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★リトルバスターズ!SS部屋★

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  19   『Far away 第3話』(佳奈多中心、葉留佳シナリオ後日談)
更新日時:
2007/11/11 
『Far away〜第3話』
 
 
 
 
 次の日。
 
「理樹くーんっ」
 
 朝、HR前にいきなり抱きつかれた。
 
「ど、どうしたの? 葉留佳さん」
 
 僕は、出来るだけ昨日のことで動揺しないように、冷静に返した。
 
「やはやは。あのさ、今日の放課後、ヒマかな?」
「放課後?」
「うん。ちょっと理樹くんと行きたいところがあって」
「どこなの?」
「学校の裏山にある公園。すっごく景色がいい穴場なんですヨ」
 
 葉留佳さんの本心はわからなかった。
 けれど、何かキッカケが欲しかったのも事実で。
 
「うん。それじゃあ、放課後よろしくね」
「やたっ。うん、じゃあ放課後ヨロシクーっ」
 
 即決していた。
 
「やはー、真人くん」
「おっ。三枝。今日も理樹とデートの約束か?」
「そうなのですヨ。いやあ、今日の放課後が楽しみだなーって」
「ふーん。相変わらず仲いいな、お前ら」
「そ、そうだね」
 
 真人は呆れ顔だったけれど。
 
 
 
 
「到着〜っ」
 
 そこは…確かに見晴らしのいい場所だった。
 それに、穴場と言うだけあって誰もいない。
 ふたりっきりだ。
 
「確かに景色いいね」
「いいでしょ? でしょ?」
 
 少し前まで歩いて、柵に手をかけた。
 夕陽が沈みかけて、少しひんやりとなった風が気持ちいい。
 
「…ふたりっきりだね」
 
 ぽつり、と葉留佳さんがつぶやいた。
 そして次の瞬間。
 
 ぎゅっ。
 
 後ろから抱きつかれていた。
 強く。とても強く。
 
 
 …つよい。強すぎる。
 
 
「痛いよ、葉留佳さん」
「…痛い? このくらいで?」
 
 ギリギリと締め付けられる。
 腕がみしみしと軋むような音がした。
 
「わたしはもっと痛かったよ…。
 心が…胸が軋んだんだ」
「…」
 
 何処からこんな力が出るのか?
 そう思いたくなるくらいの…力。
 
 たぶん、もうすぐ僕の身体は壊れるんだろう。
 
 
 同時に、背中に温かく湿った感触が伝わる…。
 …泣いてる?
 
 そして気付く。自分の愚かさに。
 
 
「見てた。…全部見てた。…つとしてたこと、ぜんぶ」
 
 
 
 腕にかけられていた力は、首へと回っていた。
 ―締められる。
 
 …苦しい。
 息が出来ない。
 
「苦しかったんだよ。息が出来ないくらいに…」
 
 このまま、窒息してしまいそうなくらいに…。
 でもそれは、僕の罪。
 寝ぼけていたとはいえ、彼女を裏切ったことに違いは無いのだから。
 
 薄れゆく意識の中で、悔いていた。
 彼女を傷つけたことを。
 
 
 …。
 
 
「あ…ごめん、理樹くん」
 
 突如、締め付けられていた力が緩んだ。
 
「わ、わた…わたし、またやっちゃってたんだ…」
 
 さっきまでとは違う、弱弱しい声。
 吹けば消えそうな声。
 
「ど、どどうしよう…。ごめん理樹くん」
 
 げほっ、げほっ。
 狭められていた気道が確保され、肺が空気を求めてむせた。
 
「…きらわれちゃう。だいすきな理樹くんに嫌われちゃう…」
 
 背中越しに、小刻みに震える感触が伝わる。
 
「ぐすっ。わたしには…理樹くんしかいないのに。
 理樹くんがいなくな…たら、わたしなんて生きていけないのに…。
 何で…ぐすん、なんで止まらなかったんだろ…」
 
 ひっくひっく、と、嗚咽交じりの声が聴こえた。
 
 僕は、身体の前にある彼女の手に、自分の手を重ねた。
 
「僕は、いなくならないよ。葉留佳さんの前からは」
 
 彼女は…失うのが怖いだけなんだ。
 どうして、そこに気付いてあげられなかったんだろう。
 
「本当に悪いのは、理樹くんじゃないのに…。
 これじゃまるで…理樹くんに八つ当たりしてるみたい」
「いや…僕が悪いんだ。
 葉留佳さんをこんなにも不安にさせてしまって」
 
 次第に震えが止まってきていた。
 落ち着いてきたのかもしれない。
 
「ごめんね、理樹くん。彼女がこんなで…。
 重たいでしょ? しんどいでしょ?」
「そんなこと無いよ」
「私ってさ、やっぱり…変われないみたい。
 あの頃の…自分でも嫌いだった自分から」
 
 僕も、自分が好きだ!と声を出して言えるほど、自分が好きじゃない。
 むしろ葉留佳さんと同じで、嫌いなことのほうが多いかもしれない。
 
 でも…それが現実なんだから。
 そんな自分と、そんな葉留佳さんと向き合っていかないといけないんだ。
 
 
「ケーキ…美味しかったよ」
「え? …あれ、食べてくれたの?」
 
 あの日、彼女はケーキを持って来ていた。
 僕に食べてもらいたくて。
 そのケーキは地面に落ちて潰れてしまっていたけれど、持ってかえって食べさせてもらった。
 
「あい…ううん、佳奈多のと比べてどうだった?」
「うーん…。やっぱり佳奈多のほうがまだ上かな?」
 
 正直に言った。
 最初の頃に食べたシフォンケーキとは全く違っていたし、美味しくなっていた。
 だから本当なら「葉留佳さんのほうが美味しくなってたよ」とか言うべきかもしれなかった。
 けれど、なぜか嘘はつけなかった。つきたくなかった。
 葉留佳さんにもっと上手になって欲しいってのもある。
 でも心のどこかで、佳奈多の存在が大きくなっていたのも事実なんだろう。
 
「あれ、かなりの自信作だったんだけどなー。あ、潰れたからしょうがないか」
 
 残念そうに葉留佳さんがつぶやく。
 やっぱり、ちょっと申し訳ない。
 
「また作ってよ」
「もっちろん。今度は、理樹君のほっぺを地面までぽとーんと落としてみせるんだから」
「ははは…。そこまでは勘弁して」
「いやいや、やってみせますヨ」
 
 
 
 
 何とか葉留佳さんにも許してもらえた。
 
 でも今の瞬間も、ふと同じ顔をしたもう1人のことを思ってる僕は、
とんでもない罪びとなのかもしれない…。
 
 
--------------------------------------------
 
 
「ふぅ」
 
 これで何度目なんだろう?
 ベッドにあお向けに寝て、天井を見上げて、ため息をつく。
 こんな、何の進歩も無いことを繰り返していた。
 
 今日は、彼とまともに話していない。
 放課後もあの子との約束があるとかで、一緒に帰れずじまい。
 思えば、昨日の帰りから気まずい雰囲気になってしまってた。
 
 昨日のことは…早まったのかもしれない。
 寝ぼけている彼を正さず、あの子のふりをして…キスしたんだから。
 
 でも、彼も途中からは気付いていたはず。
 その相手が私なんだってことを。
 
 自惚れかもしれないけれど、彼だって私のことを…。
 少なくとも嫌いではないはずで。
 
 ううん。
 この際、彼のことはどうでもいい。
 問題は私。
 私の気持ち。心。
 
 キスされてから、頭の中はほとんどが彼になってしまった。
 彼のことしか考えられない。
 授業中に当てられて、答えられなかったなんて経験を初めてしてしまったくらい。
 風紀委員の仕事だって、もうまともにこなせていない。
 
 キスしただけ…。
 私にとって、初めての…キスをした…だけ。
 本当にそれだけのこと。
 それだけのこと…なのに。
 
「ふぅ」
 
 私の口から出るのは、意味の無いため息ばかり。
 
 後悔の気持ちもある。
 あの子への…裏切りにも取れるから。
 
 妹の彼とキスしたんだから、そう思われても仕方が無い。
 
 
 
 こんこん。
 扉をノックする音。
 
 あの子しかいない。
 
「あの…佳奈多、いる?」
「何? 何か用?」
 
 動揺してはいけない。
 知られることは避けたい。
 
 私は、いつものように平静を装って返事をした。
 
「あのさ。もう一度シフォンケーキの作り方、教えて欲しいんだけど、いいかな?」
「え? また? 前に教えてあげた以上のことは知らないんだけれど」
 
 そのことか…。
 ちょっとだけほっとした。
 
 あの子は、どうも不器用だと思う。
 だからこそ、余計に劣等感を持っていたのだろうけれど。
 
「あー…そうなんだ。でもね、何かうまくできなくてさ。やはは」
「私も、レシピを見ながら作っただけなんだけどね。まあ、いいわ。入って」
「あ、うん」
 
 そういって招き入れると、一番美味しく出来たレシピ本を本棚から取り出す。
 
「へぇ〜っ。お菓子の本、たくさん持ってるんだ」
「ま、まあね。本によって違うことが書いてたりするから、どれが正解かわからないじゃない。
 だから全部試してみたのよ」
「そっか…。そうなんだ」
 
 この子にしては、鋭いところに目をつけている。
 ケーキ作りが上手くなりたい、って真剣に思ってるのかもしれない。
 
 レシピ本を見ながら、私はおさらいのように作り方を教える。
 注意すべき点は重点的に。
 
「小麦粉のふるいは丁寧にやること。
 あと生地に混ぜるときにも、ちょっとずつふるいしながら入れること」
 
 私の言う事を、メモを取りながら真剣に聞いていた。
 
 でも、その真剣な様を見て、ふと気付いた。
 
 もし、彼女が完璧なシフォンケーキを焼けるようになったらどうなるんだろう、と。
 
 私が出来て、彼女が出来ないことが1つ減る。
 ただそれだけのこと。
 それだけのこと…なんだけれど。
 
 私が出来て、彼女が出来ないことなんて山ほどある。
 お弁当なんてそう。
 この子は、せいぜい卵焼きくらいのものだろうし。
 
 けれど、これからどんどん上達し、私から吸収していって、
…私のと同じくらいのものが作れるようになったら?
 
 不器用だから、それはあり得ないことかもしれない。
 けれど、この子の彼への真剣な想いが、それを乗り越えさせるかもしれない。
 そうなったら…私はどうなるんだろう?
 
 私だけが、彼にしてあげられることが無くなったら?
 私と、彼を繋ぐものは?
 
 
 
 そこまで考えて、気付いた。
 
 
 失うのが怖いんだ、と。
 
 
 もう…彼との繋がりを失いたくない。
 もう…彼なしの世界なんて考えられない。
 
 こんなにも弱かったんだ、私は。
 今まで、自分は結構強いと思ってた。
 強く生きてきたつもりだった。
 
 でも、弱さを自覚した。
 
 あの時だってそう。
 彼がいなければ、私は前にも進めなかったんだから。
 
 
 
 だから今、
 
「メレンゲはね、卵白をあまり冷やさないほうが泡立つの。
 ふわふわ感を出すためには重要ね」
 
 なんて嘘を教えてしまう。
 
「水は少し少な目にね。そうしないとしっとり感が出ないんだから」
 
 全部嘘だ。
 
 
 
 あんなにもその存在を守りたかった妹を、捨てた。
 そして、自らの想いを、彼を、選んだ。
 
 叶うかどうかもわからない選択肢を、私は選んだ。
 
 本当なら、妹を応援してあげるのが人として正しい選択なのだろう。
 でも私は、キスされたあの瞬間を思い出していた。
 
 最低ね、私って。
 
 
 
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「ありがとー、佳奈多。これで理樹君を喜ばせられるよ」
「あ…う、うん。そうね。大丈夫だと思うわ」
 
 どの口で言ってるんだか。
 私の大切な人を奪おうとした、薄汚い口で。
 
 …ううん。
 『奪った』んだ。
 
 どう誘惑したのか知らないけど。
 
 
 こんな奴を、一瞬でも好きになった私がバカみたい。
 
 でもまあ…いいんだ。
 理樹君に、私の作ったシフォンケーキを食べてもらって、
 『美味しい』って言わせたら…コイツなんてもう用済み。
 これだけ聞き出せたら、私でもたぶん失敗しない。
 
 そうなれば、また理樹君は私だけを見てくれる。
 
 理樹君、待っててね。
 私が、美味しいシフォンケーキを作ってくるからね。
 あいつが作ったやつなんて忘れてしまうくらいのものを。
 
 そしたらまた、今まで以上に仲良くしようね。
 今までできなかったこと、いっぱいしようね。
 
 私、がんばるから。ずっと、ずっと一緒にいようね。
 
 
 
<第3話終わり⇒第4話につづく>
 
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 どうも、ほのラブSS作家のりきおです(何。
 
 いかがでしたか?
 思ったより展開が進まなかったのはともかく、当初考えていたよりも随分とぐちゃぐちゃに壊れてしまいましたね…。個人的には、最後に葉留佳視点を入れたのがお気に入りです(汗。理樹はともかく、次回、佳奈多はどうなるんでしょうね…(自分で言うな)。
 ヤンデレって、難しいけど書くのが楽しい!(←死)
 
 今後ですが、佳奈多ルート・葉留佳ルート(書けます)・ハッピーエンド(まだ大丈夫です)・バッドエンドのどれを書こうか迷ってます。候補はまあ、佳奈多ルートかハッピーエンドでしょうが。アンケートを置いておくので、もし希望があれば教えてください。まあ前回のアンケートのように「作者に一存」みたいな回答が多いかもしれないんですけど。
 
『Web拍手』
『アンケート』
 
 などにお寄せください!


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