わたしは、雨の日が好き。 
 だって雨の日は……………。 
  
  
  
  
「Rainy Day」 
  
  
  
  
 梅雨という時期。 
 雨が降って、外へ出るのがおっくうになる季節。 
 学校に行っても、 
  
「梅雨入りしたんだって〜」 
「サイアクぅ。うっとうしいよねぇ」 
  
 と、友達は口々にそう言う。 
 でもわたしは、結構この時期が好きだったりする。 
  
 だって、パパと一緒にいられる時間がたくさん出来るから。 
 学校が終われば、ずっとパパといられるから。 
  
「しおちゃんもそう思…わないんだっけ?」 
「あ、うん。嫌いじゃないかな?って」 
「そうだよねえ、しおちゃん家は」 
  
 友達も知ってるくらいに、わかりやすいらしかった。 
  
  
  
 下駄箱を通り、雨音が絶え間なく鳴り続く外へと出た。 
 空を見上げても、何処に雲の切れ間があるのかわからないくらい、何時止むのかも知れない雨。 
そんな中を、部活が中止になった友達も連れて校門へと向かう。 
  
「あーあっ。この靴、せっかく乾いてたのになあ」 
「靴の中もぐずぐずになるのも、何気に気持ち悪いよねぇ」 
「うん、そうだね」 
  
 わたしも、確かに気持ち悪かったりするんだけど、それもどうでも良いことだった。 
 それを打ち消すくらいに良い事が待っているんだから。 
  
 しばらく歩いていくと、待ち望んでいた姿が確認できた。 
  
「ほら。迎えに来てくれてるんじゃない? お父上が」 
「うんっ」 
「お邪魔虫は消えよっか」 
「ごめんね」 
「ううん。それじゃあごゆっくり〜♪」 
「ばいばい」 
  
  
  
 友達と別れた。 
 こんな身勝手なわたしと、友達になってくれているのは本当にありがたいと思う。 
 心の中で感謝しつつ、待つ人の元へ向かうことにした。 
  
  
  
「パパ〜っ」 
「汐っ」 
  
 結構いい歳した娘が、父親に向かって駆け、そして抱きつく。 
 そんな光景、わたしたち以外には見たことが無かった。 
小学校の頃はたまに見たこともあったけれど、中学、高校と進学していくと、 
これはわたしたち父娘だけの行為だと気付いた。 
 ヘンかもしれなかったけれど、今さら辞めたいなんて気持ちも湧かなかったから、ずっとこうしてる。 
 そうしたいんだから、続けているだけだし。 
  
 本当は、雨の日を喜んじゃいけないのだろう。 
 だって、パパが仕事を出来ない、イコール、お給料が少なくなる、ってことだったから。 
 それでも、わたしは刹那の幸せに溺れるかのように、雨の日を喜んでいた。 
 そして、待ち望んでいた。 
  
 悪い子でごめんなさい、パパ。 
  
  
「今晩何が食べたい?」 
「えーとっ…」 
  
 家への道すがら、決まってこの話題になる。 
 こんな話は大好き。 
  
「冷蔵庫にかぼちゃが残ってたよね?」 
「あれ? そうだっけか?」 
「うん。じゃあ、かぼちゃコロッケで1品」 
  
 こうやって晩ご飯を考えながら買い物をしてると、何だか主婦にでもなった気分。 
 で、パパの反応も含めると、親娘と言うよりも夫婦みたいにも思えてきた。 
 …そう思うと、ちょっと恥ずかしい気分にもなってしまった。 
  
「…で、コロッケと何にする?」 
「…うしお」 
「…汐?!」 
「…えっ? あ、うん。かぼちゃコロッケ!」 
「またかぼちゃコロッケか?! 好きだなあ」 
「あ…」 
  
 ぼーっと、夫婦シチュで妄想してて、パパの言葉が聞こえていなかった。 
 失敗失敗。 
  
「えっと…。じゃ、じゃあミネストローネとあとは…」 
  
 妄想を必死に打ち払って、現実モードへと頭を切り替えた。 
 失言も聴こえていなかったみたいだし。 
  
  
  
  
 行きつけのスーパーに行って食材を買う。 
 パパの健康も考えて、出来るだけ出来合いのものは買わないようにしてる。 
だから、料理のレパートリーはその辺の主婦には負けないくらい多かったり。 
  
 ひとりで、パパのことを考えながらする買い物も好きなんだけれど、 
こうやってパパと一緒に買い物をするのはもっと好き。 
  
「何が食べたい?」 
  
 とか聞いたり、 
  
「これなんかどうだ?!」 
  
 とか聞かれたり、そんな何気ないやり取りも全部好きで。 
 本当に夫婦みたいに思えてくる。 
 実際には、親娘にしか見えないのかもしれないんだけど、そこは自己満足みたいに思ってるから、 
わたしにとっては至福の瞬間が続いた。 
  
  
 食材を2人で選んで買ってきた。 
 こういう日は、パパと一緒に台所に立つ。 
 パパも、わたしに任せきりにしないで、一緒に料理を作ってくれる。 
 わたしが全部作る日もあるけれど、2人で力を合わせて作るってのが何か良い。 
  
「パパ、アレとって」 
「おうよっ」 
  
「汐、アレ入れといて」 
「はーいっ」 
  
 以心伝心。息がぴったりで気持ちが良かった。 
  
  
  
 程なく、2人で作った料理が食卓へと並んだ。 
  
「はいっ、パパ。食べてっ」 
「おうっ」 
  
 ぱくっ。もぐもぐ…。 
  
 こうやって、まずはパパに食べてもらって、その表情や話し方から料理の完成度を読み取る。 
 パパはいつも決まって、 
  
「美味いぞ」 
  
 って言ってくれるけれど、言葉どおりかそうで無いかくらいはすぐにわかってしまう。 
 わかりやすいパパ。 
 そんなところも好きだったりするんだけれど。 
  
 今日の分なら大丈夫そうだ。 
 それを見て、わたしも箸をつけることにした。 
  
  
  
 食後は、テレビなんかを見ながらまったりと過ごす。 
 別にテレビを見るのが目的じゃあなくて、単にパパに甘える時間だ。 
 パパのひざの上に座るのはちょっと窮屈になってきたから、横にぴったりとくっ付いて座っている。 
パパにしなだれかかったり、腕を抱いたりと、恋人同士みたいに好き勝手して。 
  
 そして、わたしは感謝する。 
 今日が雨降りだったことに。 
 パパと長い時間、一緒に過ごせたことに。 
 もし今日が晴れならば、この半分くらいしか一緒にいられなかったんだから。 
  
  
  
 1つの番組が終わり、パパが立ち上がって窓を開け、空を見上げた。 
  
「おっ。月が見えてるぞ」 
  
 わたしも釣られて外を見た。 
 パパの視線の向こうには、半分くらいの大きさの月が、雲の切れ間から輝きをこちらに送っていた。 
  
 何時かは終わる雨。 
 それを、永遠に続くように願ったときもあった。 
 けれど、そんなものは永く続くはずも無いんだと、雨が降るたびに思い直していた。 
 だから今、この瞬間を噛みしめるように味わっている。 
  
  
 もし永遠に雨が降り続いたら、わたしはパパとずっと一緒にいられるんだろうか? 
 パパはずっと一緒にいてくれるかもしれない。 
 けれど、それでは何も始まらないし、何も終わらないこともわたしは知っていた。 
  
 でも、わたしは待ち望んでいる。 
 今日みたいな一日を。 
 幼い頃から、今日までずっと。たぶん、明日からも。 
  
  
  
 だから、わたしは雨の日が好き。 
 だって、雨の日はパパと長い時間一緒にいられるから。 
  
  
  
  
<終わり> 
  
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 いかがでしたか? 
 ちょっと短い上に内容も薄いんですが、元々このくらいのボリュームで、雰囲気だけ楽しもうと言うSSを書きたかったので、こんなものです。 
 恐らく汐は、雨の日が好きなんだろうなあ…と思いついて書きました。朋也の仕事は、雨では確か出来ない仕事だったかと思うので。 
  
 この後は夏コミSSに浸からなければなりませんし、リトルバスターズもあります。忙しいです。でも頑張ろうと思います(07年7月22日現在)。 
  
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