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★リトルバスターズ!SS部屋★

リトルバスターズ!のSSを掲載していきます。

  24   『大切なゆめ』(クド後日談・佳奈多視点)
更新日時:
2007/10/04 
「大切なゆめ」(クド後日談 佳奈多視点)
 
 
「佳奈多さんっ」
 
 懐かしい声。
 何年も聞いていなかったような、そんな酷く懐かしい声。
 その声がした方向に振り向いた。
 
 視界が捕らえたものは…小さな身体で一生懸命に駆けてくる姿。
 酷く懐かしい姿。
 
「クドリャフカっ」
 
 帽子と、手に持ったマントは煤けていて、とても綺麗とは言えなかった。
 それはあの子が直面した、大きな障害と無関係なはずが無い。
 けれど、今はそんなことは関係ない。
 温かく迎えてあげよう。
 
「わふっっっ」
 
 彼女は、私の目の前、ほんの2m先で見事に躓いていた。
 そのままの角度で、走っていた推進力だけで私のほうに飛んできた。
 
 少し難しい角度だったけれど、彼女の体重を考えれば楽なものだった。
 そのまま抱きとめた。
 
「わふーっ。すいませんです、佳奈多さん」
「こんなところで謝らないで、クドリャフカ。それよりも先に言うことがあるでしょ?」
「あはは。そうでした。
 …ただいまです、佳奈多さん」
「おかえりなさい。クドリャフカ」
 
 久しぶりの感触。
 久しぶりのにおい。
 
 駄目。
 絶対に泣くまいと思っていたのに…。
 
「よく…よく無事で……」
 
 真剣に、もう会えないと思っていた。
 こんな私が、唯一かもしれないほどに気を許せる存在に。
 いなくなって気付いた、大切な…友達に。
 その事に気付いた時から、1人の時は泣いていた。
 そして…今。
 堪えられるわけが無かった。
 
 抱きしめたままの状態で…涙を流していた。
 嬉しくて。とても嬉しくて。
 
 これまで生きてきて、嬉しくて泣いたのは、たぶん初めてのことだった。
 
 
 
 
 
「お邪魔します」
「? 変なの。自分の部屋なのに?」
「いえ。もうここは、私の部屋ではないですから」
 
 確かに、ここには彼女の私物は無い。
 あるとすれば、今持っている彼女の旅行かばんくらいのもの。
 
「それに…寮に入っても良かったのでしょうか?」
「なぜ?」
「だって…私はもう、ここの学生さんではありませんので」
 
 あの日、彼女は旅立った。
 戻るあても無く、片道切符の旅に。
 
 でも、そんなことは許すわけが無い。
 あまりにも、彼女の存在は大きかったから。
 
「まあ座りなさい。お茶でも淹れるから」
「あ、はい」
「何飲む? そうね…緑茶にしましょうか」
「お願いしますっ」
 
 取り出したのは、少し高めの緑茶。
 彼女の国の情勢が改善していくのをニュースで見て、事前に買っておいたものだ。
 向こうでは、紅茶は辛うじて飲めたとしても、緑茶なんてあるわけが無かっただろうし。
 『帰ってきた』のを実感させてあげるには、これが一番のもてなしだろうと思っていた。
 
 お湯を沸かし、まずは湯のみに入れて湯のみを温める。
 また、茶葉を入れる前にお湯だけを急須に入れて少し冷ます。
 それから急須に茶葉を入れて1分半ほど蒸らし、急須に注いだ。
 
「うわぁ。いい香りですー」
 
 きらきらと輝く彼女の瞳を見て、自分のもてなしが成功したことを確信した。
 まあ、何を出しても喜んでくれるのだろうけれど。
 
「いただきますっ」
「どうぞ」
 
 湯気の立つ湯のみを両手で持って、香りを楽しんだ後、一口含んだ。
 その姿は、やっぱり酷くアンバランスなものだったけれど、懐かしさのほうが勝っている感じだ。
 
「わふー。すごく美味しいですー」
 
 気の抜けるような、無防備な笑顔でほっこりする彼女。
 いったい、どんな過酷さを彼女が乗り越えてきたのか?
 それを想像するのは、今は全く出来なかった。
 
「このお茶、高くなかったんですか?」
「何で?」
「この温度でこれだけ美味しいんですから、相当高いお茶に違いありませんっ」
「気にしなくていいわよ。あなたに飲んでもらいたくて出したのだから」
「あ、ありがとうございますっ」
 
 こんなところに気付くのも、彼女らしかった。
 
「佳奈多さんは飲まないんですか?
「あ、うん。ちょっとね」
 
 そういうと、私はあるものを探しにかかった。
 
 
 
「クドリャフカ。あなた『ここの学生さんじゃない』とか言ったわね」
「はい。旅立つ前に退学届けを出しましたので」
 
 探していたものが見つかった。
 まあ、形式的なものなんだけど。
 
「受理されたかとか、確認した?」
「? いえ」
「これ」
「あ、はい。…あ、あーーっっ」
 
 彼女が見て驚いているもの。
 それこそが、
 
「私の、退学届ですっ。何で佳奈多さんが?!」
 
 そう。彼女が提出したはずの退学届。
 
「手を回しておいたの。先生たちにね。
 だから、あなたの退学は保留扱い」
 
 いつか、戻ってくる日のことを考えると、退学ってことだけは避けたかった。
 だから私は、風紀委員長と言う立場を利用して、受理されないように働きかけていた。
 だってここはもう、彼女の居場所なんだから。
 それに私も、心から戻ってきて欲しい、と願っていたから。
 
 
 
「そういえば、彼氏のことは良いの?」
「はい。さっきご挨拶してきました」
 
 この子の彼は、ちょっと得体の知れないところがある。
 でも、彼がいなければ、今の彼女はいない。
 帰ってくることなど出来なかった…。
 同じことを繰り返すこの世界で、
もしかすると唯一の「変えることが出来る」人間なのかもしれない。
 
 ならあの子も…なんてのは、贅沢な望みなのだろうか?
 
「校門で待っていてくれました」
「そう…」
 
 それは、さぞ感動的な光景だっただろう。
 容易に目に浮かんだ。
 
「いっぱい抱きしめてもらったので…。わふー」
 
 恥ずかしそうに、でも嬉しそうに報告してくれた。
 このふたりは、通じ合っているんだろう。
 ちょっとだけ羨ましくも感じた。
 
 
 
 
 
 彼女の思い出話を聞いた。
 辛かったことも話してくれた。
 想像を絶するようなことも。
 それを乗り越えられたのは…彼の存在があったかららしい。
 
 そして2人で家庭科室へ行き、晩ご飯を作った。
 高野豆腐の炊いたのと、こんぶの煮物だった。
 このメニューも、彼女のリクエスト。
 
 部屋に戻り、ふたりだけで夕食をとった。
 
「わあっ。だしの味を久しぶりに味わいましたっ」
「ふふっ」
「佳奈多さんの完璧な味付け、懐かしくて嬉しいですーっ」
「あなたの味付けは、いつも薄すぎるくらいだったものね」
「はいっ。…あ、そうでした。おじいさまが薄味好きだったもので」
 
 学食なんかで食べたくなかった。
 今は。今だけはふたりでいたかった。
 ふたりの時間を大切にしたかった。
 
 
 
 
「ふあぁ…。そろそろ眠くなってきました…」
 
 目をこすりながら言った。
 時計を見ると、もう結構いい時間だった。
 長旅で疲れていることもあるかもしれない。
 
「じゃあ、寝ましょうか」
「はい。 …えっと、私はどこで寝ればいいんでしょうか?」
 
 変なことを言う。
 
「ここしか無いのでしょう? それとも、彼の部屋に行くの?」
「そ、それはないですっ」
 
 あたふたとする姿も可愛らしく思えた。
 前は、少しだけうっとうしく思っていたのだけれど、
そんなことを思ってた過去の自分が、どうしてかすごく腹立たしかった。
 好奇の目で見ていた上級生たちと同じだったのかと感じてしまって。
 
「あの…じゃあ佳奈多さんはどこで寝るんですか?」
「もちろん、ここよ」
「わふっっ」
 
 私が言っているのは、一緒のベッドで寝ようってことだった。
 布団が一組しかないから、シングルサイズのベッドでも2人で寝るしかないのだけど。
 
「前はたまにしてたでしょ?」
「ぅ…そうなのですが…」
 
 何をためらっているのだろう?
 遠慮なんかすることでは無いはずなのに。
 前だって、ふたりで一緒に寝たことはあった。
 本当の姉妹のように。
 
「私が、そうしたい、って言ったら?」
 
 それは本心から出た言葉。
 今は…そうしたい。
 そうしてあげたい。
 …そう思ったから。
 
 大切な両親を失い、彼との約束を胸に此処へ帰ってきた彼女。
 どれだけ心細かっただろう。
 それは…私も同じだった。
 
 大切な…友達を失うことがこんなにも辛く、苦しいことなんて思いもしなかった。
 こんなことなら、ルームメイトになんてならなければ良かったとさえも思った。
 でも、私もただ願った。
 無事を。
 帰ってくることを。
 そして…帰ってきてくれた。
 少しだけ、大きくなって。
 
 そんな彼女の温もりを、少しでも感じていたい…なんて思うのは、私のわがままなのかもしれない。
 けれど、この夜だけはそうしたかった。
 
「では…お言葉に甘えまして…」
 
 そう、日本人らしい謙虚さを言葉に出して、布団の中に潜り込んだ。
 私もそれに続いた。
 
 
 
 
 2人で寝るベッドは凄く狭かったけれど、その狭さが今はうれしい。
 
「わふーっ。佳奈多さんのお布団、すごくいいにおいがしますー」
「そう?」
「はいっ。佳奈多さんからするにおいが、いっぱい布団にしみ込んでますっ」
「…何か犬みたいね」
「? 何か言いましたか?」
「いいえ」
 
 くんくんしてる姿も可愛いんだけれど。
 
「私は、あなたに感謝してるの」
「どうしてですか? 私は、佳奈多さんにご迷惑ばかりかけてるのですが」
「迷惑だなんて…。そんなこと、全然思わなくていいのよ」
「はい…。そうですか……」
 
 わかっていないのだろうか?
 私が、どれだけ彼女自身に救われてきたのかを。
 
 
「私はね。あなたが来るまでは一人ぼっちだった」
 
 これまで、語ることは無かったこと。
 自分自身のこと。
 
「友達なんて呼べる人なんかいなかった」
「そう…なんですか?」
「ええ。あなたも最初は、私がルームメイトに立候補したことに驚いたでしょう?」
 
 この子のルームメイトに立候補したのは…私だ。
 彼女の意向も無視して。
 
「いえ…、はい。本当は、少しだけびっくりしました」
「でしょう? 私のルームメイトは、ずっと逃げ続けられてきたんだから…。
 あなたに興味を持って、最初は、ダメで元々くらいの気持ちだったの」
 
 私のルームメイトたちは、こんな性格の私とソリが合うはずも無く、次々に部屋を去っていった。
 仕方が無い、とも思った。
 日々素行を監視されているようなものだったし。
 何かとトゲトゲしい私の言動も、心地よいものとはいえなかったはず。
 
 でも、彼女が転入し、そのプロフィールを見たときに、興味を持っていた。
 もしかしたら…くらいの淡い期待で。
 
「本当は…最初は、少しだけ怖い感じがしてました。
 でも、佳奈多さんのことを知っていくうちに、どんどん好きになっていったのです」
「そう? 私を好きになる要素なんてあった?」
「ありますっ」
 
 強い口調で言われた。
 聞いたことの無いような口調で。
 
「佳奈多さんは、本当はすごく私のことを想ってくれていて…。
 学校の勉強のことから、料理や、難しい論文のことまで色々と付き合ってくれました」
 
 それは、確かに事実だった。
 
「リキと一緒にいるときも、何度か見逃してもらいましたし、
 部屋を譲ってくれたときもありました。ありがとうございます」
「…」
 
「みなさんがどう思っているのかはわかりませんが、
 私にとってはすごくやさしいお姉さん、って感じですから…。
 すごく好きです」
 
 なんて子なんだろう。
 こんな私をそんな風に捉えてくれるなんて。
 
「私もすごく好きよ。クドリャフカ」
「はりっ。ありがとうございまふっ」
 
 言葉が終わる前に抱きしめたから、語尾がおかしかった。
 
 
 
「…今度、いっしょに影踏みしましょうか?」
「やってくれますか? 佳奈多さんっ」
「お祝いを兼ねてね」
「はいっ! 楽しみですっ」
 
 これからは、この子が喜ぶことは全部してあげよう。
 そして、一緒に笑おう。
 
 
 
 願わくば、次に目覚めるときも、この笑顔が近くにありますように。
 この温もりが近くにありますように。
 こんな幸せな光景が広がっていますように。
 
 そして、もう1つ思う。
 
 もう1人の、私が幸せを願う人にも、どうか幸せが訪れますように。
 次の夢は悪夢でありませんように。
 
<終わり>
 
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 出来ました。アンケートか何かのコメントで「クドEDの佳奈多を描いて欲しい」みたいなことが書かれていたので、そこからイメージして書きました。限りなくGLに近いですね(汗)。でも、佳奈多にはそういうのも似合うと思うのですがw
 しかし、クドって、嫌われる要素がゼロに限りなく近いと思いませんか? 書いていて思ったんですが、同性から見てもほとんど嫌味が無いんですよね…。ですから、ゲーム本編であれだけからかわれたりするのが、余計に違和感がありました。
 このSSですが、佳奈多とクドって凄く仲が良かったと思うんです。特に佳奈多にとっては、クドって凄く特別な存在で、初めて「友達」と言える存在だったのかも、とも。
 クドは初書きでしたが、ほとんど佳奈多のSSですね…。
 
 毎回アンケートを求めるのもアレなんですが、感想などあれば、
 
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