remove
powerd by nog twitter

CLANNAD小説(SS)の部屋
CLANNADの小説を掲載していきます。

41    『岡崎家<第14話>』<CLANNAD汐編アナザー>
2005.03.26 Sat. 
『岡崎家<第14話>』
 
 杏とあんなことになってしまった後の帰り道。
 俺は古河家に行っていた2人の娘を連れて帰っていた。
 右手には風子の手が、左手には汐の手が、それぞれ握られていた。
 
 「岡崎さん」
 最初に口を開いたのは風子だった。
 「夫婦ゲンカはまだ続きますか?」
 風子は、俺と杏の関係についてすごく心配してくれていた。
 汐も何も聞かないが、心配そうな顔をしていた。
 無理も無い。
 一緒に生活していた頃はあんなに仲が良かったのだ。
 「…ああ。当分続くかもな」
 アテは何も無かった。
 と言うか、ケンカだったらいずれ仲直りもするだろうが、
 俺たちの場合はそもそもケンカとは違っていた。
 「せんせい、まだいえにきてくれない?」
 「ああ。ゴメンな」
 「ううん。でもせんせいがまたきてくれると、すごくたのしい」
 「…そうだよな」
 「うん」
 そう言うと、少し汐は笑ったが、またすぐに下を向いてしまった。
 汐は、俺たちよりも杏と過ごす時間が長いのだ。
 とすれば、一番堪えているかもしれなかった。
 
 家に帰った後、俺は汐と風子と、3人で1つの布団に寝た。
 今晩は、汐を俺と風子で抱くようにして。
 
 
 
 ある日。
 雨が降っていた。
 朝から結構な勢いで降っていた。
 当然ながら、俺の仕事も無い。
 汐に、服が濡れないようにポンチョを着せて、2人で傘を差して幼稚園へと向かった。
 幼稚園の門には杏も立っていた。
 だが、一度も目を合わせることも無く、俺は汐を見届けて立ち去った。
 
 
 家に戻ってくると、朝食の後片付けを終えた風子が、こたつに入って1人でテレビを見ていた。
 「よっ。ご苦労さん」
 そう俺が労いの言葉をかけると、
 「岡崎さんこそ、汐ちゃんを送るの、ご苦労さんですっ」
 と言われた。
 風子が色々と家事を手伝ってくれるようになってからと言うもの、
 俺は何の苦労も無かった。
 
 俺は風子の隣に滑り込み、一緒にテレビを見ることにした。
 時間帯の都合上、どの局も芸能ワイドショーみたいな番組しかやっていなかったが。
 風子は関心があるらしく、食い入るように見ていた。
 
 しばらく見ているうちに、俺は風子との距離が気になりだした。
 無理も無い。
 あまり広くないコタツの一方から、2人で入っているのだ。
 風子との距離は、ゼロに等しかった。
 要は、密着していた。
 
 コタツの温もりよりも、腕越しに感じる人肌の温もりのほうが気になっていた。
 そうしていると風子が、こんな提案をしてきた。
 「岡崎さんのヒザの上に座って良いですか?」
 あまり断る理由も無かったので、俺はOKした。
 
 「おう。いいぞ」
 もぞもぞ、ぽふっ。
 風子の身体が、俺の懐に納まる。
 …あったかい。
 俺は思わず、汐にしているように、その身体を抱きしめていた。
 「んっ」
 その瞬間、風子の口から吐息のような声が漏れた。
 「あ、ごめん」
 俺は慌てて手を離そうとしたが、風子はその手を自分の胸のあたりに持っていき、
 「風子も、汐ちゃんと同じように抱きしめられたいです」
 と、顔を赤くしながら言った。
 「そうか?」
 「はい」
 確認すると、俺は再度風子の身体を抱きしめた。
 
 ぎゅっ
 
 「…すごく気持ち良いです」
 「俺もだ」
 
 抱きしめるにはちょうど良いサイズだった。
 両腕にすっぽり埋まるサイズ。
 しかもぬくい。
 そうやって、しばらくまどろんでいた。
 
 「岡崎さん」
 あまりの気持ちよさに、うとうととしていると、風子の声に現実に引き戻された。
 「…ん? どうした?」
 「岡崎さんは、風子のことどう思ってますか?」
 
 「どうって…?」
 「好きですか? 嫌いですか?」
 「好きに決まってるだろ?!」
 俺は即答していた。
 まさか、嫌いなやつと一緒に生活などしているわけは無かった。
 ましてや風子には、単なる同居人以上の感情もあった。
 一緒にいると何故か楽しい…。
 「そうですか。そんなに声を荒げてもらって嬉しいです」
 
 風子は、俺に好きになってもらって嬉しいらしかった。
 現に、俺を見上げる表情がめちゃくちゃ笑顔だった。
 
 「なら言います。奥さんの替わりになれませんか?」
 
 随分前に聞かれたことだった。
 あの時は、素通りして笑っただけだった。
 でも今はどうだろう?
 
 あの時から風子は随分と成長した。
 渚や杏と比べると可哀相だが、料理だって徐々にこなせるようになっている。
 掃除や洗濯などは一人でもやってくれている。
 そういう意味での未熟さは無かった。
 でも、渚の替わりとなると…。
 
 「無理だな」
 ちょっと冷たい言い方になってしまったが、俺ははっきりと言っていた。
 「無理…ですか……」
 それを聞いた風子はうつむいた。
 どうやらショックだったらしい。
 「それは…風子が小さいまんまだからでしょうか?」
 しかし風子は、思いもしなかったようなことを原因にしていた!
 「岡崎さんの奥さんも小さかったと聞いています。
 でも、やはり風子ほどでは無かったのでしょうか?」
 小さいことは…悪いことでは無い。
 こういう体勢で抱きしめることが出来るんだから。
 この体勢は、少なくとも渚では取ったこと無いのだ。
 「小さいのは悪くないぞ」
 むしろ良いかも知れなかった。
 「そうですか…。では、どこがいけないのでしょうか?」
 
 渚には、俺を包み込んでくれるような、包容力があった。
 端的に言えば「甘えさせてくれる」ということだ。
 それが、風子…そして杏には無かった。
 
 ただ、それだけが物足りなさではなかった。
 こんな歳にもなって恥ずかしいことではあったが、
 それが渚と2人の決定的な違いだったのだと感じていた。
 「おかあさんらしく無いってことだよ」
 当然だ。
 風子はおかあさんでも無いし、キャラ的には真逆だ。
 それでも精一杯頑張って、おかあさんがする家事をこなしていたのだから、
 この言葉は少々キツイものだった。
 「…残念です」
 風子は、寂しげな笑みを浮かべながら、そう呟いていた。
 
 「風子はさ…。やっぱ俺の娘にしか見えないんだ」
 俺はずっと感じていたことを言った。
 「どういうことでしょうか?」
 風子からの疑問に、俺は続けた。
 「俺さ…。ずっと風子の成長を見守り続けているような気がするんだ。
 一歩引いたところでさ」
 「そうですか。ありがとうございます」
 こう言ったのは、どうしてだか俺にはわからなかった。
 ずっと俺の中で引っ掛かっている思い。
 こいつとは、どうしてか記憶を共有しているような気がしていた。
 こうやって一緒に住むようになる前に出会っていたような。
 そこでの俺は、風子の成長をひたすら見守り、どうしてもダメになりそうなときには、
 その手を引いて共に歩いたんだ。
 
 「でも杏さんは、風子よりもずっとおかあさんっぽいと思います」
 真っ直ぐと前を向いたまま、懐かしそうにそう言った。
 「お料理も美味しいし、風子たちにもすごく優しくて…。
 あれが理想のお姉さん…ではなく、おかあさん像ですっ」
 「お姉さん…か」
 杏は、確かにおかあさんというよりは、お姉さんに近い存在だった。
 風子や汐に対しては。
 俺に対しては…対等の友人と言う感じではなかっただろうか?
 しかし風子は、
 「でも、杏さんと岡崎さんはとてもお似合いでした。
 お2人とも凄く幸せそうでした」
 こう見ていたらしかった。
 
 俺と杏がお似合いだった?
 夫婦らしく見えていたということだろうか。
 確かに俺たちは幸せだったと思う。
 杏も楽しかったと言っていた。
 そこにどんな感情が入ろうとも、それは変わりの無いものだったと思う。
 杏がいる生活といない生活とだったら…。
 「もう、戻れないんでしょうか?
 杏さんがこの家にいた頃みたいには…」
 
 しかし、俺は杏を決定的に傷つけてしまったのだ。
 アイツの思いを否定して。
 俺から戻って来い、なんてことは口が裂けても言えないし、言ってはいけない。
 
 「無理…だろうな」
 
 俺がそう呟くと、風子は案の定、
 「無理…ですか……」
 と、ガックリと落ち込んだ。
 
 
 
 夕方になり、俺は風子と一緒に汐を迎えに行った。
 雨は上がり、水たまりの出来たアスファルトの上を、2人手を繋いで歩いた。
 どことなく風子は寂しげだったが、繋いだ手をしっかりと握り締めていた。
 
 幼稚園に着くと、反射的に杏の姿を探してしまった。
 が、当然俺たちの前に姿を現すことは無かった。
 そうしているうちに、汐と先生らしき人物がこちらに近づいてきた。
 だが、どうも小さいほう(汐)の歩き方がおかしい。
 ゆっくりゆっくりと近づいてきて、俺たちの前まで来た。
 
 「あ、お父さんですか」
 「はい」
 汐の手を引いてきた先生が、俺に向かって言った。
 「汐ちゃん、熱を出したみたいなんです」
 汐を見ると明らかに顔が赤かった。
 「でも汐ちゃん、お父さんが迎えに来るまでは、おぶろうとしても嫌がるんですよ」
 熱でフラフラな様子だったが、それでも自分の脚で俺のところまで来たかったようだった。
 「汐。あんまり無理したらダメだぞ?」
 「そうですっ。呼んでくれたら、いつでも"風子参上"ですっ」
 そう汐の方を向いて言ったが、汐は、
 「ううん。パパにおぶってもらうまで、じぶんであるく」
 と、やや虚ろな視線ながら、はっきりとそう言った。
 「そうか。じゃあ俺の背中に乗れ」
 「うん」
 そう言うと、しゃがんだ俺の背中にしがみついた。
 首元に寄せた汐の顔は熱かった。
 俺は、軽い汐を背負って立ち上がった。
 「熱は心配するほどではありませんでしたが、お大事にしてください」
 「ありがとうございます」
 先生に一礼すると、俺たちは家路へと急いだ。
 
 
 家に帰り、風子が敷いてくれた布団に汐を寝かせた。
 熱を測ったが、38度も無いらしかった。
 おかゆを作ろうとして立ち上がったとき、ドアをノックする音が聞こえた。
 「誰でしょうか?」
 お米を研いでいる風子も気付いたようだった。
 俺は玄関へと向かった。
 
 がちゃっ
 
 扉を開けて…、
 そこにいたのは…、
 
 「やっ。元気だった?」
 
 聞き慣れた言葉遣い。
 見慣れた髪飾りに髪型。
 少しぎこちない笑顔。
 
 
 杏だった…。
 
 
 俺は思いがけない展開に、思わず固まってしまった。
 
 「朋也…よね?」
 固まったまま動かないでいる俺に、少し心配そうに訊く杏。
 
 俺には、何故家の前に杏が来ているのかが理解できなかった。
 あれだけ傷つけたのに…。
 
 「どうして…?」
 
 ようやく発した俺の言葉はこれだけだった。
 その時の俺の表情はどんなだっただろう?
 一向にフリーズしたまま動かない俺に対し、杏は話し始めた。
 
 「あれからさ…色々と考えたんだけど…。
 朋也ってあたしのこと、嫌い?」
 「そんなわけ無いだろっ!!」
 俺は思わず声を荒げてしまった。
 
 嫌いなはずが無かった。
 「それは…この前も聞いたから、信じてるけどね。
 言ってくれたもんね、親友って」
 「そう…だったな」
 ただ、その言葉で俺は杏を傷つけたのだ。
 しかし、今の杏の表情に、この前のような悲壮感は感じられなかった。
 むしろ何か、決意めいたものが感じられた。
 
 「あのさ。親友だったら、一緒に住んでても良いのかな?って。
 だからさ…。また来ちゃダメ?」
 
 
 
 その解釈はあまりに強引だった。
 真意も測りかねた。
 だが、断る選択肢を俺は持ってはいなかった。
 
 「杏が良いなら…」
 
 杏がいた生活を思い出していた。
 
 「あはっ。良かった。
 じゃあまたよろしくね!」
 杏の表情が、ぱっと花開いたように明るくなった。
 
 「あっ、杏さんですっ。帰ってきましたっ」
 
 第三の声。
 汐は寝ているので、風子の声だ。
 
 「風子ちゃん、ただいま」
 「おかえりなさいですっ」
 
 小走りで来た風子は、そのままの勢いで杏に抱きついていた。
 そんな風子を、杏はしっかりと抱きとめていた。
 
 「あっ。汐ちゃんが風邪ひいたんですっ」
 「うん。もちろん知ってるわよ。
 それが心配で来たようなものよ」
 「なら話は早いですっ」
 「じゃ、おかゆ用意しよっか?」
 「はいっ」
 そう2人は、汐のいる居間の方へと入っていった。
 
 俺はそんな2人の後姿を、複雑な思いで眺めていた。
 
 <第14話・完→第15話に続く>
 
------------------------------------------
 
 いかがでしたか?
 ちょっと展開的に無理があるような気もするんですが、一応悩んだ末の「杏帰還」です。
 
 感想などありましたら、「SS投票ページ2」とか「掲示板」「Web拍手」などにお寄せください。
 かなり励みにして頑張っていますのでw

| Prev | Index | Next |


| ホーム | 更新履歴・2 | りきお紹介 | 雑記・ブログ | 小説(SS)の部屋 | ■リトルバスターズ!SS部屋 | Webコミック | ■ToHeart2 SSの部屋 |
| ■Kanon&AIR SS部屋 | 頂きモノSS部屋 | 競馬ブログへ | ギャラリー | KEYゲーム考察 | CLANNADの旅 | ギャルゲレビュー | 『岡崎家』アンケート |
| ■理樹君ハーレムナイトアンケート | SS投票ページ | 掲示板 | SS書きさんへひゃくのしつもん。 | リンク集 | What's New | ◇SS投票ページ2 | SS投票ページ |
| SSリクエストページ | 雑記 |