remove
powerd by nog twitter

★リトルバスターズ!SS部屋★

リトルバスターズ!のSSを掲載していきます。

  5   『Last Song』(沙耶シナリオ〜トゥルーエンドSS)
更新日時:
2009/05/22 
 
 
 …。
 
 ……。
 
 
 
 
 
 
 
 温かな記憶。
 冷たい記憶。
 楽しい記憶。
 寂しい記憶。
 嬉しい記憶。
 こわい記憶。
 
 色んな記憶が思い出されては消え…。
 消えてはまた浮かんで…。
 
 いったい、どれが本当の記憶で、
 どれが「夢」の記憶か何てわからなくなってしまっている。
 
 温かいのは…夢。
 冷たいのは…現実。
 楽しいのは…夢?
 寂しいのは…現実?
 
 
 本当にそうだろうか?
 夢は、あたしの夢は本当に、温かくて楽しくて、嬉しくて優しくて…それだけだろうか?
 現実は、冷たくて寂しくて、こわくて辛くて…それだけだったろうか?
 
 色んな想いが頭の中を飛び交って、交錯して、余計に真実がわからなくなってしまう。
 
 
 
 
 
 理樹くん…。
 
 
 
 
 
 
 懐かしい響き。
 あれは…、
 
 何時のことだったろう。
 何処でのことだったろう?
 何だったんだろう?
 
 
 
 ……誰だったんだろう??
 
 
 おもいだせない。
 
 
 ちかくて、とおい、せかい。
 
 
 ここは、どこ?
 
 
 おもいだせない。
 
 あるのは、からだにうちつけられるなにか。
 なにかがうちつけられてる。
 
 からだがつめたくなってる。
 なんでこうなったのか、わからない。
 
 おもいだせない。
 
 
 そんなかんかくも、もう、とお…く……
 
 
 
 きおくをたどった。
 あたたかなきおく。
 やさしいあのひと。
 すきだったひと。
 すきだったせかい。
 たのしかったせかい。
 いっぱいの、かぞえきれないくらいのたいけんをした…せかい。
 
 それはたぶん、かみさまがみせてくれたいっしゅんの…きせき。
 
 それがあるから、あたしはいきていける。
 どんなことがあっても。
 
 
 
 …。
 
 ああ、そうか。
 たいけんしたことがなかったからわからなかった。
 けれど、そう「なる」ひとならみたことがあった。
 だからようやくきづいた。
 
 
 
 
 あたし、しぬんだ。
 
 
 
 
『Last Song』
 
 
 
 
 本当はみんなに紹介したかった。
 あんな、面白くて純粋な子はいないから。
 僕だけしか知らないなんて、そんなのあんまりだと思う。
 
 野球の練習でもいたんだ。
 本人は隠れてるつもりだったろうけれど、僕にはひと目でわかった。
 だからわざとボールを飛ばしたり。
 期待通りに撃ち返してくれて繋がったときは嬉しかったなあ。
 
 …。
 
 本当に、どうしてみんなと、みんなでいられなかったんだろう?
 絶対に楽しかったはずだ。
 最初こそ冷酷なスパイだったんだけど、抜けたところがあって、すごく親しみやすいんだ。
 
 だからたぶん、小毬さんやクドとは仲良くできるはず。
 葉留佳さんとのコラボは…賑やかになるだろうなあ。
 二木さんにはずっとマークされてそう。
 西園さんには、きっつい毒を吐かれてそうだよな。
 佐々美さんとは…鈴以上に熾烈なライバル関係になりそうだ。
 来ヶ谷さんにはおもちゃにされるんだろうな。
 鈴と…は仲良くできるだろうか? いや、できる。
 
 だから…、だからいて欲しいんだ。
 いなきゃいけないんだ。
 でも、ここにはいない。
 どこにもいない。
 
 いないんだ。
 
 
 その子の名前は…。
 えっと……。
 
 
 なんだったろう?
 
 大切なひとのなまえなのに。
 おもいだせない。
 
 
 
 それに、ここはどこなんだろう?
 ぼくは、なにをしてたんだろう…。
 
 
 
「…き」
 
 だれかをよぶこえがきこえる。
 
「りき」
 
 りき。
 …。
 
 僕のことだ。
 
「鈴…」
「起きたか?」
「うん」
 
 目を開くと、そこには白い天井が。
 そして色々と思い出した。
 
「鈴は無事だったの?」
「ああ。理樹よりはマシだ」
「そう…良かった。みんなは?」
「みんな無事だ。馬鹿兄貴だけはじゅうしょうみたいだが」
「そう…」
 
 みんな助かってよかった。
 恭介は重傷みたいだけど…なぜか心配はしてなかった。
 きっと戻ってくるって思ったから。
 
 けれど、僕の心にはぽっかりと穴が開いたようだった。
 大切な…たいせつな何かが足りない。
 
 
 
「ねぇ、鈴」
「うん? どうした、理樹」
 
 たいせつなひと。
 その姿を見ようと向きを変えようとしたけど、身体が言うことをきかない。
 だから、手だけ伸ばす。
 
「手…にぎればいいか?」
「うん」
 
 虚空を泳いでいた手が、あたたかなもので包まれる。
 鈴の手は小さかったけれど、やわらかくてしっとりしていて、何よりあたたかかった。
 
「鈴、僕は…」
 
 たいせつなひと。
 本当にたいせつなひと。
 
 
 だから言うべきなんだ。いっしょに生きていこうって。
 けれど…。
 
「なんでもない」
「なんだ? ヘンなやつだな」
 
 
 僕は言わなかった。
 
 
「どこか痛いところとかない?
 すぐに診てもらわないとダメだよ?」
「そーゆーことは、お前が起き上がれるようになってから言え」
「あはは、鈴の言うとおりだね」
 
 
 もうひとり、たいせつなひとがいる。
 かけがえのないひとが。
 だいすきだったひとが。
 
 
「おまえを待ってるやつがいるんだ。
 だからはやく治して来い」
「うん…」
 
 
 僕を待ってる…ひと。
 
 どうしても思い出せないのに、具体的なイメージが心の中にある。
 決して忘れることが出来ないほどに大きなイメージが。
 
 
「頑張って早く治すよ」
「ああ。そーしてくれると、あたしもうれしい」
 
 
 だから、早く治そう。
 治して、探しに行こう。
 そう心に、心の中で誓った。
 
 傍にいる子の気持ちには応えられそうにも無いけれど。
 
 
 
 
 
 
「…理樹、いるか?」
 
 
 逃げも隠れもできないんだけど、そんな控えめな、ちょっと自信なさげに入ってくる女の子。
 思い当たる子なんかひとりしかいない。
 
「どうしたの? 鈴」
 
 あれから少し経って、身体を起こすくらいは出来るようになったある日。
 
「これをもってきた」
「うん? …ってこれ」
「ああ」
 
 それは…。
 
 
 
【学園革命スクレボ】
 
 
 
 その表紙にはかすかに見覚えがあった。
 恭介が、もの凄く気に入っていた人気のある漫画だ。
 
「そうだ。きょーすけがバカみたいに読んでたやつだ」
「バカみたいに…って」
「だって、わざわざあたしが訪ねてきてやったのに、顔も上げずにその漫画に没頭してたくらいだからな」
「そりゃあ…」
 
 凄い、と思う。
 何せあのシスコンの恭介だ。
 愛しい妹から訪ねてきて、顔も上げずに対応してしまうなんて相当だろう。
 
「何でこれを僕に?」
「ああ。ヒマそうだったからな」
 
 理由になってない。
 …って思ったけれど、本当にそうなのかな? とも思う。
 暇なのは確かだし。
 
 
 ただ、いい機会だと思った。
 あの恭介がハマる漫画なんだ。興味が無いわけがない。
 今まで、どうしてか読む機会には恵まれなかったけれど、今がチャンスなのかもしれない。
 ありがたくその本を受け取った。
 
 
 端が破れ、少し擦り切れた痕が。
 表紙が波打っていて。
 相当読み古された感じがする。
 
 ページを開いた。
 今も連載中の作品の、記念すべき第一巻、第一話。
 登場人物紹介の部分は飛ばして読み始めた。
 
 
 
 面白い。
 あの恭介が没頭してハマるわけがわかる。
 僕は読み進めた。
 
 
 
 あるページで手が止まった。
 まだそんなに読んでない。
 序盤も序盤。
 
 そこに出てきた、ある登場人物。
 その設定…は、あまり驚かなかった。
 でも、その名前…は。
 
 その名前を見た瞬間、身体に落雷したかのような衝撃が身体を貫いた。
 
 
 "朱鷺戸沙耶"
 
 
 初めて見る名前…のはずだった。
 無理もない。
 こんな珍しい、一度見たら忘れそうもない名前だから。
 知っていたら「初めて見る」なんてことすら思わないはず。
 
 なのに僕は…懐かしく感じた。
 どうしてか、その名前、その響きが、愛しく感じた。
 
 愛しく感じたと同時に、大切な何かが、僕の中に奔流となって流れ込んできた。
 
 
 
 何で忘れてたんだろう?
 こんな大切なことを。
 こんな大切なひとのことを。
 
 
 
 
 沙耶さん…。
 
 心の中でその名を噛みしめるように呼んだ。
 
 
---------------------------
 
 
 
 予感。
 もう予感も何も無い状態のはずなんだけど。
 それでも、何かを感じずにはいられなかった。
 
 懐かしい感覚。
 愛しい感覚。
 恋しい感覚。
 もどかしい感覚。
 
 でもそれは…あきらめたもの。
 手にしてはいけないもの。
 今のあたしには過ぎたもの。
 
 たくさんもらったんだから。
 
 
 あたたかなもの。
 まぶしいもの。
 やさしいもの。
 
 ぜんぶ。ぜんぶ。
 
 あたしのほしかったもの、ぜんぶ。
 ぜんぶ、もらった。
 
 これ以上はぜいたくだ。
 欲しがっちゃいけないんだ。
 
 
 
 
 あの世界でのこと。
 あたしが、もうひとりの「あたし」だった頃のこと。
 その記憶はもう薄れつつあるけれど、確かな感触として、あたしの心に指先に皮膚に刻まれている。
 
 あたしが「朱鷺戸沙耶」だったこと。
 
 なりたいって願っていたこと。
 なってあの世界で活躍したいって思ってたこと。
 なって青春を満喫したいって夢見ていたこと。
 
 そんな願いがぜんぶ、いっぺんに叶えられた世界があったってこと。
 
 あたしが憧れの「朱鷺戸沙耶」になっていたこと。
 「朱鷺戸沙耶」でいられた世界でのこと。
 そこで出会えたヒトのこと。
 何物にも変えられない出会いだったこと。
 あたしの初恋だったこと。
 その初恋が実ったこと…。
 
 全部、ぜんぶ忘れられない…思い出。
 そんな、かけがえの無い思い出を胸に、あたしは…往くんだ。
 …逝くんだ。
 
 ……。
 
 それはとてもリアルなのに、具体的なイメージとしては湧いてこなかった。
 なんでだろう?
 
 それは、ひどくありふれたものだったから。
 日常のように接してきたことでもあったから、特別なこととは思ってもいなかったし、今も思わない。
 自分でそれを実感するのは、ゲームオーバーの直前だけ。
 ほんの一瞬。
 しかも苦痛は、味わわされるけれどリセットもされる。
 味わうのは凄く嫌な感覚だけど、一瞬のことだから我慢できる。
 
 でも、それがリアルだったら?
 現実に起きて、取り返しのつかないものだったら?
 
 …わからない。
 経験していないものは…わからない。
 わからない…。
 
 ただあるのは、圧倒的な喪失感。無力感。
 …絶望感?
 
 
 どうして?
 
 
 それは、まだあたしがこの世界に存在しているということ。
 やり残したことが一つだけあるということ。
 
 
 
 
 
 
 彼はすぐ近くにいる。
 そんな感覚がした。
 
 
-------------------------------
 
 
 彼女はすぐ近くにいる。
 そんな予感がした。
 
 そして、時間はおそらく…ない。
 
 
 ベッドから足を下ろす。
 お医者さんから許可を貰ったわけじゃない。
 けれど、自分の足で進まなきゃいけない気がした。
 
 久しぶりに地を踏む自分の足。
 多少の違和感はあったけれど、歩けないわけじゃない。
 いや。歩けなくても歩くんだ。
 会いに行くんだ。
 
 軋む身体。
 痛む傷口。
 
 でもたぶん、彼女はそんなことを言ってられないような状態なんだ。
 
 僕は急いだ。
 
 言うことの利かない身体で、でも出来るだけ速く。
 階段が絶壁のようにも感じたけれど、そこも乗り越えて。
 
 走る。
 
 あてがあるようで、確実なものは何も無いままで。
 何処を目指して良いかもわからなかったけれど、それでも。
 待ってくれているだろうと信じて。そう願って。
 
 
 
 
 
 最後は這いつくばるようにして、ある病室の前にたどり着いた。
 
 
『○○ あや』
 
 
 その名前に、全く覚えなどない。
 覚えが無くて逆にビックリしたけれど。
 
 でも、ここだと確信していた。
 ここにいると。
 僕の足が、身体がそう言ってる。
 
 意を決して、その病室の扉を開けた。
 
 
 
 …。
 ……。
 
 
 
 
 
 そこには―――
 
 
 
 少女がいた。
 
 
 寝ていた。
 
 口には、人工呼吸器が。
 吊るされたものから腕に伸びる管が。
 その痛々しさが、少女の置かれた状況の厳しさを意味していた。
 
 その顔に…全く見覚えは無かった。
 
 でも…何故か懐かしさを感じた。
 見たこともない少女に。
 名前すら覚えていない…覚えがない少女に。
 
 
 
「あっ、ごめんなさい」
 
 ぽん、と肩が触れたと思ったら、誰かと接触したようだった。
 白い制服…看護婦さんみたいだ。
 
 しかも、僕に一瞥をくれただけで立ち去った。
 …急いでる?
 
 
 その後も、部屋には看護婦さんやお医者さんたちが、慌しく出入りしていった。
 それを僕は、部屋の隅のあたりでただ眺めていた。
 
 
 
 …何かがあったことは、事情を知らない僕にでもわかる。
 この部屋の、あの少女に。
 そしてそれは、誰の手にも止められないような、どうしようも無いことも。
 
 だからもう…見ているだけじゃあダメなんだ。
 
 
 次の瞬間、僕は少女の寝ているベッドへと歩み寄った
 
 
 
 
 周りが騒がしい。
 僕を邪魔しようとする。
 そんな、手を声を振り払う。
 
 
「沙耶…さん?」
 
 人工呼吸器越しの顔に問いかける。
 反応は…無い。
 
 当然だろう。
 この子は「沙耶さん」ではない。少なくとも本名は。
 それに、呼びかけに応えられるような状態じゃない。
 
 でも、それでも問いかけたかった。
 あの世界で、例え虚構の世界だったとしても、本気で好きだった子に、現実世界で。
 確かめたかった。
 
「沙耶さんっ、僕だよっっ。理樹だよっっっ」
 
 返事は…無い。
 当然だ。
 
 ただ生かされているだけの状態。
 しかも、周りの状況から、それが長く続かないことも。
 
「本当に…、本当に好きだったんだ。
 スパイとしての沙耶さんよりも、ドジで親しみやすい沙耶さんが」
 
 思い出す、あの時、あの瞬間。
 
「好きだった…ううん、好きなんだ。大好きなんだ」
 
 あの時、あの瞬間、確かに抱いた気持ち。
 その気持ちに偽りなどない。
 
「今の沙耶さんに伝わるかどうかわからないけど、
 どうしても、沙耶さんの格好をしてたキミに伝えたかったんだ」
 
 きっと、この言葉を聴いた人は、僕のことをおかしいって思うだろう。
 でも言わなきゃいけない。
 
 今しか、この瞬間しか伝えられないんだから。
 
「好きだよ。
 大好きなんだ、沙耶」
 
 変化などあるはずが無い、その横顔。寝顔。
 だけど僕は、想いのたけを吐き出した。
 
「いっぱい敵を倒したよね。
 お互いに恥ずかしい想いをしたよね。
 でも、いつも二人で乗り越えてきたよね??」
 
 力なく、ただ置かれただけの手を握り締める。
 細く折れそうなその手は、血の気が通っているのかがわからないくらい白かったけれど、微かな温もりが"生"を感じさせてくれた。
 
「いっぱい思い出を作ったよね?」
 
 握り返してくれる…なんてことは無かった。
 ほんの少しだけ期待してたけれど、その手に力が通うことはもう無いんだろう。
 
「僕と、沙耶だけの思い出を…」
 
 思い出そうとしては消える、色々な思い出。
 記憶と言う感覚から思い出せるものは多く無いけど、その時に感じた感覚という知覚だけは、僕の胸の中、脳裏に深く刻み込まれている。
 それはもしかしたら、目の前の少女も…。
 そう思ったら、語りかけ続けていた。
 
「ねぇ…なにか…何か言ってよ……」
 
 無理だとはわかってる…つもり…だけど。
 だけど諦めがつかない。
 
「ねぇ……ねぇ…っ」
 
 僕はそこで崩れ落ち、その手を握ったまま崩れ落ちて、泣いた。
 そこで意識が混濁して……。
 
 あ…。僕こんなときに病気…って、克服したはずじゃ……。
 ことん。
 
 音を立てて、現実世界での意識を閉じ……。
 
 
 
[-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-]
 
 
 まだ…生きてる。
 …生きてる? こんな状態で? 
 
 ただ生きながらえてるだけじゃないっ。
 
 何ができる?
 こんな状態のあたしに、何が出来るんだろう?
 
 っていうか、何がしたいんだろう?
 こんな状態で。
 
 
 
 ――まだ、伝えていないことがあるんだ。
 
 それを伝えるため、あたしはまだ"ここ"にいる。
 
 
 最後に伝えたかった言葉。
 
 たった一言。
 
 それだけ―――。
 
 
[-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-][-]
 
 
 
「理樹くん…ありがとう…」
「えっ?!」
 
 意識が戻った?!
 
 いや。
 声は、耳から聴こえたわけじゃない。
 頭に脳に直接送り込まれたかのような刺激。
 そして懐かしい姿が投影される。
 
「さ…や…さん」
 
 半ば現実世界に引き戻された。
 そして瞼の裏に焼き付けられた…好きだった人の姿。
 でも目の前には…今日初めて出会った少女。
 
 そのふたりが、今はっきりと、繋がった。
 
 
「僕こそ…、ありがとう…沙耶。
 絶対忘れないから…ずっと憶えているからっ!!」」
 
 
 ハッキリと伝えた、僕の決意を。
 彼女の記憶と共に歩いていくことを。
 
 
「…」
 
 
 今まで、どんな問いかけにも無反応だった、その顔、その目尻から、雫が零れた。
 
 
「あ…」
 
 
 伝わったんだ…。
 都合のいい解釈かもしれないけれど、そう確信した。
 
 
 その直後、周囲は再び騒がしくなり、彼女は何処かへ連れて行かれた。
 
 
 
 --さようなら--
 
 
 
 彼女に会うことは、二度と無かった。
 
 
 
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
 
 
 
「なあ、理樹。こんなとこに何の用なんだ?」
 
 
 あれから一年。
 僕は、たぶん生涯のパートナーと共に、山の中のひなびた墓地に来ていた。
 
 
「ここにはね。僕の大切だった人が眠ってるんだ」
 
 あとで、病院の人たちに聞いた"少女"の眠る場所。
 ここに来るのが正しいことなのかどうかはわからないけれど、一年に一度はここへ来ることが、彼女との約束を確認することにも繋がると思ったから。
 
「えっ。あたしの知らないやつか?」
 
 ここに鈴と来るのは、僕が立ち止まっていないことを、歩いていることを伝えるため。
 そこまでして、やっと彼女があの世界から決別して、僕との別れを選んだことの答えに繋がると思ったから。
 
「うん…。でももし知り合えてたら、いい友だちにはなれたと思うよ」
「そうか…。そうとうヘンなやつじゃなかったら大丈夫だ」
「…そうとうヘンなやつって周りにたくさんいる気がするけどね」
「そうか? でも理樹が大切に思うやつだからいいやつなんだろうな」
「そう…だね」
 
 真剣に、沙耶がリトルバスターズ!にいたら…本当に楽しかっただろうな、って思う。
 でもそれは叶わない願い。
 
 だから、ここに来て、想った。
 
 
 
 出会えて良かった…って。
 ありがとう…って。
 
 
 
 初夏の、爽やかとも暑苦しいとも言える風が、時の流れを感じさせてくれた。
 沙耶がいた時には感じられなかった空気が、僕らを包み込んでいた。
 
 
 
<終わり>
 
 
 
<><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><>
 
 
 
 
【あとがき】
 
 いかがでしたか?
 本当はこのSSって、EXの沙耶シナリオをクリアした直後から描いていたSSで、勢いで完成させようとしていたんですが、ずるずると…というか、勢いだけで書いてはいけないような内容のSSになってしまったので、じっくり書きました。文章力的な意味では全然上がってませんけどね。もう少し面白くなるはずだったんだけど…。
 
 状況としては、沙耶シナリオ通過後→refrainのトゥルーエンド+鈴エンド(キスなし)ってところです。そしてまさかの沙耶(あや)生存→死という強引さw これはありなんでしょうか? 沙耶のモノローグも中途半端だし…。
 つまりは、真っ二つになったあやは何とか一命を取り留めて、でも単なる生命維持くらいしか出来なかった…って感じです。と言うのも、死んでしまったキャラが想いだけ残してあの世界に合流するってのがどうしても納得できず、なら虫の息でも生きているほうがつじつまが合う気がしました。なので生存説で突き通しました。なら生存で通せよ!って感じですが、まあそこは一つ。
 
 
 面白かったよ! とか、沙耶生存ルートとかもっといいのがあるよ! とかってありましたら、
 
「Web拍手」「掲示板」「SS投票ページ」
 
 
 などへどうぞ!


PrevIndexNext

| ホーム | 更新履歴・2 | りきお紹介 | 雑記・ブログ | 小説(SS)の部屋 | ■リトルバスターズ!SS部屋 | Webコミック | ■ToHeart2 SSの部屋 |
| ■Kanon&AIR SS部屋 | 頂きモノSS部屋 | 競馬ブログへ | ギャラリー | KEYゲーム考察 | CLANNADの旅 | ギャルゲレビュー | 『岡崎家』アンケート |
| ■理樹君ハーレムナイトアンケート | SS投票ページ | 掲示板 | SS書きさんへひゃくのしつもん。 | リンク集 | What's New | ◇SS投票ページ2 | SS投票ページ |
| SSリクエストページ | 雑記 |


メールはこちらまで。