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Kanon&AIR SS部屋

KanonとAIRのSSを掲載しています。
大半が旧作になりますが、気が向いたら新作を載せるかも。

4   『幼心〜おさなごころ〜』(Kanon名雪プロローグ)
更新日時:
H19年9月12日(水) 
 『幼心〜おさなごころ〜』
 
 わたしは今日も待っていた。
 雪のふる昼下がり。ひどく冷たい、プラスチックのベンチに腰かけて。
 時おり、かじかんだ手を吐息であたためる。
 「はぁ〜。はぁ〜」
 そう。もう「来ない」ことはわかっていた。
 わかっていたのに、どうして、わたしは待ちつづけていたのだろう。
 『失うことが怖かった』
 そう。いちばん好きなひと。彼はなにも言わずにこの街を去った。
 『もう、誰も失いたくない』
 子どもごころにそう思った。
 わたしにはおかあさんがいる。やさしいおかあさん。
 だけど、おとうさんがいない。
 おとうさん―――かたぐるまや、おんぶ、だっこしてもらえる、そんな存在…。
 そんなおとうさんはわたしにはいなかった。いつの頃からか、それはわからない。
 でも、わたしには、おとうさんの記憶が無い。
 もう、何も失いたくは無かった。例えば、初めて好きになった人。
 かっこ良くなくても、そばにいたい人。
 すごく自分勝手で、わたしの気持ちなんか考えてくれなくても好きな人。
 
 そんな人がいたのに…。
 
 そんな人でさえ、わたしから離れてしまった。
 わかっていたはずなのに。わたしには、決してうちとけてはくれなかったのに。
 それでも、諦めきれなかった。幼心に。
 雪の降りしきる中、わたしは彼を待った。来るはずの無い彼を。
 彼の瞳には、わたしは映ってはいない事を知りながら…。
 
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 「よう」
 また来てくれた。
 ちょっといじわるだけど、いつも遊んでくれる男の子。
 名前は…そう、ゆういちくん。
 ボクが泣き出してしまったところを、いろいろとなぐさめてくれた、やさしい人。
 ずっとずっと一人ぼっちだと思っていたから、
 こうやって待っている人が来てくれると言うだけで、なんだかうれしかった。
 駅前のベンチで、冷たい風がふきつける中でも。
 お互いのことはなにも知らない。でも、これから知っていけばいい。
 おかあさんのかわりにはならないけど、途方に暮れていたボクの心のすきまをうめてくれる、どこかあたたかさがあった。
 そんなあたたかさに、心をゆるしてしまったのかもしれない。
 
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 「祐一! 今日も用事なの?」
 今日も彼は、わたしの知らない誰かと会いに行く。…なんでそう思ったのだろう?
 よくわからないけど、どうしてかそう思った。今まで、そんなことはなかった。
 いつも『寒いから外には出たくない』とか言って、いつも家で、わたしと何気ない話や、かるたやトランプなんかをしていた。
 この街にいるときだけは、わたしを見てくれていると思ってたのに…この年だけは違ってた。
 「出掛けてくる」
 それだけ言うと、行き先も言わずに家を出て行く。
 彼の行動範囲なんて、商店街か丘か、原っぱくらいだけど、どこに行くかと言う事よりも、「何をしに行くのか?」と言う事が重要だった。
 わたしの知らないところで何をしているんだろう? 
 興味が無いはずが無い。
 でも彼は、ついて行くとか言うと怒ると思う。そんな人だから…。
 今日もひとりで、白紙のままの宿題の絵日記帳を眺めていた。
 
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 ゆういちくんが来てくれる。そして遊んでくれる。ツラいことが多かったボクには、すごく楽しい時間だった。
 たいやきを買って、食べながら2人で歩く。おもしろいことを言ってくれるから、いつまでたっても飽きることはなかった。
 ボクをねたにして笑われることもあったけど、それはそれでよかった。
 
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 おかあさんに買い物に行くように言われた。
 正直、気が進まない。
 だって去年までは、文句をぶーぶー言いながらも、一緒についてきてくれたのに。
 彼は、今日もわたしの知らない場所へ、ひとり出掛けて行ってしまっていた。
 ひとりで行くと、慣れているはずの寒風がひどく冷たく感じてしまうから。
 
 帰ってきたら、どこかへ行く約束でもしようかな? 
 そうしたら、また一緒に遊びに行けるかな?
 
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 学校。2人だけの学校。勉強も制服も何もない、自由な学校。
 そんな場所を、ゆういちくんは作ってくれた。
 木登りしたら、ゆういちくんはこわがっていたけど、あそこから見る夕日は、ボクにとっての宝物になった。
 この街の景色も、みんなゆういちくんがボクにくれたプレゼントなのかな? 
 だったら、すごくうれしい。
 
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 「用事がある」
 その一言で、わたしの願いは砕かれた。
 わたしより大事なものがあるんだ。
 幼心にそう感じた。
 
 残り少ない冬休みだったのに。
 もう2人で遊べないのかな?
 もう、わたしには振り向いてくれないのかな?
 この冬を逃したら、なぜか彼は、わたしの手の届かない遠くに行ってしまいそうな…。
 そんな予感めいたものが、そのとき「ふっ」と心を過ぎった。
 
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 商店街で、やけにきらびやかな場所を通ったとき、1つの機械の中にある人形が目に入った。
 羽の生えた、ちょっとかわいらしいお人形。
 そのことをゆういちくんに話したら、取ってくれると言ってくれた。
 でも、いくら挑戦しても、その人形が機械の中から出てくることはなかった。
 さすがに悪いと思ったから「もういいよ」って言ってみたけど、なんか意地になっているみたいだった。
 そんなゆういちくんが、おかしくもあったけど、うれしくもあった。
 
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 「名雪、軍資金をくれ」
 突然帰ってくるなり、祐一がそう言ってきた。
 「…いや、おこづかいを貸してくれ。ゲーマーとしてのメンツに関わる」
 そう言い直した。
 意図はわからなかった。そんなにゲームなんかに熱くなっていただろうか?
 ただ、何かに夢中になると周りが見えなくなるのは、彼のいい所でもあり、悪い所でもあった。
 ただ、頼られていること自体は悪くは思わなかった。
 だから、快く、
 「いいよ」
 と言えたのかもしれない。
 どんな形であれ、わたしの方に気が向いてくれているのなら、それでいいと思った。
 それだけで安心できた。
 
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 どうやって取ったのかは知らないけど、とにかくゆういちくんは、あの人形をボクにくれた。
 たぶん、たくさんお金を使ったんじゃないかって思う。
 やっぱり、悪いな、とは思ったけど、その気持ちはすごくうれしかった。
 ボクなんかのために努力もしてくれて…。
 
 あとゆういちくんは、この人形を通して、お願いを3つかなえてくれると言ってた。
 せっかくだけど、3つあるなら1つくらいは残しておこうかな。
 
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―数日が経ったある日―
 
 彼に気持ちを伝えようと思った。
 そうしたかったからじゃない。
 そうしなきゃいけないような気がしたから。
 彼は出て行ったまま、まだ家には戻ってはいない。
 それに、今日はまだ1度も言葉すら交わしてはいない。
 もう次の日には、この街を出るというのに。
 
 おそらく、何かあったんじゃないかって感じた。
 最初の頃は、冬休みの宿題とかを一緒にしていたのに、休みが進むうちに、言葉すら交わす回数が減っていた。
 側にいなくなる前に、伝えたかった。
 
 彼は、駅前のベンチに座っていた。
――泣いている。ひたすらに泣きじゃくっていた。
 何かツラいことでもあったのかもしれない。
 そのツラいことが何かなんて、わたしにはわからなかった。
 わたしの気持ちなんて、言うべき状態じゃあないのかもしれない。
 でもわたしは、
 「やっと見つけた」
 声をかけた。
 彼を捜している時間中、ずっと手に持っていた彼へのプレゼントのせいで、わたしの手の感覚はほとんどなくなっていた。
 そのプレゼントと言うのは…雪うさぎ。もともと不器用だから、上手く作れなかったかもしれない。
 それでも、わたしを、そしてこの雪が似合うこの街を憶えていてもらいたくて…。
 精一杯の笑顔を作って、いっしょうけんめい話しかけて、
 「わたし…言えなかったけど、ずっと、祐一のこと…」
 わたしの体温で融けかかった雪うさぎを差し出して、思いを伝えようとしたその刹那――
 
 手の中にあったはずのプレゼントは地面に叩きつけられ、その姿は無残にも、ただの雪の破片へと変わっていた。
 一瞬、頭の中が真っ白になった。
 何が起きたのかがわからなかった。
 だが、目の前の少年が、わたしの手の中にあったものを叩き落とした。それだけは事実だった。
 
 この後、自分で何を言ったのかはよく憶えていない。なぜか、謝っていたように思う。
 わたしを、この街を嫌いにならないでいて欲しかった。雪の色に染まる、この景色も。
 だから、最後にこう言ったのかもしれない。
 「明日、もう一度ここで会ってくれる? それで、ちゃんとお別れをさせてくれる?」
 彼からの返事は無かった。けれど、
 
 「わたし、ここでずっと祐一のことを待っているから…」
 
 と、笑顔のまま、最後に伝えた。
 頬に伝う涙は拭わないままに。
 
 
 
 7年が過ぎた。
 約束した次の日はもちろん、それから何度も駅前のベンチに座って彼を待ってみたけど、
 彼が来ることはなかった。
 ただ、幼心に、
 「フラれたのかな」
 って思った。
 いまだに、あの時の彼の気持ちはわからなかった。
 でも、もしかしたら彼の心の中には、別の女の子がいたのかもしれない。
 そう思うと、少しだけ悔しかった。
 
 その彼がこの街に帰ってくる。
 7年間、全く手紙の返事すらくれなかったと言うのに…。
 わたしは、どんな顔で彼を迎えればいいんだろう?
 笑っていられるんだろうか?
 そんなことを考えているうちに、約束の時間を2時間も過ぎていた。
 ただ、わたしは散々待ったんだから、2時間くらい遅れたうちに入らないよね?
 
 「わたしの名前、覚えてる?」
 
 
―おわり―
 
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 旧作の改訂版、第5弾です。
 当時の本を見てみると、香里SSで煮詰まったときに急遽予定を変更して書いたもの、と書いていました。
 名雪の、ゲームスタート時の気持ちを紐解くために振り返った話です。
 
 途中であゆが出てこなくなってますが、仕様です(^-^;
 あまりオリジナルな要素が入っていませんが、プロローグもの=シナリオの補完ものなんで致し方ないところです。はい。
 


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