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8   ★another SUMMER(13)<作・ひでやんさん>(Air summer編)
更新日時:
2008.03.15 Sat.
another SUMMER(13)
 
 
 
 …また、あの夢。
 社殿を抜け出してすぐの頃は夢を見るような余裕もなかったけど、最近はそんな生活にも慣れてきたせいか、また見るようになっていた。
 相変わらず夢の意味は分からなかったけど、今では往人どのや美凪が側にいてくれるから、昔のように夢から覚めた後にひとりで悲しい思いをすることもなかった。
 でも、今日の夢はいつものとちょっと違う内容だった。
 
 わたしの目の前には、いつも夢に出てくる翼を持った女の人がいた。
 その人の背中には翼があるのに、それは見えない鎖に縛られているみたいに、自由に羽ばたかせることが出来なかった。
 もしその翼を羽ばたかせたなら、この人の望むところまでひとっ飛びで行けるはずなのに。
 わたしはその人の元に駆け寄ろうとした。
 でも見えない壁にぶつかって、わたしは尻餅をついてしまった。
 それに気付いたのか、女の人の目がわたしと合った。
 その瞳には悲しみや後悔、拒絶が満ちていた。
 きっと、わたしにとってこの人は無関係じゃない。もうひとりのわたしなんだ。
 根拠はないけど、この人の瞳を見ていたらそう思わずにはいられない。
 今もわたしたちの間には隔たりがあるけど、わたしたちが目指しているところはきっと同じなんだと思う。
 そう思うと、急に堪えきれなくなってきて…
 
「――――っ!」
 
 その人に向けて、そう叫んでいた。
 
 
 
 
 ***********************
 
 
 
 
 トン、トン、トン…
 釘を打つ規則正しい音が、晴れ渡った空に響く。
 
『おや、雨漏れか?』
 
 昨日の夕立、それに気付いた聖が言った。
 
『ところで往人君。君は雨漏れが好きか?』
 
 それに続いた誘導尋問の結果、俺はこうして屋根の上で大工仕事に勤しむ羽目になっていた。
 
「ふう、なんでこんなことまでしなきゃいけないんだ…」
 
 朝も早くから絶好調な日差しに、俺の心は既に滅入っていた。
 ぱんっ、ぱんっ
 そんな俺の心境とは対照的に、屋根の下からは洗濯物を伸ばす張りのある音が響いていた。
 
「んーっ、今日も良い天気っ」
 
 洗濯日和のからっとした日差しの中で大きく伸びをしている観鈴は、まるで日光浴をしているみたいだった。
 
「…そういう観鈴さまは、今日もとっても元気」
 
 観鈴と並んで洗濯物を干していた美凪の感想を受け、観鈴は照れ笑いを浮かべた。
 
「あ、そういえば大丈夫? 痛いなら無理しない方がいいよ?」
 
 美凪はその意味が分からなかったような表情を一瞬浮かべたが、それが何を指していたのか思い当たると、両手で力こぶを作る仕草をした。
 
「…これくらいへっちゃらです。…へっちゃらへー、です」
「腕は関係無いだろ…」
 
 聞こえないと知りつつも思わず屋根の上から突っ込んでいると、屋敷の中から聖が口をとがらせながら出てきた。
 
「こらこら。働き者なのは感心だが、無理して治りが悪くならない程度にな」
「…そうですね…長い間お世話になっていては迷惑ですし…」
「ん? 私達なら別に構わないぞ。君たちが来てからというもの、家の事では苦労しなくなったからな」
 
 聖は顎に手を添え、にやりと笑った。
 
「それこそ、君たちをお嫁さんにしたいくらいだ」
「お…お嫁さん…」
 
 聖の冗談を真に受けているらしい観鈴の頭の中では、きっとお花畑な光景が広がっているのだろう。
 
「あっ、見つけたぁ!」
 
 夏の日差しに負けないほどの活気を持って、今度は佳乃が現れた。
 
「ん、どうかしたのか?」
「みんなが見当たらないから探してたんだけど…もしかして、あたしだけ仲間はずれにされちゃってた?」
「いや。どちらかというと、佳乃だけ仕事さぼりさんといったところだな」
「あ、あははは…」
 
 聖のいたずらっぽい笑みに、佳乃は口元を手のひらで隠すようにして苦笑いをした。
 
「もう少ししたら干し終わるから、そしたら一緒に遊んでくれる?」
「了解なのだぁー。じゃあ、あたしも手伝うねー」
 
 観鈴の助け船に元気よく手を挙げて応えると、今度は3人で洗濯物を干し始めた。
 残りの1名はそれを満足そうに端から見ているだけだったけどな…。
 
「あれ、そういえばお姉ちゃんも働いてない?」
「そんなことはないぞ。今もこうして、いつ患者さんが来ても大丈夫なようにちゃんと働いているからな」
「…さすがは聖さんです…ぱちぱちぱち…」
「うーん、なんかちょっと違う気も…」
 
 屋根の下からは笑い声が聞こえる。
 そこに広がる光景は、観鈴がずっと求めていたものに違いなかった。
 今だってまだまだ前途多難な状況には違いなかったが、こうして観鈴や美凪の笑顔を見ていると、これまでのことが無駄じゃなかったと思えて嬉しかった。
 
「…まあ、その輪から俺だけはぶられてるってのは少し癪だけどな」
 
 そうぼやいてから、俺も再び手を動かし始めた。
 頭上からは衰えを知らない夏の日差し。
 俺達にとって一番の思い出になるだろうこの夏は、まだまだ続きそうだった。
 
 
 
 
 *********************
 
 
 
 
 俺達が聖のところに世話になってから4日が過ぎた頃、原因不明のぼやが起きた。
 聖は最初、原因は俺の火の不始末だと思ったらしく、心当たりもないのに俺はこっぴどく説教を食らう羽目になった
 最終的に俺の無実は証明されたが、納得のいかない聖からは謝罪の言葉がなかったのが気にくわないところだ。
 原因は偶然の天災だったのか、それとも悪意のある誰かの仕業なのか?
 だが、俺はふと、そのどちらでもない原因が頭に浮かんだ。
 
「翼人の災い、なのか?」
 
 聖からあの話を聞いた後なら、心当たりがないわけじゃない。
 あの一件以来、今までにも増して仲良くなった美凪。それに、聖や佳乃との良好な関係。
 少し無理のある発想かもしれないが、美凪の怪我も今回の事も全て、観鈴が誰かと仲良くなってからのことだった。
 そして、俺達が今のような逃亡生活を始めるきっかけだって、俺が観鈴との仲を深めてからのことだ。
 
「…馬鹿らしい。ただの偶然に決まってる」
 
 きっとあの話を気にし過ぎてるんだろう。そう考えることにして顔を上げると…
 
「あれ? 往人どの、何だか元気ない?」
 
 いつの間にか、観鈴が俺の顔を覗き込んでいた。
 
「別に…」
 
 表情を読まれたのが恥かしくて、俺はそっぽを向いた。
 それに、こいつがどこまで自分自身のことを知ってるのかは知らないが、今俺が考えてることを話す気にはなれなかった。
 
「わたし、往人どのの友達。だから心配事なら聞くよ」
 
 友達という立場を自慢げに押しつけてくる観鈴に呆れていると、さっきまでの下らない考えはどこかへ行ってしまった。
 
「まったく…心配事なんてあるかよ」
 
 そう言って観鈴の方に向き直ると、観鈴は返事もしないで俺の目を覗き込んできた。
 
「…なんだよ?」
「往人どの、嘘付いてる?」
「なんでおまえに嘘なんか付かなきゃいけないんだ?」
「うーん…じゃあ、わたしの勘違いなのかな」
「ああ、おまえの勘違いだ」
「そっか。なら悪いことじゃないし、いっか」
 
 そう言って取り繕うように笑う観鈴の表情が、一瞬、どこか辛そうに見えた。
 そういえば、今朝はぼやの件で頭がいっぱいで、こいつの様子なんかに気づく余裕はなかったんだな。
 
「おまえの方こそどうかしたのか?」
 
 その質問に、観鈴は不思議そうな表情を返してきた。
 
「ううん、そんなことないけど…どうしたの?」
「…いや、気にしなくていい。俺の勘違いだ」
 
 元々根拠なんてなかったし、それ以上聞くのは止めた。
 
「うん、往人どのも勘違い」
 
 まるで俺も仲間だと言わんばかりの無邪気な表情に、少し救われた気分だった。
 
 
 
 
 **********************
 
 
 
 
 だが、俺の悪い予感は外れるどころか、次の日にも一騒動あった。
 
「聖さん、いますか?!」
 
 いつものように佳乃と一緒に外に遊びに行ってたはずの観鈴が、玄関に入ってくるなり大声で叫んだ。
 
「どうしたんだ、大声を出して」
 
 少し呆れたような口調で玄関に出て行った聖が目にしたのは、観鈴に肩を担がれる佳乃の姿だった。
 
「あははは…足をくじいちゃったぁ…」
 
 見た目の割に元気そうな声を聞くと、聖は安堵の息を漏らした。
 
「分かった。具合を見るから、悪いが佳乃を居間まで運んで来てくれ」
 
 そう言うなり聖は治療の用意のために先に居間に行ったので、俺は観鈴と一緒に佳乃を居間に上げるのを手伝った。
 
 
 
 
「それにしても、よくここまで派手にくじいたな」
「ううっ、面目ないのだぁ…」
「まあ、幸い大事に至ってないからいいが、明日までは走ったりしたら駄目だからな」
 
 姉に釘を刺され、しょんぼりとする佳乃。
 大したことじゃないと分かって空気が緩んでいく中、観鈴だけは暗い顔をして俯いていた。
 
「いつまでそんな顔してんだよ。別におまえのせいじゃないんだから気にするな」
「…うん…そうだね」
 
 覇気のない返事と作り笑顔に、隣にいた美凪も心配そうに観鈴を見ていた。
 
「しかし偶然とはいえ、君たちがうちに来てからは災難続きだな」
 
 ふむ、といった感じで聖は考え込むような仕草をした。
 
「ダメだよお姉ちゃん。そんなこと言ったら鈴さんが気にしちゃうって」
「もちろん本気で言ったわけじゃない。それに、もし疫病神がいたとしたら、それは鈴さんや美凪さんではなく、間違いなく往人君だからな」
「なんで俺だけ候補に残ってるんだよ?」
「いいじゃないか。おかげで少しは場が和んだことだしな」
 
 …頼むから、人をダシにして自分の失敗を埋めないで欲しい。
 
「朝廷への反乱勢力の動きも最近は活発になってきていることだし、少しは気を引き締めないといけないな」
 
 聖は最後に話をそう括って席を立とうとしたが、俺はある言葉が引っかかった。
 
「…反乱勢力?」
「あれ、知らないんだ? 旅の人なら知ってて当たり前かと思ってたけど」
 
 不思議そうに見つめてくる佳乃の隣で、聖も頷いていた。
 
「まあ…そういうこともあるんだよ」
 
 説得力に欠ける返事をしてしまったことを後悔しつつも、話を進めるよう目で促した。
 
「この辺りではそいつらの顔がでかくてな、山賊まがいの悪行に村のみんなも困っているというわけだ。君たちも道中ではそいつらに気を付けるんだな」
 
 話を聞く限りでは、そいつらの活動が活発になったのは俺達が社殿を抜け出した後ということになる。
 社殿を襲った奴らの規模から考えて、もしかしたら観鈴を狙っていたのは聖の言った奴らなのかもしれない。
 もっと詳しく知りたいと思いつつも、これ以上の詮索は不自然に思われそうだったので止めておいた。
 俺がそんな考えを巡らせている間に、佳乃のやつは眉をひそめて考え事をしていた。
 
「うぬぬ…走り回れなくなっちゃったけど、その間なにして遊ぼう…」
 
 さすがは佳乃。怪我して早々、もうそんな心配事をしてるとはな。
 そんな佳乃の様子を見て、美凪の眉がぴくりと動いた。
 
「…お手玉なんかありますけど…やってみますか?」
 
 どこから取り出してきたのか、差し出された手のひらにはお手玉が乗っていた。
 ここ数日は見かけなかったが、確かにそんなものもあったっけな。
 
「あははは…実はあたし、お手玉苦手なんだぁ」
「見かけ通り不器用ってわけか」
 
 がんっ!
 
 直後、お姉さまの鉄槌を食らった。
 
「人の妹を馬鹿にするのは良くないな、往人君」
「…すみませんでした」
 
 二発目が来る前に、俺は素直に謝っておいた。
 
「…大丈夫です…往人さまも、最初は下手でしたから」
 
 美凪からの貴重な情報を聞くと、聖はにやりとした。
 
「ほう…なるほどな」
「大工仕事とかは上手くやってたけど、そういうのは苦手なんだぁ」
「…ほっとけ」
 
 物理的な攻撃こそ回避したものの、ちゃっかり二撃目を食らわしやがって…。
 
「お手玉は私も少し自信があるのだが、美凪さんも上手なのか?」
「…いえ…それほどでは。…5つか6つが限界です」
「ええーっ、そんなにも?!」
「十分自慢できる数じゃないか。私なんかは4つか5つといったところだからな」
 
 そんな風にお手玉談義で盛り上がりを見せている中、観鈴だけは耐えるような表情をして俯いたままだった。
 
 
 
 
 佳乃の手当が終わると、聖は午後の往診まで店番、俺は聖から頼まれた雑用、残る3人はお手玉講習会へとそれぞれ別れた。
 仕事をしつつ、いつものように取り留めもなく翼人の事を頭の中で整理していると、ふと一つの疑問が浮かんた。
 
「そういえば聖の話していた翼人って、最後にどうなったんだろうな…」
 
 どうでも良いことだと言えばそうだが、仕事を終えると俺は聖にそのことを聞いてみた。
 
「…呪いの事も顧みず相思相愛になった結果、相手の男は死んだそうだ」
 
 恋物語の最後は、そんな悲しい結末だった。
 
「そうか。なら、この国に一人しか翼人がいないってのも当然だな」
「いや、そうとばかりは限らないらしいぞ」
 
 その言葉に耳を疑った。
 
「呪いに蝕まれる中で子供をもうけた翼人はこれまでに何例かあったらしい。その場合、母親が死ぬことで初めて子供の方に翼人の力が引き継がれるそうだが、翼人が二人もいるという都合の悪い話は信憑性が薄くて、父さんも噂程度にしか考えてなかったそうだ。まあ、今の翼人も高野山にいるらしいし、正確な情報が外に漏れてこないのも当然だろうがな」
 
 …ちょっと待て。
 一人しかいないはずの翼人は、今俺達の側にいるじゃないか。
 
「それはいつ聞いた話だ?」
「父さんから聞いた話だから、5〜10年ほど前のことだろうな」
 
 それくらいの頃といえば、観鈴に物心が付いていてもおかしくない。
 観鈴から詳しい話を聞いたことはないとはいえ、あいつが高野山にいたようなことを口にしたことは今まで無かった。
 聖の情報が間違っているという可能性もあったが、観鈴には翼人としての自覚がないということがどうも気になる。
 だとしたら、翼人はもう一人いて、観鈴はその“何例か”に当てはまるというのだろうか?
 
「どうした、納得のいかない顔をして」
「いや、なんでもない…」
 
 たとえもう一人の翼人がいようがいなかろうが、俺には関係ない。
 …ないはずなのに、そのことが胸の奥に埋もれていた何かを引きずり出そうとしていた。
 翼、呪い、そして人形。
 そんな繋がりのない言葉が不意に頭をよぎったが、なんでそんな言葉が出てきたのかは俺自身にも分からなかった。
 
 
 
 
「ねえ、往人どの。聖さんって翼人のことよく知ってるの?」
 
 聖との話を終えて少し経った頃、一人でいた俺を観鈴が捕まえた。
 
「なんでそんなことを俺に聞くんだよ?」
「だって、さっき、往人どのと聖さんが話してたのを聞いちゃったから」
 
 内心、しまったと思った。
 
「だから…翼人の災いについても知ってるのかなと思って…」
 
 言葉を紡ぐ度に観鈴の表情は暗くなっていき、今にも俯いてしまいそうだった。
 
「さあな、知らないんじゃないか」
「往人どの」
 
 俺の返事を真に受けることなく、観鈴は俺の目を覗いてきた。
 
「嘘、ついてるよね?」
「そんなわけあるかよ」
 
 悟られまいと視線を外してみたものの、もう観鈴は気付いているんだろう。
 
「社殿でされてた噂と同じなんだ」
 
 嫌な予感が背筋を走り、俺は目の前の少女に視線を戻した。
 
「わたしがここに来てから、ぼやがあって、佳乃さんが怪我をした。それってやっぱりわたしのせいなのかな? よく考えてみたら、美凪の怪我だって、もしかしたら…」
 
 その表情は、先日のぼや騒動の後に一瞬だけ見せたものと同じだった。
 
「おまえ…」
 
 俺と同じように、あの時から観鈴は、もしかしたら自分のせいなんじゃないかと責任を感じていたのだろう。
 
「だから聞かせて。わたし、自分のこと知りたい」
 
 観鈴の切実な表情を前に話すべきかどうか迷っていると、観鈴の後ろから人影が現れた。
 
「…私も知りたいです。…それに、友達に隠し事は無しですよ」
 
 確かに、俺一人で抱えていてどうなるものでもないのかもしれない。
 
「分かったよ…」
 
 渋々返事をすると、俺は今までに知った翼人の事についての二人に話した。
 
 
 
 
 俺の話が終わってから二人に聞き返されたのは、やはり聖が言っていた翼人の居場所についてだった。
 
「…私も観鈴さまのお世話をするまでは翼人がどこにいるのかは知りませんでしたけど…ずっと、翼人は観鈴さま一人だと思っていました」
「おまえにも心当たりはないのか?」
「わたしも知らない。でも…」
 
 少し迷ってから、観鈴は次の言葉を口にした。
 
「その人、わたしのお母さんなのかな…」
 
 観鈴が語っていた夢の中の女性。それが観鈴の母親だとしたら、観鈴が見ていた夢は、かつて母親といた頃の微かな思い出が見させているのだろうか?
 
「おまえ、確か母親との記憶は無かったよな」
「…でも、往人さまの聞いた話から考えると…もう一人の翼人というのは観鈴さまの母上という可能性も否定できません…」
 
 その時、物陰から人の気配がした。
 俺は手で話を止めるように指示すると同時に、その方向を凝視した。
 少しの間の後、壁の影から往診に行っていたはずの聖が姿を現した。
 
「すまない、盗み聞きするつもりは無かったんだが…」
 
 謝罪を述べる聖の表情は険しかった。
 
「聞いてたのか?」
「鈴さん…いや、観鈴さんが翼人だということはな」
 
 その言葉に、俺達は身構えた。
 
「そんな顔をするな。それに、今はそんなことでもめてる場合じゃない」
「どういうことだ?」
「先程、反乱勢力の兵達がやって来て、『この村にいる旅の者を差し出せ』と言って回っているということを口伝えに聞いてな。あいつらの話では、君たちは観鈴さんをさらった輩という事になっているらしいぞ」
 
 聖のやっかいになっているとはいえ、見慣れない旅人がこんな村に長居をしていれば、その噂がそいつらの耳に入ってしまったのも当然といえば当然だ。
 
「…で、おまえは俺達をそいつらに差し出すつもりなのか?」
 
 牽制の意味を込めて、俺は刀の柄に手を伸ばした。
 
「往人どのっ」
 
 今まで世話になったやつに刃を向けることに躊躇いがあるのか、観鈴がそれを咎めた。
 
「馬鹿を言うな。私はそこまで薄情じゃないし、あんなやつらの話を信じる気もない」
 
 そいつらには色々と不満があるのか、聖はぶっきらぼうにそう言い捨てた。
 
「…とは言っても、君たちをここに匿い続けるのは無理だろうな。村のみんなから信頼されているとはいえ、ここが詮索されるのも時間の問題だ」
 
 そう言うと、聖は俺達に道を空けるかのように一歩身を引いた。
 
「…いいんですか? 私達を逃がしたことが知られてしまったら、聖さん達に迷惑が…」
「なに、父さんがずっと追いかけていた翼人に会えたんだ。それくらいの迷惑なら充分見合うさ」
 
 そういって聖はにやりと笑ってみせた。
 
「…本当に信じて良いんだな?」
「ああ、だから早く逃げろ。北の裏山からなら気付かれずに行けるはずだ」
 
 いつにも増して真剣な聖の目は、嘘を付いているようには思えなかった。
 
「分かった。おまえの言葉を信じさせてもらう」
 
 そして俺は二人に目で合図を送った。
 
「…本当に、お世話になりました」
「あの、佳乃さんにもよろしく伝えておいてください」
 
 名残惜しそうに別れを告げると、先に走り出した俺を追って二人も駆けだした。
 
「無事に逃げ延びるんだぞ…」
 
 遠くなっていく聖の言葉を背中に受けながら、俺達は再び逃亡生活へと身を繰り出した。
 
 
 
 
 
                    −14話に続く−
 
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 詰まった展開を無理矢理進めてしまった感がありますが、忘れた頃に急に出てくるからこその追っ手ということで…(汗)。
 
 白毛玉は当初から出す気はなかったので置いときますが(←ぴ、ぴこ〜)、「絶体絶命でさあ大変なのだぁ!」みたいな佳乃のあの言い回しを表現できなかったのが残念でした(佳乃を書くのは苦手なので…)。
 代わりに聖には大活躍でしてもらいました(書いてるときに姉御と被りまくってましたが…)。往人の刀を奪って「ファファファ…しねい!」とか言い出さなくて良かったです(笑)。
 
 今回の話で予定していた設定の2/3は出し切ったので、後は物語のメイン部分(らしきもの)をじゃんじゃん書いて行きたいと思います…が、いつになったら書き上がる事やら…。
 
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りきおです。これまた大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした(汗。
 
ようやく、色々と種をまき終わってクライマックスへ、と言う流れですね。本編と同じところ、全く違うところと再構成されていて面白く、
これからが楽しみになってきました。
 
感想などあれば、
 
「Web拍手」
 
などへどうぞ!

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