけどさ。杏は昔っからお前のこと好きだったって思うんだ」
 
 俺は、はっ、となった。
 そんな風に言われたことが無かったから。
 さらに春原は続けた。
 「杏はさ…。お前以外の男には興味ないのかもな。
 何かさ。結局岡崎と再会して、岡崎のことがやっぱ好きなんだなって再確認したみたいだよ」
 
 本当にそうなんだろうか?
 杏は、俺のことが好きで一緒に暮らしているのだろうか?
 確かに、あいつが他の男と会っていたりする可能性はゼロに等しかった。
 だからと言って、俺と暮らすなんて選択肢が生まれるのだろうか?
 
 「岡崎はどうなんだよ?」
 「俺か…?」
 「杏のこと、どう思っているんだ?」
 そうやってストレートに訊かれたことは今まで無かった。
 
 確かに、俺は杏のことは好きだ。
 ただそれは、人間として好きなだけだと思う。
 容姿も、性格も、そして世話好きな面も全部好きだが、それだけだ。
 恋愛感情などは関係なかった。
 
 「早く答えを出してやったほうが良いんじゃないかな?」
 「…」
 「お前と杏は、ずっとお似合いだとは思ったけどね」
 その根拠はどこにあるかわからなかったが、相性の良さは感じていた。
 だからと言って、今からそういう関係になるなんて…。
 「渚ちゃんのことが忘れられないってのもわかるけどさ。
 皆が幸せになれるんだったら、良いんじゃないっかって思うけど?」
 俺が杏とくっついて、果たして杏が幸せになれるかどうかはわからなかったが、
 そういう選択肢があるってことがわかった。
 
 
 
 「お世話になりました〜」
 「気をつけて帰ってくださいっ」
 「お土産お送りしますね〜」
 「楽しみにしてますっ」
 「…すごくたのしみ」
 古河家に行っていた面々が別れのあいさつを交わした。
 「じゃあな、岡崎。しっかりしてやれよ」
 「…わかってる」
 何となく、春原から諭されたのが気に食わないものの、
 春原から言われたことが頭の中から離れなかった。
 
 杏は結局帰ってこなかった。
 
 <第11話終わり→第12話に続く>
 
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 いかがでしたでしょうか?
 春原陽平=トラブルメーカーですねw
 やはりコイツを出すと、話が書きやすいですw
 
 しかし、岡崎家に関しては、結構波紋を投げかけることになってしまいました。
 今後どうなるのか? あまり気にしていない感のある汐の想いはどうなのか? 今後書いていきます。
 
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