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★リトルバスターズ!SS部屋★

リトルバスターズ!のSSを掲載していきます。

  21   『Far away 第2話』(佳奈多中心、葉留佳シナリオ後日談)
更新日時:
2007/10/20 
※このSSは、「Far away(改訂版)」の続きとして読むと繋がりやすいです。
 
 
 
『Far away 第2話』
 
 
「…でね。葉留佳ったらポン酢とソースを間違うものだから、
 湯豆腐をソースで食べてたのよ?!」
「それはヘビーすぎるね…」
「それ以上は言わないのっ」
 
 他愛も無い日常会話の繰り返し。
 何故か、葉留佳さんの些細な失敗談を佳奈多から聞くことが多い気がしたけど。
 こんな日常なら、繰り返されてもいい、とさえ思った。
 
「理樹くーん。佳奈多ったらヒドイんですヨ。
 私の失敗ばっかしゃべってさ」
「そう? 僕は、葉留佳さんの素が聞けて嬉しいんだけどね?」
「あ…そうなんだ」
 
 そう返すと、一瞬で不満げな表情が晴れやかなものへと変わっていく。
 でも、傍らに居た佳奈多の表情が、一瞬読み取れないような複雑なものになっていたような気がした。
 
「そのほうが葉留佳さんらしいって思うからね」
「私らしい、か。うんっ。そうかもしれないね〜、って、私そんなにドジっ子?」
「ドジっ子って言うか…やっぱりドジっ子?」
「あーっ。ひっど〜い」
 
 そんな日常の光景。
 さっきまでの表情と違い、佳奈多も今は一緒に笑っていた。
 
「葉留佳はドジっ子じゃない。理樹が言うんなら間違いないんじゃないの?」
「あっ。佳奈多まで。ヒドイですヨ〜」
 
 そんな光景を微笑ましく感じていた。
 
 佳奈多と目が合った。
 お互いに目配せして…笑いあった。
 
 きーんこーんかーんこーん。
 
「あ。予鈴。葉留佳、戻るわよ」
「あー。うん。今だけクラス変更っ!! …ダメ?」
「だーめ」
「はぁーい…。んじゃね、理樹くん」
「うん。また休み時間にでも」
「じゃあまた、理樹」
「うん。お弁当、楽しみにしてるね」
「…楽しみにしてて」
 
 そう言うと、2人は自分のクラスへと戻っていった。
 
 
 
「ふむ…」
「…来ヶ谷さん」
 
 特徴あるその呟きの主は、あの人しかいなかった。
 
「少年…。二木女史にいったい何があったと言うのかな」
「何が…って?」
 
 来ヶ谷さんは鋭い観察眼を持っている。
 何か悟られたのだろうか? 僕と、彼女のことを。
 
「私は、あんな表情をする彼女を知らない。
 それに、そんな表情を少年に向けているでは無いか」
 
 どこまでわかっているのだろう?
 あるいは、すべて推測で言っているのかもしれないけど。
 
「…何かあったのかな?」
 
 僕は、しらを切った。
 
「…ふむ」
 
 まあ、この人の前では何をやっても無駄なんだろうけれど。
 少し何かを考えた後、
 
「理樹君。二木女史のことをよろしくな。…もちろん、葉留佳君もだが」
 
 そんなことを言われた。
 
「よろしく、と言われても…」
「兎にも角にも、よろしく、だ。
 君になら、彼女をより魅力的に変貌させることが出来るかもしれないからな」
「…って、それはどういう?」
「はっはっは。まあそういうことさ」
 
 豪快に笑い飛ばして、来ヶ谷さんは去っていった。
 
 
 魅力的に…か。
 
 確かに、以前の彼女なら誰も近づこうとはしなかっただろう。
 仕事が出来る、頭がめちゃくちゃいい、あの毅然とした態度や立ち振る舞いが出来る…とか、
今思い出すと、以前のままでも魅力的なことに気付く。
 まあ、融通が利かない点を除けば、だけれど。
 
 
 
 
「理樹、いる?」
 
 昼休み。
 佳奈多が何か大きな包みを持ってクラスに現れた。
 少し恥ずかしそうに。
 
「お、おい。理樹を呼んだのって、あの二木かよ?」
「うん。そうだけど?」
「マジかよ? あの二木が…」
「何がなんだかさっぱりわからん」
 
 目を丸くして驚く真人と謙吾。
 無理も無いのかもしれないけれど。
 
「じゃあ真人。そういうことで」
「っておいっ、理樹っ。俺たちはいいのかよっ?!」
「そうだっ。俺たちとのランチタイムを捨てて、二木を取るのかっ?!」
「うん」
 
「うわぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあっっつ、じぇらしぃぃぃぃっっっ!!!」
 
 ごろんごろん転がりだす真人。
 
「ああっ…。俺たちの理樹が…」
 
 青い顔で、これ以上無いくらいの絶望感を漂わせる謙吾。
 
「俺たちの望んだ世界は…こんなはずでは無かった…」
 
 いつの間にかそこにいた恭介までも、悔恨の極み、と言う表情をして…。
 って言うか、おかしいのは僕じゃないだろう。
 
「ごめん、待たせちゃったね。じゃあいこっか」
「ええ。
 葉留佳なら先に行って場所取りしてくれてるわ」
 
 僕らは、葉留佳さんの待つ中庭へと向かった。
 どんよりとした空気を漂わす、教室を背にして。
 
 
 
 
「良かったのかしら? お友達は放っておいて」
「うん。別にいつものことだしね」
「そう」
 
 教室を出て2人になり、この会話を最後に何も言葉が出なくなってしまった。
 
 気まずい? 昨日のことがあったから?
 …違う気がする。
 どちらかと言えば、どういう距離感で話せば良いかがわからない感じだ。
 それは、たぶん彼女も同じなんだと思う。
 
 ふと、窓から中庭を見た。
 そこには、レジャーシートを広げて座ってる葉留佳さんがいた。
 ちょっとだけ手を振ってみる。
 
 ぶんぶんっ。
 
 すぐにこっちに気付いて、5倍返しくらいで手を振り返された。
 僕は笑いながら、口だけを動かして『待ってて』と伝えた。
 
「…? どうしたの?」
「あ、葉留佳さんがいたからさ。手、振ってたんだ」
「そう…」
 
 それだけ言うと、彼女は目を伏せてしまった。
 どうしたと言うんだろう?
 何も変わったことはしていないはずなのに。
 
 
 
 
「おっそーいっっ。ふたりともーっ」
 
 待ちくたびれた感を漂わす葉留佳さん。
 場所取りをしてくれていた。
 
「ごめんごめん」
「もうおなかぺこぺこですヨ。
 おなかと背中がくっついちゃうよー」
 
 そういうと、わざとおなかをへこませて、本当におなかと背中がくっつきそうだとアピールしてみせる。
 まあ…そんなに怒ってないみたいだ。
 
「はいはい。じゃあ準備してね?」
「アイアイサー」
 
 佳奈多はレジャーシートの真ん中に、大きな風呂敷づつみを置いた。
 葉留佳さんがそれを開封する。
 中から出てきたのは…お約束(?)の重箱弁当だった。
 
 三段重ね。見事なものだった。
 
 1つ目は…おにぎり。
 2つ目は…メインのおかず。
 3つ目は…野菜スティックやサラダ。
 
 
「こんなに…大変じゃなかった?」
「別に。お弁当って、1つ作るのも2つ作るのも、手間は同じなのよ」
「えーっ。朝5時に起きてやってたのにぃ?」
「葉留佳っ。それは言わない約束でしょう?」
「やはは。ごめんごめん」
 
 
「じゃあ、いただきます」
「どうぞ」
 
 まずは…やはりおにぎりからだろう。
 整然と並んでいる、三角のおにぎりを手に取った。
 そして…ぱくり。
 もぐもぐ…。
 
「おいしい…」
「…そう。よかったわ」
 
 心底ほっとした表情で、佳奈多がこちらを見ていた。
 
 いや。おいしいって言葉だけじゃ済まないおいしさだ。
 ご飯自体も凄く美味しいのだけど、その握り方だ。
 手で持っても、三角形の形は崩れないのに、一口食べてみると、すごく柔らかくてふっくらとしていた。
 こんなの、コンビニとか学食では絶対にお目にかかれない…。
 
「この握り方がマネできないんだよねー」
「まだまだ修行が足りないんじゃない?」
「いやあ…。まあけっこう頑張ってるつもりなんですけどねえ」
 
 葉留佳さんも頑張ってくれている。
 それは嬉しかった。
 けれど、佳奈多のレベルに到達するのはかなり難しいことだろう。
 
 
 本格的にお弁当を味わおうとした頃、葉留佳さんがすっくと立ち上がった。
 
「どうしたの?」
「いやあ。ちょっと用事を思い出したの」
「用事? 昼ごはんよりも大切な?」
「うん。悪いんだけど、2人でゆっくり食べてよ」
「わかった」
「じゃあ、また後でねーっ」
 
 そういうと、ダッシュでどこかへ消えていった。
 そして、その後姿を見送る僕ら。
 
「相変わらず、騒がしいと言うか、忙しい子ね」
「日々、思いつきで行動してる感じだもんね」
 
 弁当に対峙する。
 まだ大半が残ったままだ。
 
「遠慮なく食べてね」
「う、うん」
 
 まだ、軽く3人前くらいはありそうだったけれど、この味なら全部食べきれるだろう。
 胃袋と相談しつつ平らげることにした。
 
 
 
 
「ごちそうさま」
「お粗末さま」
「お粗末さま、は言いすぎじゃない? どれも美味しかったよ」
「そう? ありがとう」
 
 どちらかと言うと和食中心のメニューで、どれも抜群に美味しかった。
 味付けもちょうど良かったけれど、どれも時間をかけないと作れないようなものばかりで、
手間と言うか、作った人の温もりが感じられる気がした。
 これらすべてを、目の前の佳奈多が作ってくれた…。
 僕が食べるために。
 そう思うと、余計に美味しく感じられた。
 
 
 しかし。
 
「ふぁ〜あ」
 
 満腹になると眠たくなるもので。
 
「眠いね…。寝ちゃおうかな?」
 
 木陰を吹き抜ける風はまだまだ涼しい。
 そんな心地よさから、眠くなっても仕方が無いと思う。
 
「もう…。食べてすぐに寝るのは、身体に悪いのよ?」
「牛になる、んだっけ?」
「牛になんてなるわけないじゃない。
 でもまあ、昔の人はよく言ったものね」
 
 胃液が逆流して、食道を荒らすらしい。
 でも、目の前にある睡眠欲には勝つことはできないようだ。
 
「それでも…寝る?」
「うん…。やっぱり眠いよ…」
「仕方ないわね」
 
 僕は、レジャーシートにごろんと横になった。
 斜め上のほうに、佳奈多の顔が見えた。
 何かを躊躇っているような…そんな表情をしていた。
 
「ねえ…理樹。ここ…来る?」
「ここ?」
 
 意を決したように、彼女が話しかけてきた。
 ここ?
 
 指差したそこには…彼女の折りたたんだ足があった。
 
 ……。
 …。
 
「膝枕、試してみないかなって…」
「…」
 
 見ると、その顔はもう真っ赤になっていた。
 恥らう表情は…すごく可愛いと思った。
 
「嫌? なら…強要しないけど…」
「嫌なわけないよっ。ぜひお願いします」
 
 彼女の決心が変わらないうちに、させてもらうことにした。
 
「この辺かな?」
「そう…ね。よくわからないから、あなたの気持ちいい場所でいいわ」
 
 頭を載せてみる。
 …あったかい。
 …気持ちいい。
 
「どう?」
「すごく気持ちいいよ」
「そう」
 
 ミントの香りも、より近くから感じられる。
 それも含めて気持ちよかった。
 
 
「でもさ。何でしてくれる気になったの?」
 
「ほら、こういうのって定番じゃないの?
 …きな人にしてあげるって」
「え?」
「な…なんでもないわ」
 
 焦る表情も可愛かった。
 そして、気付いてしまう。
 
 自分の、変化しつつある感情に。
 彼女に対する気持ちに。
 
 そういえば、昼休みに入るまでの微妙な空気感は、今は全く感じなかった。
 とても自然に話してて。
 あれはいったい何だったんだろう?
 考えてはみたけど、現実の気持ちよさに抗うことなんて不可能で…。
 
「ほら…寝るんでしょう?」
「うん…」
 
 涼しさと温かさに負けた僕の意識は、いつしか遥か彼方へと飛んでいた――。
 
 
-----------------------
 
 
 膝枕で居眠りしてる、彼の顔を眺めていた。
 すごく無防備な表情だった。
 もともと童顔なのに寝顔だったから、いつもよりも可愛らしい感じがした。
 
 髪を撫でる。
 思ってた以上にサラサラで、感触の心地よさに酔うように、何度も何度も撫でる。
 香水とか制汗スプレーとか、そんなものはつけていないんだろう。
 彼のにおいがそのまま感じられた。
 
 それは、とても心地いいものだった。
 同時に再認識させられた。
 
 …好きなんだと。
 
 彼が美味しそうに私が作ったお弁当を食べる姿を見ているだけで、どれだけ嬉しかったことか。
 朝早く起きて…ううん。本当は、昨日の夜から仕込んでいた。
 昆布が柔らかくなるように。
 大根に味が染みますように、と。
 何で和食にしたのかはわからなかったけれど、たぶんこれが一番美味しく出来ると思ったから。
 彼の食べ方を見て、自分の考えが間違いじゃなかったことがわかった。
 
 そして今、彼が膝の上で寝ている。
 味わったことの無い、満たされた気持ち。
 
 しばらく、その感触と感覚に身を委ねた。
 
 
 
 腕時計を見る。
 そろそろ予鈴が鳴りそうな時間だった。
 
「起きて、理樹」
 
 名残惜しかったけれど、授業をサボってまで続けるわけにもいかないし…。
 まだ膝の上で気持ち良さそうに眠っている、彼を揺り起こした。
 
「…ん? もう朝?」
「朝…じゃないわよ。今は昼」
「昼…? 寝すぎたんだね」
 
 寝ぼけているのか、言葉がおかしかったけれど…。
 目を擦りながら私を見た。
 
「ねえ、葉留佳さん」
 
 
 
 
 …。
 
 その言葉を疑った。
 今、私のことを「葉留佳さん」って…。
 そして、次の言葉に驚いた。
 
 
 
「キスしようよ」
 
 
 
 彼は寝ぼけているんだろうか?
 
 今は至近距離にいる。
 間近で見れば、私と葉留佳の違いは…わからないのだろうか?
 
 でも、今はそんなこと、問題じゃない。
 
 私次第。
 私の気持ちの問題。
 
 勘違いされているままだけど…。
 彼がキスしようと言ってくれている。
 
 私の気持ちは…『したい』って思っていた。
 
 どんな形だっていい。
 彼と…してみたい。
 それが、間違いだったとしても。
 一瞬だけの思い出になったとしても…。
 
 やらないで後悔するよりも、やって後悔したほうがいい。
 彼だって、聞かれたらこう答えるのだと思う。
 
「うん。しよ? 理樹くん」
 
 私は、あの子の口調を真似て、そう告げた。
 
 
-----------------------
 
 
「んっ」
 
 僕の唇が、温かく柔らかいもので包まれた。
 同時に、首に、背中に、胸にも。
 
 最初は目を瞑っていたけれど、しばらくしてから目を開いた。
 葉留佳さん…だと思っていた。
 
 思っていた…。
 
 
 でも、視界の先に見えた髪の毛は…葉留佳さんのそれでは無かった。
 で無ければ、誰とキスしているのか?
 答えは1つしか無かった。
 
 
 佳奈多とキスしている―。
 
 
 信じられなかった。
 でも、思い出していた。
 昼休みに、一緒にお弁当を食べて、そして…膝枕してもらっていたことを。
 その時の心地よさを。
 
 僕は、キスしている相手が佳奈多だとわかっても、離れることが出来なかった。
 
 
 
 その時。
 
 
 
 ぐしゃっ、と、何かが潰れる音がした。
 音の源へ視線だけを向けた。
 そこには…。
 
 
 
 葉留佳さんがいた。
 
 
 視線は定まっていない。
 こちらを向いているが、僕とは視線が交錯していない。
 
 その瞳は…今自分が見ている光景が信じられない、そんな瞳だった。
 
 目が合った。
 一瞬だけだったけれど。
 
 刹那、彼女は駆け出していた。
 潰れた、おそらくはケーキの箱をそのままにして。
 
「…どうしたの?」
「うん。…いや」
 
 佳奈多はそのことに気付いていなかった。
 けれど、そのことは…言わなかった。言えなかった。
 
「佳奈多…」
「うん。…??? 理樹、わかってたの?」
「途中からだけど」
「そう…だったの…。その…騙したみたいでごめんなさい」
「ううん。こっちこそ、気付かなくってゴメン」
「…嫌じゃなかった?」
「ううん。そんなこと無いよ」
「そう…。なら安心したわ」
 
 そんな、ほっとした表情の彼女とは目を合わせることが出来なかった。
 僕の目は、床に落ちて潰れた、おそらくはケーキの箱だけを見つめていた。
 
 
<第2話終わり⇒第3話に続く>
 
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 りきおです。いかがでしたか?
 ようやく、連載ものとして流れが出来てきましたね。ええ、思いっきり次は修羅場ですが(汗。ほのぼの展開をお望みの方には申し訳ない限りですが、佳奈多と葉留佳を描くには、やっぱりこういうシチュのほうが盛り上がりますね(?)。続きも、冒頭部分だけは描けているので、そう時間は掛からないかと思います。
 感想や続きへの期待などあれば、
 
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