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CLANNAD小説(SS)の部屋
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34    『岡崎家Afterその1〜温泉に行こう!<前編>』(CLANNAD)
2005.08.25 Thu. 
『岡崎家Afterその1〜温泉に行こう!<前編>』
 
 ガタンゴトン、ガタンゴトン…
 
 
 規則正しく揺れる車内。
 そこである言葉を思い出していた。
 
「ふたりでゆっくり仕込んで来いやっ」
 
 …。
 オッサンらしいと言えばそれまでだったが、そのせいで俺は今日まで、
言い表せないような緊張をしてしまっていた。
 
 俺が座っているのは通路側だ。
 隣には…、長く綺麗な髪をした女性が、車窓の外に広がる風景を眺めていた。
 その表情は、こちら側からでは窺い知ることは出来ない。
 ただトンネルに入ると、窓に反射したその表情を見ることが出来た。
 
「まだ着かないのかしらね…」
 
 こちらを見ること無く、そう呟いた。
 その声は、三点リーダを使うような物憂げなもの…ではとても無く、
むしろ期待と焦燥の入り混じったような、そんな言葉だった。
 
「ね? 朋也」
「うん? どうした」
 
 甘えたような声で俺を呼ぶ杏。
 さっきまでとは、明らかに違う口調の杏に、俺は少し動揺しながら応えた。
 
「ふたりで出かけるのって、初めてよね?」
 
 改めて知る真実。
 そうだ。
 俺たちは、ふたりで出かけたことすら無かったのだ。
 それなのに、今回の旅行の目的と言ったら…。
 
 しかし杏は、そんな俺の気持ちを知ってかしらでか、
気持ちの昂ぶりをストレートに伝えるかのように話してきた。
 
「もうさ。楽しみで楽しみで、しようが無かったのよ。
 こんなワクワクした旅行って初めてかも」
 
 何がどう楽しみだったかは、俺にはわからなかった。
 ただ、俺の心の中にあった言い知れぬ緊張感は、徐々に解れていった。
 
 まあ、これだけ楽しんでくれてるのなら良かったな、と。
 そして、俺も楽しまなきゃな、と。
 
「そうだよな。良い旅行にしたいなっ」
「うんっ」
 
 それだけ言うと、杏は、ぽてっ、と俺の肩に顔を乗せた。
 同じシャンプーを使っているのに、その髪からは自分からは決して出ないような、
 すごく良い匂いがした。
 
「朋也」
「ん?」
「このまま寝てていい?」
「おう。着いたら起こすからな」
「うん…」
 
 杏は、俺に身体を預けると、程なくしてすぅすぅと寝息を立て始めた。
 俺は所在なげに置かれた杏の手を、そっと握った。
 その手は予想に反して、少し逞しい気がした。
 幼稚園で、家で奮闘している姿を思い浮かべた。
 
 俺も杏の寝息に釣られたのか、杏の温もりがそうさせたのかはわからなかったが、
睡魔に襲われて、何時の間にか夢の中に落ちていった。
 
 
 
 次に目が覚めたときには、降りるはずだった駅の名前が、徐々に動き始めていたときだった。
 しかも、どんどん加速していた。
 
「やっちまった…」
 
 誰に言うでもなく、1人呟いた。
 
 
 
 俺たちは、次の停車駅から折り返しの列車に乗り、1時間遅れくらいで目的地に降り立った。
 
「…ん〜〜〜〜っ、と。ちょっと遅れちゃったけど、着いたわねぇ」
 
 杏は、長旅の疲れと言うよりは、眠っていた身体を起こすように伸びをしていた。
 俺も深呼吸をして、この場所の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
 駅前には、土産物屋さんが数軒立ち並ぶ以外は、タクシーやバスくらいしかない、
シンプルな風景だった。
 その町並の背後には、新緑が鮮やかな山がそびえ立っていた。
 
 俺も釣られるかのように深呼吸した。
 空気が問答無用で美味かった。
 
「なかなか良い雰囲気のところよね」
「そうだな。想像以上だ」
 
 オッサンには悪かったが、想像していたのよりもずっと雰囲気のあるところだった。
 と言うのは、ここはオッサンからの結婚のお祝いとして、紹介されてやってきた場所なのだ。
 
 いわゆる「観光地化」はそれほどしていないような、穴場的な感じがした。
 ただあくまで俺や杏がそう思っただけで、実際のところはどうかわからないが…。
 少なくとも、落ち着ける雰囲気だということは間違いなかった。
 
「さ、行こっ」
 
 そう言って差し出された杏の手を、俺は自然と握り返していた。
 差し出した本人は、満足そうに握り返してくれた。
 
 見ず知らずの町を、2人手を繋いで歩く。
 
「あたしだけかもしれないんだけどさ」
 
 杏が遠慮がちに言った。
 
「こうやって手繋いで歩いてるとさ…。恋人同士みたいじゃない?」
 
 どうなんだろうか?
 俺は、杏のことをそんな風には意識したことが無かった。
 けれど、もし恋人同士って雰囲気になるのであれば、
手を繋いだくらいでは足りない気もしていた。
 
 そう思った俺は、繋いでいた手を離した。
 一瞬、杏の身体がビクッ、となった。
 俺は離した手を、杏の身体に回して抱いた。
 
「このくらいのほうが、恋人同士に思えるんじゃないか?」
 
 一瞬驚いた表情を見せた杏だったが、すぐに俺の真意がわかったらしく、
 
「そうね…。こっちのほうが、そう見えるわよね」
 
 …と、納得してくれて、俺にその身体を預けた。
 杏の温もりがよりしっかりと伝わった。
 俺たちは、見ず知らずの街を、身体を寄り添いながら歩いた。
 
 
 
「あ。朋也、ここ、ここ」
 
 慣れない姿勢で歩いていた俺は、杏の言葉で我に返った。
 杏の指差した方を観ると、多少見覚えのある建物があった。
 今日泊まる旅館だ。
 
「なかなか良さそうじゃない?」
「ああ。イイ感じだな」
 
 オッサンが予約したのかはわからなかったが、宿泊予定の旅館は、
 なかなかイイ建物だった。
 事前に白黒の写真を見てはいたが、やはり実物とは大きく違っていた。
 
 もう時計は既に4時を回っていた。
 チェックインには問題の無い時間だ。
 
 俺たちはチェックインを終えると、大きな荷物を預けて出かけることにした。
 まだ夕食の時間には早すぎた、と言うのもあったが、
せっかく温泉地に来たのだから、ぜひやりたいことがあったのだ。
 
「じゃあ、外湯めぐりにレッツゴーっ!!」
 
 やはり温泉地に来ての楽しみと言えば、色んな旅館や施設の温泉を巡る、
『外湯めぐり』だろう。それが楽しみで来たようなものだからだ。
 
 しかし、出かける前に、俺は旅館のロビーであるものを見つけた。
 
「ちょっと、杏」
「…ん〜? どしたの?」
 
 出発する気まんまんだった杏を呼び止めた俺は、ロビーのカウンタ近くにある、
あるものを指差して言った。
 
「どうだ? これ着て行くほうが良いんじゃないか?」
 
 それは…浴衣だ。
 最近は、こういう温泉地なら、浴衣のレンタルサービスみたいなものをやっているところが
多いと聞いたことがある。それを、この旅館もやっているみたいだった。
 吊り下げられている浴衣は、丈が異常に短かったり、浴衣とは思えないような派手な柄のものも
あったが、種類はかなり多くて、選びがいがありそうだった。
 
「…う〜ん。そうねえ……」
 
 目移りしているのか、杏は色とりどりの浴衣を前にして悩んでいるようだった。
 しかしその直後、予期せぬことを言われた。
 
「あたしが着るなら、朋也も浴衣が良いんじゃない?」
 
 男か浴衣? と最初は思ったが、良く考えたらそっちのほうが、
俺の私服よりもよほど場に合っているだろうし、
杏と並んで歩いていても違和感はなさそうだった。
 
「そうだな…」
 
 俺も、男物の浴衣を品定めすることにした。
 
「…少なっ!!」
 
 さすがに、女物の浴衣に比べると、種類は限られていた。
 
 
 
 俺は適当なものを選ぶと、一足先に浴衣に着替えて待っていた。
 そこへ、少し遅れて杏が戻ってきた。
 
「お待たせ〜」
 
 声は確かに杏だったが、その姿を見て言葉を失った。
 
 藍ベースの落ち着いた柄の浴衣だったが、
髪の毛をお団子状に纏めていて、雰囲気がいつもとは全く違っていた。
 
 きょとん、としている俺を不安に思ったのか、杏はおずおずと訊いてきた。
 
「ヘン? …じゃない?」
「いや…。全然」
 
 気の利いたことは言えなかった。
 でも心の中では、その姿に見とれてしまっている自分がいた。
 
 普段、家や外で見るのとは違う、少し恥じらいのある表情。
 纏めた髪のおかげで露出した、白いうなじ。
 いつもはあまり感じなかった色気を感じていた。
 
 
 …と言うか、杏ってこんなに綺麗だっただろうか?
 もちろん、高校時代から容姿では他を圧倒していたように思う。
 その時からは全く変わらない…と言うよりは、むしろより綺麗になっているようだ。
 ただ一緒に生活するようになってからは、それに気付く余裕も無かったように思える。
 それにしても、浴衣姿の杏は、あまりにも美しく見えた。
 
 綺麗だぞ、とノド元まで出かかった言葉は、発せられる前に閉じ込められた。
 そんな俺の心を知ってか知らでか、杏は俺の腕に自分の腕を絡めていた。
 
「じゃあ、改めて、外湯めぐりにレッツゴー!!」
「おーっ」
 
 そうして俺たちは、揃って浴衣を着て、温泉へと飛び出した。
 
 
 旅館で貰ったパンフレットによると、3,4ヶ所、お風呂だけ入れる施設があるらしかった。
 どこの湯船もなかなか良かった。…が、何か物足りなさを感じた。
 
 
「ここもなかなか良かったわね」
「そうだな。なかなか良かったな」
 
 
 温泉に浸かった後、出てきてはそう言うものの、お互い物足りなさを感じていた。
 
 それもそのはず。
 さっきまでずっと腕を絡めていたり,抱き合っていたりしていたのに、
温泉に入るときには離れなければならないからだ。
 
 だから温泉から出てきた後は、どちらからともなく、腕や身体を求めてしまっていた。
 温泉で温めた身体が、心地よい温もりを共有させてくれた。
 
「そろそろ戻ろっか?」
「そうだな」
 
 一通り外湯を回ると、俺たちは旅館へと引き返した。
 
 女将に案内され自分たちの部屋へと入ると、そこには既に、夕食の準備がされていた。
 山のほうだけあって、山菜のてんぷらや、岩魚の塩焼きなど、山の幸がふんだんに使われていた。
 
「…美味しそうだな」
「うん。ちょっと予想外に」
 
 見た目の良さどおり、味も良かった。
 あっという間に平らげると、俺たちは女将からこの旅館についての説明を受けた。
 大浴場の説明とか、ロビーにある卓球室の説明など、正直どうでもいい説明がほとんどだった。
 しかし、ある言葉でふっと我に返った。
 
 
 「…で、こちらが家族風呂になっております」
 
 
 女将の指した部屋の奥のほうには、何と風呂があった。
 その外は、新緑に覆われた山肌が迫っていた。
 
「…え? あれは、他の人は入ってこないってことか?」
 
 家族風呂の主旨からすると、誰もが入ってこれるわけでは無いはずだ。
 女将は、何か言いたげな笑みを浮かべると、
 
「ええ。そういうことですよ。ごゆっくり」
 
 そう言って、ペコリとお辞儀をして立ち去っていった。
 
 杏に助けを求めようと、彼女のいる方向を向くと…、
 
「…朋也とお風呂。朋也とお風呂…」
 
 ぶつぶつ言いながら、浴衣を脱ぎ始めていた……。
 
<前編おわり→後編へつづく>
 
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 いかがでしたか?
 1話としては、あまり内容の濃いものになりませんでしたが、この2人の若干の温度差と、それが徐々に無くなって行って、ラブラブになっていくのが伝わってたら良いな、と思いますw
 次回は、もっと際どいシーンも書くことに…(^-^;
 
 感想や要望などがあれば、「SS投票ページ2」や「Web拍手」と使ってください!
 
 後編もご期待くださいねw

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