『第一回、理樹君ハーレムナイトでウッハウハ、こりゃヤバイぜヒャッホウっ!! 大会』
「直枝さん」
「あ、西園さん。どうしたの? こんな時間に」
放課後。突然呼び止められた。
「これを見てください」
「ん? これ?」
見せられたのは…何やら訳のわからない模様の絵。
ただの…絵。
…あれ? だんだん気が遠くなって…。
ばたん。
「…成功してしまいました」
「おお。でかしたー、みおちん」
「すごいです。さすが『○×おまじない辞典』です」
動けないようにするおまじないって…。
手も足も顔も動かせない…。
「んーっ。リキは太ってないんですが、さすがに私ひとりでは持ち上がりませんーっ」
「あ、ごめんごめん、クド公。みおちんも手伝ってよ」
「…それから、直枝さんを独占できるおまじないは…」
「みおちん…?!」
「ああ。そうでした。まずは直枝さんを運ばないと」
会話が聴こえたのはそこまでだった。
もう、意識も何もない。
身体が持ち上げられて、それで…。
ぼんやりと視界が開けてきた。
身体を動かそうとする。
でも、手が縛られているのか動かなかった。
…あれ? 前にもこんなことがあったような…。
「お。起きたか、理樹」
「あ、鈴」
その声を聴くと、どうしてか落ち着けた。
「なんかえらいことになりそうだ」
「えらいこと?」
まあ既に、この状況からして「えらいこと」なんだけど。
「あっ。主賓が起きたようだな」
この待遇は、主賓と言うよりは…。
「ああ。理樹君を縛っているのはだな…。
このほうが単に萌えるからだ」
「はぁ…」
えらく倒錯した趣味のようだ。
「ちなみに、私が拉致しました」
そういうと、ぐっと親指を立てて見せた。
いや…全然嬉しくないんだけど。
「えらいぞー、みおちんっ」
「さすがですっ、西園さんっ」
「…もっと褒めてください」
西園さんはすごく誇らしげだ。
「役者が揃ったところで始めるか」
来ヶ谷さんはそういうと、手に持った巻紙を広げようとする。
助手?なのか、葉留佳さんと西園さんが手伝っていた。
クドも手伝おうとしてたけど、身長が足りないせいで役に立ってなかった。
「第一回、理樹君ハーレムナイトでウッハウハ、
こりゃヤバイぜヒャッホウっ!! 大会だ」
「ひゅーっ、いいぞ姉御ーっ」
…。
何なんだ、それは。
今の状態が…ハーレム状態?
…こんな、拘束された状態が。
わけがわからない。
ただまあ、ここにいる女の子たちは、みんな僕が好きな子ばかりだ。
そういう意味では、確かに嬉しいシチュエーションなんだけれど。
「じゃあ、理樹くんにどこまでされたかっ?! 告白たいかーいっ!!」
葉留佳さんの突発的な言葉で、またも状況が変わった。
僕は彼女たちに、どこまでしてしまったんだろうか…。
ちょっと聞くのが怖かった。
「キスは…何回もしたよねー、理樹くん」
「うん。そうだね」
「あたしもしたな」
「私も何度もしてもらいましたっ」
「わたしもしました。…結構感動的でした」
全部覚えている。
って言うか、僕はどれだけの女の子と付き合っていたのだと言うのか…。
「うわ、わ…私、してもらったりされちゃったりしてないぃぃ…」
「くっ…。私もまだその段階まで行って無いぞ…」
「あ〜。でもなんか、しちゃったような記憶があるようなないような…」
仲間はずれがふたり。
でも、片方とはした感触があるような無いような…。
いや…別に差別していたわけじゃあないんだ。
なりゆきなんだ。展開上、仕方が無かったんだ。
…僕は、誰に向かって言い訳しているんだろうか?
「ねー。ねー、他には何かない?」
「あー、その代わり〜、デートに行ったよ」
「行ったね」
「うんっ。湖で、ボートに乗ったよね〜」
「おー。それはデートっぽいですネ」
「お風呂入ったな」
「入ったね」
「なんとっ。可愛い顔してやっちゃってますネ」
「背中とかぴったりくっついてたな」
「くっついてたね」
「あのときはなんか恥ずかしかったな」
「うん」
「いま思うと、なんで恥ずかしかったのかわからないけどな」
「わからないんだ?!」
「だ…だいたんだね…りんちゃん」
「それなら、私だって負けてませんっ。
上半身はだかで、おまじないしてましたっ」
爆弾発言。
…なのか?
「お互いの身体に、願いを込めた模様をかきかきしてましたっ」
「あー。でも、『おまじない』なんだったら、そんなに凄くないかもね、クド公」
「がーん。最終兵器が無力化されてしまいましたっ?!」
それが最終兵器ってのも凄い。
確かに、あの行為はあんまりいやらしくなかったし。
「わたしは…直枝さんに押し倒されました」
「えっ?! あれは…その」
「そうなんですか? リキは強引なのがお好きでしたか…」
かなりの誤解をされている。
「胸をわしづかみにされました」
「わしづかみっすか?! こう…ぎゅ〜っと?!」
ああ…そうだっけか。
感触が無かったから、あまり覚えていない…。
「もうお嫁には行けませんので、直枝さんには責任を取ってもらわないと…」
「みおちゃんが可哀想だよ〜」
「うう…。リキ、ちゃんと責任を取ってあげてください…」
「理樹がもらってやるほかなさそうだな」
僕の前には、下り坂にレールが敷かれているようだ。
「…既成事実がありますから」
「ありゃりゃ。ま、キセイジジツがあるなら仕方ないですネ」
「うむ。美魚君の貞操を奪ったのなら致し方あるまい」
僕が今まで築いてきたものは、おそらくすべて崩壊した。
「冗談です」
「冗談なんですかっ」
ようやく引き下がってくれた。
「押し倒されたのは事実ですが…」
そういうと、顔をぽっと赤く染めて僕をちらっと見上げた。
…そこはフォローしてほしかった。
「くっ…。理樹君とイイことしてたのは、みんなおっぱいの小さい子ばかりじゃないか…。
と言うか、私だけいい思いをほとんどしていないじゃないか…」
来ヶ谷さんは悔しそうに、こぶしをぷるぷる震わせながら吐き出した。
いや…まあ。でも、そんなつもりは無いんだけど。
「そろそろ、理樹君を縛ってるの、解いてあげないかな?」
ナイス、小毬さんっ!
「今はもう、理樹君を縛ってるのって意味ないと思うからー」
「確かにそうですネ」
そうして、ようやく僕の拘束は解かれることとなった。
「直枝さんとは、海に行きました」
「海? あの旅行じゃなくて?」
「そうです。2人きりで、です」
「あ〜っ。みおちん抜け駆けズルいぞ〜っ」
行ったのは確かなんだけどね。
「すごくデートっぽいです」
「海ですか…。
『ダメだ! 早まっちゃいけないっ!!』
『もう無理なんです。私なんかいないほうがいいっ』
『バカヤロウっ!!』
ぱぁんっっ。
『痛っ!! 何を…』
『その命はな…。キミひとりのものじゃないんだっ!!』
『あ…あああぁっ…リキ…』
ぐすっ…。泣けるお話です…」
「大半が2時間ドラマの展開なんだけど…」
クドの妄想力もなかなかのものだ。
「でも、海水浴とかにも行けたらいいよね。
この前は、夏が過ぎてたから、泳いだりとか出来なかったけど」
「海水浴ですか…」
想像した。
西園さんの水着姿を…。
普段は肌の露出が少ない彼女なだけに、すごく新鮮なんだろうな、って思った。
「変態です、直枝さん。それに、私の水着姿なんて…」
そういうと、自分の胸をあたりを押さえた。
…。
「…お見せできるようなものではありません」
そう寂しく呟いた。
「まあ、水着姿なら私たちの出番だ。まあ、コマリマックス」
「ええっ?! 私も入ってるの? ゆいちゃん」
「あ…ああ。小毬君のが大きいのは、みんなの共通認識だからな」
「そうだな。こまりちゃんのはかなり大きかった。
せなかに当たったときとか、ぽよんぽよん言ってたもんな。
あたしとじゃ、太陽とすっぽんだ。…なんですっぽんなんだ?」
「あぅあぁぁ…。理樹くんが聴いてるのにぃ…」
小毬さんが大ピンチだった。
でも、実は大きいのか…。いやいや。
「小毬君と鈴君のお風呂…。
ぜひ次は、その背中と胸の間に挟んでほしい。いや、挟まれたい。
挟んでくれないだろうか?」
真の変態さんがいた!
「待ってくださいっ」
威勢のいい声と共に出てきたのは…この話題とは無縁そうなクドだった。
「西園さん。小さいことで悩むことなんかありませんっ。
ぽじてぃぶに考えましょう。れっつ・ぽじてぃぶ・しんきんぐですっ」
「能美さん…。どう考えても、わたしたちには勝ち目がありません」
ちっちっち、と、指を立てて余裕のポーズを取る。
「違いますよ、西園さん。ここは、逆転の発想が必要なのですよ」
「逆転の発想?」
かつて流行った、某番組のテーマ曲が流れた気がした。
「小さい…いいえ、無いことを逆にウリにするんですっ」
「…無いことを?」
「はいっ。ここまで胸に恵まれなかった高校生なんて、そうはいないはずです。
つまり、その希少価値をアピールするのですっ」
「…!! それは気付きませんでした」
まあ、2人の胸が小さいのはよくわかってる。
「幸い、リキは小さいのがイイみたいです」
「そういえば、鈴さんも三枝さんも大きいほうではありません。
神北さんだって、それなりのサイズでしかありませんし…」
「なら、私たち2人でコンビを組みましょう」
「…コンビ?」
「そうですっ。
私たちの胸にちなんで…『洗濯板しすたーず!』はどうでしょう?」
「洗濯板シスターズ…?!」
「はいっ。胸が無いことを『洗濯板』と言うそうです。
私たちはそれを堂々と公言して、活動をするのですっ」
「洗濯板…」
そういうと、西園さんは自分の胸を両手で確かめるように触った。
「能美さん。ちょっと良いですか?」
「はいっ。どうぞ、西園さん」
意図を察したのか、クドは胸を突き出すようにして張った。
そのクドの胸を、西園さんは確かめるように触っていた。
…。
……。
「確かに、わたしたちの胸は似たようなものです。洗濯板と言っても過言ではありません」
「ですよね? 私の思ったとおりですっ」
「わ…わたしにも触らせてくれないか?」
「来ヶ谷さんはダメですっ。私たちと対極過ぎます」
「そうです。わたしたちと志の異なる貴女には触らせることは出来ません」
「くっ…」
「リキ。どうぞっ」
「?」
クドが胸を突き出してきた。
「ぜひリキに触ってもらって、その良さを確かめてくださいっ」
その発想はとても大胆だった。
せっかくだったから、感触を確かめさせてもらうことにした。
さわさわ。
「んうっ…。リキ、触り方がいやらしいですっ」
「…」
あばら骨の感触しかない…なんて思ってたけれど、前言撤回。
うっすらと感じる柔らかさは、確かに大きな胸では感じられないものだろう。
その様子を、顔を赤くして西園さんが見つめていた。
クドほどは大胆になれないのだろうか?
でも僕は、あのハプニング的に触れたとき以外に触ったことは無いわけで。
もう一度確かめてみたい気持ちがあったから、ちょっと残念だった。
けれど、僕の思いはいい方向に裏切られた。
「なら…能美さん、こうしてみてはいかがでしょう?」
突然、後ろから西園さんに抱きしめられた。
背中全体に彼女の温もりと感触が伝わる。
「それはぐっどあいであですっ!
『洗濯板しすたーず!さんどうぃっちですっ」
クドが正面から抱きついてきた。
今度はお腹とか胸に、クドの温もりと感触が伝わる。
胸の感触は…そんなには感じなかったけれど、
「洗濯板」
なんてゴツゴツした感触とは程遠い。
女の子特有の柔らかさを感じて気持ちよかった。
「どうですかっ、リキっ」
「どんな感じでしょう? 直枝さん」
「うん。すごく気持ちいいよ」
「そうですかっ。では、もっと押し付けてしまいます〜っ」
うわ…。何か満たされた気がする。
そうこうしている間に、鈴が近くに来た。
「理樹? 胸を触りたいのか?」
「うん…。って、いや」
「あたしのならいいぞ。洗濯板じゃないし、むしろすこし触りがいがある。
それでいて、理樹の好きな小さめだ」
「うん」
「たぶん、理樹の求めているのはこれだと思う。確かめてくれ」
差し出されるがままに鈴の胸に触る。
ふに。
あ…確かに柔らかいし、おっぱいの感触がある。
と言うか、服の上からだと言うのに、ずいぶんとリアルな感触なんだけど…。
「ちなみに、さっき下着はぬいだ」
「?!!」
リアルなわけだった。
「り、りんちゃん相変わらずだいたんだね…」
「私もあそこまで出来ないかなー」
「くっ。この場合、おっぱいを触ってもらってる鈴君を羨むべきか、
それとも、鈴君のおっぱいを触れる理樹君を羨むべきか…」
「どっちかにしなよ、唯ねえ…」
ヘンな葛藤をしてる人がいた。
それはさておき、この感触をもっと確かめることにした。
「んっ…。理樹、触りかたがいやらしい気がするっ…ぅんっ…」
「そうかな? でも、すごくいいよ」
ふにふに。
手から伝わる感触は、気持ちいいとしか脳に伝えてこない。
手ですっぽりと覆えるくらいのボリュームでしかなかったけれど、
鈴の言うとおり、僕が求めていたのはこれだったのかもしれない。
「わふーっ」
「…」
「理樹…」
あったかい。
気持ちいい。
いいにおい。
そして、ようやく理解できた。
今のこの状況は、まさしく「ハーレム状態」だと言うことを。
何て幸せものなんだ、僕は。
「我慢できないーっ。私も混ざるーっ!!」
葉留佳さんが突入してきた。
「わ、わわわ私もーっ」
小毬さん突入。
「おねーさんのおっぱいで窒息させてやろう」
来ヶ谷さんも。
もう、みんなにもみくちゃにされて、
あったかいやらやわらかいやらよくわからない状態に。
「そこは触っちゃだめーっ!!」
「理樹…その触り方はやらしすぎるっ…んっ」
「洗濯板しすたーずとしても負けられませんっ」
「直枝さん。もっと感じてください」
「おねーさんのおっぱいはいかがかな?」
「わ、わたしのお、おおおっぱいもどうかな?」
もう、満員電車状態。
わーとかきゃーとかむちゃくちゃに。
…すると、がちゃり、と扉が開いた。
「ちょっといいかしら?」
「あ、佳奈多さんっ」
「やばっ。佳奈多じゃん」
風紀委員の見回りのようだ。
さすがにうるさかったと思う。
「やっぱり、あなたたちだったのね、クドリャフカ。葉留佳。
ほんとしようが無いんだから」
「すみませんです…」
「ごめんごめん」
「さすがに近所迷惑だから、今日はもう終わりにしない?」
「…仕方ありませんね。わかりました」
「はぁい」
どうやら終わりそうだ。
しかし、僕には何でお咎めが無いんだろうか…。
一番「いること」自体が良くないはずなんだけど。
「うむ。これにて『第一回、理樹君ハーレムナイトでウッハウハ、
こりゃヤバイぜヒャッホウっ!! 大会』は終了だな」
「何? その怪しげな名前の大会は…」
「ふむ。気になるなら、次は二木君も参加するといい」
「…考えておくわ」
「考えておくんだ!?」
そして、思い思いの方向に散っていった。
「ただいまー」
見慣れた自分の部屋へと戻った。
「おおっ。待ってたぜ! 理樹ッ」
「もう帰ろうかと思ってたが、帰らなくて正解だったな」
「ああ! これから俺たちと理樹とのハーレムナイトの始まりだなっ」
…えー。
この日は、いつもの3倍くらいに長い夜だった…。
<つづく?>
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りきおです。もうSSとしての体裁も為していない気がします(汗。
何となく、貧乳キャラ…特にクドと美魚が出張ってしまいましたが、たまたまです。「理樹君ハーレム状態」で妄想をしていたら、クドとみおちんがもの凄く活躍してくれたんで、そのまま書いてみました(汗。
こんなものでよかったのかな…。オールキャラものは難しいですね。
もし宜しければ、感想をお願いします。
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