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★リトルバスターズ!SS部屋★

リトルバスターズ!のSSを掲載していきます。

  18   『いなか暮らし』(鈴・理樹SS)
更新日時:
2007/11/25 
『いなか暮らし』
 
 
 僕らの田舎暮らしは続いていた。
 
 朝ごはんを作って鈴と一緒に食べ、魚を釣り、家に帰って洗濯やお風呂の支度をして、
晩ご飯を食べ、お風呂に入り、寝る。
 
 そんな繰り返しの日々。
 でも、何となく充実している自分がいる。
 自分ひとりが生きていくだけじゃない。
 もうひとり、鈴と一緒に生きている。
 彼女は、僕なしでは生きていけないから…。
 圧し掛かる責任感や重圧はもちろんあったけれど、使命感みたいなものと、
1日1日を無事に過ごせたことへの達成感で、凄く充実した気持ちになっていた。
 
 
 
「理樹、今日も釣りか?」
 
 いつものように釣りに出かけようとすると、普段は見送るだけの鈴が声を掛けてきた。
 
「そうだよ。…どうしたの?」
「ああ。ひとりで遊んでてもつまらないからな。たまには一緒に行こうかと思って」
 
 僕は、驚いて彼女を見返した。
 珍しいことを言う。
 
「ん? どうした? あたしの顔になんかついてるか?」
「いや…」
 
 当の本人は、そんな珍しいことを言ったつもりは無いらしかったけど。
 
「よしっ。じゃあ行こう。
 おまえらっ、留守番たのんだ!」
 
 なぁ〜。
 それに答えるかのように、猫たちが鳴いていた。
 
 
 
 
 釣り場に着いた。
 
 空は抜けるような青空。
 快晴で、絶好の釣り日和。
 海から届く風は、まだまだ爽やかな春の風。
 
 僕はいつものように、防波堤に腰掛けて釣り糸をたらす。
 釣れる時はそれなりに釣れるけど、素人丸出しだったから釣れないこともしばしばだ。
 でも、こんな日は例え釣れなくても、気持ちのいい空気の中にいられるから、
何も辛いこともないし、むしろずっとこの大気の中に身を委ねたいくらい。
 
 鈴はというと、隣に腰掛けて脚をぶらぶらさせながら、上下する浮きを眺めていた。
 
 
 
 十分後。
 
「…ひまだ」
「そう?」
「ああ。もうむちゃくちゃひまだ」
 
 未だ釣果はゼロ。
 1日やって1匹とかもあるから、焦りは全く無い。
 
「理樹はこんなにじっとしててへいきなのか?」
「平気も何も、これが釣りだからね」
 
 入れ食い状態ってのを知らないからかもしれないけれど、海釣りってこんなものだと聞いたことがある。
 それにたぶん、僕は気が長い。
 
 …そこにいる女の子よりは。
 
「行ってくる」
「どこへっ?」
 
「あっちの岩場だ」
「ちょっと…」
 
 止める間もなく行ってしまった…。
 さすがに心配なので、鈴が見える位置へと移動することにした。
 
 
 
 適当な場所に腰掛けて、再び釣り糸を垂らす。
 そして、同時に鈴を目で追った。
 
 そこには…信じられない光景が広がっていた…。
 
「にゃっ」
 
 ひょいっ。
 
「うにゃっ」
 
 ひょいっひょいっ。
 
 びちびち。
 びちびちっ。
 
 次々に陸に揚る魚たち。
 
 鈴はズボンや上着が濡れることもお構いなしに、どんどん魚を獲っている。
 素手で。手づかみで。
 熊みたいに。
 
 
 
 
「つかれた」
 
 30分くらい経ったろうか。
 疲労感を漂わせながら、鈴が陸へと揚がってきた。
 
 そしてバケツには、大小あわせて15匹か20匹くらいの魚が。
 僕はまだ1匹も釣ってないし、全部鈴が獲ったものってことになる。素手で。
 
「ぬれたな。びしょびしょだ」
 
 そういうと、ひらひらと上着の裾を海風に当てながら、乾かそうとしていた。
 でも、そんなすぐに乾くような濡れ方じゃなかった。
 
「よっ…」
「うわぁっ」
 
 鈴は、おもむろに濡れた上着を脱ぎ捨てた。
 
 
 そこには…ちゃんとキャミソールを着てる鈴がいた。
 いきなり下着姿になるのかと、不安に思ったりしたけど、これなら安心…、
 
 じゃないっ。
 
「ん? どうした、理樹」
「いや…」
 
 まあ…下着みたいなものなんだろうけれど。
 それを僕の前に晒しているのを見ると、どういう気持ちなんだろう?って思ってしまう。
 けれど、当の本人は気にした感じも全然無くて。
 
 こんな薄着の彼女は、あまり見たことが無かったからちょっと新鮮に映る。
 白い二の腕が眩しい。
 
 そして、ズボンも…。
 って、ズボンも?
 
「鈴。ちょっと待ったっ!」
「ん? なんだ、理樹」
 
 ズボンは、脱いだら確実に下着姿だ。
 気付かないんだろうか? そのことに。そんな現実に。
 
「あ…そっか。これはちょっと恥ずかしいな」
 
 意外に鈴は、恥じらいってのを理解していると思う。
 この前、一緒にお風呂に入ったときも、最初から最後まで背中合わせのままだったし。
 
「理樹が見なければいいんだ!」
「ええっ?!」
 
 何も遮るものが無いと言うのに。
 まあ、他に人がいそうにも無いのは何よりだったけれど。
 
 ずるずる。
 濡れたズボンを脱ぐ音が聴こえる。
 僕は、出来るだけ見ないように、垂らした釣り糸を見ることに集中した。
 
 
 
「理樹、いいぞ」
 
 いいのだろうか?
 さっき、脱いだ音を聴いたあと、着た音は聴いていないのだけれど。
 
 意を決して彼女の方向に向き直る。
 そこには…。
 
「うわ…」
 
 キャミソール一枚の鈴がいた。
 辛うじて下着は…少しだけ余裕のある裾で隠れてたけど。
 
 ただ、太ももとかはほとんどが露わになっていて。
 無駄な肉のついていない、白くてすべすべしてそうな…って、僕は何を想像しているんだろう?
 
「どうした? あたしの脚になんかついてるか?」
「ううん。そうじゃないんだけど…」
 
 その格好で平気な、彼女の神経はわからなかったけれど。
 何となく、僕が男として見られていない気はして…何だか複雑だった。
 
 
「隣、いいか?」
「あ、うん」
 
 キャミソール一枚の鈴が隣に座る。
 しかも、ちょっと密着してるし…。
 
「ふぁぁ」
 
 可愛らしいあくびひとつ。
 あれだけ頑張ったんだから、眠くなるのも仕方ないと思う。
 
「鈴、お昼寝する?」
 
 もしかしたら、僕が釣りに出かけた後はこんな感じなのかもしれない。
 猫たちと全力で遊んで、疲れて寝る。
 本当に猫みたいな暮らし。
 
「ああ…そうする」
 
 そういうと、僕に身体を預けた。
 じんわりと彼女の温もりを半身に感じる。
 
「…あったかいな」
「だね」
「ああ」
 
 気持ち良さそうにまどろむ彼女を見て、改めて思う。
 可愛いな…って。
 
 
 
 こんな、身勝手で本能のままに生きるような子だけれど、
そんな自由奔放なところと、何処かで僕を頼ってくれている…(と思う)ところ。
 そんなところから好きなんだから、全部好きに決まってる。
 そして、たぶん僕しか知らない無防備な…笑顔。
 僕にしか見せない笑顔。
 僕しか出せない笑顔。
 自惚れもいいところだけれど、それらは全部僕にとっては宝物だったし、
何に変えても守っていきたいものだと思ってる。
 
「す〜す〜」
 
 既に寝息を立て始めた彼女を起こさないよう、僕は釣りを再開した。
 あいにく、付けていたエサはいつの間にか食べられてしまっていたけれど。
 
 
 
 太陽が西のほうへと移動し、空が赤みを増している。
 そろそろ頃合だろう。
 
「鈴、起きて鈴」
 
 未だ寝ている彼女を揺り起こす。
 肩のあたりはよだれでべっとりしてたけれど、リラックスしたその姿を見てると、
何も言えないどころか、ずっとそのままでいたい、って思うくらいだった。
 しかし、日が暮れてしまえば、あの家まで戻れない気がした。
 街灯もほとんど無いような場所だったから、暗がりでは道に迷う可能性が高かったし。
 
「…ん? もう朝か? …寒っ」
「そりゃそうか。はい。服もう乾いてるよ」
「そっか。じゃあ着る」
 
 夏が近いとは言え、夕方になると山から吹き降ろす風が海岸まで来て、薄着では肌寒いはずで。
 当然、ほとんど下着一枚の彼女が寒がるのも仕方の無いことだ。
 
 彼女は、僕の見ている前で服を着直す。
 僕の見ている前で。
 見ている…。
 
 パンツとか見えるんですけど。
 
 …。
 
「どうした? 理樹」
 
 すっかり着替え終わった彼女の声を聴いて、我に返った。
 
「ううん、何でもないよ」
「そっか…」
 
 ぐぅ。
 
「おなかすいた」
 
 ぐぅ。
 
「…だね」
 
 お腹の音がふたつ。
 
「帰ろうか」
「そうだな」
 
 今から帰って夕飯の支度をすれば、ちょうどいい感じだろう。
 
 バケツを持ち上げた。
 
「うっ」
 
 ずしっ…と来る重み。
 大漁だった。
 
 僕が釣ったのはほんの数匹だったけれど、彼女が獲った分がもの凄くて…。
 
「重いか?」
「うん…。でも大丈夫だよ」
 
 僕はそう笑顔で答えたつもり…だったけれど、何故かもの凄く心配そうな顔をされて、
 
「あたしもいっしょに持ってやろう」
 
 と、ふたりで一緒にバケツを持つことになった。
 気がつくと、僕の額には無数の汗が噴き出していた。
 …情けない。
 もう少し、真人に付き合って筋肉をつけて置けばよかったなあ、って心から思ってた。
 
「今日の晩ごはんはなんだ?」
「そうだねえ…。せっかく鈴が頑張ってくれたんだから、クロダイのお刺身かな?」
「おお、さしみか。…なんだかささみを思い出すな。
 ん? ささみ? ささ子? さし美? ざざ美? …なんだったっけ」
「うーん。鈴の頭に聞いてよ…」
 
 
 
 そんなどうでもいい話をしながら、あの家へと戻る。
 それはこれからの日常の、普通の光景になって。
 当たり前になるんだ。
 
 
 そう願いつつ、今は新鮮に映る、ふたりで歩く帰り道を楽しんでいた。
 
 
 
<第1話おわり⇒第2話につづく?>
 
 
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 ヤンデレSS作家りきおです(待)。今回は、鈴と理樹の田舎暮らしが更に続いていたら、って感じで書いてみましたが、思っていたよりも釣りシーンが長くなってしまい、前半部分だけで終わってしまいました。まあ、本来僕は、こういうほのぼの系が得意な人だと思うので、非常に楽しんで書かせてもらいましたがw 
 ちなみに、オールクリア後ではなく、あくまで鈴シナリオ途中のふたりなんで、甘み成分は抑えてあります。それでも鈴かわいい。
 
 続きの展開もありますし、田舎暮らしは色々と想像できる部分もありますので、何話か書けるかもしれません。ちなみにこれは、1週間で書いてしまったのですが(汗。
 
 もし感想や、続きへの要望などがあれば、
 
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