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CLANNAD小説(SS)の部屋
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32    『岡崎家プロローグ<前編>』(CLANNAD汐編アフター)
2006.01.17 Tue. 
『岡崎家プロローグ 前編』
 
 
 
 普段は観ない、今年の入園者リストを観ていた。
 そう。
 計算上は、今年だった。
 ここに入る可能性なんか多くは無かった。
 保育所もあるし、この町から離れてしまった可能性だってあった。
 だけどあたしは、リストからある名前を探していた。
 
 "岡崎汐"
 
 懐かしい、元クラスメイトの名字のついた子を。
 
 そしてその名前は。程なくして見つかった。
「あ、あった!」
 名簿の上のほう。
 確かにその名前はあった。
 どうやら、この幼稚園に入園するらしかった。
 
 顔も観たことが無かった。
 だけどその顔は、良く知った2人から想像することは出来た。
 きっと凄く可愛いに違いない…と、
 ヘンな確信があった。
 
 その時には、あいつとも久々に顔を合わせることになるはずだった。
 
 もうあれから5年が経とうとしている。
 心の傷も癒えたことだろうと思う。
 
 顔は変わってしまっているだろうか?
 あたしのこと、ちゃんとわかってくれるだろうか?
 また学生時代のように、バカなことを言いながら笑いあえるだろうか?
 あたしは自然に振る舞えるだろうか?
 
 間近に迫った入園式に思いを馳せながら、その日は職場を後にした。
 
 
 
 入園式前日は眠れなかった。
 気持ちが高揚してしまったから。
 久々にあいつに会えるってことが。
 長い夜は、あいつとの想い出の回想をして過ごした。
 
 
 
 そして迎えた入園式当日。
 
「おはようございます」
「おはよう、藤林さん」
 
 あたしはいつものように出勤した。
 
「今日はいつもより、はりきってるわね?」
「そ、そうですか?」
「いつもと雰囲気が違うもの」
 
 先輩の先生にはバレてしまっていた。
 それほどあたしは、顔に出てしまっているのだろうか?
 
「まるで、初恋の人に会うみたいに♪」
「…えっ? えぇっ? ち、違いますって!!」
「うふふ。じゃあ、頑張りましょ」
「あ…、はい」
 
 顔が上気しているのが自分でわかった。
 そんなにあたしって、わかりやすい性格をしているのだろうか?
 ちょっとだけ自己嫌悪に陥った。
 
 
 今日から入園する園児と、その保護者を迎えに門に出た。
 100組にも満たない数だ。
 見知った顔を見過ごすことは無いはずだった。
 
 …けれど、あたしはその顔を見つけることはできなかった。
 
 
「初めましてっ。みんな、おはようございます!」
「「「おはようございますっ」」」
 
 入園式の後の最初の授業。
 元気よく挨拶した後、あたしは1人1人名前を呼んでいった。
 そして…。
 
「岡崎 汐ちゃん」
「…はいっ」
 
 少しためらいがちに返事をした…女の子。
 その子が、アイツの子どもだった。
 …文句なしに可愛かった。
 アイツの娘だと言うのが信じられるような、られないような…。
 でもその反応を見て、少し影を感じた。
 
 
――その夜。
 あたしは布団の中で思い詰めていた。
 
 何故、あいつは現われなかったのだろう?と。
 未だにキズが癒えていないのだろうか?
 それとも、実は何か大変なことがあって、無事じゃない…。
 
 あたしは、そんな後向きな考えを頭の中で一掃した。
 今日はきっと、事情で来られなかったんだろう、と。
 …母親がいないのに、入園式に出ない父親など、普通は考えられなかったけど。
 
 
――それから数日が経った。
 でも、アイツが現われる気配は無かった。
 
 そうして、ぼぅっと園庭を眺めていると、見知った物体とじゃれ合っている存在を見つけた。
 片方は…ボタン。あたしがウリボウの頃から飼っていたイノシシだ。
 もう片方は…女の子だろうか? よく見るとそれは…岡崎汐ちゃんだった。
 
「なべー」
「ゴフ〜ゴフ〜」
 
 その光景はちょっとおかしかったけれど、とても微笑ましいものがあった。
 …でも、ボタンがこんなに早く、自分以外の人間に懐く姿は初めて見た気がした。
 
 ベロベロと、ボタンの長い舌で舐められている女の子。
 それをくすぐったそうにしている。
 そんな、1匹と1人に、あたしの足は自然と向いていた。
 
「仲良いわねぇ」
「うん。かわいい」
 
 汐ちゃんは、屈託の無い笑顔でそう応えていた。
 …でも、ウリボウの頃のボタンなら可愛いとは思ったけど、
今のボタンを「可愛い」と言ってしまえるこの子は、タダ者では無い、とも思った。
 その顔をもう一度見つめた。
 …。
 アイツの面影は殆ど感じることは無かったけど、
アイツの側にいた子の面影は、否定しがたいくらいに感じられた。
 
「…?? なあに?」
「えっ?!」
 
 気付くと、その子はあたしの顔を不思議そうに見つめていた。
 
「…うしおのかお、なにかついてる?」
「あ…、ううん。そうじゃないの」
 
 どうやら、実感の無いくらいに長く見つめていたらしかった。
 あたしは慌てて取り繕うと、改めて向き直って言った。
 
「ねえ? あなたのこと、汐ちゃん、って呼んでいい?」
 
 普通、園児たちにこんなことは言わない。
 でも何となく、あたしはそうしていた。
 軽々しく呼ぼうと言う気にはならなかったから。
 
「うんっ」
 
 元気のいい返事。
 それ以上に、汐ちゃんの屈託の無い笑顔に目を奪われていた。
 次の瞬間、あたしは思わず汐ちゃんの身体を抱きしめていた。
 何故か溢れてくるものを堪えながら。
 
「せんせい?」
 
 そんな汐ちゃんの疑問にも答えられないまま。
 
 
 
 その日の夕方。
 ずっと汐ちゃんと遊んでいたあたしは、手を引いて門まで送りに出ていた。
 一緒に遊んでいると、とにかく楽しくって、可愛くって、
仕事を忘れて夢中になってしまっていた。
 アイツの血を引いている、って言うこともあるにはあった。
…けれど、想像していたのとは違って、凄く活発で行動的で、
そして時折見せる、屈託の無い笑顔。
汐ちゃん自身が可愛くて仕方なかった。
 そんな汐ちゃんと遊んでいると、周りから他の子たちも集まっていた。
 そして、みんなで遊んだ。
 
 
「じゃあ…また明日ね」
「うん。せんせいもまたあした」
 
 だから、一時的とはいえ、別れが名残惜しくあった。
 
「汐っ」
「さなえさんっ」
 
 どこからか、女性の声が聞こえた。
 その声に呼応するかのように、汐ちゃんは駆け出していた。
 そのままその女性に抱きつく…のかと思いきや、その直前で急ブレーキを掛けるように、
汐ちゃんは立ち止まっていた。
 
 あたしは、汐ちゃんから視線を外し、少し上の女性を見た。
 …あれ?
 
 その顔には見覚えがあった。
 けれど…おかしすぎた。
 彼女は…いないのだから。
 だとしたら、彼女は誰なのだろう?
 …あまりにも似すぎていた。
 
「えっと…。汐の先生ですか?」
 
 そう言われて、初めてあたしに話し掛けられたことに気付いた。
 
「…あ、はい。たぶん…、えっと、そうなんです」
 
 頭の中が混乱していて、上手く返答することが出来なかった。
 あたしは汐ちゃんの担任だったし、堂々と言うべきだったけれど、
まだ日も浅かったから、今日、今遊んでいたことだけが、あたしと汐ちゃんとの繋がりだった。
 
「汐と仲良さそうでしたねっ」
 
 屈託の無い笑顔でそう言われた。
 
 …あたしは一度頭の中を整理して考えた。
 汐ちゃんを"汐"と呼べる人。
 そして、あの子に瓜二つの顔。
 少し大人びている…。
 ようやく彼女が、汐ちゃんにとって何なのかわかることが出来た。
 恐らく、あの子のお姉さんなのだろうと。
 すべてが繋がった気がした。
 
「あの…、どうかしましたか?」
 
 またぼ〜っとしていたらしい。
 
「あ、いえ。あ、はい。そうなんです。ね、汐ちゃん」
「うんっ」
 
 辛うじてそう答え、思わず4歳の子に話を振ってしまっていた。
 でも汐ちゃんは、一杯一杯のあたしにアシストするかのように、
そう答えてくれていた。
 そんな汐ちゃんを、あたしは後ろから抱きしめた。
 
 
 あたしが抱きしめる腕を緩めた後、2人が帰っていった。
 まるで親子のように。
 でも、2人の手が繋がれることは、ついに無かった。
 そんな光景に、違和感を拭えないでいた。
 
 
 ずっと、授業が終われば汐ちゃんの側にいた。
 使命感からじゃないと思う。単に、この子の側にいたいだけだった。
 汐ちゃんの周りには、いつも男の子たちがいた。
 野球したり、サッカーしたり…。
 バスケをしているのを、参加せずに観戦していたあの子の娘とは思えないほど行動的で、
しかも運動神経は抜群だった。
 その姿が、何となくアイツとダブった。
 
 
 そして、早苗さんが迎えに来ると、名残惜しくも思ったけれど、
汐ちゃんと遊んでいた多くの男の子たちと一緒に、
「また明日」
って見送るのだった。
 
 
 そんな毎日が続いていた。
 楽しかったけれど、複雑な思いのした日々が。
 けれど、そんな少しの楽しさは、噂話でかき消された。
 
 園児たちを見送っているとき、井戸端会議をしている主婦たちの声が聞こえた。
 普段は全く気にならないその声が、この日は何故か耳に入ってきていた。
 …関心のあるキーワードが入っていたからかもしれなかった。
 
「…で、あの岡崎汐ちゃんって知ってる?」
「うん。ウチの子もよく遊んでる女の子ね」
「あの子を送り迎えしている人って、お母さんじゃないのよ」
「えっ? あの可愛らしい人? よく似てるのに…」
 
 どうやら、汐ちゃんと早苗さんのことを話しているらしかった。
 普段は聞き耳なんて立てないのだけど、どうしても気になって仕方が無かった。
 すると、その話は衝撃的な事実をあたしにぶつけてくれた。
 
「あの人、おばあちゃんらしいのよ」
「「おばあちゃん?!」」
 
 思わずあたしも声を出してしまっていた!
 
「あ、藤林先生」
「いつも子どもがお世話になってます」
 
 声を出したことで話に参加することになってしまった。
 
 しかし、おばあちゃん? あの人が?
 
「おばあちゃんって…。本当なんですか?」
 
 思わずあたしは聞いてしまっていた。
 
「はい。本当みたいですよ。古河パンのご主人の奥さんで、
 汐ちゃんの母親の母親らしいですよ。信じられませんけどね」
 
 汐ちゃんは両親とも若くして生まれた子だったし、
実際の年齢も「おばあちゃん」と呼べるに相応しくない歳かもしれない。
 でも、その辺のお母さんたちと比べて違和感が無いんだから…。
 
 驚きで呆然としているあたしを余所に、噂話は続いていた。
 
「じゃあ、お母さんは?」
「それが…子どもを生んだときに亡くなったそうなのよ……」
「……」
 
 そう。
 あの日を境に、アイツとの接触は全くなくなったのだ。
 もっとも、あの日あたしと会った記憶など、アイツには無かっただろうけど。
 
「亡くなったのはお母さんのほうなんでしょ? お父さんは?」
「…まさか、未婚の母、ってやつ?」
「ううん、違うらしいの。それにちゃんと生きてるらしいわ」
「…で、岡崎さんのダンナの方は?」
「それなんだけど……」
 
 あたしは、それに続く言葉を待った。
 でも、今までの流れから言って、良い事が聞けるとは思えないはずだった。
 だけど心のどこかで、娘と一緒にいられない正当な理由を期待していた。
 しかしそんな淡い期待は、次の瞬間で崩れ去った。
 
 
「お父さん、育児放棄してるらしいの」
 
<後編へ続く>
 
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いかがでしたか?
まだ前編なので、後編で話は多少進みます。…が、汐編の杏視点ってだけのSSなので、あまり過大な期待はしないで下さい(^-^;
 
感想があれば、
 
 
 
 
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