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★リトルバスターズ!SS部屋★

リトルバスターズ!のSSを掲載していきます。

  10   『ハッピーエンド!』(理樹&鈴中心トゥルーED後日談)
更新日時:
2008/09/14 
 
『ハッピーエンド!』
 
 
 
 
 
「鈴。おまえ、プロポーズはされたのか?」
 
 ある日の昼下がり。
 恭介がいきなり鈴にそんなことを訊いていた。
 
「プロポーズ? ああ、されたな」
「うん、したね」
 
 鈴が普通に答えてたから、僕も普通にそう答えた。…答えられた。
 
「理樹と一緒ならやっていけそうだ、って思った」
「僕には、パートナーは鈴しかいないって思ってたんだけどね」
「あたしもだ。理樹じゃなきゃやっていけないって思った」
「なら、話は早いな」
 
 何が?
 そんな疑問は持ったけれど、恭介は全然僕らの疑問に気付くそぶりはない。
 それどころか、何やら懐から取り出している。
 
「今回の企画はこれだ!」
 
 そして、バッといつものように横断幕を広げる。
 片方を持っているのは真人だ。
 
「『第1回 リトルバスターズ主催 直枝理樹・棗鈴 結婚式』だ!!」
 
 …。
 
 一同が静まり返る。
 
「へ?」
 
 その静寂を破ったのは、真人の間の抜けた声だった。
 
「ツッコミどころが多すぎて、どこからツッコんでいいかわからないね…」
 
 恭介の思いつきはいつも突然だ。
 しかも、今回はかなり無茶がある。
 
「まず…『第1回』ってのがよくわからない」
「そこは情熱でカバーだ!」
 
 できないと思う。
 『第2回』があるのか? と思うし。
 
「めでたいことだから、別に『2回、3回…』と続いても問題ないだろう?!」
「うん。まあ…」
 
 それはそうなんだけれど。
 でも、そんなに2度3度とやるものではないだろう。
 
 たまらず他からもツッコミが入る。
 
「あの…直枝さんはまだ18歳になっていないので、法的に結婚は無理かと」
「うむ。美魚君の言うとおりだが? 恭介氏」
「ああ、そんなことはわかってるさ!」
 
「要は…気持ちさっ」
 
 キラリっ。そう白い歯を見せて、異議を唱えたふたりに向かってウインクする恭介。
 
「うわっ、キモっ」
「キモっ、ってなんだ。それがお兄ちゃんに言う言葉か?!」
「おまえと血がつながってるなんて考えただけでキモい」
「…」
「と言うか、自分のことを『お兄ちゃん』とか言ってる時点ですでにキモい」
「鈴…。相変わらず、恭介にはヒドイね」
 
 まあ、このくらいで傷つく恭介じゃあない、と思うんだけど。
 
「う…うわあぁぁぁぁぁーっ!!」
 
 思いっきり傷ついていた。
 
 
 
「まあ、それはともかく、だ」
 
 気持ちの切り替えの早さも流石だ。
 見習いたい…とは素直に思えないけれども。
 
「俺たちリトルバスターズで、理樹と鈴を祝ってやろう、と言う企画さ」
「おおー。それはいいですネ」
「ないすあいであ、ですっ」
「おっしゃーぁっ! 理樹たちのために人肌脱ぐかーっ!!」
「久々に腕がなるなっ!」
 
 へぇーって思った。
 素直に嬉しかった。
 なんて言うんだろう?
 あったかい感じがした。
 
 いつも恭介は、僕らのことを大切に思ってくれているから…。
 それに、みんなも。
 
「いわう? なんであたしたちが祝われるんだ?」
 
 …わかっていない人、ひとり。
 
 
 
 
「場所は? 会場はどうするんだ? 恭介氏」
「そりゃあ学校しかないだろう。学校に決まっている。学校以外のどこがあるんだ!?」
「許可は…って、そんなものは必要ないか」
「ああ!」
 
 威張って言うことでは無いと思う。
 
「はなびーっ。こうさ、おっきいのをドカーンっ、と爆発させない?!
 校庭なら広いしさ? ね? ね?」
「いや、無理でしょ?」
 
 葉留佳さんのとんでも無い提案。
 無理だと思うんだけれど…。
 
「出来るさっ。簡単なことだろう?!」
「できるの? 恭介」
 
 本当にできるんだろうか?
 けれど、恭介が「できる」と言った事ができなかったことなんて一度たりとも知らない。
 じゃあ、可能なんだ。
 
「ああ。以前に分けてもらったことがある、知り合いの花火師に頼んでおこう。
 おまえらの記念日に相応しい特注品をな!」
 
 高いんじゃ…って言おうとして止めた。
 それは愚問ってものだし、恭介はお金にモノを言わすような人間じゃない。
 何とかするんだろう。方法はわからなかったけれど。
 
「やったーっ。はなびはなびーっ!!!」
 
 提案した本人は、おそらく本題のことはどうでも良くなっていると思う。
 
 
 
 
「衣装は既に手配済みだ」
「えっ? 僕のはともかく、鈴の…も?」
「そうだ。知り合いの貸衣装屋に頼んである。貸衣装だが新品のをな」
 
 まあ…ここまで来ると、凄い、って思う以上に、この男は何者なんだろう?
とさえ思ってしまう。
 
「やっぱり、妹の晴れの舞台に、中古の衣装を着せるわけにはいかないだろう?」
「ま…まあ」
 
 それはそうなんだけど…。
 でも、
 貸衣装屋と花火師と知り合いの男子高校生がほかにいるんだろうか?
 
 …いるわけがないよ。恭介以外に。
 
 
 
 
「神父役がいないな…。俺がやっても良いんだが、何か重みが足りないんだよな」
「確かに。恭介氏が既に結婚しているとかだと、多少は重みもあるんだろうが」
「いいんじゃないか? 俺は、恭介以外に適任者はいないと思うが」
 
 うーん、と、全員で思案する。
 
「おう。いい案を思いついたぜ」
 
 最も縁遠いかと思った、真人から声が出た。
 
「意外だな、真人。どんなのだ?」
「まあ見てなって」
 
 そういうと、真人は何処かへと走り去った。
 
「あいつ…何を考えてるんだ?」
「さあ…」
 
 長年の付き合いな僕らでも、今の真人の行動の意図は読めないままだ。
 他のメンバーは…なおさら意味不明だろう。
 
 
 しばらくすると、真人が何かを背負ってこっちに向かっていた。
 
「何を背負ってるんだ?」
「さあ…」
「…?! 銅像じゃないか?」
「「!!!」」
 
 その背には、いつか見たあの銅像がいた。
 
「待たせたな」
 
 ずんっ。
 真人は、背負っていた銅像をおもむろに置いた。
 
「ふぅーっ。重みがあるといえばこれだろ!
 50キロのウエイトジャケットを着てジョギングするより、よっぽど筋肉が喜んでるぜ!」
 
 筋肉が喜ぶかどうかはともかく…。
 しかしこれは…神父役になるのかな?
 
「真人にしてはいいアイデアじゃないか!」
「だろ? …って、俺にしては、ってとこには引っかかるんだが」
「細かいことは気にするな。確かに、実際にも重いが、存在としても重みがある。ピッタリだ!」
「…」
 
 いや、まあ言ってる事は間違っていないはず。
 でもねえ。キリスト像とかならわかるけれど…、何の像かわからないし…。
 
「これに、西園がアテレコしてくれたら雰囲気が出るだろう? な」
「…はい。それでお役に立てるのなら」
 
 西園さんの演技力はもの凄い。
 前の人形劇で体験済みだ。
 
「汝、直枝理樹は、鈴を生涯愛すると誓いますか?」
「…」
「こんな感じでよろしいでしょうか?」
「ああ、完璧だな」
 
 まるで、この銅像が言葉を発したみたいに。
 それだけで場の雰囲気が変わる…。そのくらいに威厳のある言葉だった。
 
 
 
 
 メンバーそれぞれが役割分担して、準備は着々と進んでいった。
 僕と鈴の衣装合わせなんかもしたり、会場の事前調査をしたり。
 会場の事前調査って言っても、僕らがよく知っている学校のことだったりするから、
別に大したことをしてはいないみたい。
 
 みたい…というのは、僕らは祝われる存在だと言うことで、準備の手伝いを断られてたから。
 本当は手伝いたかったところだけど。
 でも、こういうときに甘えられるのも仲間なんだと思う。
 
 
 
 そうこうしているうちに、式の当日がやってきた。
 
「いよいよだね、鈴」
「ああ。何か変わるのかとか、ぜんぜんわからないけどな」
 
 相変わらずのマイペースな、僕の婚約者。
 でも、その表情には満面の笑みが浮かんでいて。
 それを見るだけで、僕も幸せな気持ちになれるんだ。
 
「じゃあ、また後でね」
「ああ」
 
 僕らはそれぞれの控え室に移動した。
 お互いの着替えをするためだ。
 
 
 慣れないタキシード?のような服を着せられた。
 
 鏡を見る。
 何となく、着せられてる感がする。
 おまけに、この顔立ちだとお人形さんみたいだった。
 …あまり似合ってなくて、何だか、アレ見てるみたいになってしまってた。
 
「宝塚だな!」
 
 その様子を見ていた恭介がそんな感想を漏らした。
 …いや、そもそも僕男だし。そう見えなくも無いけれど。
 
「いいえっ。とっても素敵ですっ。
 ゆーあーはんさむですっ」
「ありがと、クド」
 
 お世辞かどうかわからないけれど、そういってくれてちょっと嬉しかったから、
その触り心地のいい頭を撫でてあげた。
 
「わふー…」
 
 気持ち良さそうに撫でられているクド。
 尻尾が生えていたなら、確実にぶんぶん振っているような気がした。
 
 
 
 
 着替え終わるとしばらく待たされた。
 やっぱり、女性の着替えのほうが何倍も時間が掛かるんだろう。
 
 でも、鈴がドレス姿か…。
 普段の鈴から考えたら、全く正反対の衣装を身に着けているのを想像して苦笑してしまう。
 
 しばらくすると、何時にも増してニコニコ顔の小毬さんが出てきた。
 
「理樹くーん。りんちゃん、びっくりするくらい綺麗になってるよ〜」
「本当にっ?!」
 
 それはビックリだ。
 まあでも、元は可愛いんだからあり得ない話じゃない。
 
「あ〜、でも、りんちゃん元から可愛いから、びっくりはしないかもしれないかなあ…。
 ううんっ。やっぱりあのりんちゃんはいつもより何倍もきれいだよ〜」
 
 そこまで言われると期待してしまう。
 普段は、男の子と変わらないようなボーイッシュな服しか着ていないし、
スカートなんて制服のときくらいしか見る機会が無いから、新鮮に映ることは間違いない。
 ちょっとドキドキしてきた。
 
「じゃあ、りんちゃんのおひろめ〜っ」
 
 ごくり、とつばを飲み込んだ。
 いつも側にいて、いつも顔を合わせているから、雰囲気の違う彼女に逢うのがなんだか緊張する。
 
「じゃあ、どうそ〜」
 
 控え室の扉が開かれる。
 
 そして、視界に入るその姿。
 あまりに眩しくて、最初はそのシルエットしか見えなかった。
 
 けれど、そのシルエットだけでも、僕が知ってる彼女とは全然違っていて、
別人が立っているのかとさえ思ってしまった。
 
「じゃーん、ですっ」
 
 そこには…。
 
 
 
 純白のヴェールで覆われ、純白のウェディングドレスに身を包んだ女性がいた。
 それは…確かに鈴だった。
 
 肩や胸元を大きく開いた衣装。
 そしてひらひらのたくさんついたスカート。
 
 どれも、普段は彼女が着ないような服だ。
 
 
「み…見るなっ、理樹」
「いや、見ないと結婚式にならないからさ」
 
 声を聴いて安心した部分もあった。
 けれど、本当に鈴だとわかって、そのギャップを埋めようとまじまじとその姿を見てしまう。
 
「うう…。何だかあたしじゃないみたいだ…」
 
 …。
 ……。
 何ていうか、ただ…。
 
「綺麗だよ、鈴」
 
 そうとしか言えなかった。
 普段は絶対しない化粧なんかをしているからかもしれなかったけれど、
『可愛い』なんて言葉が似合わないくらいに、ただ『綺麗』だった。
 
「そうか? なんだか照れるな」
 
 恥ずかしがる姿も、とても新鮮で可愛かった。
 …やっぱり「可愛い」とは思ってしまうのだけれど。
 
「髪型はいっしょなんだ?」
「ああ。これを変えると、ほんとうにあたしじゃなくなるような気がしてな」
 
 ヴェールの向こうには、いつものポニーテールが覗いていた。
 確かにこの髪型は、長さはともかくとしても、出会ってからずっと同じだったから、
どんな格好をしたとしても、いつもどおりでいられそうだ。
 
 
「理樹もなんだかかっこいいな」
「ほんと?」
 
 鈴からそんな言葉をもらえるなんて意外だった。
 
「ああ。普段よりも頼りになる感じだ」
「そう…なのかな」
 
 自分ではとても自信が無い。
 鈴よりも確実に、着せられてる感があったから…。
 
「そうだよー。理樹君も大人っぽくなって、いつもよりもっとカッコいいよ」
「そうですっ。リキの新たな魅力が見れて、あいむ・はっぴー、なのですっ」
「ありがとう。小毬さんにクド」
 
 そう言ってもらえるととてもありがたい。
 心から感謝した。
 
 
 
「よし。主役が揃ったな。
 じゃあ、始めるぞ! お前らの結婚式を」
 
 この掛け声で、式が始まった。
 
 
 
 銅像を介しての、西園さんの進行で式は進んでいった。
 とても厳かな声色での。
 
 表向きは…あの、何だかわからない銅像だったけれど。
 
 
「汝、直枝理樹は、鈴を生涯愛すると誓いますか?」
「はい。誓います」
「汝、棗鈴は、理樹を生涯愛すると誓いますか?」
「うん。誓う」
 
 そういうと、僕らは見つめ合った。
 生涯共に歩む伴侶を。
 
 普段は騒がしい仲間たちも、このときばかりは静寂を保っている。
 
 張り詰めた空気が、今までとは違う新たな一歩を予感させてくれた。
 
「では、誓いのキスを」
 
「うん。鈴」
「理樹…」
 
 そういわれると、僕らはどちらともなく身体を寄せて…キスをした。
 
 みんなに見られているというのは、どうしてか気にならなかった。
 どちらかと言えば、見て欲しかったのかもしれない。
 
 そして、湧き起こる拍手。
 それは幾重にも重なって、僕らを祝福してくれた。
 
 
 
 
「あなたたち、何をしているの?」
「げっ、二木だ」
 
 声がした方向を見ると、仁王立ちしている風紀委員長がいた。
 
「学校を私用で無断使用。
 それに銅像を勝手に移動させたりして…。あなたたちは、悪いことをしてるって認識はあるの?」
「悪いこと? ああ、全然無いな」
 
 いや。無理があると思うけど…。
 特に銅像。
 
「…で、何? 今回は?」
 
 説明してわかる人…なのかもしれないけれど。
 でも、どうやって納得してもらえれば良いのだろう?
 
「見てもらえればわかると思うが…。
 理樹と鈴の結婚式だ」
「…」
 
 そう恭介が言った後、二木さんは僕らを見やった。
 
 タキシード姿の僕と、ウェディングドレス姿の鈴。
 たぶん、本当でも演劇でも、今この場面が「結婚式」だとわかったはずだ。
 
「まさか…本当に? 棗先輩」
「何がだ? 二木」
 
 まあ、そんな二木さんの反応もわからなくは無いけど。
 僕だってこの話を最初に聞いたときには信じられなかったし。
 
「直枝理樹と、棗鈴の結婚式?」
「ああ。それ以外に何が見える?」
 
 今度は、二木さんは鈴だけをまじまじと見ていた。
 
 頭に被っているヴェール。
 薄く化粧した顔。
 純白のドレス。
 
 髪型はいつもと一緒だったけれど、明らかに着飾って、いつもとは違う鈴が見えたはずだ。
 
 
「うん? どうやらそのようね…」
 
 少し不服そうだったけれど、何処かで納得してくれているみたいだった。
 
「なら私は、じっくりと観察させてもらうわ」
「観察ぅ? はは〜ん。佳奈多、参加したいんでしょ?」
「ち、違うわよっ」
 
 見ると、顔は真っ赤になっていて…。
 あれ? イメージの彼女と全然違うんだけど。
 
「か、勘違いしないで欲しいんだけど、別にあなたたちを祝いたいなんて思ってないから」
「そ、そうなんだ…」
 
 そういうと、ぷいっとあさっての方向に顔を背けてしまった。
 
「あなたたちがまた、おかしなことを始めないかと思って監視しているだけだから」
 
 言葉とは裏腹に、二木さんの声は、何故か凄く優しく聴こえた。
 少なくとも、「監視」なんて言葉が不釣合いなくらいに。
 
「佳奈多ってば、素直じゃないねえ」
「う、うるさいわねっ。葉留佳は黙っててっ」
 
 葉留佳さんのその言葉が、彼女をそのまま言い表しているのかもしれない。
 本当に冷酷なら、この舞台をその手で壊すことなんてたやすいはずだから。
 
 その後も、二木さんの「監視」のもと、進めることになった。
 どっちかと言えば、風紀委員会に公認されたような感じだった。
 だって、委員長が認めてくれているんだから。
 
 
 
 
「あら? ここで何をしているのかしら?」
「その声は…ざざぜがわざざっ……かんだ」
「棗鈴っ。わたくしの名前を間違えているにも関わらず、さらに噛むなんて侮辱にも程がありますわっ」
 
 恒例の笹瀬川さんだ。
 
 案外このふたりって似ていると思う。どこが…って言われてもちゃんとは答えられないけれど。
 背格好とか運動神経が抜群にいいところとか、取り巻きが多いところとか…。
 結構我慢が利かないところとか。
 
 …あれ? 具体的に挙げられる…?
 
「あら? その格好…」
 
 鈴の姿を認めるや、頭の上からつま先までじーっと観察する笹瀬川さん。
 
「なんですの? 結婚式の真似事でもやっているんですの?」
「真似事じゃあないよ〜。本当に結婚式なんだよ。さーちゃん」
 
 いや。本当の結婚式じゃないとは思うけれど、やってることは似たようなものだと思うから、
敢えて僕から否定はしなかった。
 
「…そうなんですの?」
 
 そういうと、笹瀬川さんも考え込んだ。
 そして、鈴を頭から脚まで見直す。
 二木さんといい、何か思うことがあるのだろうか?
 
 ひとしきり鈴を眺めた後、今度は僕を見た。
 
「直枝さん」
「えっ? 何、笹瀬川さん」
 
 いきなり呼ばれたから、思わず名前を噛みそうになったけれど、何とか堪えられた。
 して、僕を見る彼女の表情は…すごく真剣だった。
 真っすぐに僕の目を見て、言った。
 
「貴方、絶対に幸せにしなさいよ」
「えっ? ど、どういう」
「棗鈴を不幸にしたら、わたくしが許しませんわよっ」
 
 その言葉と表情を見ていると、圧し掛かる責任を感じる。
 もしかすると…僕と同じ気持ちなのかもしれない。
 鈴のことを大切に思っているから…。
 
 何かにつけて鈴に絡んでくるのも、本当は好きなんだと思うし、
ずっと鈴のことを気にかけてくれてるからなんだろう。
 
「貴女もせいぜい、幸せになりなさいっ」
「おまえに言われなくてももう幸せだ」
「ま、まあそうかもしれませんわね」
「理樹といっしょだからな」
「そこは…百歩譲ってあげてよくてよ」
「今回はあたしの圧勝だな」
「何ですって? どういうこと?」
「おまえには理樹みたいなのはいないからな」
「…きいぃぃぃーっ。覚えてなさいっっ。
 貴女がビックリするくらい、良い殿方を見つけて見せますわっ!!」
 
 最後はいつもどおりだったけれど…。
 でも、このふたりは良い友達になれるような気はする。
 と言うか、今でも何かで結ばれてる気がするくらい。
 5年後とか10年後とかにはもっと…。
 
 まあまた、逢えば今と同じようなケンカみたいなことになるんだろうけれど。
 
 
 
 
「改めてだけど、おめでとな」
「恭介…」
 
 やっぱりこの人にはずっと頭が上がらないんだろう。
 これまでもそうだけど、これからもずっと世話になるような気がする。
 
「これからは…お兄ちゃんになるのかな?」
「ぐはっっ」
 
 何故か鼻血を噴出する恭介。
 
「何でそこで鼻血なんだ、バカ兄貴」
「理樹に『お兄ちゃん』って呼ばれるんだぞっ?!
 こんな夢みたいなことが現実に起こってるんだ。
 わかるか?」
「わかるかっ」
 
 こんな兄妹ゲンカにも、僕が加わることがあるんだろうか?
 
「ほら、理樹もなんか言ってやれ」
「そもそも、お前が俺のことを『お兄ちゃん』って呼んでくれないから鼻血が出たんだろう」
「え、えーと…。いつか鈴にもそう呼ばれたらいいねっ」
「呼ぶかっ。…でも、理樹が言うなら呼んでやらんこともない…こともない」
「呼ばないんだ?!」
 
 常に巻き込まれるばかりになりそうなんだけど、これはこれで楽しいような気がする。
 …ツッコミ役としても活躍できそうだし。
 
 
 
「そういえば、お前ら、もうプロポーズとかはしたんだよな?」
「うん。ね? 鈴」
「ああ。ちゃんと聴いたぞ。…でも」
「でも?」
「もっかい聴きたいな」
「うん、そうだね。みんなにも聴いてもらいたいし」
 
 そうして、僕は思い出す。
 あの日、あの時、鈴に誓った言葉を。
 
「僕は鈴を守って生きる」
「…突然、何を言い出すのかと思ったんだ」
 
 鈴が口を挟んだ。
 いや、あの時も実際にそうだった。
 
「何が起きようとも、僕がいる」
「だから、安心してよ」
「鈴の手を引いていく」
「どこまでもいくから…」
「一緒に生きよう」
 
 あの時言った言葉は以上だ。
 
 しーん。
 
「あれ、終わったんだけど…」
「本当に終わりか?!」
「プロポーズらしくない言葉だな…」
「でもー、理樹くんがりんちゃんのことをすごく大切に思ってる…って、
 すごく伝わってくるよー」
 
 まあ、僕もあの言葉を、プロポーズのつもりで言い出したわけじゃなかったけれど。
 でも、小毬さんだけでもわかってくれて嬉しかった。
 
「…あれっ? そんなのだったのか」
 
 と、恭介。
 
「理樹がはっきり言わないから聞きなおしたんだ。
 プロポーズのつもりかって」
 
 そうだった…。
 鈴に言われると、猛烈に恥ずかしくなってきた。
 
「まあ、お前らしいか」
「うん、そうかも」
「直枝さんらしいかと」
「理樹くん、なんだかすごくいいよー」
 
 結局、みんなに励まされて…。
 情けないけれど、いつでも自然体でいられることが嬉しくも思った。
 
 
 
 
「はなびー…まだーっ」
 
 そろそろ、耐え切れなくなった葉留佳さんが突然叫びだす。
 
「そろそろ頃合いだな。…行くぞっ」
「「了解(ラジャー)!!」」
 
 花火要員の真人と謙吾が持ち場に散る。
 いよいよ、今日のクライマックスだ。
 
 
 
 
 どーんっ。
 
「たーまやーっっ!!」
 
 大きな爆発音と、葉留佳さんの定番の掛け声が辺りに響いた。
 それを、鈴やみんなと見上げた。
 
「きれいだね…」
「そうだな」
 
 夜空一面に広がる大輪の花。
 それは、どんな花よりも綺麗で…儚くて。
 今この瞬間も、止まっていないことを実感させられる。
 
「なんかさ。理樹君と鈴ちゃんって、言葉だけだとどっちが男かわかんないよネ」
「鈴さんは男らしい言葉遣いをされてますから」
「結局…そこは直らないんだな」
 
 恭介だけは渋い顔をしてたっけ。
 でも、変わらないことがあったって良いと思うんだ。
 
 それが、僕が好きになった、好きな人の癖なんだから。
 
 
 
 
 恭介が近づいてきて、言った。
 
「これが…今のリトルバスターズの、最後の活動になるかもしれないしな」
 
 その、恭介の一言で気付いた。
 
 そうだ。
 恭介はもうすぐ卒業する。
 
 そうすれば、もうこうやってみんなが集まって、1つのことをしようと言う事も、おそらくは減ってくるんだろう。
 それは寂しいことなんだけれど、仕方の無いことなんだ。
 
 でもこうやって、みんなが1つのことを協力して成し遂げる…。
 それは、僕らが目指していた『幸せな光景』なのかもしれない。
 
 恭介は、そんなことを最後に気付かせてくれたんだ。
 
 
 
 
「リトルバスターズは永遠に不滅だよ」
「…ああ、そうだな」
 
 リトルバスターズはなくならない。
 終わりやしない。
 でも、今ひとつ目の幕が下りようとしていた。
 
「記念撮影だ。さあ、みんなっ、笑おうぜーっ」
 
 これはひとつの区切りなんだ。
 
「おふたりお幸せにーっ!! それと…」
 
 これで終わること。
 でも、また新しい何かが始まっていくこと。
 
 そんな、特別な瞬間なんだ。
 
「俺たち――」
 
「「「リトルバスターズ!!!」」」
 
 カシャリ。
 
 
 僕らは今、この瞬間を心に刻んで。
 この場面を焼き付けて、歩いていく。
 
 次の―――ジャンプまで。
 
 
 
 
<終わり>
 
 
----------------------------
 
 
〜あとがき〜
 
 作者のりきおです。いかがでしたか?
 最後の部分で、読んだ後に自然とエンディングテーマ(Jumper Ver.)が流れてきていたら、完全に僕の勝ちですw
 
 もちろん、もっと盛り込みたかった部分はあります。ブーケトスとかも入れたかったなあ…。
 それに、鈴と理樹の話のはずだったのに、恭介が主役っぽくなってしまったのも、
今考えるとちょっと予定外でした。
 が、これだけのキャラを出して、まあわいわいやれて、楽しい奴らだなあ、って思ってくれれば、
書いた本人としては満足です。もう少し目玉的なところがあれば良かったんだろうけれど…。
 
 
 感想やご意見、要望などございましたら、
 
『Web拍手』
『掲示板』
 
 などへお寄せください!
 
 
 
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【後日談】
 
「これからの野球の練習だが…水曜と土曜だな」
「えっ?! まだ続けるの?」
「当たり前だ」
「でも恭介は就職して…」
「なぁに。近くに就職したから問題ない。
 それに水曜は早く上がれるらしいから、練習の最後のほうには間に合うだろ」
「そ、そうなんだ…」
「だから…またよろしくなっ」
 
 僕たちの、変わるようで変わらない日常は、ずっと続いていく。
 
 
<今度こそ終わり>


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