「いなか暮らし〜2」
「これは…食べられないね」
「うん。あたしたちでは無理だ」
僕らは、獲ってきた魚をどうしようか思案していた。
明らかに、僕らふたりでは消費しきれない量。
一部は猫たちのえさにしたり、干物にしたりすれば保存できないことも無かったけれど、
そうするのも勿体無いくらいにいいお魚が獲れている。
ならば…。
僕はある案を実行に移すことにした。
「こんにちわ」
「…あら。いつかの」
「もしよろしければ…なんですけど、これと、野菜を交換してくれませんか?」
いつか、農作業を手伝わせてもらったおばあさん。
あの時は迷惑を掛けてしまったけれど。
取り出したのは…クロダイ。
鈴が磯で捕らえた大物だ。
「あら…立派な鯛ね。なら…これ持っていってちょうだい」
おばあさんは、リヤカーに山盛りにして野菜をくれた。
「いいんですか? こんなに…」
「いいのよ。それに…ちゃんと栄養とって、病気を治しなさいね」
「あ…はい」
やっぱりいい人なんだ…。
「ありがとうございます」
それだけ言って、小さくなる背中を見送った。
「いっぱいもらったな」
「そうだね。しばらくは大丈夫かな」
でも、まだ魚は結構残っていた。
ならば…と、ある場所に移動することにした。
「ここで魚を売りたいんですけど…よろしいですか?」
そこは、村で一番大きな店。
その軒先で魚を売らせてもらおうと考えていた。
「ああ、いいよ。その代わり、新鮮な魚だろうね?」
「はい。今日釣ってきたばかりのものですから」
バケツに入れた魚を見せた。
水も入れていたから、まだまだ元気にはねてるやつもいる。
「了解。何か要るものがあったら貸すから」
「ありがとうございます」
二つ返事でOKしてもらった。
そうして、魚を売ることになった。
鈴には、
「これ売らないとお風呂にも入れないし、魚以外のものは食べられないんだ」
って言ったら、納得してくれて、一緒に魚を売ってくれるみたいだった。
「おっさん。おまえ、これ買わないのか?」
鈴には接客は向いていないと思う。この世にたくさんある職業でも特に。
でも、こうやって知らない人に声をかけられるだけでも、昔の彼女を知ってるものとしては、
凄く成長したんだなあ、って感慨深いものを感じてしまう。
声をかけたのは、40代くらいの普通のおじさん。
まあ鈴の言うように、「おっさん」と言う言葉がとても似合う風貌の人だった。
「なんだって? えらく高飛車なねーちゃんだなあ」
「このさい、ねーちゃんでもにーちゃんでもいい。
それよりも、この魚だ」
「ああ。しかしいい型じゃねえか。どうした? これ」
「あたしが獲ってきた」
「ねーちゃん。あんたがか?!」
「ああ、そうだ。手でな」
「手? 手でかっ?! 本当なのか? にーちゃん」
「うん。信じられないけれど、僕も見ました。口のところとか、針の痕が無いはずですよ」
「どれ…本当だな…」
「どうだ? 買いたいだろ、ほしいだろ」
「…よし、わかった! このオモロいねーちゃんに乗った! これくれっ」
商談成立。
鈴の声かけをキッカケに。
「おおっ。理樹、そうらしい」
「あ、ありがとうございます。○○円になります」
「そりゃあ安すぎるな。お前らも物入りだろうから、受け取れ」
僕が言った値段の倍くらいのお金を受け取った。
さすがに、受け取れないと思ったけれど、
「気にするな。これで栄養あるもんでも食えよ。じゃまたな!」
と、返そうとする僕を制して立ち去った。
「なんだ? たくさんもらったな」
「うん。鈴のおかげだね」
浮いたお金で、しばらく食べていなかったお肉と、少なくなっていた薪を買って帰った。
家に戻ってきた。
ここからは家事ラッシュだ。
まずは、汚れた服を洗わないといけない。
「さて、と。洗濯するから、着替えようか」
「そうだな。海に入ったから、塩水でかぴかぴだ」
お互いに着ているものを脱ぐ。
僕は…恥ずかしかったから後ろを向いて下着まで脱ぎ捨て、着替えをつけた。
鈴は…あまり気にすることも無く、てきぱきと着替えを済ませていた。
ちらちらと見える、胸や白い肌にドキドキさせられたけれど。
ふたり分の洗濯物をまとめようとする。
当然、鈴の下着とかも含まれてる。
「わぁっ。ダメだっ! 洗濯はあたしがするっ」
そう言われて、汚れた洗濯物をすべて奪われた。
「理樹は…お風呂とか晩ご飯の支度とかしてくれ」
「…わかった。じゃあ洗濯物は頼むよ」
「うんっ。任せておけ」
何か不思議な感じだ。
いつもは何から何まで僕がやっていたことなんだけれど、
鈴が一部でも全部手伝ってくれるなんて、信じられない気分だった。
心の中で感謝しつつ、薪をくべることにした。
「あ、あと…お湯ははんぶんなっ」
「う、うん」
また…いいんだろうか?
そう思いつつも、半分くらいの量の薪を運んだ。
ちょっとだけ豪華な夕飯になった。
魚の焼いたもの…はずっと一緒だったけれど、今日は豚汁つきだから豪華だ。
「お肉はひさしぶりだなっ」
「うん。たくさんあるから、いっぱいおかわりしていいよ」
ずずっ…。
「ほぅ〜。あったかいな」
「美味しい?」
「うん。おいしいな。理樹の作った料理はどれもけっこうおいしいな」
「そう。よかったよ」
そんなに料理してるわけじゃないけど、恭介たちとキャンプしたりするときには、
炊事係をやったりしてたこともあって、それなりには作ることができた。
それがこんなときに役に立つなんて…。
自分で食べてみても…それなりに納得できる味になりつつある。
いつもは8分目で止めておくんだけど、この日は僕も、満腹まで食べることにした。
「おいしかった。ごちそーさま」
「うん。ごちそうさま」
ふたりで、行儀良くごちそうさまをする。
普段は「さま」なんて言えるほどの食事ではないのだけれど、
でもこの日は正真正銘「さま」をつけて、敬わないといけないくらいに豪華だった。
それは、そんな食卓に貢献してくれた鈴に対しても。
「お風呂だお風呂」
「うん。ちょっと待っててね」
皿洗いをする僕を急かす鈴。
今日は海に入ったりしたから、身体がべとついているのかもしれない。
さっさと終わらせることにする。
何せ、ひとりでは入れないから。
「終わったな。じゃあ早くしろっ」
「理樹から先に入れ。あたしは後から入る」
「わかったよ」
そう促されて従うことにする。
上着を脱ぐ。
靴下を脱ぐ。
ズボンを脱ぐ。
…。
……。
「…ねぇ、鈴」
「なんだ?」
「あの…ずっとそこにいるの?」
「あたりまえだ。あたしもいっしょに入るんだからな」
「いや…その、パンツを脱ぐときくらいは、後ろ向いてて欲しいかなって」
「? 男のくせにヘンなやつだな…。バカ兄貴はそんなこと言わなかったぞ?!」
「それは兄妹だからでしょ…」
しぶしぶ納得してくれた鈴が後ろを向いてくれたのを確認して、下着を下ろした。
「じーっ」
「うわっ」
安心していたら…凝視されてた!!
僕は慌てて前を隠した。
「ちょっと…鈴っ」
「ん…? ああ、ごめん。見たかったんだ」
「見たかった…って」
いやいやいや…。
凝視するものじゃないと思う。
「バカ兄貴なら見せてくれたぞ?!」
「だから…兄妹だからなんだって…」
言ってみてから考えたけど、それって兄妹でも普通じゃないような…。
たぶん昔のことなんだろうけど。
「今日のところは許してやる」
「そうしてくれると助かるよ…」
やっと開放してもらって、風呂場へと向かうことにした。
「理樹、入るぞ」
「うん」
そういうと、鈴はバスタオルを巻いて入ってきた。
…僕の全裸は見たいのに、自分の全裸は見られたくないのか。
まあ、全裸で入ってこられたら、こっちとしても全く対処できないんだけれどね。
かけ湯をしてから入る。
ふたりで入らないと、肩まで浸かれないくらいにしかお湯を沸かしていないから、
こうやってふたりで一緒に入らないといけなかったりする。
ちゃぽん。
「ふぅ…気持ちいいな」
「だね」
ふたりで湯船に浸かる。
五右衛門風呂だから、背中と背中をくっつけないと一緒には入れない。
鈴のバスタオル越しに密着する体勢。
背中同士でも、女の子の柔らかさみたいなものが感じられる。
鈴が傍にいるって安心感が僕を包んでくれる。
「…りき、理樹」
「え? どうしたの、鈴」
自分の世界に入っていて、どうも呼ばれたのに気づかなかったみたいだ。
改めて、後ろに意識を向ける。
「何であたしたちは背中あわせなんだ?」
「何で…って?」
いきなり何を言うのかと思ったら…。
恥ずかしいから、じゃないのか?
「この体勢だと、理樹の顔とか見えない」
「僕も…鈴がどんな顔してるのかわからないね」
「それじゃあ、意味ないじゃないか」
「意味…ないかな?」
言ってることの意味はよくわからないんだけれど。
でも、確かに背中あわせだと色々と不自由だとは思う。
かと言って体勢を変えると…。
「とりあえず、お前が向きを変えろ」
「えっ?!」
言われて思わずどきり、とする。
僕が向きを変えると言うことは…鈴を自分の懐に入れるということで。
それを鈴から言うんだから、鈴自身は嫌じゃないんだろうけれど…、でも…。
「いいから早くしろっ」
「わかった、わかったよ」
僕は立ち上がり、向きを変えて鈴の後ろに座る。
鈴は、僕にあぐらをかかせて、自分は僕のひざの上に座るような体勢を取った。
「うんっ。こっちのほうがいいな」
「そう…だね」
触れているのは、さっきと同じ背中だけ。
だけど、決定的に違うことがある。
それは…目の前に鈴がいて、頭とか髪の毛のにおいがして…。
大好きな女の子が、タオル越しとはいえ裸で、目の前にいる。
ヘンな気を抑えられるほうがどうかしてる。
僕は、自然に抱きしめていた。
「り…き?」
無言で、ただ、ちょっとだけ抱く力を強めて応える。
しばらく戸惑っていた感じの彼女も、そのうち慣れたのか、僕に背中を預けるように身を委ねてくれた。
時間が、ゆっくりと流れているようだった。
「今日はけっこう疲れた」
「お疲れ様だね、鈴」
「うん。だからさっさと寝よう」
湯冷めしないうちに寝ることにした。
布団をふたつ用意して、そこに並んで寝る。
「おやすみ、理樹」
「うん。おやすみ」
互いに見つめあいながら、布団に包まる。
「なあ、理樹」
「どうしたの? 鈴」
「手…握ってもいいか?」
「う、うん」
そういうと、布団から手を出して、鈴の手を握る。
その細い指と自分の指を絡めて。
繋いだ手を通じて、鈴との心地よいと感じて眠りについた。
<第2話おわり⇒第3話につづく?>
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いかがでしたか?
本編(理樹と鈴が普通にくっつく感じ)の流れなので、そこまで甘い展開にはしてませんが、鈴や理樹からすれば、このくらいの関係にはなっているでしょう。もっと甘く!って思ってる人は、もう一度、本編の鈴シナリオをやってから言って欲しいですw こんな感じだと思うんで。それにしても、相互リンクしてる翔菜さん(@小さな翼)の「鈴=S、理樹=M」な路線になってしまっている気がするのが何とも…。
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