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CLANNAD小説(SS)の部屋
CLANNADの小説を掲載していきます。

43    『二つのチョコレート』(CLANNAD 杏バレンタインSS)
2005.02.20 Sun. 
『二つのチョコレート』
 
 
 「ねえ、杏ちゃん」
 いつものように、悩み事の相談を受けていると、その子ががあたしに問い掛けてきた。
 「誰かあげる人、いる?」
 「えっ?! な、何を?」
 「チョコに決まってるじゃない」
 
 相談と言うのは、そろそろバレンタインで、好きな人がいるけどどうやってチョコを渡したらいいか?
 という恋の悩みだ。
 そう言うときは「正面から行くしかない!」と言ってあげたら、今度は逆にあたしに聞いてきたというわけで…。
 
 「いないいない! そんな人っ」
 慌てて否定した。
 
 家に帰ってきた。
 カレンダーを見ると、今日はもう"2月13日"だった。
 「作るなら、今日しか無いってこと?!」
 思わずあたしは、自分の部屋で声をあげた。
 
 去年までは、バレンタインなんて大したイベントじゃなかった。
 好きな人もいなかったし、他の女の子たちが浮かれていたのも冷めた目で見ていた。
 時には、あんまり自分の手作りチョコを自慢する子がいたから、
 あたしも対抗して手作りチョコを作って持っていったことがあった。
 そのおかげで、あたしにチョコの作り方を訊きに来る子が増えたり…。
 
 ただ…今年は違った。
 
 普通の友達でいようと決めたけど、つい意識してしまうあいつ。
 自分が好きになっていることはわかっているつもりでも、
 怖くて気持ちを伝えられないあいつ。
 明日は、そんなあたしみたいな女の子が、自分から気持ちを伝えられる日なんだ。
 
 作らないで後悔するよりは、作って渡さないほうがマシだ。
 「早く行こうっと」
 あたしはスーパーへと走った。
 
 
 
 晩ご飯が終わりしばらく時間を置いて、あたしはチョコ作りに取り掛かった。
 作るのは"生チョコ"。
 その名前の通り、生クリームをふんだんに取り入れたチョコレートだ。
 どうせあいつは、生チョコなんて全然縁が無いはず。
 生チョコの美味しさを教えてあげたい。
 そんな妄想も入りながら、あたしはチョコ作りを進めていった。
 
 チョコ作りも終盤に差し掛かった頃、突然椋が来た。
 「お姉ちゃん、何を頑張ってるのかと思ったら…、バレンタインのチョコ?」
 やけにニコニコしながら訊いてきた。
 「そうよ。…でも義理よっ! 義理だからねっ」
 あたしは必死で誤魔化した。
 でも、産まれる前からの付き合いなこの娘には全く通用していなかった。
 「あ、お姉ちゃんが前に言ってた人?」
 「バ…バカっ」
 前に言ってた人、ってのは、以前椋にあいつのことを話していたからだ。
 別にあいつのことが好きだ、とか言ってたわけじゃあない。
 単に、会話に多く出てきた"あいつ"のことを、好きなんじゃないかって勘付いたんだ。
 そのときもしっかり否定したんだけど、それを真に受けてはくれなかった。
 幸い、誰を好きかって特定は出来ていないみたいだけど…。
 「だって…。本当に義理だったら、そんなに手が込まないはずだもん」
 「…」
 悔しいけど事実だった。
 義理だったら、買ってきたチョコを溶かして、それにナッツでも混ぜて型に流し込めば済む話だから。
 無意識のうちに、コマめに味見しているのなんて、あたしの本気の証左だし…。
 「じゃあ、頑張ってね、お姉ちゃん♪」
 この時だけは、いつもは可愛い妹が悪魔に見えた。
 
 椋の話を聞いて、あたしは考えた。
 もしあいつだけにチョコを渡したら、それは周りからも本気だと受け取られるだろう。
 そんな性急な展開は全然望んではいなかった。
 あくまで、あいつにあたしの気持ちを、それとなく気付かせられれば良かったし。
 何とか、周囲の目を欺かせるには…。
 「そうだっ!」
 あいつの隣にいつもくっついてるアレにも渡せば良いんだ。
 あいつに渡すチョコは、絶対美味しいものを作らないと意味無いけど、
 アレには別に、人が食べちゃいけないものでも良さそうだし…。
 そう考えたあたしは、とびっきり美味しいチョコとは別に、一発KOも狙えるようなチョコを作った。
 
 
 
 2月14日になった。
 あたしは…遅刻してしまった。
 もちろん、あいつへのチョコ作りに時間がかかったためだけど、
 アレへの"KOチョコ"にも思った以上に時間をかけてしまったから。
 寝坊したってわかったときには、それに対して凄くムカついたけど、気を取り直して学校へと向かった。
 間違って渡さないように、2つのチョコの包み紙には差をつけておいた。
 "KOチョコ"は、金キラの包み紙にしておいて、絶対あいつには渡さないようにした。
 その2つのチョコを忘れないように、カバンの中に入れた
 一つは心もち丁寧に。
 
 学校へと急いだ。
 足は速いほうだったけれど、こんなときはバイクなんかあったら便利だな、と思った。
 どうせ人通りも少ないし、先生が立ってる心配も無いし。
 
 学校へと辿り着いた。
 ちょうど下駄箱に着くとチャイムが鳴った。
 1時間目が終わったところらしい。
 下駄箱を開けた。
 バラバラバラ…。
 自分の下駄箱から、大量の何かが落ちてきた。
 見ると…チョコだった!
 送り主を確認すると、どうも後輩たちかららしかった。
 「…そう言えば、あたしって渡すより貰うほうが多かったっけ…」
 あたしは、どうも後輩の女の子から人気があった。
 中学の時も結構貰った記憶がある。
 
 その後、教室へ向かう道中でも、何人かの後輩の女の子からチョコを渡された。
 
 
 教室に入る。
 アイツはまだ来ていないみたいだった。
 アレも。
 そのほうがあたしにとっては好都合だった。
 だって、まだ渡す決意も出来ていないし、作戦もこれから練るところだったから。
 すっかり重くなったカバンを机に下ろして、あたしは考え始めた。
 今日は授業どころでは無さそうだ。
 
 2時間目が終わり、いわゆる"中間休み"の頃に、あたしにお客がやってきた。
 やはり…女の子。
 しかも手にはチョコ。
 ただその顔をよく見ると、同級生だった。
 「あの…藤林さん。ちょっといい?」
 「あれ? どうしたの?」
 その子は他のクラスの子だったけど、相談相手になったりしてたから知り合いだった。
 ただ、その子からチョコを貰う義理なんて無かったけど。
 「あの…このチョコなんだけど……」
 「うん」
 やっぱりそう来るの? と身構えていたら、意外な人物の名前が出た。
 「…岡崎君に渡して欲しいの」
 「へっ?!」
 自分でも笑っちゃうくらいにおかしな声が出てしまった。
 「だから…岡崎君に渡して欲しいの」
 他人の口から、こんな日にその名前を聞くなんて思いもしなかったからだ。
 「あの…岡崎君って、ちょっと怖いでしょ? でもちょっと格好良いし…。
 藤林さんなら、いつも喋ってるしこのくらい頼めるかなあって」
 確かに、あたしはアイツとはよく喋っているし、クラスでも仲の良い方に入るだろう。
 「都合の良いお願いだけど、頼めないかな?」
 「あ…、うん、わかった」
 断りきれずに返答すると、その子は不安そうな表情だったのがぱっ、と明るくなって、
 「ありがとっ。このお礼はいつかするから!」
 と言って喜んでいた。
 あたしは、
 「でも…もし朋也…岡崎が受け取らなかったらゴメンね」
 と付け加えていた。
 「あ…、うん。その時は仕方ないしね」
 そう言ってその子は去っていった。
 あたしに、丁寧に包んだキレイな包装をしたチョコを残して。
 その様子を見ていたのかいないのか、2,3人が同じ用件であたしを訪ねてきて、
 アイツ宛てのチョコを託していった。
 
 
 次の授業中は、"自分のチョコをどうやって渡すか?"よりも、
 "この託されたチョコをどうするか?"で頭の中が一杯だった。
 そもそも、アイツがこんなにモテること自体が予想外だった。
 そりゃあ、確かに格好良いし、さりげなく優しいところもあるし、
 学校生活や学校そのものを、他の皆とは違う目線で見ているところなんかは魅力的だと思う。
 けれど、そんなアイツの良い所は、あたしだけが知ってるつもりだった。
 それはあたしの、単なる願望だったのかもしれない。
 あたしは、今さらながら、恋敵に塩を送るような行為をしていることを後悔していた。
 
 
 昼休みになり、ようやくアイツが来た。
 「おはよ、杏」
 見るからにダルそうにあいさつされる。
 こっちは昨日からずっと悩んでいると言うのに…。
 そんな感情が出てしまって、あたしは本心に無いようなことを言ってしまうのだ。
 「ふん。アンタに"おはよう"なんて言われて、素直に"あ、おはよう"なんて爽やかに返してくれるって思う?」
 単なる照れ隠しに過ぎなかった。
 「…ん? 単なる習慣だ」
 「あ、そ…」
 もうちょっと残念がってくれるかと思ったけど、これがアイツ流なんだ。
 でもあたしは知っていた。
 こうやってアイツが自分から「おはよ」なんて言う相手は、あたししかいないって。
 それがたまらなく優越感に変わるんだし。
 
 遅れて、アレもやってきていた。
 「あれ? 岡崎、先に来てたんだ」
 「悪いかよ」
 正直言って、ずっとアイツの側にいるからうざったいときもある。
 でも、アイツとずっと2人でいれば、周りからもウワサされるに違いなかった。
 そう言う意味では、上手くカモフラージュになってくれていたし、少しだけありがたかった。
 
 
 放課後。
 隣の席にいるアイツを見た。
 授業が終わったと言うのに、机に突っ伏したまま寝ている。
 その顔を覗き込んだ。
 三分の一くらい見える寝顔が、たまらなく可愛かった。
 こういうときは、教室に誰もいなくなるまで寝顔を眺めてることが多かったけど、
 今日はそうはいかない。
 目的があるんだから。
 意を決して肩を揺すった。
 「とーもーやー。授業終わったわよ?」
 「…ん? あ、もう終わったのか…」
 授業が終わったことにも気付かないアイツ。
 あたしの気も知らないで、呑気なアイツ。
 ちょっと腹立たしい気持ちを抑えて、気になっていたことを訊いてみた。
 「ねえ、朋也。…今日、何の日か知ってる?」
 「…え? 何の日かって…。2月14日だろ? え〜と…」
 悩むあいつ。
 「にいしの日…って何だっけ?」
 あたしは思わずズッコケそうになった!
 「バレンタインデー…だよね?」
 そこにすかさず参加してきたアレ。
 アイツの口から言わせたかったけれど、この様子だと仕方なかった。
 「…で、アンタたちの収穫は?」
 女のあたしから聞くのもヘンな話だったが、すごく重要なことだった。
 アレはともかくとして、アイツの収穫の有無は最優先事項だったから。
 「ボクは…。どうせゼロですよ…」
 うっすら涙さえ浮かべている…。
 もし貰っていたらそれこそ驚きだったけど、そんなサプライズな展開は無いらしかった。
 「…朋也は?」
 そうアイツの名前を口にしたあたしの心臓は、一際大きく鼓動を打っていた。
 「俺は…」
 ごくり。
 あたしは思わず唾を飲んだ。
 「…無いな。一つも」
 ほっ。
 思いっきり安堵した。
 これであたしが渡せば、アイツにとって唯一のチョコになるわけだ。
 「何だよ? 聞いてどうすんだよっ」
 「え? あ、うん…」
 意を決するときが来たみたいだった。
 けれど、どう言って渡せばいいのか、まだ迷っていた。
 
 「アンタたち、どうせ誰からも貰えないと思ってね」
 ウソだ。
 あたしはウソをついた。
 「ほら。あたしからあげるわよ。義理チョコ」
 アレへのチョコは、義理でも最低ランクの義理チョコだったけど、
 アイツにあげるチョコは、正真正銘の本命チョコだった。
 けど、そんなこと本気で言えるわけなかった。
 「はい、陽平」
 そう言って、金色の包装紙に包まれた方をアレに渡す。
 「…えっ? いいの?」
 意外な顔をしているけど、構わずあたしは押し付けた。
 「はい、朋也」
 もう一つのほうをアイツに渡す。
 「へぇ〜っ。義理の割にはキレイな包みだな」
 そんな言葉に、思わずドキッ、としてしまう自分がいた。
 その包装紙は、あたしのお気に入りの柄のをストックしておいたものだから。
 アイツも気に入るかな?と思って選んだものだったから。
 けれど平静を装って、
 「義理でも妥協はしないのよっ」
 と返した。
 その時のあたしの表情はどうだったんだろう?
 チョコを渡せてほっとしたのもあったと思うけど、
 ちょっとしたアイツからのツッコミに、動揺したことが出ていなかっただろうか?
 自信が無かった。
 「ありがとな」
 その一言だけで心が満たされる自分が、嬉しくもあり情けなくもあった。
 
 だって、結局この日のこのタイミングでも、気持ちを伝えることが出来なかったんだから…。
 
 
 
 「ゴメンね」
 「ううん。こっちこそ、無理にお願いしてゴメンね」
 あたしは、アイツ宛てに託されたチョコを返しに回っていた。
 「他人から渡されたチョコなんて受け取らない…って、言いそうだもんね」
 「…うん」
 またウソをついた。
 アイツに渡そうともしていないのに。
 
 
 アイツと同じクラスになって1年が経とうとしていた。
 あたしは、未だにアイツへ思いを打ち明けられずに、ただの友達のままだった。
 
 
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 その頃、春原部屋では…。
 
 「さ〜て。杏からのチョコ、全然楽しみじゃないけど、どんなチョコなんだろうなあ♪」
 真っきんきんの包み紙を開けるヤツの表情は、言葉とは裏腹に、明らかに嬉しそうに見えた。
 「どれどれ」
 包みを開封し、チョコを取り出して、
 「いっただっきま〜す!」
 口に入れた。
 パクッ。
 …ガリッ!!
 「がぁぁぁあぁぁっ!!!」
 断末魔の叫びが聞こえた…。
 何が入っていたかはさておいて、俺は自分のチョコを食べてみた。
 ハート型だったのは、やっぱりバレンタインだからだろう。
 ぱくっ。もぐもぐ…。
 「…う、美味いっ」
 ほとんど噛む必要も無い、口どけが抜群に良いチョコだった。
 隣を見ると、ヤツがのた打ち回っていた。
 
 
 <終わり>
 
----------------------------------------------------
 
 いかがでしたか?
 書いた本人としては「クオリティが低い」と思いました…。
 
 ただ、バレンタインSSを書こうとして、例えば杏なら、ゲーム以前(2年の頃)を書くか、ゲーム後(3年の頃)を書くかで迷ったんですが、色々と要素を詰め込める"以前"で書いてみました。
 途中までの展開は、非常に個人的に満足しているんですけどね(^-^;
 
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それを楽しみに管理人はSSを書いているのでm(_ _)m

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