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頂きモノSSの部屋
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5   ★『二人の誓い』 第5話<作・ひでやんさん>(リトバスRefrain編SS)
更新日時:
2008.04.21 Mon.
Episode:鈴&理樹 アレンジSS
        『二人の誓い』 第5話
 
 
−Side:理樹−
 
 
「どこにあるのかちゃんと聞いとけば良かったな…」
 
 結局、鈴に頼まれたマタタビを見つけるのには苦労した。
 鈴はよく僕の部屋に遊びに来ていたけど、よく考えてみれば僕が鈴の部屋に行った事なんてほとんど無かった。
 遅いぞ!って鈴に怒られるかなぁと想像しつつ、たくさんのマタタビを胸に抱えながら走った。
 そして角を曲がって見えた渡り廊下の先には、機嫌良く猫たち全員と戯れてる鈴の姿があった。
 
「ごめん、遅くなって」
「いや。ありがとな」
 
 よかった、取り敢えず怒ってはなさそうだ…。
 
「で、これをどうすればいいの?」
 
 刹那、僕に向けられる熱い視線を感じた。
 鈴の足元から二十四の瞳が僕を…正確に言えば僕が抱えているマタマビを見つめ、目をぎらぎらさせていた。
 
「うわっ、ちょっと待って!」
 
 お約束的な展開といえばいいのか、理性の切れた猫にたかられ、僕は瞬く間に猫だるまと化した。
 
「あはは、おもしろいな」
 
 猫だらけの視界の隙間から、鈴の楽しそうな声が聞こえてきた。
 
「笑ってないで助けてよっ!」
「じゃあ、それをあっちの方に持っていってくれ。ここから見えないくらい遠くだぞ」
 
 鈴の指示に従って僕はマタタビと、ついでに獲物に群がる猫たちを運んだ。
 どさっという音と共にマタタビを地面下ろすと、猫たちは僕のことなんか目に入ってないかのように夢中でマタタビとじゃれ始めた。
 12匹もの猫がマタタビに群がって蠢く姿は…なんというか、ちょっと不気味だった。
 …さて、鈴のところに戻らなくちゃ。
 
「鈴の言った通りにしてきたよ」
「ああ、ごくろう」
 
 鈴の元に戻ってみると、いつの間にかその腕の中には見慣れない一匹の猫がいた。
 年寄りのように毛並みは悪く、他の猫たちのような元気さもない。
 …あれ? この子はどこかで見たことあるような気がするけど。
 
「鈴、その猫って…」
「ん、マイケルのことか?」
「えっ?! マイケルって確か…」
 
 いつか僕らがいた世界で、鈴に看取られながら死んでいった子だったはずじゃ?
 
「理樹っ」
 
 余計なことを言ってしまった僕を、鈴は“めっ”というような表情で咎めた。
 
「…ごめん」
 
 だけど鈴は僕が想像したほど機嫌を悪くしなかったのか、すぐに穏やかな表情に戻ると腕の中で気持ちよさそうに丸まっているマイケルを見つめた。
 
「今日はこいつとあそぶ。いっぱいあそんでやるんだ」
 
 その声に悲しみの色はなく、ただ楽しいことへの期待だけが込められていた。
 鈴はマイケルを降ろすと、どこからか猫じゃらしを取り出してそれを動かし始めた。
 マイケルはワンテンポ遅れながらもその動きを目で追っていた。
 
「ほら、捕まえてみろ」
 
 鈴に誘われるように、マイケルはゆっくりと猫じゃらしに手を伸ばした。
 本人は必至に捕まえようとしているのだろうけど、端から見ればその動きはスロー映像を見ているような光景だった。
 …動き回る猫じゃらしを捕まえられるわけもない。
 それでもマイケルは諦めずに手を伸ばし続けたし、鈴の方も見た目ほど捕まえにくくならないように工夫していた。
 そしてついにマイケルはパシッと猫じゃらしを掴んだ。
 
「おっ、やるじゃないか。だが次はそーはいかないぞ」
 
 鈴は嬉しそうにまた猫じゃらしを動かし始める。
 マイケルもまたそれを必至に追いかける。
 のどかで幸せそうな鈴とマイケルの姿を見ているのに、僕はどうしようもなく悲しい気持ちになった。
 …マイケルはこの世界でもきっともう長くない。
 また別れを繰り返すことを知ってるはずなのに、どうして鈴はあんなにも自然体でいられるのだろう?
 猫じゃらしを追いかけるのだって今は辛いだろうに、どうしてマイケルはあんなにも真剣になれるのだろう?
 二人が望んでいるものは絶対に掴めないと知りながらも、目を背けずにいられるのだろう?
 
『理樹はあの日から弱いまんまだな…』
 
 ふと、あの日の恭介の言葉が頭をよぎった。
 
「ん、どうした理樹? 変な顔してるぞ」
「え? いや…何でもないよ」
 
 気が付けば、僕はさっきから鈴の横顔を見つめたまま押し黙っていた。
 
「そうか? 気になることがあるんなら我慢するな。あたしが聞いてやるぞ」
 
 猫と遊んでいる最中だからだろうか? そう話す鈴はいつもよりもお姉さんっぽくて頼もしく見えた。
 
「その…鈴は辛くないの? 猫たちに構ってあげてる限り、これからも別れを繰り返すこと」
 
 それは聞いちゃいけない事のような気もしたけど、僕はどうしても知りたかった。
 両親との離別があって、それが原因でナルコレプシーを抱えてしまった僕には、悲しいことが繰り返されるのなんてとても耐えられそうにない。
 …だけど鈴はきりっと眉をつり上げ、僕を見据えた。
 
「…辛くなんかないっ」
 
 自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
 
「こいつらと一緒いるとたのしい。新しいやつが増えればたのしいことがもっと増える。…別れは嫌だが、こいつらがいないのはもっと嫌だ」
 
 恭介が言ってた。鈴が初めて猫の死に直面したときには泣きじゃくって大変だったと。
 だけど鈴はその悲しみを経験して成長した。
 猫たちとの別れが近づいたときに自分が何をすればいいのか、どういう気持ちでいればいいのかを学んだ。
 そして知ったんだ。
 別れが訪れる悲しみよりも、出会うことで生まれる幸せの方が大事なんだって。
 
「理樹は考えすぎだ。最初から悲しいことなんか考えてたらたのしくなくなるだろ」
 
 …だけど、鈴は心の中で泣いてると思う。
 マイケルとまた遊べることを喜びながらも、その先にある別れを悲しんでいるはずだ。
 でも鈴なら、きっとそれを乗り越えていくんだろう。
 いつまでも悲しんでいないで、次のたのしいことを見つけてしまうのだろう。
 マイケルとの思い出を胸の中に大切に納めながら。
 
 …じゃあ、僕はどうだろう?
 両親が亡くなって、悲しんで、リトルバスターズに出会って、ただ楽しくて、悲しみも次第に忘れていって…。
 なんだ、僕は流されてただけじゃないか。
 鈴のように何かを学んで、悲しみを乗り越えたことなんてなかったんだ。
 
「僕に欠けてたのはそれだったんだ…」
 
 やっと気付いた。ずっと探していたモノの正体に。
 僕は、悲しいことがあっても泣かないことが強くなることだと思ってた。
 でもそれは結局、現実から目を背けていただけなんだ。
 そんなのは悲しみを乗り越えたわけじゃない。悲しみに耐えられなくてただ逃げてただけじゃないか。
 僕に必要な強さは、鈴が見せてくれたものだったんだ。
 悲しいときは泣けばいい。そして最後にはその悲しみを乗り越えるんだ。
 楽しかった思い出に支えられながら、その瞳に次の楽しいことを見据えながら。
 
 …そして今、僕の周りにはその支えになってくれる仲間達がいる。
 その大切な仲間達を守るためにも、僕は現実に立ち向かう勇気を持たなきゃいけないんだ。
 いつか失うと知りながらも、それでも楽しいことがたくさん待っているだろう未来を掴むために。
 
「僕はなんて馬鹿なんだろう…そんなことは今までずっとみんなから教えてもらっていたはずなのに、今までずっとそれに気付かなかったなんて…」
 
 情けなさと嬉しさが込み上げてきて、急に涙が出てきた。
 
「どうした、理樹?」
 
 戸惑いながらも心配してくれる鈴が、今はなんだか大きく見えた。
 
「鈴は凄いね。鈴は最初から僕になかった強さを持ってたんだ」
「ん? なにを言ってるのかさっぱりわからんぞ」
「いいよ、気にしなくて。僕の独り言だから」
 
 鈴はしばらくの間、納得のいかない表情で僕を見ていたけど、やがてマイケルが遊びの続きを催促してくると再びマイケルと遊ぶことに専念し始めた。
 
 自分に足りなかったものの正体を理解した今、僕は自分の存在が少しずつ薄れて始めていくのを感じた。
 そっか、恭介達も目的を達成したら世界から消えていったんだっけ。
 目標を達成できた喜びの一方で、鈴を一人置いていくことに胸が少し痛んだ。
 僕は鈴の背中を見つめながら、残された時間の中で鈴にしてあげられることを、目の前の二人のように精一杯頑張ろうと誓った。
 
 
 
 
                − 6話へ続く−
 
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<ひでやんさんより>
 今回で理樹編は終わりなのですが…物足りなかったでしょうか(汗)?
 元々長く書くつもりはなかったので、個人的には綺麗にまとまったかなと勝手に思っています…。
 
 原作ではマイケルのような示唆が出てきたにも関わらず割とさらりと流されていたので、猫好きの僕としてはこのような形で回収できて満足です(笑)。
 そう言えば、小毬シナリオのときも猫の死が関わってましたね。やはり猫は重要ですw
 
 
                                (↑ヒトデには負けるかも知れませんが…)
 
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 りきおです。
 やや短い感じでしたけど、キッカケとしてはそれほど強いものじゃないでしょうから、
こんなものかな?という感じです。
 猫の使い方もいい感じですしねw(実際に興奮してる猫にマタタビをやると反応が全く変わりますしねw)
 
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