another SUMMER(12) 
  
  
  
  
「骨は折れていないようだが、しばらくは歩かない方がいい」 
  
 慣れた手つきで美凪の手当を終えると、医者の女はそう言った。 
 女の家は立派と言えるほどの構えではなかったが、引き出しのたくさんある薬棚や、ほのかに匂う薬の匂いが、ここが間違いなく医者の家であることを物語っていた。 
  
「そういえば君たちの名前を聞いていなかったな。私は聖と言う。」 
  
 偽名を使おうかと一瞬迷った。 
 だが、先程の事故の時に観鈴が俺の名前を呼んでいたことを思い出し、それを諦めた。 
  
「俺は往人だ。こいつは…」 
  
 この地では観鈴はお尋ね者になっていないようだが、それでもこいつの名前を出すのはさすがにまずい。 
 幸いこいつの名前だけはまだ人前で呼んでいないことを思い出し、俺はとっさに偽名を口にしようとした。 
 したのだが…そんなものが都合良く直ぐに思い付くほど俺の頭は器用じゃない。 
  
「わたし、み…っ!」 
  
 その一瞬の隙をついて観鈴が正直に自分の名前を口にしようとしたので、取り敢えず頭を殴って封じておいた。 
  
「こいつは鈴(すず)だ」 
  
 観鈴が頭を押さえている間に、俺は適当に思い付いた名前を言っておいた。 
 言ってしまった後に、鈴という名があまりにも安直だったことに気付いたが…もう遅い。 
  
「イタイ…どうして急に殴るかな?」 
「で、世話になったこいつは美凪だ」 
  
 俺は観鈴の抗議に耳を貸さず、そのまま紹介を続けた。 
  
「ふむ…」 
  
 さすがに無理があったのか、聖は顎に手をやり俺達を品定めするかのように観察していた。 
  
「まあいい。ところで君たちはこの辺では見かけない顔だが、旅でもしているのか?」 
「まあな」 
「そうか、それは災難だったな。なら美凪さんの足が治るまではうちに泊まると良い」 
「いいの?」 
  
 思ってもいなかった提案に、観鈴は食いつくように反応した。 
  
「ああ、男手は欲しかったところだからな。ただし、しっかり働いてもらうからそのつもりで」 
「うん、ありがとう」 
「うむ、良い返事だ」 
  
 契約対象となった俺を完全に無視して、二人の交渉は無事成立したようだった。 
 反論しようにも、今からではあいにく分が悪い。 
  
「私は買い物の続きがあるから、その間君たちはここで待っていてくれ。くれぐれも、美凪さんは安静にな」 
「…はい」 
  
 その返事に満足そうに頷くと、聖は玄関の方に足を向けた。 
  
「それとだ…」 
  
 2、3歩進んでから、わざとらしく聖が振り向く。 
  
「偽名を使うのは構わないが、使うならちゃんとしてくれ。外で変な噂が立つと私達が困るからな」 
  
 …やっぱりバレバレだった。 
 戸の閉まる音と共に聖の姿が見えなくなると、俺は大きな溜息を吐いた。 
  
「良かったね、泊めてもらえて」 
「一応確認しておくけどな、おまえは自分の立場が分かってるのか?」 
「?」 
「…だそうです」 
「この先、むちゃくちゃ不安だぞ…」 
  
 溜息だけでは気が済まず、今度は頭を抱えた。 
  
「…本当にすみません…私のせいで、余計な心配を増やしてしまって」 
「馬鹿、そんなこともう気にするな」 
「うん、往人どのの言う通り」 
「…おまえが言うな」 
  
 反省しろという意味を込め、観鈴の頭をぽかっと殴っておいた。 
 その後に続く非難の視線はいつも通りきれいに無視しておく。 
  
「まあいい。とにかく、これから人前ではおまえのことは鈴と呼ぶから間違えるなよ」 
「うーん、難しい」 
「…むしろ…往人さまの方が間違えちゃったり…」 
「するかっ!」 
「…残念」 
  
 先程の事故からすっかりいつものペースに戻っていることに安堵しつつも、それを素直に喜べない自分がいた…。 
  
  
  
  
  
「わあ、お客さんだぁー」 
「うむ、お客さんだ」 
  
 市から帰ってきた聖が夕飯の支度を終えた頃、元気というのを超えて既に騒がしいという領域に足を踏み入れている少女が帰って来た。 
  
「お姉ちゃん、この人達どうしたの?」 
「道端で飢え死に寸前だったところを、私が助けてやったんだ」 
「誰が飢え死に寸前だ!」 
  
 ベタベタな突っ込みと分かっていながらも、体の方は素直に反応していた。 
  
「落ち着け。ほんの冗談だ」 
「ん? 冗談ってコトは、実はもう死んじゃってて、ここにいるのはその幽霊さんだとかぁ!?」 
  
 訳の分からない解釈をしてひとり勝手に盛り上がるやつ1名。 
  
「いや、実に残念だがそれは違う」 
  
 その言葉に一部引っかかるところがあったが、もはや突っ込む気すらしない。 
  
「…この姉にしてこの妹ありということはよく分かったから、早くちゃんとした説明をしてくれ」 
  
 それもそうだな、と聖はつまらなそうに答えると、咳払いをしてからもったいぶったように話し始めた。 
  
「実は、事故に遭って怪我をしていたところを私が偶然通りかかったんだ。聞けば旅の途中だと言うから、怪我が治る間での間、うちに泊まってもらうことにしたというわけだ」 
  
 どうだまいったか、といった感じで妹に胸を張ってみせる聖。 
 どうか人の不幸をだしにして威張らないで欲しい…。 
  
「そうなんだ。じゃあ、今日からは賑やかになるねぇ」 
  
 …いや、おまえ一人だけで俺達以上に賑やかだろ。 
 心の中でそんな突っ込みをしつつも、俺達は改めて自己紹介をすることになった。 
 ちなみに、さっきから騒がしい少女は聖の妹で、名前は佳乃というそうだ。 
  
「このお魚は見かけない顔だねぇ。何て言うお魚さんなの?」 
  
 食事を初めて直ぐに、佳乃が皿の上に載せられた魚の“切り身”を興味深げに観察していた。 
  
「これは鯖という海の魚だ。市で買ってきたばかりの捕れたて新鮮な一品だぞ」 
  
 自慢げに説明する聖。だが… 
  
「始めから塩漬けにされているものを捕れたて新鮮と呼んでいいのか?」 
  
 この集落のように海から離れたところまではるばる海の魚を持ってきていては途中で魚が腐ってしまうから、そのほとんどは始めから干物や塩漬けにされて運ばれている。 
  
「細かいことを気にするな。そう言った方が美味しそうに聞こえるだろ?」 
  
 …むちゃくちゃな弁明の仕方だった。 
  
「あれ、どうして塩漬けになんかしてるの?」 
  
 珍しいことに、佳乃がまともな質問をした。 
  
「塩漬けにすると日持ちするんだ」 
  
 ふう、この調子なら今度こそまともな方向に話が進んで… 
  
「そっかぁ、じゃあ鯖さんとたくあんさんは親戚なんだねぇ」 
  
 …いかなかった。 
  
「え、そうなんだ?」 
「根拠のない大嘘を信じるなよな、おまえ」 
  
 被害を最小限に抑えるために、俺は目から鱗といった感じで感心している観鈴に釘を刺しておいた。 
  
「…観鈴さま」 
  
 そうだ美凪、おまえからもこのアホアホな連中に何かひとこと言ってやれ! 
  
「…お味噌も塩漬けの一種ですから…親戚です」 
  
 ああ、これぞまさしくアホアホ四面楚歌…。 
  
  
  
 ********************** 
  
  
  
 一泊一食の恩義ということで、俺達は早速、朝から働くことになった。 
  
「なあ、一つ聞いて良いか?」 
  
 食後の片づけをしながら、俺はゆったりと構えている聖に意を決して尋ねてみた。 
  
「ああ、聞くだけならいくらでも構わんぞ」 
「何で俺だけ働かされてるんだ?」 
  
 そう。正確には“俺達”ではなく“俺だけ”が働かされていた。 
 足を怪我している美凪はともかく、観鈴の方は佳乃に連れられてさっき遊びに出て行ったっきりだ。 
  
「君はか弱い女の子に力仕事をさせようと言うのか?」 
「別にそんな訳じゃないが、俺だけってのが気にくわない」 
「そうか。なら次は薪割りを頼む」 
「…人の話を聞いてないだろ」 
「いやいや、ちゃんと聞いてるぞ。それにさっき言っただろ、“か弱い女の子に力仕事をさせるな”と」 
  
 …その“か弱い女の子”とやらに、目の前の大年増しも含まれているのだろうか? 
  
 がんっ! 
  
「いてっ、何しやがる!?」 
「君は今、失礼なことを考えていただろ」 
「…人の心を勝手に読むな」 
  
 殴られた頭を押さえつつ、精一杯の虚勢で非難しておく。 
  
「まあいい。とにかく君は居候の身なんだからしっかりと働いてくれたまえ」 
「ああ。それくらいはわきまえてるつもりだ」 
「それは結構。では私は自分の仕事に取りかかるとするかな」 
  
 そう言って屋敷の奥に入っていく聖とは反対に、俺は薪割りをすべく外に向かった。 
  
  
  
  
  
「物忘れが激しいので有名な爺さんが来てな、わたしに向かって“何を診てもらうつもりだったか忘れてしもうた。思い出したらまた来るのぉ”と言ったんだ。いやぁ、頭から血をどくどく流しながら、良くそんなことが言えたものだと感心したな」 
「…仙人みたいな人ですね」 
「うむ、あれはまさしく仙人だな」 
  
 薪割りを終えて屋敷の中に戻ってみると、美凪と聖が談話していた。 
  
「おまえ、仕事があるんじゃなかったのか?」 
  
 どう見たって暇つぶしをしているようにしか見えない聖への視線に、無駄とは思いつつも軽く非難の気持ちを込めておく。 
  
「おかしな事を言うんだな、君は。仕事ならこうして美凪さんの問診をしているぞ?」 
「世間話のどこが問診なんだよ」 
「何か文句でも?」 
  
 しゃきーんと、聖の手にはいつの間にか小刀が握られていた。 
  
「いえ、これっぽっちもごさいません」 
「大体仕方ないだろ。この村ではそうそう病人なんて出てこないんだ」 
  
 …こいつ、人を脅しながら開き直りやがった。 
  
「ただいまーっ! お腹がぺこぺこで大変大惨事なのだぁー!」 
  
 慌ただしい足音と共に、居間も兼ねている診療室に佳乃が駆け上がってきた。 
 その後ろには少し疲れ顔の観鈴も。 
  
「そうか、もう昼食時か。これから準備をするから大人しく待っていなさい」 
  
 餌をねだる大きな雛をなだめると、聖は炊事場の方に消えていった。 
  
「少しは静かにできないのか? 大人げないぞ、おまえ」 
「うぬぬ、お腹がぺこぺこだから仕方ないのだ…」 
  
 ぐぅ〜 
  
 直後、大人げない程に大きな音が部屋に響いた。 
  
「往人どのもお腹ぺこぺこ」 
  
 観鈴が嬉しそうに俺を指差した。 
  
「…食欲魔神さん…発見」 
  
 美凪が納得したように俺に微笑みかけてきた。 
  
「うわぁ、あたしよりもぺこぺこさんだぁ」 
  
 恥ずかしいから、おまえらそんな目で俺を見ないでくれ…。 
  
  
  
  
  
 聖が昼食を運んでくると、俺達は早速飯を頂いた。 
 性格は雑なくせに、聖の作った飯は文句のないほどに美味い。 
  
「ふっふっふ。往人君だけおかわりは無し、と」 
「だから人の心を勝手に読むな…」 
  
 文句があるとしたら、心の中でさえ本音を語ることが許されないこの状況か…。 
  
「そういえば、佳乃さんと聖さんのご両親は?」 
  
 提供・美凪、調理・聖による白米を頬張りながら、観鈴がそんなことを聞いた。 
 そういえばここに世話になってから、こいつらの両親を見たことはない。 
  
「今は二人ともいないんだ。お母さんは随分前に亡くなっちゃったし、お父さんも3年前にね」 
「が、がお…余計なこと聞いちゃった?」 
「ううん、気にしなくていいよぉ。お姉ちゃんがいるし、あたし、寂しいと思ったことはないから」 
「こらこら、そんな照れるような台詞は本人の前で言ったら駄目だぞ」 
  
 そんな注意に含まれている温かさは、会ってからまだ1日しか経っていない俺達にも分かった。 
  
「そういえば、君たちは旅をするには少し若い気もするが…もしかして君たちもそうなのか?」 
  
 遠慮がちに聞かれたものの、それは俺達にとっても隠したり躊躇ったりするほどのものでもなかったから、適当に頷いておいた。 
  
「ふむ。しかし、不思議な組み合わせだな。兄妹という関係ではないし、往人君と美凪さんが鈴さんに仕えているといった感じだな」 
「…はい…ご名答です」 
「へぇー。じゃあ、鈴さんはお姫さまなんだねぇ」 
「ううん、お姫さまってわけじゃなくて…」 
「ただのお荷物だ」 
「…往人どの、ひどい」 
  
 少なくとも間違いではないので、非難の視線はこの際無視しておく。 
 しかし今になって気付いたが、観鈴と佳乃のやり取りには、観鈴が欲しがっていた友達という関係を思わせるようなものがあった。 
 いや、午前中はずっと一緒に遊んでいたのだから、友達で間違いないのだろう。 
 こいつは翼人という肩書きさえ持っていなければ、これまでにいくらだって友達を作ることが出来たんじゃないのかという考えがふと浮かんだ。 
 今の観鈴の様子を見ていると、そんなことを考えずにはいられない。 
 翼人という下らない肩書きのせいでこいつがずっとそんな目に遭ってきたことを思うと、無性に腹が立った。 
  
「まあ、それはいいとして…」 
  
 聖は唐突に咳払いをすると、にやりと笑った。 
  
「二人とも、往人君には手込めにされないように気を付けるようにな」 
「誰がするかっ!」 
  
 俺は思わず立ち上がってそう叫んだ。 
  
「?」 
  
 そんな俺の側で、観鈴と佳乃は言葉の意味が分からず不思議そうな表情を浮かべ… 
  
「……ぽっ」 
  
 美凪に至ってはなぜか頬を赤らめていた…。 
  
  
  
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 今日も俺は聖の使いっぱしりとして朝から働き通しだった。 
 なんでも、書庫の整理と部屋の片づけをしろとのことだ。 
 さすがに医者の家だけあり、本棚には古いのから新しいのまで、俺にはさっぱり分からないような本がずらりと並んでいた。 
 その一冊一冊を手に取り、積もった埃を落としていく。 
 実に地味な作業だ。 
 そう思い、はたきで棚まるごといっぺんに綺麗にしてやろうとしたところ… 
  
『こら、うちの財産を手荒く扱うんじゃない』 
  
 …と、先程、聖に後頭部を叩かれたばかりだった。 
 そのことに心の中で文句を言いつつ仕事を進めてると、書物の題名にふと目が留まった。 
  
「…これ、翼人に関する書物じゃないか?」 
  
 題名に翼人という文字こそ入っていないものの、ここから先の本棚を占拠しているのはどれも翼人に関係するものだった。 
 手に取って内容を確かめてみると、そのどれもが社殿にあったようなしっかりとした内容のものだった。 
  
「仕事をさぼって読書とは、君も良い身分だな」 
  
 集中していたせいで時間の流れに疎くなっていたのか、俺の後ろにはいつの間にか聖が立っていた。 
  
「ん? それは翼人について書いてある書物じゃないか。そんなものに興味を持つなんて珍しい趣味だな」 
「…別に、趣味って訳じゃない」 
  
 深く尋ねられるのはまずいので、俺は適当に返事を返しておいた。 
  
「まあ、そういうことにしておこう」 
  
 聖はそれを答えと見なして納得したのか、ひとりで頷いていた。 
  
「なあ。これ、どうしたんだ?」 
「ああ、これは父さんの趣味なんだ。父さんは翼人について調べるのに熱心な人でな、わたしや佳乃も小さい頃から翼人についての話はよく聞かされていたよ」 
  
 困った風な口ぶりとは逆に、聖は懐かしそうに語った。 
 その口ぶりに、もしかしてという期待が込み上げてくる。 
  
「…おまえは、翼人の災いっていうのを知ってるか?」 
  
 これ以上この話題に足を突っ込むのは俺達の身分を隠す上で賢明ではないと感じながらも、俺はそれを聞かずにはいられなかった。 
  
「知っているといえば知っているが…なんだ、その話を聞きたいのか?」 
  
 不思議そうに俺を見つめる聖に、俺はゆっくりと頷いた。 
  
  
  
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 遙か昔、一人の翼人が男に恋をした。 
 しかし翼人は神にのみ仕える身。神の意志を代行するためだけの存在。 
 故に人並みに恋をして伴侶を得ることなど許されなかったし、彼女もそれを理解していた。 
 だが、翼人とて限りなく人に近い存在。 
 諦めの気持ちこそあったものの自分の想いを捨てきることなど出来ず、それを密かに胸の中に仕舞い続けていた。 
 だがある時、彼女は思いを寄せる男に暗殺の噂が立っているのを知った。 
 そのことをいち早く察することが出来たのも、ひとえに翼人の成せる技である。 
 男の身を案じた翼人は、急いで彼にそのことを伝えた。 
 しかし、そのときは既にもう手遅れだった。 
 それでも男を助けたいと願った翼人は、窮地に立たされた愛しい人を救うために禁を破ってその力を使った。 
 結果としてその男は奇跡的に助かった。 
 しかし、それは翼人が自らの手で自らのために世界を変える行為だった。 
 世を変えるほどの力を私欲の為に使うことが何を意味するのか、それを想像するのは神でなくとも用意だ。 
 力の乱用が起こることを恐れ、神は罰として翼人に呪いをかけた。 
 翼人が私欲の為にその力を使わぬように、使命以外のことに興味を示さなくなるように。 
 それ以来、翼人が誰かに好意を寄せ始めた時、彼女の周りでは不吉なことが起こるようになった。 
 それは翼人自身に対する警告であると同時に、周囲の人間が彼女を避けるようにするためのものでもあった。 
 翼人が人に思いを寄せ、その罰として彼女に与えられる災い。 
 それこそが翼人の災いと呼ばれるものの正体。 
  
  
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 家々から燭台の明かりが消えても、闇の中からは虫や蛙たちの声が今も賑やかに聞こえていた。 
 それを聞き入るでもなく、耳を塞ぐでもなく、俺はその音の波に身を任せていた。 
  
『まあこれはあくまで有力な説というやつだから、本当かどうかまでは分からないと父さんも言っていたがな』 
  
 聖は首をすくめ、話の最後にそう付け加えた。 
 でも俺にはそれが恐ろしいほどの現実感を伴っているように思えた。 
  
『わたし、いつもみんなに避けられているから』 
  
 俺達がまだ社殿にいたあの夜、観鈴は俺に向かってそう言った。 
 友達が欲しくてしょうがなかったのに、周りの人間が自分を避けていることに遠慮していたあいつ。 
  
『夢の中には綺麗な女の人がひとりぼっちでいるんだ。その人には翼があるのに、その翼を自分で羽ばたかせることが出来なくて悲しい思いをしているの。掴みたいものは目の前にあって、翼を羽ばたかせれば届くはずなのに、その人はそれをすることが出来ないの』 
  
 充分すぎるほどの力を持ちながら、それを目の前にいるやつらや自分の為に使うことが出来ないという定め。 
 あの時語られた夢の内容が、聖が話してくれたことの全てを物語っていた。 
  
『そこにはもう一人のわたしがいる…そんな気がするんだ』 
  
 そしてその定めをあの小さな背中に背負っているだろうあいつ。 
 今までのこと、そしてこれからのことに腹が立った。 
  
「違う! 観鈴は、あいつは…っ!」 
  
 やり場のない苛立ちを夜空にぶつけた。 
 何が違うのだろう? 
 その理由も分からぬまま、俺は闇の中でただ立ちつくしていることしかできなかった…。 
  
  
  
  
  
  
                 −13話に続く− 
  
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 やっと本線に復帰できたかなと思われる今回の話では第3話の伏線を回収したわけですが…危うく自分でも忘れるところでした(汗)。 
 回収するまでの時間が経ちすぎですね…。 
  
「ぴこぴこ」 
  
 聖と佳乃の登場は初期設定にはなかったのですが、二人のおかげで書く方としては大分楽になりました。 
 特に聖はキーキャラとして便利な役所として使わせてもらいました。 
  
「ぴっこり」 
  
 …ちなみに、白い地球外生命体の登場は今後もまったく、全然、これっぽっちも予定していませんので♪ 
  
「ぴ、ぴこ〜」 
  
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りきおです。いただいてから時間経ちすぎですいません(汗。 
  
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