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CLANNAD小説(SS)の部屋
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11    『岡崎家After本編〜第6話』
2007.10.27 Sat. 
『岡崎家After本編〜第6話』
 
 
「とんでもないことが起きました」
「とんでも無いこと?」
「はい。風子の家が…無くなってました」
 
 
 無くなってた?
 風子の家が?
 
「どういうことだ?!」
 
 風子の家がなくなっていたと言うことは、
つまり、公子さんや芳野さんの家がなくなっていたと言うことだ。
 もし本当なら…大変なことだ。
 
「来てくださいっ」
 
 俺たちは、汐を古河パンへと預けた後、風子に手を引かれるがままに、伊吹家のあったほうへと向かった。
 
 
 
 
「これです」
 
 見るとそこは…見慣れた伊吹家だった。
 外観は、記憶の中にあるものと全く変わりなかった。
 
 俺はいつものようにチャイムを押そうとした。
 
「お、岡崎さんっ。何してるんですか?!」
「? いや、公子さんに聞こうと思って」
「ちょっと待ってくださいっ」
 
 風子が全力で止めにかかる。
 そして、指差した。
 
「これを見てくださいっ」
 
 その指の先には、表札があった。
 
 『YOSHINO』
 
「風子の記憶が確かならば、ここには『伊吹』って表札があったはずです。
 それが、訳のわからない表札に替わってしまってます。おねぇちゃんたちは、どこかへ蒸発したんでしょうか…」
「いや待て」
 
 俺はそのローマ字の表札を、声を出して読んでみた。
 
「よ・し・の」
 
「吉野さんがどうかしましたか?」
「…違う。芳野さんだよ」
「芳野さん、ですか?」
 
 声だけで漢字を区別するほうも凄いが、言い直して理解するほうもするほうだと思う。
 ともかく、ここは公子さんの家で間違いないのだろう。
 
「芳野祐介さんだよ」
「…ああ。ユウスケさんですか」
 
 やっと繋がったらしい。
 しかし…。
 
「それじゃあ、おねぇちゃんはどこに行ったんでしょう?
 ユウスケさんを残して…」
 
 全く理解できていないらしい…。
 世話が焼けるな、全く。
 
「芳野さんと公子さんは結婚してるだろ? だから同じ家に住んでる。わかるか?」
「はい。つまり、岡崎さんと杏さんみたいなものですね」
「そういうことだ」
「では、なぜ表札に『伊吹』って書いていないんでしょうか?」
「そりゃあ、結婚して公子さんが『芳野公子』になったからじゃないか」
「…えっ?!」
 
 このタイミングで風子が驚いた。
 ちゃんと経緯は聞いていなかったけれど、たぶんそういうことなんだろうと思うが。
 
「おねぇちゃんは『伊吹』じゃないんですか?」
「たぶんな。公子さんに聞いてみればいいじゃないか」
 
 そんなことを言っているうちに、玄関の扉が開いた。
 
「!?」
 
 驚いて、俺の後ろに隠れる風子。
 久々に見る光景だ。
 
 中から出てきたのは…公子さんだ。
 相変わらずの美人さんだった。
 
「あら? 岡崎さんに杏さん。ふぅちゃんも」
「ちわっす」
「こんにちわ」
 
 風子だけは答えなかった。
 警戒しているようだ。
 
「あれは、本当におねぇちゃんでしょうか?」
「本当かどうかも、公子さん以外に見えるか?」
 
 ぶんぶんっ、と首を横に振る。
 
「どうしたの? ふぅちゃん」
 
 俺の後ろに隠れた風子を見て、不思議そうに問いかける公子さん。
 
「あの…本当におねぇちゃんでしょうか?」
「本当も何も、お姉ちゃんだけど?」
「そうですか。それは良かったです」
 
 そういうと、風子は少し安心したような表情をして、俺の陰から出てきた。
 …が、公子さんの元へ行こうとはしなかった。
 
「おねぇちゃんは、本当に『伊吹公子』ではなくなったのですか?」
「え…? うん。今は『芳野公子』になってるけど…。それがどうしたの?」
「やっぱり…そうだったんですか」
 
 改めて本人の口から聞いて、事実を確認した風子。
 見るからに落胆の色がにじみ出ていた。
 
「どうしたの? ふぅちゃん。こっちに来ないの?」
「はい。おねぇちゃんは、もう違う家のひとだからです」
「え?」
 
 意外だった。
 でも考えたら、俺たちと過ごしている時間のほうが圧倒的に多いわけで、
そういう風子の反応もわからないでも無かった。
 
「お姉ちゃん、ちょっと悲しいな」
「風子もプチ悲しいです」
 
 悲しいんだったら行けばいいのに、って思ったけれど、
これは風子にとっての、けじめのつけ方なのかもしれない。
 姉離れという意味での。
 
 でも、俺は「違う」と思っていた。
 苗字が変わろうが、姉妹であることが変わるわけじゃあない。
むしろ、苗字が変わっても切れることの無い絆が、兄弟姉妹にはあるんじゃないかって。
 
「行って来いよ、風子。これから先、公子さんに抱きしめてもらえる機会は無くなるかもしれないんだぞ」
「そうよ。あたしだって、未だに椋…妹とお風呂入ったりするんだから」
「そう…でしょうか」
「そうだって。な、杏」
「ええ」
 
 俺には兄弟がいないから、実のところはわからなかった。
 けれど、杏が言うのなら本当なのだろう。
 そういえば椋は、もう結婚していたわけだし。
 
「ほら…。なっ」
「おいで、ふぅちゃん」
「おねぇちゃんっ」
 
 駆け出したと思ったら、あっという間に公子さんの胸の中に飛び込んだ。
 
「おねぇちゃんは…おねぇちゃんはもう、ぜんぜん知らない別の人になったのかと思ってました…」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ。ずっと…ずっとね」
「はい…」
 
 そういう風子の目には、涙が浮かんでいた。
 不安だったのかもしれない。
 寂しかったのかもしれない。
 
 自分が住んでいた家の表札が変わって、姉の苗字が変わって、自分ひとりが取り残されて…。
 その世界は、どんな光景だったのだろう?
 
「お姉ちゃんの胸の中は、いつでもふぅちゃんのために空けておくから、ね?」
「はい…。ユウスケさんの次で良いですので、そうしてくれるとうれしいです」
「ううん…。祐くんよりもふぅちゃんのために空けておくよ」
「…ありがとうございますっ」
 
 公子さんも、本当に風子のことが好きなんだな、って思う。
 ふたりのことは、実際にはあまり知らないんだけれど、
「仲がいい」なんて陳腐な言葉では言い表せないくらいに、お互いのことを思っているんだろう、って。
 
「ぐすっ」
 
 風子が泣いているのかと思いきや…隣にいた杏から発せられた声だった。
 見事にもらい泣きしていた。
 
 そんな光景も、この町で見れた幸せな光景の1つなのかもしれない。
 
 
 
 
 しばらくして、公子さんが笑顔で言った。
 
「あ、そういえば言ってなかったですよね?」
「何がですか?」
 
 嬉しそうに訊く公子さん。
 屈託の無い笑顔が可愛い。
 こういうところは、特に風子とよく似てると思う。
 
「私、子どもが出来たんです」
「え?!」
「ど、どういうことでしょうか?」
 
 俺と風子だけが反応した。
 だが、杏は特に驚いた様子は無い。
 
「私と、祐くんの子どもです」
 
 ああそうか。
 結婚が遅くなって、子どもってまだだったんだな、と、今さらながら思った。
 俺たちはずいぶんと早かったんだけれど。
 
「おめでとうございます」
 
 杏が、素直な祝福の言葉を言った。
 
「本当に、おめでとうございます」
 
 俺も、心からそう言った。
 
 しかし風子は何か考えているようだ。
 そして…。
 
「…これで、風子もおねぇちゃんになるわけですねっ」
 
 
 
「…」
「?」
「はい?」
 
 
 
 一同、唖然。
 
 
 
「お姉ちゃんって、いつからふぅちゃんのお母さんになったのかな?」
「いいえ。おねぇちゃんはおねぇちゃんです」
「だよね?」
「はい。それがなにか?」
「じゃあ、お姉ちゃんの子どもは、ふぅちゃんの妹になる?」
「あっ…そういえばそうでした」
 
 やっと理解したらしい。
 
「ということは、風子はもうすぐおばさんってことですか?」
「ぷっ」
「わぁっ。岡崎さん汚いですっ」
 
 風子がおばさん…。
 とても遠すぎる話だ。
 
 でもそれは、現実に迫ってきていた…。
 
 
「芳野さん、そんなこと言ってなかったのになあ」
「実は、まだ祐くんには言ってないんです。今日、病院に行って診てもらってきたところですから」
「そうなんですか」
 
 旦那さんよりも先に知れたってのは、何だか優越感に浸れる。
 秘密を先に知れたって感じが。
 
「身体には気をつけてください」
「うん。ありがとうございます」
 
 それは、本心からの言葉。
 たぶん、それをわかった上での公子さんの感謝の言葉だったと思う。
 
「風子がおばさんになる日を楽しみにしてます」
「うふふっ。そうだね」
 
 笑顔を交し合う姉妹。
 このふたりには…やっぱり笑顔が一番似合うと思った。
 
「杏さんも、早くできるといいですねっ」
「えっ?! あ…そうですね。努力してますから…。あははっ」
 
 やたら笑顔の公子さんに、顔が真っ赤な杏。
 何を言われたかは、あえて詮索しないで置くことにする。
 
 
 
「今日はすみませんでした」
「ううん。こちらこそ、立ち話だけですみません」
「また来ます」
「うん。またおいで」
「今度は芳野さんがいるときにお邪魔しますね」
「はいっ。祐くんも喜んでくれると思いますよ」
 
 それだけ交わして、旧・伊吹家…現・芳野家を後にした。
 
 
 
 帰り道。
 
 汐を古河パンから引き取って、4人で歩いていた。
 
「そういや、風子って俺を呼ぶときに『岡崎さん』って言うの、ずっと変わってないよな」
 
 風子の、俺の呼び名。それは、ずっと『岡崎さん』だ。
 それに対しての違和感は全く無いものの、ちょっと気になることがあった。
 
「岡崎さんは岡崎さんです。岡崎さん以外の何者でもありません」
 
 きっぱりと言い放った。
 確かにそうだ。
 
 でも、家族なんだったらその呼び方はおかしい。
 だって俺たちは…。
 
「あたしも、実は『岡崎さん』だったりして」
「そうなんですか?!」
「汐も、『岡崎さん』なんだ」
 
 そこまで言って、はっ、と気付いた。
 風子だけ違う、と言うことに。
 
「風子、ひとりだけ違います…」
 
 そのことは、本人が一番気付いているようだった。
 酷く落ち込んでいた。
 無理も無い。さっき、あんなことがあったから余計だろう。
 
「苗字は違っても、ほらあたしたちは家族でしょ?」
「苗字が違うのは大きな違いです…」
 
 杏のフォローも、慰めにはならないだろう。
 そしてわかった。
 
 もう、「家族ごっこ」は終わっていることに。
 本当の家族になるために、立ち止まれないところまで来ていることに。
 
 
 
 …変わらずにはいられない。
 
 
 
 その言葉が、やけに心に染んだ一日だった。
 
 
 
<第6話終わり⇒第7話につづく>
 
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 いかがでしたか? 前回に比べたら全然凄いペースで書けてしまいました(汗。今回は前回ほど遊びの部分が無くて申し訳ない感じですが。
 まだ風子の話が続きますが、次で終わる予定です。話が進みます。ようやく、完結への道筋が見えてきたかなあ?と言う感じです。
 
 感想などあれば、
 
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